2024年に、おしくも68歳で亡くなった山本弘さんの作品です。
山本さんは全部面白いですが、特に『BISビブリオバトル部シリーズ』は別格で、続刊を楽しみにしていました。山本氏は、「と学会(とんでも学説の会)」の会長でもあり、博覧強記で、読書量も半端じゃない。いわば、一人で(しかもシリーズで)ビブリオ・バトルができるくらい、本を読んでいるわけです。
続編が読めなくなってしまい、残念です。
そんな著者の「怪獣シリーズ」。実はちょっと敬遠してました。現代社会に、突如怪獣が出現するなんて、特撮好きでオタク趣味全開の趣味本と思ってましたし、科学的考証なんか期待できないと思ってました。実際、柳田理科雄の『空想科学読本』シリーズでは、ウルトラマンなんかの怪獣が出てくるシリーズが、現実の物理法則に従うと、明らかにおかしいと説明されています。あの体格で攻撃しあったら、衝撃波で周囲はメチャクチャとか…。そもそも、怪獣は自重で潰れてしまうのだとか。
ところが、本書を読んでみて反省。やっぱり山本さんは凄かった。
怪獣に関する物理法則だけでなく、出現する根拠についても、キチンとした説明が用意されていました。
●前提
世界中で、「怪獣」と呼ばれる特殊生物が突然発生し、人間を攻撃するようになっっています。「怪獣」は、台風や地震、噴火などの自然災害と同じように考えられているため、発生した場合は、気象庁の下部組織である「気象庁特異生物対策部」(略して「気特対(きとくたい)」)が担当します。気特対は自衛隊と連携し、攻撃計画や避難指示などを立案します。また、怪獣の大きさに応じて「MM(モンスター・マグニチュード)」(怪獣の規模)を決定します。
●あらすじ
〇「第一話 緊急!怪獣警報発令」
小笠原海域で、海上自衛隊の潜水艦と怪獣が接触したとの情報が入ります。怪獣は、全長80~100メートルで、MM8相当。もしくはMM9クラスとも考えられます。上陸すれば被害は甚大です。しかし、「避難指示」を出せば経済活動への影響も大きいため、迂闊に決断することもできません。さらに、マスコミからは「怪獣の固有名」の問い合わせが殺到します。固有名をつけるためには、怪獣の正体がわからないといけません。正体がわからないうちは、その年の何番目に発生した怪獣なのかによって、附番が借り付けされます。その怪獣は、今のところ「怪獣3号」と名付けられました。
気特対の面々の調査・分析により、怪獣への対策が決定し、自衛隊と連携した作戦が実行されます。
〇「第二話 危険!少女逃亡中」
岐阜市に、長い髪の少女が出現します。彼女は10歳くらいで全裸。道端に停めてある自動車を持ち上げて遊んだりしていますが、人間に危害を加えるようすはありません。しかし、身長は20メートル前後であり、これはMM5に相当しそうです。しかし、MM5では攻撃的でなくとも、人間にとって危険であるということで攻撃対象になってしまいます。気特対の藤澤さくら(ふじさわ・さくら:19歳)は、若いながらも抜群のドライビング・テクニックで少女に接近し、調査します。
少女の動きや行動を観察し「多重人間原理」という考えが示されます。
これは、怪獣が自重で潰れてしまわないのは何故なのかを説明するものです。体の大きさが2倍になれば、怪獣自身が感じるタイムスケールは1/2となるという理論です。また、それに合わせて、重力や光の感じ方も変化しているため、体を維持できるというものです。
少女は、「ヒメ」と命名されますが、藤澤さくらは彼女が危険とは思えません。ヒメが感じているタイムスケールが、自分たちより遅いのであれば、「ゆっくり会話すれば、意思疎通ができるのではないか」と考え、彼女に単独で接触します。
さくらとヒメが心を通わせているとき、彼女に近づいた民間人を守るため、自衛隊が彼女に発砲してしまいます。絶望するさくら。ところが、「ヒメ」の倒れたところには、巨大なクレーターがあり、中心には、普通サイズの少女が横たわっていました。
無害と認定された「ヒメ」は、気特対の研究施設で保護観察されることとなるのですが、「ヒメ」の存在を見つめる不気味な存在があるのでした。(←ここが、第五話への伏線です。)
〇「第三話 脅威!非公開中襲来」
翼竜型怪獣(MM1~2相当)が、新潟県の上空で目撃されます。
気特対の灰田涼(はいだ・りょう)は、非番でデート中にニュースでそのことを知ります。相手は映子という、かなりの美人ですが、国立科学博物館の研究員で、妖怪好きという変わり者。
灰田は、事件は勤務中の他の職員に一任しようと思いますが、続報が入るにつれ青ざめます。怪獣は小型ではあるものの、どうやら放射能を帯びているようです。また怪獣は、デート中の映子が勤務している国立科学博物館を目指して飛行しているようなのです。
灰田は映子に事情を話し、共に博物館に向かうのでした。
〇「第四話 密着!気特対24時」
とかく世間の評判が芳しくない気特対ですが、世間の評判を払拭し、怪獣対策への理解を深めるため、TVの特別番組の制作に協力します。気特対の活躍を紹介するとともに、怪獣がなぜ出現するのかといったことについても説明されます。
宇宙や物理法則がなぜこうなのかというのは、人間の自意識が発生し、宇宙に影響を与えたから、ということです。人間が存在し、意識を持ったことによって、過去の地球や物理法則が、「人間中心」にできあがっていったのです。
一方で、過去に存在していた神話宇宙に生きていた巨人や神々、怪獣などは、「神話」としてフィクション化され、「実際には存在しないこと」になり、妖精や魔法、妖怪などは存在できなくなり、いなくなってしまったのです。
しかし、異なる物理法則に則った存在である「怪獣」の出現を、人類が再び「認識」することで、存在が可能になったのです。
怪獣が出現する状況というのは、異なる物理法則が併存している状態なわけです。
〇「第五部 出現!黙示録大怪獣」
これまで「怪獣」の出現理由や、ユニークな怪獣シリーズなどが語られてきましたが、それだけで延々話が続くのだとしたら、往年の特撮ドラマ「ウルトラQ」と変わらないです。まさにそう思っていたところにこの展開。
「怪獣」を蘇らせていたものの正体が明らかになります。「巨大怪獣」の出現に対し気特対の総力戦が始まります。そこに、第二話に登場した「ヒメ」が、実は古代の日本神話に関係した存在であることが明らかになります。
本作は、ちゃんとSFしている作品で安心しました。
続編の『MM9―invasion―』では、ヒメのさらなる活躍が描かれています。
山本先生のご冥福をお祈りいたします。