原田眞人監督の映画は俺的には3系統に分けられる。

・ハード系

 『タフ』シリーズ

 『KAMIKAZE TAXI』

 『トラブルシューター』

 『バウンス koGALS』

 『RETURN』

・社会派大作系

 『金融腐蝕列島 呪縛』

 『突入せよ! あさま山荘事件』

 『クライマーズ・ハイ』

 など

・それ以外

 『おニャン子ザ・ムービー 危機イッパツ!』

 『ガンヘッド』

 『伝染歌』

 など

まぁざっくりこんな感じ。

俺は90年代のハード系作品が大好きで、でも99年の『金融腐蝕列島』以降はどうも社会派大作系に移行して、なんか違うな…と。いや違うかどうかは俺が決めることじゃないんだけどさ。

たしかに90年代ハード系作品にも社会派の要素はあった。そこがいいとこでもあった。

でも90年代の原田はアンダードッグな感じがあって、そこにシンパシーやカッコよさがあって。

99年以降の原田は大作撮れるようになって、それについては良かったねと思ってたんだけど、社会派を全面に押し出してるような作品が続いたことで、なんか違くない?と…

それはアレに似てるかな、お笑い芸人って売れるとどうも“文化人”ってやつになりたがる傾向が見受けられる。コンプレックスなんだろうな。

それを単純に原田に当てはめるのは違うんだけど、“なんか違うな”感は要はそれにちょっと近い。

『タフ』を2度目に取り上げた時は、実はそういう感情をちょっと持ちながら書いた気がする。10年前に書いたエントリだからあまりよく憶えてないけど。

 

で、個人的に好きな原田作品でまだ取り上げてなかったのがもう2本ある。

 

『伝染歌』

コレ評判悪いようだけど俺は結構気に入ってんだよ。

でも取り上げたことがないのは、この作品の良さをどうも言語化出来ないんだよね…

一応ホラー映画なんだけど、一般的なホラーを期待して観るとハズレと感じるだろう。

けど『女校怪談』シリーズ(コレコレコレ)の時に話したように、ホラー観るぞ!って意気込んで観た人には評判悪いが、1つのジャンルで括って見なければ見所満載っていう。

それは例えば『KAMIKAZE TAXI』がヤクザものに収まらず社会派要素もあり青春映画的な?とこもあったりその他いろいろあったりで、内容が豊かで。

『伝染歌』にもいろんな要素が入ってて、単純ホラーを観たい奴からするとホラーじゃないじゃんとかつまんねぇとイキるのだが、むしろ(精神年齢が)大人はそいつらがヨシとする作品こそがつまんなくて、本作は内容が豊かで観応えがある。

意識が違うと感想もまるで異なってくる。

ホラー要素の部分に関しては単純な なんか貞子みたいなのが出てきてキャーッじゃなくて、自殺の問題が絡んでて、さらに学校や現代の大人も絡ませて描いてて、単純ホラーからハミ出してるから単純ホラーが観たい奴は不満持つ。

また主演がAKB48で、AKBのファンにも評判悪かったんじゃない? いわゆるアイドル映画になってない。アイドル映画の定義もよくわかんないけどさ、アイドルありきのみで完結してる映画にはなってない。そうだなぁ…『テラ戦士Ψ BOY』とか『生徒諸君!』とか…を単純で真っ当なアイドル映画とすれば、『伝染歌』は明らかにその範疇に収まってない。

俺は本作初観の時AKBをほとんど知らなくてさ。なんかすごい話題になってるから名前は聞くけど程度の認識=認識してないに等しかったからアイドル映画としては観てなかったんだけど、本作に出てくるコたちは結構いい。主演のコはかわいいし、秋元才加はいい味出してるし、あと冒頭出てくるメガネかけてるコも好み(笑)。

あとこのコらのちょっとした仕草や動きや表情がかわいい。そういうトコ観てるだけでも飽きない。(でも「アイドル映画」ではないんだよな)

