ラスト3ページ、号泣!

●あらすじ
 高木春夫(たかぎ・はるお)は、静岡で母と二人暮らし。東京にあるドローンの操縦会社「タラリア」入社し三年目。静岡在住ですが、片道二時間かけて東京の会社に通勤しています。

 

 それと言うのも。

 

 晴夫が小学生、中学生の兄と、大人に禁じられていた海の洞窟探検に行っていました。ビビりの春生は見張り専門。兄が探検役です。ある日、兄は洞窟内で事故に遭い、溺れてしまいます。兄が亡くなったことで、母はしばらく体調を崩してしまいます。兄の死に責任を感じている春夫は、未だに母を一人にすることができず、片道2時間かけて通勤しているのです。
 とある日のドローン講習会で、春夫は高校のときの同級生、韮沢粟緒(にらさわ・あお)に出会います。彼女は、国が建設した大規模な都市開発プロジェクトである
『WANOKUNI』に応募し、住民となる予定でした。
 『WANOKUNI』プロジェクトは、地下に「チューブ」と呼ばれるドローン専用の配送網を巡らし、また、障がい者にも住みやすいスマートシティを実現したものでした。粟緒の妹・碧(みどり:9歳)は、交通事故に遭い、そのショックで失声症となっていたため、「障がい者枠」として、入居が決まっていました。

 『WANOKUNI』の完成式典の最中、巨大地震が発生します。『WANOKUNI』は、地下5階層になっていましたが、各フロアはほぼ壊滅。全域で火災や浸水が始まっています。しかし、住民や訪問者にあらかじめ配布されていたIDで、所在はほぼ確定できていました。そうした中、たった一人所在が確認できない人がいました。それは、中川博美(30歳半ば)。彼女は、目が見えず、耳も聞こえない、いわば「三重苦」でした。
 彼女は、このスマートシティのアイドル的存在で、知事の姪。春夫の会社は、ドローンを使って、徐々に崩壊していく地下都市から、彼女を地上へと誘導するという任務を依頼されるのです。
 彼女を地下5階から、ドローンを使って誘導するにしても、一筋縄ではいきません。彼女は目が見えないため、ドローンを視認できません。春夫は、様々な工夫をドローンに施し、彼女を誘導していきます。
 一方で、誘導中に春夫たちは違和感を感じ、それが疑惑となって、徐々に膨らんでいきます。すなわち、見えないはずの部屋のスイッチを入れたり、障害物を避けたりすることがあるのです。一体、彼女は本当に障がい者なのか。

●感想

 
ラスト3ページ、号泣!(大事なことなので2回言いました。)

 手に汗握る救出劇に加え、中川博美に対する「本当に高度障害なのか」疑惑。また、救出に奮闘する模様が、暴露系配信者によって世間に公表される事態になります。「彼女一人のために、高い税金を投じるのか。」「そもそも、彼女は本当に障がい者なのか。」世間は、様々な憶測を巡らします。
 春夫自身は、救えなかった兄と救助者が重なり、ドローンを操作します。
 それらの描写も迫力があって、小説としてすごいのです。が、何といってもラストで
すべての謎が解けるところが素晴らしく、感動で思わずウルっと来てしまいました。
 

 実は、ブログを執筆するにあたって読み返しましたが、また泣いてしまいました。

 川口先生!ぜひ続編を!!

 

 川口さんは脚本家で、本作も出発は舞台作品(2010年)でした。舞台を観た出版社が感動し、書籍化を打診(脚本は、2013年に杉並演劇祭大賞を受賞しています。)

 数年後、小説化され、2015年に出版。
 

 小説は、本屋大賞2017で第10位。2018年には、映画化もされています。(映画では1作目の『コーヒーが冷めないうちに』と2作目の『この嘘がばれないうちに』を原作としています。)

