相変わらず、「自分にはタイトルのセンスがある…」と思い込んでいる人です。直木賞候補になった『光のとこにいてね』は、ひどいタイトルに加え、内容も負けずにひどいものでした。

 本作については、直木賞を取っただけあって、内容はまぁまぁでした。
 しかし、この短編集の全体を表現するとして、
『ツミデミック』というタイトルは、センスがないどころか意味がよくわかりません

 確かに、どの作品もパンデミックの最中に起きた物語という設定ですが、もっと何かあったんじゃないのかと思います。

●「違う羽の鳥」あらすじ
 及川優斗(おいかわ・ゆうと)は、大阪市の高校を卒業。第一志望の大学に落ちてしまいますが、親が浪人を許さなかったため、東京の別の大学に進学します。

 入りたかった大学ではなかったため、勉強にも身が入らず、一年の途中で中退してしまいます。実家に戻るのも体裁が悪いので、バイトで食いつないでいるうちに、6年近くが経過していました。

 今日も飲み屋の呼び込みをしていたところ、自身の地元(大阪)のイントネーションに注目したという、同い年位の派手な身なりの女性に、同郷の懐かしさをアピールされ、仕事終わりに飲む約束をします。

 彼女は、パパ活で稼いでいると言い、高級そうな店に誘われます。彼女の名前「井上なぎさ」に、優斗はと思い至ります。
 高校のクラスメイトに、「井上なぎさ」という女子がいたこと。そして、彼女は踏切に飛び込んで自殺したこと。彼女の葬儀にも参列したこと。

 そして、彼女は、「井上なぎさ」である自身の物語を語り始めるのでした。

●「違う羽の鳥」感想
 「井上なぎさ」のキャラ造形が凄い(怖い)です。優斗との関りをもう少し増やして、長編化しても良いのではないかと思いました。しかし、彼女は忽然と姿を消し、物語は終わってしまいます。
 結末付近は、「井上なぎさ」が現実にいたのかどうかを曖昧にしています。

 最後にバーテンに「お客さん、最初からおひとりでいらっしゃいましたしたよ。」と言わせ、幽霊話(もしくは都市伝説)っぽくまとめようとしていますが、結構、彼女との会話を具体的に書いているので、ちょっと展開に無理があるかなと思いました。

●「ロマンス☆」あらすじ
 主婦の百合はパンデミックで外出できず、宅配に頼るも、美形の配達員に夢中になり、宅配にのめり込むあまり、ついに…。

●「ロマンス☆」感想
 かなり短い話ですが、主婦が宅配にのめり込んでいく様子に引き込まれます。エンディングも衝撃的です。

●「燐光」あらすじ
 女子高生、松本唯は気が付くと、通っている高校の松の木の下に立っていました。 

 何故ここにいるのかもわからず、帰ろうとすると、目の前に自転車が迫ってきます。ぶつかる!と思った瞬間、自転車は何事もなく結衣の体を通り抜けていきました。周囲の会話をつなげると、唯は15年前の豪雨で死んでおり、自身が幽霊であることがわかります。

 あてもなく家への道をたどっていると、高校のときの友人、登島(としま)つばさと、高校の教師だった杉田先生に会います。二人は、唯の家に向かうところでした。そして、二人についていくうちに、唯が当時どんな様子だったか。登島つばさや杉田先生がどう関係しているか。そもそも唯がなぜ死んだのかが明らかになっていきます。

 そこから、二人のやり取りがどんどん不穏なものになっていき…。

●「燐光」感想
 死者よりも生者が恐ろしい。

●「特別縁故者」あらすじ
 卜部恭一(うらべ・きょういち)は、妻・朋子と小学校一年生の息子(隼・しゅん)と暮らしています。調理師免許を持っている恭一は、店で料理人として働いていましたが、人員整理に遭い離職。コロナ禍が追い打ちをかけ就職できずにいます。妻は生活のため、コンビニとコールセンターを掛け持ちしています。
 ある日、外で遊んでいる隼を恭一が捜していると、隼が近づいてきました。何気なく話をしたところ、スーパーボールで遊んでいたら、近所の古い家に入ってしまったと言います。門のあたりをうろうろしていると、家の中から老人が現れました。隼が事情を話すと、老人は庭を捜させます。見つけて帰ろうとする隼に「ヤクルト飲んでけ。」と言います。

 老人と話し、ついでに肩を揉んであげると、お礼に一万円くれたのでした。恭一は驚くとともに、老人のお金にそそられ、老人に近づこうとしますが…。

●「特別縁故者」感想
 よくある話で、寂しい老人と思っていたのが実はというパターンです。

 バッド・エンドじゃないので、安心して読めました。

●「祝福の歌」感想
 あらすじパス。

 というのも、感動させようとしている感じが見え見えで、ちょっと嫌でした。

●「さざなみドライブ」あらすじ
 自殺志願者が、サイトを使って集まり、そこで起こる話。本当にそれだけです。

●「さざなみドライブ」感想
 こんな潜入捜査官まがいの人いるかな?という感想。

 