本作は2007年作品だけどむしろなんか90年代の原田作品的で、ハード系じゃないんだけど、いいんだよなぁ。ハードアクションをホラーや自殺に置き換えただけみたいなね、そういう意味で俺的にはちょっとジャンルが違うだけで原田眞人通常運転みたいな感じだし、

単純ホラーが観たい奴やAKBファンからすると関係ないだろと退屈するであろうサバイバルゲームのシーンとかも原田ファンからするとなんか原田っぽくて違和感がないし、面白いシーンでもあるし。

温泉のシーンもいいんだよなぁ、あのまったり感とちょっと気味の悪さが混在した雰囲気もいいし、おい『KAMIKAZE TAXI』の温泉じゃん!ってとこもたまんないんだよ。それ言うと最後の方にも『KAMIKAZE TAXI』好きならグッとくる場面があるのも嬉しい。

そんなの内輪ウケじゃんとホザくのは違う。1994年作品の『KAMIKAZE TAXI』の達男と寒竹とタマたちの温泉での、死がひたひたと迫る状況での束の間の楽しいひと時。やがて達男が死んで3人組が3人じゃなくなって、切なくて、だからこそなおさら温泉のシーンが心に残る。

そして2007年作品の『伝染歌』で再びあの温泉が登場するんである!

なんつーかなぁ… 『GONIN』で万代がこの世を去った後にも物語が続いてるように、達男と寒竹とタマの時間は終わりを迎えたけど、あの温泉に今度は2007年の女子高生たちが現れて…というとこがグッとくるんだよ。現実は続いてる、地続きであると受けとれて、原田が同じ世界観のつもりだったかどうかは知らないけど、大げさに言えば世界は続いてるみたいなね…。

あと本作で雑誌の編集部が出てくるだろ、『月刊MASAKA』。あれが『不思議ナックルズ』『怖い噂』を愛読してた俺からすると、なんかわかるというかね、そういう雑誌好き(笑)。

単純ホラーを期待して観た奴とかAKBファンとかは原田の脚本はロジカルっぽくて鼻につくのかもしれない、というのもあるけど、原田ファンからするとそこがまたいいとこ(笑)。

あ、あと原田作品の特徴のひとつに出演者がいい味だしてるってのがあるけど、本作も(AKB以外も)魅力的な出演者がぞろぞろ。

あと映画は脚本じゃなくて映像だと当ブログではさんざっぱら言ってるけど、本作はいろんな場面の場所がそれぞれ画的に結構良いので、映画であることをクリアしてるといえる。

まぁ総じて密度高めの映画だよ。

 

『RETURN』

多額の借金があり暴力団の取り立てに遭ってるごく一般人の主人公・古葉が、追い詰められて御殿川組の若社長を殺してしまい海外に高飛び。

しかし向こうでも、とある日本人実業家・挟土の暗殺を強要され、10年ぶりに帰国を余儀なくされる。

この挟土の会社が裏では闇組織で、さらに古葉=偽名・北原の帰国を知った御殿川組の凶暴な3姉妹に襲撃され、三つ巴の戦いを繰り広げる…

という、2013年作品、ひっさびさに純正の原田ハード系作品! (1997年の『バウンス』も俺的にはハード系に入れてるけどアレは裏社会メインじゃなくてあくまで女子高生の物語だしね、純正ということでは1995年の『トラブルシューター』以来じゃないか?)

そして期待に違わぬ面白さ! ハードさ!

『KAMIKAZE TAXI』の寒竹に迫る北原のスナフキンぶり(笑)。

御殿川シスターズの常軌を逸した凶暴ぶり!

(原田ハード系作品お馴染みの)警察もクロというかグレーで勧善懲悪でない。御殿川組トップの長女のブラジル移住ブチ上げなども、定型的な登場人物があまりいない飛び具合。

北原と共に行動する伽羅とウノ → 3人組結成 → のっぴきならない状況で温泉! ←キターッ!