 シリーズ累計370万部を突破し、2023年7月現在、37言語に翻訳されており、近年刊行された日本の小説、もっとも海外展開に成功した作品とされています。

 しかも、川口さんは脚本家が本業であるため、小説としてはこの『コーヒーが冷めないうちに』のシリーズのみ。

 本シリーズは全部で6作書かれていますが、全然飽きません。


 『セカ中』とか『きみ膵』とかいう、主人公の女の子を病気にして、彼氏にあたふたさせればいいんじゃね?的な作品の量産者とは一線を画しています。

●あらすじ前の前置き
 東京都の神保町にある喫茶店「フニクリフニクラ」は、喫茶店内のある席に座ると、望んだ時間に行けます。しかし、それには破ってはいけないルールがあります。

 ① 過去に戻っても、この喫茶店を訪れたことのない者には会うことはできない
 ② 過去に戻ってどんな努力をしても、現実は変わらない
 ③ 過去に戻れる席には先客がいる。
   その席に座れるのは、その先客が席が立った時だけ

 先客とは、ワンピースの女性(幽霊)で、一日中座ってコーヒーを飲みながら本を読んでいます。彼女は、一日に一回だけトイレに行きます(幽霊なのに⁉)。その時を狙って席に座らなければなりません。強引に座ろうとすると、彼女に呪われ、ものすごい圧をかけられて、動けなくなってしまいます。

 ④ 過去に戻っても、席を立って移動することはできない
   誤って席を立ったりすると、強制的に現在に引き戻されてしまいます。ですか

  ら、過去に戻っても、喫茶店の外に出ることはおろか、席の移動もできません。

  (映画版では、このルールは無視。最初のエピソードで、時間移動後にいきなり

    席を立つシーンがあり、驚かされました。)


 ⑤ 過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが覚めてし

  まうまでの間だけ
   時間にすると10~15分程度です。

過去に戻っても、現実が変わらないということで、ほとんどの人は過去に戻ることをあきらめますが、それでも過去に戻ることを選んだ人たちの話です。

●第一話『恋人』結婚を考えていた彼氏と別れた女の話 あらすじ
 清川二美子(きよかわ・ふみこ:28歳)は、才色兼備で仕事もできるキャリア・ウーマン。2年前知り合った賀田多五郎(かただ・ごろう:三歳年下)と交際中。彼は医療系システム・エンジニアですが、本当の夢はアメリカにあるゲーム会社に入社し、ゲーム開発をすることです。

 ある日、二美子は五郎から「大事な話がある。」と、この喫茶店「フニクリフニクラ」に連れてこられます。「結婚の申し込み?」と期待する二美子ですが、五郎に「アメリカの会社を受けるため、渡米したい。」と告げられます。期待が大きかっただけに失望も強く、二人はケンカ別れ。五郎はアメリカに行ってしまい、二美子は後悔し、この喫茶店のうわさを聞きつけ、過去に戻ろうとします。
  「過去が変わらない」ということは、どう頑張っても五郎の渡米は止められないということです。過去に戻ってもしょうがないと思う二美子ですが、五郎との出会い、過ごした日々を思い出し、過去に戻ることを決意します。
 そこで、二美子は五郎の真意を知ることになるのでした。

●第二話『夫婦』記憶が消えていく男と看護師の話 あらすじ
 房木(ふさぎ:49歳)は、二年前から若年性アルツハイマー型認知症を発症しています。妻の高竹(こうたけ:房木と結婚する前の旧姓:47歳)は、近所の総合病院で看護師をしています。房木は「フニクリフニクラ」が気に入っているらしく、時々訪れます。房木は、自分に妻がいることも忘れてしまっているため、高竹は房木を混乱させまいと、房木には旧姓を使っています。
 ある日高竹は、「フニクリフニクラ」の店員から、房木が妻(である高竹)に手紙を渡したがっていることを知らされます。そのため高竹は、まだ房木が病気を患っていない過去に戻って、房木から手紙を受け取ってくることを決意します。
 果たして、房木の手紙には…。