 最初の「違う羽の鳥」から「燐光」までは良かったのですが、その後が息切れというか、失速してしまったようでした。

 2024年に、本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞と、トリプル受賞に輝いた作品です。
 その割には、キャラクターや世界観は、
ライトノベルっぽいです。

 5つの短編「地雷グリコ」、「坊主衰弱」、「自由律ジャンケン」、「だるまさんがかぞえた」、「フォールーム・ポーカー」と、みんなのこれからを書いた「エピローグ」で構成されています。

●あらすじ
 鉱田風日(こうだ・かざひ)は、頰白(ほおじろ)高校の一年生。

 文化祭を控え、クラスの出店場所を決めるゲームに挑もうとしています。というのも、文化祭では、学校の屋上に出店したクラスが、圧倒的に売り上げることができるので、毎年、屋上への申し込みが殺到するのです。そのため、トーナメント方式により、ゲームで勝敗を決めるのです。

 鉱田は、同じクラスの友人、射守矢真兎(いもりや・まと)を連れてきます。
 しかし、対戦相手である生徒会チームの代表は、役員の一人、椚迅人(くぬぎ・はやと)。彼は、このゲームでは二年間負けなしという実力でした。
 鉱田は普通の女子ですが、射守矢真兎は、頭の回転が異様に速い子です。
 

 鉱田が中学三年のある日、体育祭の学級対抗全員リレーの走順に悩んでいました。自分たちのクラスに陸上部が一人もいないため、「ビリ確定」ながらも恥だけはかかないよう、走者のタイム表と走る順番表をにらめっこしていたところ、通りかかった射守矢が、名簿を一瞥して走順を指示。

 素直に従うも半信半疑の鉱田。当日は何と、鉱田のクラスはリレーで一位を獲得します。射守矢は、当日の天候や走るグランドのコンディションなどを総合的に判断し、作戦を立てたのでした。

 場所取りのためのゲーム名は「地雷グリコ」

 

 これは、ジャンケンで勝った人が、石段を登り、頂上に着いた方が勝ちといういわゆる「グリコ」(グーで勝ったら、「グリコ」で3段、チョキやパーなら「チヨコレイト」「パイナツプル」で6段上がるゲーム)に、地雷(お互いに相手に知らせず、3か所を指定する。その場所は「地雷」となり、10段下がるというペナルティを受ける)を加えたゲームです。
 

 本作は次々現れる挑戦者に、射守矢真兎が、いかに相手の心理やゲームのルールを逆手にとって勝利していくか、という物語です。

 割と誰でも知っているゲームに、ルールをちょい足しし、複雑にしています。さらに、勝ったことで得られる報酬を重くしていくことで、射守矢の置かれている状況が、どんどん厳しくなっていきます。ですが、当の射守矢は常に、薄い笑いを顔に張り付けているルーズなギャルっぽい女子です。一方で、平凡な女子である鉱田に対して、何か特別な思いがあるようなのです。

●感想

 もう感想か!?と思われるでしょうが、単なるゲームの繰り返しではありません。

 

 例えば、「坊主衰弱」で対戦する喫茶店のマスターは、実はイカサマを使っています。
 「だるまさんがかぞえた」では、審判と相手が結託しているほか、相手はゲームの「必勝法」を知っており、このゲームではこれまで負けなしです。

 「フォールーム・ポーカー」では、対戦相手は射守矢との因縁のある人物であり、ゲームを根底から覆す、まるで射守矢の上位版のような人です。

 こんな、絶対不利な状況に、一見するとルーズなギャルっぽい射守矢が、ルールを逆手にとって対戦相手を切り伏せていくさまは、非常に壮快です。

 

 また、鉱田との過去も明らかになり、射守矢の抱えていた思いも、物語に深みを与えます。

 

 もともと、一作で終わる予定だったものが、続きを書くことになった結果一冊の本になったようですが、エピローグでは、「俺たちの戦いはこれからだ」的な終わり方になっており、是非とも続編が読みたい一品でした。

 2025年は高田さん豊作の年ですね。「図書館の魔女 エピソード0」(豊崎由美命名)である、『図書館の魔女 高い塔の童心』、フランスの対戦後の歴史と音楽史の知識に満ち溢れた『記憶の対位法』、そして「図書館の魔女シリーズ」の新作、『図書館の魔女 霆ける塔』。そして、本書が掉尾を飾るものとして登場。

 いや~、満足です。

 本書の舞台は日本。しかも『まほり』と違い、怪しさや怖さはありません。

 登場人物の会話も「なんでだよ!」といったツッコミや、漫才でいうところの「天丼」(同じボケの繰り返し)や、「現代ホームコメディ」っぽいやり取りが多用されています(ポケモンネタまで有り!)。一方で、
高田さん独特の博覧強記っぷりは健在。

