クオリティの高い人間であるうえで必要不可欠な要素、「信念」と「哲学」。これが無い奴は軽い。浅い。弱い。ダサい。
哲学といえば押井守で充分な気もするが、ここにもうひとつ、戦闘的に哲学的な作品として忘れちゃいけない作品がある。
原田眞人監督・脚本のビデオ作品『タフ』シリーズ。

 

 

イメージ 1『タフ 誕生篇』
典型的なVシネかと思いきや、どうもテイストが違う。
殺し屋やヤクザの話だが、「ンだとコラァ!」的な威嚇系があまり登場しない。
主人公であり、成り行きから殺し屋に弟子入りするフリーターの次郎は喜怒哀楽があまりなく、背景もまったく見えない若者。
彼を引き受ける殺し屋 根路銘は極めて物静かな人物で、普段は陶芸家。
敵となるシンジケートは、元 一流企業勤務で現 スーツ・ポニーテール・能面のような顔の冷徹で金属的な幹部 白幡を筆頭に、
ダークスーツでほとんど口をきかず機械的・冷酷で人間性皆無な部下たち。

 

 

 

そしてこの作品には後に現れる哲学こそまだないが、ただならぬ醒めた情念が漂っている。
静謐な雰囲気。重く硬いテイストの銃撃戦。冷たいライティング。重くセンチメンタルな音楽。Vシネレベルではない撮影と編集。
全編に漂う質の高いクールさが印象深い。
スタイリッシュという一言で片づけるには腑に落ちない異質で硬質な何かがある。諦観と似て異なるようなもの。
サントラ出てないのが悔しい(特に根路銘たちが殺される直前と、グラウンドの場面の曲が好きでね)。

 

 

 

イメージ 2『タフ 復讐篇』
と、ここでいきなりガクンと駄作(苦笑)。つ、つまんねー。
PART2だけ原田眞人、監督やってないんだよね。でも脚本は書いてるんだが、本もダメでしょコレ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

イメージ 3『タフPARTⅢ ビジネス殺戮篇』
ここからシリーズは突然哲学になり、完全にVシネレベルから転換、解脱する。
Ⅰで根路銘を殺し、Ⅱで次郎に葬り去られた白幡が、霊体となって再登場する(!)。
次郎の前に姿を現した彼は、殺し屋として1人立ちした次郎の傍をうろついて、適切なアドバイスを与えたり、アグリッピナの詩の一部を引用した哲学的なセリフを語って聞かせ、次郎のガーディアンエンジェルとなる意外な展開。

 

 

 

 

 

 

 

「守り神と言ったほうがいいかな、それとも、お前の罪と言ったほうがいいかな。大丈夫、お前が殺した人間は全部僕が押さえてる」
「思わざることが予期せずして起こるが、我らが上に運命の女神フォルトゥーナがいて、万事を支配するためだ――」
この霊体を見ていると、襟元を正される気がする。
死神のような霊体 白幡を演じる矢島健一がすごくいい。この先何本出演しようと、まかり間違って売れちゃったりすることがあったとしても、間違いなく白幡は彼の生涯最高の役でしょ。
音楽もいい。
心のレベルを高めてくれる作品。
ついでに、エロスもかなりのクオリティを有している。

 

 

 

イメージ 4『タフPARTⅣ 血の収穫篇』
次郎の女エージェントを巡るサスペンスが重くスリリングで印象深いが、
やはり見所は哲学的な霊体 白幡=矢島健一。
それと今回はなんといってもオミ萌えだろう(笑)。パート1であんな荒みきって下品極まりなかったオミがアッと驚くガラリ変わったテイストで衝撃の再登場!
思わずまじまじと見てパート1の人と同一人物かどうか確認してしまうぐらい(→同一人物である) 鮮やかに生まれ変わった魅力的なオミを堪能しよう。

 

 

 

 

イメージ 5『タフ カリフォルニア 殺しのアンソロジー』
アメリカに舞台を移したPART5だが、つまんない。
が、見所はある。だってまた白幡が出てるんだもん。白幡だけ見てれば間違いない。
相変わらず傑出した存在感を保っているが、
ドラッグ漬けになってグダグダしてる次郎を再起させる今回の白幡の姿は感動的ですらある。
「起きろ次郎。あと数分で招かざる客が来るぞ。銃、持ってるか?」
「知らないよ」
「必要になるぞ」
「どうして?」
「強盗だよ」
「ここで死んでも構わないよ俺は」
「残忍な連中だぞ。ジェイも死ぬ。あそこにいる若いカップルもだ。
…真面目な子供達だよ。勉強はよくやるし、弟や妹の面倒もみる。はっきりした将来の夢さえ持ってる。
こんな所で死なせるわけにはいかんだろ」
「どうしたの突然? マザーテレサにでもなったつもり?」
「運命の女神がお前とジェイを結びつけた。なぜだと思う?
人殺しにも尊厳を取り戻す機会があるからだ。強い者から力で奪い取った命を弱い者に与えてやる。一握りの優しさを幼い者に示してやる。
…それがお前の生きてく資格なんだよ」

 

 

 

 

ダレてる時や、現実に追われてただただ日々が過ぎてしまっている時、異性に浮ついてる時(苦笑)など、自分のクオリティが落ちてる時にこのシリーズを見ると、目が覚める。
また、世間の流行りがどうとか、会社や学校での悩みとか、そんなもん吹っ飛ぶね。
いかに自分が普段ショボい意識で生きてるか、自覚させてくれる。

 

 

 

あ、劇場版とかって『ペインテッドデザート』ってのがあるが、あれは取り上げるまでもない。
見所ゼロだから。