これで1年最後の記事ってのはあまりにもなんなんで(苦笑)、もう1発いく。
先日NHKで『ママさんバレーでつかまえて』を面白いなァと思って見てたりしたんだが、この劇の出演者の1人 佐藤仁美つながりで思い出した作品がある。

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『バウンス koGALS』(97年)
爽やかに凛々しく旅立ちの映画なんで、年の終わりに観ると意外にいいかもしれない。
これは明け方近い深夜に観始めて、旅立ちの朝のラストシーンがちょうど朝にくるように観るとグーよ。
正月の朝にこの映画のラストシーン観たら1年間頑張れる(ヘタすると一生頑張れる)、保証する!
好きな映画は擦り切れるぐらい観る俺だが、大事だからこそ滅多に観ないようにしてる映画もある。本作もそうで、
だから記憶で書くんで、細部をよく憶えてないんであまりじっくり語れないんだが。
ちなみに本作と『フェイス/オフ』は、俺が普段映画観ない人に薦める映画でもある。

地方都市で暮らす澱んだ日々、人間的に非常に問題のある母親、ちゃんとものを考えてない日本人…
この国に居たら駄目になると鬱屈と焦燥感を抱えている帰国子女の女子高生リサは独りでアメリカに戻る決意をし、
オープンチケットを見つめ1年間バイトして金を貯め、さらに出発まで可能な限り稼ぐ為ブルセラショップで売る制服や下着を持って、
(↓映画はここから始まる)
チケット期限切れの前日に東京へ出てくるが、渋谷でトラブルに遭い全財産を失う。
チケットはあるけど金がない。でもあんな家・あんな学校には絶対戻りたくない、もう我慢ならない、ちゃんと生きていきたい――
登校拒否でストリートダンサーをやってるラクちゃんと出逢い、ウリでもなんでもやるから客を紹介してくれと頼むが、
ラクちゃんは屈辱の涙を流しながら頼むリサを見て思い留まる。
このコを汚さずに行かせてやりたい――
ラクちゃんは最終手段、絶交していた幼なじみで現在は武闘派コギャルのジョンコを呼ぶ。
直前にコギャルを敵視するヤクザ(女子高生の援○交際とプロのセックスビジネスが競合するから)と手打ちをしていたコギャルのリーダー的存在のジョンコだったがリサに好感を持ち、
あえてヤクザとの協定を破って金策に走る。
リミットは明日の朝。
渋谷の街を疾走する3人の熱い闘い。
20時間に満たない友情。
そして奇跡のクライマックスへ――
傑作!

ヤクザを演じる役所広司が凄みある(上品でもある)。
その役所に真正面から対峙し、ヤクザからの疑問に女子高生の側からしっかり筋の通った答えを返すジョンコの場面で、この映画が芯のある作品である事がハッキリする。
年齢も性別もまったく違いながら役所とジョンコの間で生まれる友情もいい。
映画の最後の方、命懸けで稼いだ大金をごっそり失って朝を迎え、別れたくないこともあって、ジョンコとラクちゃんが“もう少し留まれば金は作れる、チケットはまた買えばいい”と勧めるが、“そうするとずっとズルズル居続けてしまう…このチケットを見つめ続けて頑張ってきた。いくら持ってくかじゃなくて、このチケットの この時間に発つことに意味がある、この飛行機の時間がケジメなんだよ”とリサが答える場面は、グッとくる。
薄汚い夜の世界でドラマが展開してきて、爽やかで凛とした空気の神社で迎える朝の光景もいい。
ラストの別れは号泣必至。

ライブ感覚溢れ、渋谷の“今”、17才の“今”が、見事に描かれていた。
そして誰もが大人になり忘れていたものが(もしくは経験したかっけど得られなかったものが)ここにある。
燃えるというか切ないというか、とにかく心に残る青春映画(若い時に観たらやる気出るだろうし、年食ってから観ると憧憬ありつつもう戻れないんで悲しくもなるが…)。
出来の良い映画というのは時々あるけど、心に沁みる映画というのはたまぁにしかない。
本作はそのたまぁにしかめぐり会えない、一生心に残る希少な作品の1つ。
以前現在と普遍的なテーマという事について触れたが、本作、こういうのこそ普遍的だよ。これは今でもやる価値があるし、数十年後に観てもグッとくるね。
と同時に社会的なテーマ(アジア人としてのプライドや歴史認識とか社会的な意味での現実認識とか)も描かれ、若い人が観ると考えさせられるし、それなりに歳のいった人間が観ると作品に厚みがあって観応えがある。

そしてジョンコを演じた佐藤仁美が素晴らしい!
当時18才前後ぐらいだったのかな、ホリプロスカウトキャラバンだかなんだかで芸能界入りして、写真集出したり、スタートはアイドルっぽかったようだし、本作も映画初出演なのかな、
ところがこのジョンコ役、なかなか凄い演技を見せるんである。
普通の女子高生らしい可愛らしい姿と、カリスマ性ある人間性(大人の女、またはズシリと人生経験あるような雰囲気)と、両方同時に演じてみせているのである。女子高生にしてちょっと女のハードボイルド的な。
監督に相当鍛えられたらしいけど、監督の選択眼と佐藤仁美の苦労が結実してて、凄い存在感を放っている。
このコは絶対大物になると思ったけど、意外にブレイクしなかった。なぜ?
たぶんあれだよ、人間核弾頭ドルフ・ラングレンが『ロッキー4』で初登場した時、誰もがド肝を抜かれたし 凄い奴が出てきたと奇跡の予感バリバリだったのが結局不発弾で終わった、あれは最大限に魅力を引き出して使いこなせる監督がその後いなかった・自分が活きる企画に巡り会えなかった(チョイスに失敗し続けた?)というのと同じじゃないかな?
彼女の出演作ってあんまり観てないんだけど、あの傑作テレビドラマ『ビーチボーイズ』に出てても誰でも出来るような魅力のない役だったし、女刑事かなんかやったテレビドラマをチラッと見たことあるんだが これも惹きつけるものがなかったし。
本作の彼女の演技は奇跡じゃなくて実力だと思うんだけどねぇ…
誰かシブいとか凄みのある役とかで彼女を起用してくれって。絶対彼女は応えるから。このまま終わらせないでくれ。

監督本人によるノベライズ(原田眞人 著/同朋舎 刊)は、小さな奇跡の積み重ねであるラストの、その奇跡の数々がもっと細かく描かれている。
さらに、もう1段階先のラストシーンがある(これも泣ける)。
神経症で線を踏めないラクちゃんが、成田へ向かうリサの乗った列車を追いかけて 気づかないうちにホームの白線の上を駆けている場面もグッとくる。
リサが何に納得いってないのか、日本人の何処がおかしいのか、映画・ノベライズとも、現代日本が抱える様々な問題を指摘する社会派ドラマとしての側面も持つ。

監督の原田眞人はあの傑作『タフ』シリーズを撮った人で、
他にも『KAMIKAZE TAXE』シリーズ 『トラブルシューター』 『金融腐食列島 呪縛』など、ハードな佳作・傑作を撮りあげてるが、
その原田監督が女子高生を素材に映画を撮ると聞いて意外に思ったが、これが『KAMIKAZE TAXE』に近い、マジと遊びがいいバランスの心地良い作品になった。

年の初めとか年度や学期の初めに観るのもナイスだし、人生後ろ向きとか殺伐としてる人にもぜひぜひ観てほしい。
心が洗われる。やる気が出る。奇跡が信じられる。