イタリアはバーリ歌劇場の来日公演、プッチーニ/トゥーランドットを観に行きました。

 

 

バーリ歌劇場 来日公演

プッチーニ/トゥーランドット

(東京文化会館大ホール)

 

指揮:ジャンパオロ・ビサンティ

演出:ロベルト・デ・シモーネ

 

トゥーランドット:マリア・グレギーナ

カラフ:マルコ・ベルティ

リュー:ヴァレリア・セペ

ティムール:アレッサンドロ・スピーナ

ピン:イタロ・プロフェリシェ

パン:ディディエ・ピエーリ

ポン:ブラゴイ・ナコスキ

官吏:今井 学

アルトゥーム皇帝:青柳 素晴

 

バーリ歌劇場管弦楽団/合唱団

 

 

バーリ歌劇場はイタリア半島のカカトに当たるプーリア州の州都バーリのオペラハウスです。今回が初来日、とっても楽しみです

 

演目はプッチーニ/トゥーランドット。もう何度となく観た、勝手知ったるオペラです。カラフの力強い歌に感動するも良し、優しいリューの歌に涙するも良し、ピン・パン・ポンの悲哀に共感するも良し。いろいろな楽しみ方ができるオペラですね。

 

 

 

第1幕。生ける兵馬俑のような群衆、4人の上半身裸の従者、舞台真ん中にドラ、と印象的な舞台。冒頭から劇的なオケ、木琴を強調して雰囲気を作ります。カラフとリューとティムールが登場。カラフはマルコ・ベルティさんの力強い歌、リューは出てきただけでもうウルっと来ます。

 

途中この3人と群衆を本物の兵馬俑が描かれた幕で分離。あたかも自由の国(カラフたち)と従属の国(トゥーランドットたち)を分けたかのよう。聴き応えするティンパニ連打の場面は、最初たっぷり→アッチェレランドで急速に追い込み。指揮者のジャンパオロ・ビザンティさん、分かってらっしゃる!ここまで聴いてきて、オケが本当に素晴らしい!特に木管がいいなと思いました。

 

少女の姫が出てきて妖しい雰囲気。この少女の正体は第3幕で明らかに。ピンバンポンが登場。面白いジェスチャーでいいコンビネーション。1つの顔より100の胸にしろ、愛なんてない、あの手この手でカラフをトゥーランドットから断念させようとします。

 

第1幕一番の聴きどころ、リューのアリア。大好きなアリアで、観る度に涙を流すタイミングが早くなっています。一番最後に聴いた時はアリアの前のオケの前奏で涙が出ましたが、今日はさらに早いティムールの歌から涙が出てきました。もう早いのなんの!(笑)

 

そのリューのアリア、ヴァレリア・セぺさん、繰り返しの旋律をたっぷり歌って感動的!オケのハープが綺麗、あたかも第3幕の昇天を予言するかのよう。そのままカラフの歌に進む指揮者もいますが、オケを止めて、拍手を入れさせたのもいい!ビザンティさん、分かってらっしゃる!

 

続くカラフの歌もたっぷり溜めて聴き応え十分。最後のオケと合唱の盛り上がりも素晴らしい!この指揮者、初めて聴きましたが、めっちゃいい!

 

 

 

第2幕。ピン・パン・ポンが中国の住み難さや首切り役人の悲哀を歌うシーンがいい。それぞれの故郷を思う歌がノスタルジックで味わい深いです。いろいろな国の王子の首がはねられた、の歌のスクリーンの裏で、王子が次々と出てきては倒れる演出が分りやすい。

 

Addio”の歌はたっぷり歌っていい感じ。その後調子が狂う音楽は、プッチーニの筆が冴え渡ります。あれ!?よく見ると、ピンとパンが着替えの黄色と赤の服を間違えてしまって、途中で取り替えていました(笑)。これ、音楽に合わせた演出なのでしょうか?

 

その後の皇帝とカラフのやりとりはとても充実。そして、いよいよトゥーランドットの登場です。マリア・グレギーナさん、冒頭からふくよかな歌で、素晴らしいアリア!高音が苦しそうな部分も若干ありましたが、そんなのはどうでもいいんです。ロウリン姫の無念を歌う歌詞がビンビン伝わってきます!ここでも涙涙…。ここで泣いたの、初めてかも知れません。

 

そして、トゥーランドット「謎は3つ、死は1つ」、カラフ「謎は3つ、生は1つ」の2重唱!めちゃめちゃ感動!これぞオペラの醍醐味!その後のなぞなぞの場面のグレギーナさんも歌といい、独特のジェスチャーの演技といい本当に素晴らしい。そしてカラフが見事に3つのなぞなぞに答えた後のトゥーランドットの往生際の悪さ(笑)。「誓いは神聖」の歌のリレー、盛り上がるオケ、この辺りは聴き応え十分でした!

