傑作・佳作である『タフ』シリーズや『KAMIKAZE TAXY』 『バウンスkoGALS』なんかの原田眞人監督作品、『トラブルシューター』。
指名手配検挙40件・警視総監賞25回というとんでもない元刑事、南郷大輔。
演じるは的場浩司!
…小さいおじさんとか言い出す前の、バキバキにコワモテだった頃の的場浩司だよ。
ところが意外に初っ端は笑かしてくれる。
なぜか演歌歌手をやってるのだ。
新曲『男のブルース』。田舎町でドサ廻り営業。
ところが客とケンカ――を上回るインパクトの、突然現れて消火器ブッ放す叔父さん秋田匠三。
演じるは、出た森本レオ! 例のアレよ。世間一般のイメージそのまんまの、ゆったり癒し系なナレーションとか『オネアミスの翼』のシロツグとか、まんまあの感じよ。
この2人の空気感がすげェいいんだ。森本レオはいつもの口調で大ちゃ~んって感じで、的場浩司は秋田と接してる時はコワモテが失せて穏やかに匠さんって。
仕事がパァになった南郷&くっついてくる匠さんが喫茶店かなんかでココア飲もうとしたら、泣いてるオバちゃんがいる。
匠さんが勝手に首突っ込んで(「歌手のふりしてるけどね、それは世を忍ぶ仮の姿で本当は藤田まことなの」)、南郷はヤクザの息子のせいで組から巨額の取り立てに遭っているオバちゃんを助けるハメになる。

組の事務所に出向いた南郷、ここから的場浩司の魅力が全開!
いや暴力はまったく出ないのよ。セリフのやり取りだけなんだけど、ヤクザを、ヤクザと拮抗する口調で、かつ法的根拠をブッ込みまくった南郷のセリフが喝破! 爽快ですらある(笑)。
あの目つき、通りのいい声、エッジの効きまくった的場浩司。
シナリオがいい。演じる的場浩司がいい。シナリオと役者がすごいスイングしてる。
そういえば原田監督作品って主役から脇役までみんな魅力的・ナイスキャスティングなことが多いんだけど、本作もそう。

さて翌朝。これからどーすっかなーという感じでぼさっとしてる南郷と匠さん。揉め事処理の仕事でも始めようかと匠さんが言い出す。
そこへ、さっきの組から若いヤクザのテルが、もうヤクザはダメっす、これからはトラブルシューターです、先生、弟子にしてくださいとやって来る。
匠さんの“やめた方がいいよ。大ちゃん歌ヘタだから” 南郷“歌はうまいよ╬” テル“いや歌の方じゃないっすトラブルシューターの方です”とかいうやり取りも可笑しい^^
匠さんとテルに半ばムリヤリ引きずり込まれて、トラブルシューター南郷大輔事務所がオープンする。
さっきの凄みから一転、ほのぼの可笑しい。

テルが持ってきた初仕事…テルが美人の依頼人とたばかって南郷を連れてくるのが可笑しいが、シャブやってるガキに南郷の暴力的指導が入り再び一転して緊張感と迫力が漲る。
…ギャグ→迫力→ギャグ→迫力と交互に訪れて、観てて面白いったらありゃしない(笑)&バランスがいい。

匠さんがあっちもこっちも節操なく営業してたら、性的被害に遭ったアジア人女性の事件を手掛けることになる。
日本の警察聞いてくれないネ、差別するネ。
ここで南郷の女性に対する対等な接し方、外国人=マイノリティへの偏見のない接し方が非常に好感度が高い。
間に立ち南郷に説明する中国人女性の、私はアジア人ですよ、南郷さんも秋田さんもアジア人でしょ、という言葉も意識がボーダレスで気持ちが良い。

原田監督作品は高い頻度で女性の描かれ方・扱われ方が魅力的だが、本作でもセクシーさがそこらの作品より格段に際立っていながら、同時に女性の人権というか女性への真摯な眼差しが高潔でもある。
ジェームズ・キャメロン(『エイリアン2』『ターミネーター』シリーズとかの監督ね)が描いてきたような“強い女”というのは男を女にすり替えただけという感じで、いや俺はあぁいうマッチョな女は大好きだけどね、でも本当の意味での強い女の描き方としては異議があった。なんか違うだろ、という。
キャメロンだけじゃない。戦う女を描いた作品は映画からアニメ・ゲームまで掃いて捨てるほど量産されてるけど、どれもこれも男の世界に女を持ってきている。
男性と女性は生物学的に違うんで、あと社会的にも異なるね、だから男の強さと女の強さは異質なわけだよ。女に銃を撃たせたり飛び蹴りさせたりして男をやっつけるのが女の強さを描くことにはならない。
でも原田監督の描く女性はそこんとこすごくしっくりくるんだよね。