●あらすじ(第一話「ディレッタント、近世を解く」)
 岩槻真理(いわつき・まり、28歳。東京の出版社の編集担当。超多忙)は、群馬県甘楽郡の山中にある、嵯峨野宅に向け、軽四駆を走らせています。そこに住む嵯峨野修理(さがの・しゅり、28歳。大学の非常勤講師:文献の考証を専門)は、真理の元夫です。実は真理は、別れた夫の家に、頻繁に訪問しているのです。

真理の目当ては嵯峨野妙(さがの・たえ、58歳。修理の母で、真理の母である汐路(しおじ)と女学校時代の親友)さん。修理との結婚前から、嵯峨野家と岩槻家は双方の母親が女学校時代からの親友で、片方が男性だったら求婚していたくらいの仲でした。自然、両家の交友は子どもたちにも及んだ結果、岩槻家の長女・真理と嵯峨野家の長男・修理が結婚したのでした。しかし、真理の激務に加え、修理の生活性の無さ(期限まで届けを出すとか、書類の処理ができない。また、頼めば何でもするが、頼まれないことは何もしない。親戚づきあいにも無頓着)が、結婚と共に露呈し、真理はストレスを抱え、修理に不満をぶつけます。しかし、修理の受け止め方はどこか他人事なため、真理のストレスは日ごとに増大していきます。そこで離婚となってしまったのですが、結婚前からつき合いの深い妙さんとの縁は切れず、どころかおいしい料理やもてなしで真理を甘やかすため、つい嵯峨野家に足が向いてしまい、結果的に修理とも顔を合わせることになるのです。また、修理が論文を出版するということもあるため、成行き的に真理が担当するなど、仕事上の関係もつながったままでした。
 ある日、真理の大学の後輩が、とある旅館の襖の下張りに貼られていた説話のようなものを見つけます。何か、仏教説話のようでもあり、地域伝承にも見えるその話の出典を捜しますが、見つかりません。伝手の伝手をたどるうちに真理の手に渡ったため、真理は「修理ならわかるのでは?」と、修理に見せたところ、彼はたちどころに回答を示します。しかも、さらなる物語の広がりを推理するのです。


●あらすじ(第二話「ディレッタント、言の葉を検める」)
 真理がいつものように嵯峨野家を訪問すると、修理から「古書店に出物があるので、車を出して欲しい。」と頼まれます。真理自身、出版業であるためか、ちょっとした辞書マニアということもあって、修理の足となる傍ら、自分でも掘り出し物を見つけます。

 自宅に戻ると、買ったものの中に辞書(と思われるもの)の正誤表がありました。どうやら修理の買った本に挟まっていたものが紛れこんだようなのですが、どう見ても手書きであり、しかも最初に大きく記してある辞書の題名と思しきものは、逆さに書いてあります。
 修理に返すついでに、その「手書きの正誤表」の意味を問うと、修理は文献学者の性(さが)といったものを解説してくれます。


●あらすじ(第三話「ディレッタント、奇書を読む」)
 真理には三歳下の妹、佐江がいます。佐江は、実は修理にぞっこんです。真理が結婚する前にも、佐江は修理に猛然とアタックしたのですが、修理は全く取り合わなかったという過去がありました。
 姉の真理が修理と離婚したのを見て、佐江は自分にもワンチャンとばかり、嵯峨野家を頻繁に訪問するのですが、離婚したはずの真理も、嵯峨野家へ足しげく訪問し、修理とも親しげに話しています。
 そのため、佐江は母の汐路に泣きつきます。こうして、
「どうしてお姉ちゃんと修理は公的に分かれたのにずるずると縁を切らないでいて、しかもいちゃいちゃしているのか、おかしくはないか」会議が、関係者出席の元、嵯峨野家で開催されたのでした。
 結局、この件はうやむやになるのですが、義侠心の強い母の汐路は、のらりくらりしている(ように見える)修理の「文献学」にケチをつけ始め、「文字になっているものなら何でも読む」んだったら…。ということで、発見から100年以上が経った今も解読されていない「ヴォイニッチ写本」(手稿とも言う)を読めと迫ります。
 修理はここで、「ヴォイニッチ写本」に対する、「文献学的仮説」を開陳するのでした。

●感想

 いつもながら、感心しきり。

 修理の「テキストがあって、辞書があって文法書があれば何でも読める」という姿勢には脱帽ですが、近世文学から謎の写本まで、知識が半端ない。
 しかも、体裁は普通小説。料理上手でおっとり美人の元姑の妙さんや、学者肌で生活力のない修理。修理にいまだに惚れている佐江や、仕事メインの真理。嵯峨野家のネコ達まで、魅力的な登場人物がいっぱいです。


シリーズ化、切に希望!(もっと読みたい!!)