なぜ助成金の不正をやるのか? | 新労社 おりおりの記

なぜ助成金の不正をやるのか?

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雇用調整助成金コロナ特例、いよいよ終わりますが、会計検査院のハッパで、全国の労働局が本腰を入れ始め、大きな不正事案が年度末に向けて次々明らかになっています。助成金の不正はなぜ起こるのか?まとめてみました。

 

 

そもそも助成金は「苦しい時の、また入れなくてもいい福利を入れての国家の援助」です。雇用調整助成金がなければヒトを解雇せざるを得なくなり、正社員化に助成金をあげなければ、望まないパートさんばかり増えて、正社員が少なくなり、賃上げと日本国民の所得を増やせなくなります。

 

助成金不正の動機は、国家の援助をどう思うのか?というところに生まれます。篤志家がおカネを恵むのでもない、金融機関が貸すわけでもない、国家主義者や愛国者でなくても、国家の恩恵を「ありがたく、事実に基づいて手続きして受け取る」と感じるなら、不正は起きないのです。「国なんかどうでもいい、法も要らない、事実を捻じ曲げても自分だけ得をしよう」というマイナーな悪魔心から不正は生まれ、発展していきます。具体的にどういう悪魔心があるでしょうか?それは3段階になります。

 

1,めんどくさいので・・・

 

書類のプロである社労士でもこれ、ありますなあ。助成金の改正ごとに書類が増えた、項目が増えたというのはよほどのマゾでないとうれしいことではありません。皮肉なことに不正事件により、助成金の要件は厳しくなります。その内容は手順の増加です。それをめんどくさがって、事業主や対象者に書類やサインをさせなければならない局面で、確認したことにしてしまうとか、きちんと開くべき労使協議を開いたことにするとか「細かいことをやったことにして次行こう」という風に省略してしまうのです。助成金セミナーやマニュアルで「裏ワザ」と銘打つと大入り満員なのはひとえに楽してお金儲けしたい人間のホンネからなのです。

 

2,事務ルーチンにしてしまい・・・

 

そうやって省略すると、今度は助成金なんて書類を積み上げればラクショーさ、となめるのです。書類の簡略化が拍車をかけ、助成金によって会社によって内容は違うはずなのに、単純な内容の書類の作成に飽きて、ついつい書類をコピペして同じ内容のものを量産してしまうとか、毎日やっている訓練日誌が毎日同じ内容になるとかしてしまうのです。「やったことにしよう」がハッテンして「やってることは全部同じにしよう」になるのです。めんどくさいが発展すると悪い意味の「事務ルーチン」になります。

 

3,おカネでアタマがいっぱいになる。

 

そうやっておカネが自分の懐に入り、また代行実績を積むと、アドレナリンが脳に過大に増殖して妙な自信が付いて「おカネのためなら何でもするよ」と強盗のような心理になってしまうのです。書類の内容や施策の実行など飛んでしまい、ハンコを勝手に持ち出して申請するとか、1人だけ適用してあとは「助成金目当てだから」入れた制度を廃止してしまうとか「どうして手間暇かけて申請したのか」ということを忘れ、本来の目的を見失ってしまうのです。

 

ここまで行って件数が重なると、労働局その他に駆け込むものも現れ、あるいは調査であからさまな不正行為が発覚して、ちりも積もれば大罪になって捕まったり、摘発され、ニュースになるのです。これはそもそも「めんどくさい」から始まってホントにやらなければならないことコトを省略した末路でした。助成金の不正を防ぐには、法や不正の罰よりも以下のような意識を付けることが肝要かと思います。

 

 

1,助成金の趣旨を考え・・・

 

例えば雇用調整助成金の趣旨は「さまざまな経済的影響により、事業活動の縮小をする場合に、従業員の雇用維持を図るために、労使間の協定に基づき、休業を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成する」もので、会社がトクをするとも、社労士の年収が上がるとも書いていないのです。キーワードは雇用維持ですね。「そのまま会社にいていいよ」となくなった仕事の分、お給料を国から払う福利なのです。飢えた民に喜捨するのとは違い、飢えそうな民に喜捨したごほうびなのです。

 

2,国の施策に“乗る”ものと考える・・・

 

助成金は本来「国がこうしたいから従ってくれたらご褒美をあげる」という性格のものです。1億数千万の多様な国民を束ねる国です。独裁者の鶴の一声で動くというわけにいきません。税金を有効に使うために、事務は煩瑣でさまざまな証憑が必要なのは助成金に限りません。国がヤレと言ったら、返済不要の税金に基づくおカネをもらうにはヤラなければならないのです。国の施策が嫌いで反対なら助成金は申請しない方がいいでしょう。

 

3,そして会社なりの人事労務の要件が合えばやったらいい。

 

雇用を維持したい、男性が育休を取るしくみを作りたい、教育訓練をカリキュラム化したい、正社員に上がる要件を整えたい、デキる従業員を出向させ学ばせたい・・・こういう「従業員への福利」をしたいと思ったら、上記1,2を踏まえてやったらいいのです。ムリしておカネだけ得ようとするからめんどくさいと思い、不正につながるのです。当たり前に組織が運営されていれば、おカネのためにムダな福利を入れることもないのです。

 

当局も「めんどくささ」を昇華する対策は、IT化、書類の簡素化など、努めていますが、なかなか一般人が簡単に申請できて、しかも不正がないというシステムは完成できないようです。そこで社労士のような専門家がいろいろな人事労務上の活用法を提案し、そこに助成金を噛ませる、という提案ができれば最高でしょう。私も現在、人事制度や就業規則などから始めて、さまざまな提案スキームを作っているところです。