第157回の直木賞を受賞した作品です。2019年には、文庫化されるにあたって、「岩波文庫的」という、岩波文庫そっくりのパロディー装丁で売れ出されました。

 名作ぞろいの「岩波文庫」に、自作も入りたいという著者の希望だそう…。

●あらすじ
 小山内堅(おさない・つよし)は青森県八戸市に生まれました。東京の私大に進学し、就職。30才を前に、同じ八戸出身で、私大でも同じサークルの2学年下の後輩、藤宮梢(ふじみや・こずえ)と結婚します。結婚後、娘を授かり、瑠璃(るり)と命名します。
 瑠璃が小学校二年生のとき、原因不明の高熱が一週間続きます。回復した娘に、妻の梢は違和感を覚えます。とても大人びたうえ、縫いぐるみに「アキラくん」と名をつけるだけでなく、昔の流行歌を口にするようになります。そんな娘に不安を覚えた妻は、ノイローゼのような状態に…。

 ある12月の終業式が終わった日、「瑠璃が帰ってこない。」と妻から連絡があります。気をもむ小山内に、瑠璃が東京の高田馬場で保護されたとの連絡が入ります。迎えに行った小山内は、瑠璃の家出は初めてではなく、過去にも二回、補導されたと打ち明けられます。

 瑠璃は父・小山内に「高校卒業するまでは、一人で旅行しない」と約束します。しかし、瑠璃が高校の卒業式を終えた日、梢の運転する車が事故を起こし、同乗していた瑠璃も梢とともに亡くなってしまいます。失意のうちに、小山内は仕事を辞め、八戸の実家に戻ります。
 

 そして、15年後、三角哲彦という青年が現れ、小山内に自身の過去と、そこで出会ったある女性について語ります。

 (時系列的には、三角と会った後)小山内は緑坂ゆい(女優)とその娘、緑坂るり(小学二年生)に呼び出され、東京のホテルのカフェで面会します。

 

 そこで、るりから、(現実では接点のないはずの)三角とのことや自身の前世のこと、さらには「生まれ変わりは…(ネタバレなので伏せます)。」と、信じられないことを告げられます。

●感想
 「生まれ変わっても、同じ人を愛し続けることは美しいこと」という言葉に、肯定ととに疑問を感じさせる作品でした。

 

 直木賞の選評にあたった宮部みゆきさんは輪廻転生という仕掛けを使って、当事者の二人以外は誰も幸せにしない恋愛というものの暴力性と理不尽さを描いた小説だと私は思っています。」と評しました。

 

 確かに、死んだはずの人が「今、あなたの後ろにいるの。」と言ったらみたいな話かも知れません。

 

 しかし、構成の見事さやモチーフの意外性など、受賞に足る作品だと思いました。

 

 岩波文庫としては…、う~ん。

 アニメの中では、「異世界転生もの」がひとつのジャンルを獲得し、人気です。

 『転スラ』や『無職転生』、『Re:ゼロ』なんかはロング・タイトルで、アニメ化が今でも続いています。
 

 前世の記憶を持って、別の肉体に生まれ変わる「転生=生まれ変わり」ですが、異世界ならファンタジーです。しかし、現実世界ではどうでしょう。身近な人から「私、前世の記憶があって…。」と告げられたらどうでしょう。「へえ~。」と返しつつ、心では『ふっ、不思議ちゃん!?』となってしまうのではないでしょうか。

 現実世界に起こったら、それをどう受け止めるか。そんなことを考えさせる2作品です。

〇佐藤正午:著『月の満ち欠け』(2017年、第157回直木賞受賞)

 執拗な「生まれ変わり」が、純愛か、ホラーか?

〇村田椰融:作『妻、小学生になる。』(2023年3月、全14巻で完結)
 「生まれ変わり」と、思いきや…。

 

 

 ここのところ「西尾さんロス」というか…。あまり作品を読んでないなぁと思ったので、探しました。

 題名にもある「鬼怒楯岩大吊橋ツキヌ」は「きぬたていわおおつりばし・つきぬ」と読むようです。栃木県の日光市に「鬼怒楯岩大吊橋」というつり橋があるようです。参考まで…。

●あらすじ
 鬼怒楯岩大吊橋ツキヌは、脳外科医の犬走(いぬばしり)キャットウォーク先生から、拾ってきた猫のペットシッターを依頼されます。

 ツキヌは、失業中の身であったため、報酬付きのこの依頼を、ありがたく引き受けます。しかし、この猫はかなり特殊でした。なんと「首」がないのに、普通に生きているのです。

 そのため、エサは、水に溶かした栄養分を、「喉」にあたるであろう部分に、スポイトで流し込むのです。もうひとつ、どんなに隙間がないような場所でも、すり抜けて移動できるのです。

 一般的に、猫は自分の頭程度の隙間があれば、すり抜けることができると言われており、その理屈でいうと、頭のない猫には通り抜けられない隙間はないということになるようです。

 ツキヌは、この猫へのエサやりと、見守りを依頼されるのですが、猫を観察しているとある日、意外なことに気づくのでした。

●感想
 ネットで他の人の感想を見ますと、「西尾さんの作品の中で、最も読みにくい」とか、「読み飛ばした」といった感想が散見されました。

 

 私には、非常に面白かった。
 

 西尾さんって、無駄に長い会話が多いという風に見られがちですが、文章に端々から「頭の良さ」が伝わってくるんです。

 本書の読みにくさは、本筋と関係のない「思考のさまよい」が、特に多いというためなのでしょう。ですが、「物語シリーズ」の登場人物たち、特に主人公の阿良々木暦なんか、結構こんな感じでグダグダ考えてませんか?

 

 特に「オチ」もなく、シリーズ作品でもないようですが、西尾維新作品に時々浸りたくなる人には、読んでおいて損はないですよ。