頭のおかしい大人たちに、親子ごっこにつき合わされても、自分が幸せだと思えば幸せ。

 でも、それって見えない虐待なのでは。

 第16回本屋大賞受賞作と、それを原作とした映画です。

 優子という女の子が主人公で、彼女を中心として物語が進みます。
 3歳で母親を交通事故で亡くし、小学校二年のとき、父親が再婚したのが、自由奔放な梨花さん。
 親子三人、楽しい生活がになると思いきや、優子が小学校五年生のとき、父親が突然「ブラジルに行きたい。」と言い出しますが、梨花さんは行きたくないと主張。優子に選択を迫ります。

 結果、梨花さんと二人暮らしに。しかし、梨花さんは「宵越しの金は持たない」タイプなので、貧乏ライフとなってしまう。
 

 ある日、優子が「ピアノを習いたい。」と言ったことから、優子が小学校六年生の時、梨花さんが金持ちの泉ヶ原さんと結婚。念願のピアノを手に入れますが、里香さんは、半年未満で「退屈」といって、家を出ていきます(小説では、夕方には毎日のように戻ってきて「一緒に暮らそう。」と優子を口説くのです)。
 優子が中学校三年の春休み、梨花さんは東大卒(梨花さんとは中学の同級生)の森宮さんと籍を入れますが、二ヶ月後、「探さないでください」と置手紙を残し、家出。かくして、森宮さんとの二人暮らしとなるのですが…。

 映画を観てから、原作を読んだのですが、映画は大変良くできていると思います。特に、梨花役を石原さとみさんが演じていますが、彼女のキャラクターが、物語に見事にはまっています。即ち、どんな環境でも自分のやりたいことをやり、ポジティブで、しかも周囲を巻き込んでゆくといった感じです。

 映画と原作の違いについては、映画のほうがよりウェットにつくったという点でしょう。原作でも、梨花は病気だったことが後でわかりますが、映画では死亡しており、優子が梨花の愛情をより強く実感するようにしています。
 そのため、随所で優子の悲しさを強調するようにしています。優子が、母親が交通事故で死んだことを聞かされ号泣するところや、ブラジルに行った父を思って泣くシーンなどが追加されています。

 しかし、これが本屋大賞を受賞したということについては、全く理解できません。(書店員さんたち、どんだけメンヘラ?!)


 自分の夢を追って、結果的には優子を捨てた父親。
 優子可愛さの余り、実の父親からの接触を遠ざけながら、一方では、自分の感情の赴くまま、次々と夫を変え、飽きるとポイ捨てしていった梨花。
 また、何かというと、自分は父親として頑張っていることを優子にアピールする森宮。

 こんな親たちに、関わされててきたのに、誰を恨むわけでもなく、周囲に感謝しながら生活する優子。

 これって、ステルス虐待じゃないか!と思いました。

 原作を読んで理解できましたが、ここにある親子関係は、常に緊張感をはらんでいるものです。
 親たちは、この関係がいつ壊れてもおかしくないと思っており、だからこそ自分は、相手のためになるよう行動していると「思い込んでいる」のです。
 こうした緊張感にさらされ、優子は徐々に、人間関係に異議を唱えない子供に育っていったんだと思われます。
 その証拠には、優子は親だけでなく、自分を無視する友人に対してすら、自分から行動を起こそうとはしません。

 他の友達は実の父親に対して「不潔で厄介」と切って捨てています。つまり、本書に共感した人(書店員ですか?)たちは、常に相手を思いやろうとする緊張感があるような親子関係に共感したのではないか思います。たとえ、それがどんなに歪なものでも…。

 しかし、自分としては、こんな親であったら反発してしまうと思います。

 家計が苦しくても、自らの欲望のまま散財したり、子供のためだと自己中に考え(子供の気持ちを顧みず)、自分は食べたくないから食べないけど、子供には必要と思い込んでいるから無理やり食べさせようとしたり。

 何より、妻が好き放題していても文句一つ言わなかったりと、どうしても尊敬できる親の姿とは思えません。

 こんな作品が評価されるということは、いかに親子関係に緊張関係を求めているか、ありえない人間関係に酔いやすいのか、と感じてしまいます。
 
 みんな、親子関係に幻想を求めすぎ!!