大野和士さんの都響定期で、大好きなメシアン/トゥーランガリラ交響曲が演奏されるので、聴きに行きました。

 

 

東京都交響楽団第848回定期演奏会Cser.

(東京芸術劇場コンサートホール)

 

指揮:大野 和士

ピアノ:ヤン・ミヒールス

オンドマルトノ:原田 節

 

ミュライユ/告別の鐘と微笑み~オリヴィエ・メシアンの追憶に

メシアン/トゥーランガリラ交響曲

 

 

昨年はメシアンに熱狂した1年間。彼方の閃光、幼子イエスに注ぐ20のまなざし(2回)、エローに棲まうムシクイたち、そしてあのアッシジの聖フランチェスコ(2回)!どれも思い出深い、感動的な公演でした。そして今日はメシアンの代表作のトゥーランガリラ交響曲です。ひたすら期待感を持って聴きに行きました。

 

トゥーランガリラ交響曲はこれまでN響や読響などで何度も聴いてきました。強く印象に残っているのは、やはりメシアンのスペシャリスト、シルヴァン・カンブルランさんと読響の演奏(2006年と2014年)です。面白いところでは、2008年にチューリッヒでエリアフ・インバル指揮/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団で聴いています。この曲の場合、実演を聴くこと自体が大きなイベントに他なりません。

 

と言うことで、実は18日(木)の公演も行ければ当日券で、と思っていましたが、残念ながら残業となってしまい脱走に失敗しました…。まあ、今日聴けることをありがたいと感謝し、脱走のカード?(笑)は別の機会に取っておきましょう。

 

 

今回のコンサートに先駆けて、大野和士さんによるピアノを使った解説の動画を見ました。「天地創造(ハイドン)と違って、メシアンの視点はヨーロッパから地球全体に広がっている」「人間の至上の愛そのものが描かれている」「人間たちの愛が音楽として聴こえた時に、人間の愛がこんなにもモクモクと高みに舞い上がって、全世界中のエネルギーを遙かに凌ぐような情熱として燃え上がる」 大野さんの「モクモク」という言葉に萌えました(笑)。

 

冒頭のフレーズは純粋な12音からなり、メキシコの古代の彫像(男性的なるもの)、花の動機(女性的なるもの)、これらを結んでいくのは鳥たち。大野さん、ご自身でピアノを弾いて、非常に明快に解説していきます。そしてこの曲の白眉として、第6楽章「愛の眠りの庭」で鳥が鳴くシーンをピアノで弾いて、「こんなに夢のような世界は今までの音楽の中で書かれたことはない」。大野さん、ほとんど仏様のような温かい笑顔で表現します。最後、「人間の尊厳を取り戻す」「人間自身を信じる」という大野さんのメッセージは感動的でした。

 

※東京都交響楽団の公式動画より

 

 

1曲目はミュライユ/告別の鐘と微笑み~オリヴィエ・メシアンの追憶に。トリスタン・ミュライユさんはメシアンに師事した作曲家で、この「告別の鐘と微笑み」というピアノ曲は、メシアンのピアノのための前奏曲「苦悩の鐘と告別の涙」の素材を取り入れて、ミュライユさんの鐘の音の特性も織り込んで作られた曲です。会場が暗くなり、ピアノだけに光が当たる中、鳥の声と鐘の音がこだまする、大変印象的な曲でした。トゥーランガリラ交響曲の導入として、こういうのは本当に粋な企画でいいですね。

 

 

さて、引き続いて、いよいよトゥーランガリラ交響曲です。

 

第1楽章 導入

始めの12音からキレキレで入る演奏もありますが、ここは比較的穏やかに淡々と。そして彫像の主題は激しく、花の主題は優しく。大野さん、動画の解説通りの意図を持った入りでした。

 

第2楽章 愛の歌1

ここもオケは勢いよく、オンド・マルトノは柔らかく。意図がよく分かります。最後の方の盛り上がりをたっぷり溜めて、最後も全速力で締めて、大野さん大変意欲的な指揮です。

 

第3楽章 トゥーランガリラ1

オンド・マルトノに始まり、トロンボーンの重々しい主題に打楽器群が絡み合う音楽。

 

第4楽章 愛の歌2

前の楽章はオンド・マルトノが主体ですが、この楽章はピアノが主体となります。次の第5楽章につなげる、憧れを持ちながら解決しないラストが美しい。

 