●第三話『姉妹』」家出した姉とよく食べる妹の話 あらすじ
 平井八絵子(ひらい・やえこ:31歳)は、「フニクリフニクラ」の近所でスナックを経営しています。彼女の実家は宮城県仙台市の老舗旅館ですが、彼女は18歳で家出。そのため、6歳下の妹、久美(くみ)が旅館を継いでいます。実家に勘当された八絵子でしたが、久美は時々八絵子に会いに来ていました。

 久美が旅館の若女将として働くようになってから、久美は八絵子に、「実家に戻ってきて欲しい。」と言うようになったのです。
 久美のしつこい要請に辟易していた八絵子は、久美を避けるようになっていました。ところが、いつものように、八絵子に会いに来た久美は、その帰りに事故に遭い、亡くなってしまいます。
 自分が妹に居留守を使ったばっかりに死なせてしまった、と後悔する八絵子は、妹が最後に自分の元を訪れた日に戻ることを決意します。また、八絵子は、妹は旅館の運営を押し付けられ、ずっと自分のことを恨んでいると思っていました。

 しかし、久美の本音は…。

●第四話『親子』この喫茶店で働く妊婦の話 あらすじ
 喫茶店「フニクリフニクラ」のオーナー、時田流(ときた・ながれ)は2mの高身長で朴訥な男。妻の計(けい:3歳下)は、現在妊娠中。しかし、計は生まれつき心臓が弱く、医者から「出産には耐えられないでしょう。」と言われています。しかし、計は出産の道を選びます。そして、日々体調が不安定になる中、一目成長したわが子に会いたいと願います。
 実は、喫茶店「フニクリフニクラ」は、過去だけでなく未来にも行けるのです。
 計は、成長した娘に会うため、未来に向かうことを決意します。

●感想
 繰り返しますが、
川口さんの小説はこのシリーズの6作だけ」!(本業は脚本家なので)。ですが、すごく純度が高く、面白いです。

本シリーズは、以下の6作です(2026年7月現在)。
『コーヒーが冷めないうちに』(2015年)
『この嘘がばれないうちに』(2017年)
『思い出が消えないうちに』(2018年)
『さよならも言えないうちに』(2021年)
『やさしさを忘れぬうちに』(2023年)
『愛しさに気づかぬうちに』(2024年)

 それぞれ、4つのエピソードが書かれています。

 小説の舞台は、東京の喫茶店「フニクリフニクラ」である場合と、北海道の喫茶店「喫茶ドナドナ」の場合があります。

 「喫茶ドナドナ」の経営者は、時田流の母親(時田ユカリ)で、流が店を手伝うこともあります。また、時間移動のルールも同じです。

 各エピソードには、主要登場人物だけではなく、他の章の登場人物たちもちょこちょこ顔を出します。それは、他の巻でも同じく、例えば、第3作目『思い出が消えないうちに』の冒頭シーンには、第1作の第四話で、計が未来に行くエピソードの一部が登場します。


 そもそも、過去に行って何をしようと未来は変わらないのならば、過去に行く意味はないんじゃないか?と思いますよね。だけど、彼らは確実に自分の感じ方が変わっていることに気づきます。

 苦言を述べるならば、時間移動ができる椅子に一日中座っている幽霊の女性が、なぜ幽霊になったのかが若干曖昧なのです。誰なのかやざっくりした理由第は、『この嘘がばれないうちに』で、明らかになります。作中では、「亡くなった夫に会いに行き、コーヒーを飲み干すのを忘れた」とありますが、なんとなく「それだけ?」と思ってしまいます。(2015年の映画では具体的に描かれていましたが、いろいろとつじつまが合っていないような気もします。)


 もうひとつは、北海道の喫茶店「喫茶ドナドナ」の時間移動の席にいる、「燕尾服の老紳士」。この人の正体については、全く言及されていません。

 川口先生!ぜひ続編を!!(大事なことなので、二回言いました。)

 2024年に、おしくも68歳で亡くなった山本弘さんの作品です。

 山本さんは全部面白いですが、特に『BISビブリオバトル部シリーズ』は別格で、続刊を楽しみにしていました。山本氏は、「と学会(とんでも学説の会)」の会長でもあり、博覧強記で、読書量も半端じゃない。いわば、一人で(しかもシリーズで)ビブリオ・バトルができるくらい、本を読んでいるわけです。