挟土の表の顔と裏の顔の雲泥の違い。

例によって出演者の多くがいい味。

単なるVシネやヤクザ映画と違って原発問題が入ってきて社会派の要素もあり(冒頭の外人の話、あれもだから実話なのかもしれない)、ドラマが単純でない。

展開も意外性に満ちている。(いつ頃からか意外性ばっか意識した作品が増えてきて、観客も意外性がないと凡庸でつまんないみたいな見当違いな感想ホザくように成り下がったんで俺は意外性ってやつが嫌いになったんだが、本作の意外性はホント純粋な意外性…狙ったあざとい意外性じゃなく本当に先の見えない北原の状況というか起こった出来事に対応してく中での純粋な意外性で(プロレスでいうなら段取り芝居のような攻防ではなく佐山タイガーのような相手の出方に対応する動きみたいな)、こういう意外性は良い!)

銃撃の迫力、車衝突の意外性、ソリッド気味な格闘戦など、アクション場面もいい。

ラストもいい! まさかあぁなるとは思わなかった意外性もだけど、あの爽やかさ・軽さがすごくいい! (それに大家族から核家族化して、それも崩れてきてて、あと夫婦別姓とか同性婚とか、現代において新しい家族の形・在り方というのは実際問題社会的なテーマの1つでもある。) あのラスト、着地点には感心したといってもいい。

本作も密度高めで、映像的にも悪くはないし、暴力性高く、でも笑えるとこやくだけたとこも結構ある。内容豊か。

まぁとにかく初っ端からラストまで目が離せない。

これ撮った時 原田64歳!? その歳でこんなテンション高い作品を作り上げたというのも評価に値するし。

 

 

で、なんで今回原田特集をやったかというと、そんな原田の新作、2013年『RETURN』以来のストレートなハード作品『ヘルドッグス』が公開中だからだ。

これは観に行きたいと思ってた。というわけで10/3、観てきましたよ。

(※ネタバレあり)

なんか警官だったんだけど強盗事件の被害者の復讐を勝手にやってのけた男・出月が、警察から潜入捜査官だっけ暗殺だっけ?を強要され、暴力団組織内で殺し屋・ボディガードとして能力の高さを発揮し、やがてナンバー2ぐらいまでのし上がるが…

みたいな話? 『RETURN』もだけど、本作もセリフがよく聞き取れない。だから話というか人物相関関係がよくわからないまま観てたんだけど、わかんないで観てても観続けられる、ほぼ全編迫力とスリリングで目が離せない。

テレビを見ない俺は主役の出月を演じた岡田准一のこともよく知らないのだが、まぁ元アイドル?V6だっけ?ぐらいの認識。この男を今回初めてちゃんと見たんだけど、意外に迫力があった。原田のハード作品で主役張れるだけの迫力がある。

岡田の殺し屋パートナーを演じた若い男も悪くなかった。最初コイツで大丈夫か?って感じなんだけど、岡田とのギャップがむしろいい。

原田のハード作品では女も結構いいんだけど、今回の松岡茉優ってコも結構いい。

例によって主役クラスだけでなく脇役もいい味出しまくりで出演者たちがとても良い。

象牙がどうとか加害者がどうとかのところで社会派要素も感じる。(あと発端になる事件も、もしかしてあの事件を元にしてる?)

あと原田のハード系はみんなそうだけど、ハードな世界を描いていながらなんつーか気品があるんだよ。それもまた今回も同様。

女殺し屋を見抜くところから拉致 → 発信機 → 暗殺部隊急襲はスリリングであり、そこからの戦闘はこれまでの原田ハード作品中もっともハードアクションではないかという迫力。

原田今年73歳だそうで。この歳でよくまぁ撮ったというか、原田眞人健在! であることを見せつけられた豪快映画だった。

(あとBL好きの女性も楽しめるんじゃないでしょうかね・笑)