南郷が事務所を構える雑居ビル内もオカマがいたりでボーダレス、緩やかな共同体を形成しており心地良い。
しかしアジア人女性の一件はヤクザを通した依頼であり、ここから芸能界の裏事情に絡んだ事件になだれ込み、巨悪・必要悪・謀略・人の集合体=社会・個人の尊厳と社会という大きな現実・正義と悪の二元論では決着できないグレーゾーンな現実に南郷たちは巻き込まれてゆく…
キーになるジョージはロクデナシでありながら気の毒な人間としても描かれている。
ヤクザの会長はマフィアとヤクザは別物だったのに変わりがなくなってきた、これまでヤクザがやってた任侠の部分を誰が肩代わりするか、警察には出来ない、弁護士にも出来ない、暴力と紙一重の正義ってのがある、と語る…
酔った南郷が人間ってのは20代で死ぬべきなんですよねぇと口にする。
社会ってのは…
大人になると…
どうにも善悪や白黒、2つに1つでは成立しなくなる、まわらなくなる。
その中でいかに立ち回るか。どこまで人として在れるか、自己実現出来るか、最低限の正義を通せるか。
本作は若い頃に観るよりも、歳食ってから観る方が断然観応えがある。現実は単純な二元論ではまわらないこと、物事には表と裏があることを、この社会で生きていくうちに知ってくるから。
いや究極的にはやっぱ2つに1つなんだよ。
ただ社会ってのは1人で生きてるわけじゃないからさ。この日本だけでも1億何千万だっけ、共生してるから、ルールが要るし、イレギュラーもあるし、法律もあるけど非合法な調整もあるし、表もあれば裏もある、駆け引きや暗闘もある、
…キラキラした正義でスパッとケリが着かないわけだ。勧善懲悪でケリが着くのはハリウッド映画の世界だけ(苦笑)。
かといって「そういうもんなんだからしょうがない」などとわかったツラしてのたまって権力に擦り寄ってる奴は、単に無条件降伏してるだけであってね、もう惰性にどっぷり浸かってて、ただのカスだよ。坂〇忍のことを言ってんだけどさ(苦笑)。
わかってる上で不正義に手を染めるのと、何も考えず不正義なのとは、全く違う。(惰性は何も考えてない。)
(ただね、子供向け作品では単純にして純粋な正義を描くべきだと思うよ。擦り合わせを考慮しなかったら善悪はやっぱハッキリしてんだよ。)

最後は暗澹たる思いを抱えながらも切り札らしきものを有し、続編が存在することを思わせる終わり方をする。続編は作られなかったようだけど。
『タフ』シリーズのような哲学はない。『KAMIKAZE~』のような時代を超越して生き残ってくロマンティシズムのようなものもない。『バウンス』のように薄汚れた夜を抜け出したら凛とした朝と感動のラストが待っているわけでもない。
でも『トラブルシューター』はその辺の映画では太刀打ちできない骨太さと観応えがある。
腹がたってる時に観ると南郷のコワモテぶり&銃撃ナシの肉体の暴力が怒りにジャストミートで、実にいいムービーテラピーになる。
けどそれだけじゃない。
笑いや和みがふんだんにあり、癒されもする。←意外にコメディとしてもイケてる。(的場浩司に“いやオレ宇宙人顔だし”とかよく言わせたよな・笑)
勧善懲悪のストレートには展開しないところや、単にヤクザが斬った張ったなVシネレベルな話じゃなく、人間としての在り方や社会派テーマの側面など深みがある。
言っとくけど本作の鑑賞後感はスカッとしない。
でも。
『タフ』シリーズ観るとグレードの下がった意識がシャキッとする・襟元正されると以前言ったけど、『トラブルシューター』はより現実の日常に近いドラマで、それ故にもっと単純にガツンとくる。しょーもない現実に徒労したメンタルにハードなタフさとキレをダイレクトに補給してくれる。
それに能天気にハッピーエンドなハリウッド映画なんかと違って苦々しいのがむしろいいんだなっつーか、ムービーテラピー的に。当たりの処方箋っていう。
ケースは違うけど自分が普段生きてて抱えてる苦々しさと、苦々しいという点においてシンクロするわけ。これがメンタルにしっくりくる。前に『美しき野獣』の時に話したのと同じでさ。