第5楽章 星の血の喜び

めくるめく音楽、正に音の万華鏡です!昨年11月にオットー・ネーベル展のナポリ(イタリアのカラーアトラス)に魅了されましたが、印象としては、その絵よりも、もっともっと細かく暖色系の色をふんだんに使った、色彩感に溢れかえる音色、万華鏡です。

 

この楽章はいつ聴いても感動的ですが、都響のめちゃめちゃ上手いこと!全体で強奏する時も、迫力がありながら、バランスが取れていて、しかも透明感があり、繊細ですらあります。冬の旅行でウィーン・フィルの絶妙のワルツに痺れてきたばかりですが、都響のトゥッティの素晴らしさは、もはや伝統芸能のようにすら思えます。

 

最後、ピアノはかなり勢いよく、それに呼応する大太鼓の迫力、たっぷりの金管、ラストはあのアッシジの聖フランチェスコのラストを思わせるような、スケールの大きな音楽で終わりました!今日はここで感涙でした…。

 

この「星の血の喜び」はトゥーランガリラ交響曲の素晴らしさを体感するのにうってつけなので、ご興味のある方は以下のURLでどうぞ!32:57~39:24です。(良かったら、併せて39:52~51:55の「愛の眠りの庭」もどうぞ!)


(参考)パーヴォ・ヤルヴィ/hr交響楽団のメシアン/トゥーランガリラ交響曲

https://www.youtube.com/watch?v=eCO7le_6LzU

※hr交響楽団の公式動画より

 

第6楽章 愛の眠りの庭

星の血の喜びの後に、この楽章が来るのがまた嬉しい。ここはオンド・マルトノを強調すると官能的な音楽なりますが、大野さんは弦の方を主体にして、鳥の声もバランスよく聴かせて、そういう愛の祝福感に溢れる「風景」を描写した音楽を聴かせていたように思いました。神様に見守られているような温かく優しい気持ちになれる音楽。いつまでも浸っていたいと思いました。

 

第7楽章 トゥーランガリラ2

昨年、幼子キリストに注ぐ20のまさざしを聴いて、第16曲「予言者、羊飼いと東方の三博士のまなざし」では解説に「摩訶不思議な念仏が唱えられるような音楽」とありましたが、ここの音楽にもそんな気配を感じます。

 

第8楽章 愛の展開

この楽章は後半の「愛の主題」の高まりをタップリやってもらうと感動的なのですが、大野さん、もうこれでもか!と溜めてもらって、めちゃめちゃ良かったです!そしてハイライトの「愛の主題」では、頂点のラ~ソ~ファ~ドミ~レ~♪のラ~を伸ばしますが、ここも止まるんじゃないか?と思わせるくらいタップリやってくれて、極めて感動的。それこそ、時をも止めてしまうかのような愛の力を感じます。一度、静まり、転調を繰り返しながら、再び高まって、感動の楽章を終えます。

 

第9楽章 トゥーランガリラ3

この楽章はやや神秘的な音楽。フィナーレに向けてか、ここは淡々とリズムを刻みながら進んで行きました。

 

第10楽章 フィナーレ

祝祭感や達成感に溢れる楽章!前半はノリノリで、後半の「愛の主題」はタップリと、大野さんのメリハリの利いた指揮です。「愛の主題」により大きな頂点を描いた後、大団円に進む音楽はオンド・マルトノも大活躍でもの凄い高揚感、ラストもゆっくりと高まり、壮大に鳴らして終わりました!

 

何このスケールの大きな圧倒的な名演!!!

 

大野さんと都響のメシアンへの熱い想いが感じられた、素晴らしい演奏でした!トゥーランガリラ交響曲を聴くのはただでさえ感動的なのに、ここまでメリハリをつけてタップリと演奏していただけると、本当にとんでもない世界へと連れて行ってもらえます。ただただ感謝の念しかありません。昨年11月のアッシジの聖フランチェスコの読響もそれはそれは素晴らしかったですが、改めて都響って本当に凄い!と思い知らされました!

 

 

今年このメシアン/トゥーランガリラ交響曲を聴くのは、もう1つ感慨深いことがあります。それは今年がご存じレナード・バーンスタイン生誕100周年だからです。この曲は1949年にレナード・バーンスタイン指揮/ボストン交響楽団により初演されました(ピアノはイヴォンヌ・ロリオさん)。レニーがこの世に送り出した名曲、生誕100周年に聴くのは本当に感慨深かったです!

 

 

 

(写真)この曲で大活躍し、かつ曲全体の印象の鍵を握る楽器、オンド・マルトノ

※ウィキペディアより