 

そして、打って変わって、しっとりしたオケで「誰も寝てはならぬ」を先取りした音楽に乗せて、カラフからなぞなぞを出します。マルコ・ベルティさんの感動の歌!最後も大いに盛り上げて終わりました。この指揮者、ただ者でない!

 

 

 

第3幕。背景に中国の地方の美しい風景、舞台中央には四角で囲われた、お墓のようなスペースがあり、白い衣裳の女性が眠っています。ミステリアスな前奏は、弦をゆっくりたっぷりやって感動的。カラフのアリア「誰も寝てはならぬ」。ベルティさんの立派な歌でしたが、最後の決めの“Vincerò~!”を短めに切って、この時点では、もしかして、やっちゃったのかな?と思いました。

 

カラフの知り合いだとして、ティムールとリューがしょっぴかれて来ます。ティムールが責められそうになるのを「名前を知っているのは私だけです!」と引き取るリュー。このセリフ一発で涙溢れてきます…。

 

トゥーランドット 「何がお前にそうさせるのだ?」

リュー 「それは愛です。」

 

ここでまた涙…。リューの一言一言が刺さりまくります…。

 

そしてトドメのリューのアリア!もうただただ号泣するしかありません…。歌い終わった後、役人からナイフを奪って、一瞬トゥーランドットに振り上げるも(トゥーランドットを殺して、カラフと結ばれたい思いも秘めていることを垣間見せる卓抜な演出!)、思い留まって、自らを刺しました。可愛そうなリュー…。それに手を差し伸べて、頭を抱えるトゥーランドットも今まで観たことない演出で印象的。

 

そして、ティムールがリューを偲ぶ歌を歌う背景で、何と!それまでお墓で眠っていた少女が起き出し、トゥーランドットに花を差し出し、トゥーランドットと固く抱擁、そして、またお墓に帰って行きました!大いなる感動!ここで分ったのは、この少女は第2幕のトゥーランドットの歌で言及していたロウリン姫なんですね!

 

トゥーランドットは、異国に敗れ死したロウリン姫の復讐として、異国の王子の首をはねまくっていましたが、ロウリン姫から、もういいのよ、私のことはいいからあなたの幸せに進んで、と慰められる感動のシーン!つまりはリューの自己犠牲は、トゥーランドットの氷のように冷たい心を溶かしただけでなく、ロウリン姫を無念の思いから解放した、ということでしょう。

 

思えば、この少女は第1幕でも印象的に登場していました。成仏できずに現生を徘徊していたロウリン姫。第3幕でリューの自己犠牲で遂に成仏。これは本当に感動的な、素晴らし過ぎる演出です。

 

そして、リューを偲ぶ歌が続きます。合唱が旋律を引き取り、一瞬ハ長調になる瞬間には本当に痺れます!そして、リューの亡き骸もお墓に納められて、みなで祈って、音楽が終わり、幕が閉まりました。

 

 

トゥーランドットはご存知の通り、プッチーニが書いたのはここまでで、この後のスペクタクルな終曲はアルファーノの補筆。初演時にはアルトゥーロ・トスカニーニがここで指揮棒を置いたことでも有名です。

 

舞台転換のために幕を一度閉じたのかなと思っていたら…、何と!そのまま終演となりました!ええ~!確かにプッチーニが書いたのはここまでですが、そのまま終わった公演は初めてだったので、ビックリしました!

 

でも、この終わり方はとてもいいように思います。オペラ「トゥーランドット」の弱点は、リューが感動的な自己犠牲で死んだのにも関わらず、すぐにカラフがトゥーランドットにアプローチするところ。「それはないでしょ!」「そもそも、こんないい娘がいるんだから、リューの方に行け!」 なかなかカラフに共感しにくいものがあります。

 

それをこういう形でリューの死で終えるのは、非常に筋の通った方法。最後のスペクタクルな音楽こそ楽しめないものの、ストーリー的には非常にすっきりします。何か別のオペラを観たかのような後味。ベルティさんがカラフのVincerò~!”を短く切ったのも、きっとこのエンディングを意識しての演出なのでしょう。

 

 

 

バーリ歌劇場のトゥーランドット、非常に魅了されました!このロベルト・デ=シモーネ演出のトゥーランドットは、バーリ歌劇場が不幸にも1991年の火災で全焼してしまい、2009年に再建・再開された時の第1作とのこと。その貴重な、記念碑的な公演を日本に持ってきてくれて、本当にありがたい限りです。

 

バーリ歌劇場のみなさま、ジャンパオロ・ビザンティさん、歌手のみなさま、素晴らしい公演を、本当にありがとうございました!

 

 

 

(写真)終演後はバーリ歌劇場に敬意を評して、イタリア料理のレストランで、バ-リが州都のプーリア州のワインを楽しんできました。南イタリアは行ったことがありませんが、いつか訪れてみたいです。