 続編が読めなくなってしまい、残念です。

 そんな著者の「怪獣シリーズ」。実はちょっと敬遠してました。現代社会に、突如怪獣が出現するなんて、特撮好きでオタク趣味全開の趣味本と思ってましたし、科学的考証なんか期待できないと思ってました。実際、柳田理科雄の『空想科学読本』シリーズでは、ウルトラマンなんかの怪獣が出てくるシリーズが、現実の物理法則に従うと、明らかにおかしいと説明されています。あの体格で攻撃しあったら、衝撃波で周囲はメチャクチャとか…。そもそも、怪獣は自重で潰れてしまうのだとか。

 
ところが、本書を読んでみて反省。やっぱり山本さんは凄かった。


 怪獣に関する物理法則だけでなく、出現する根拠についても、キチンとした説明が用意されていました。

●前提
 世界中で、「怪獣」と呼ばれる特殊生物が突然発生し、人間を攻撃するようになっっています。「怪獣」は、台風や地震、噴火などの自然災害と同じように考えられているため、発生した場合は、気象庁の下部組織である「気象庁特異生物対策部」(略して「気特対(きとくたい)」)が担当します。気特対は自衛隊と連携し、攻撃計画や避難指示などを立案します。また、怪獣の大きさに応じて「MM(モンスター・マグニチュード)」(怪獣の規模)を決定します。

●あらすじ
〇「第一話 緊急!怪獣警報発令」
 小笠原海域で、海上自衛隊の潜水艦と怪獣が接触したとの情報が入ります。怪獣は、全長80~100メートルで、MM8相当。もしくはMM9クラスとも考えられます。上陸すれば被害は甚大です。しかし、「避難指示」を出せば経済活動への影響も大きいため、迂闊に決断することもできません。さらに、マスコミからは「怪獣の固有名」の問い合わせが殺到します。固有名をつけるためには、怪獣の正体がわからないといけません。正体がわからないうちは、その年の何番目に発生した怪獣なのかによって、附番が借り付けされます。その怪獣は、今のところ「怪獣3号」と名付けられました。

 気特対の面々の調査・分析により、怪獣への対策が決定し、自衛隊と連携した作戦が実行されます。

〇「第二話 危険!少女逃亡中」
 岐阜市に、長い髪の少女が出現します。彼女は10歳くらいで全裸。道端に停めてある自動車を持ち上げて遊んだりしていますが、人間に危害を加えるようすはありません。しかし、身長は20メートル前後であり、これはMM5に相当しそうです。しかし、MM5では攻撃的でなくとも、人間にとって危険であるということで攻撃対象になってしまいます。気特対の藤澤さくら(ふじさわ・さくら:19歳)は、若いながらも抜群のドライビング・テクニックで少女に接近し、調査します。

 少女の動きや行動を観察し「多重人間原理」という考えが示されます。

 これは、怪獣が自重で潰れてしまわないのは何故なのかを説明するものです。体の大きさが2倍になれば、怪獣自身が感じるタイムスケールは1/2となるという理論です。また、それに合わせて、重力や光の感じ方も変化しているため、体を維持できるというものです。

 少女は、「ヒメ」と命名されますが、藤澤さくらは彼女が危険とは思えません。ヒメが感じているタイムスケールが、自分たちより遅いのであれば、「ゆっくり会話すれば、意思疎通ができるのではないか」と考え、彼女に単独で接触します。

 さくらとヒメが心を通わせているとき、彼女に近づいた民間人を守るため、自衛隊が彼女に発砲してしまいます。絶望するさくら。ところが、「ヒメ」の倒れたところには、巨大なクレーターがあり、中心には、普通サイズの少女が横たわっていました。

 無害と認定された「ヒメ」は、気特対の研究施設で保護観察されることとなるのですが、「ヒメ」の存在を見つめる不気味な存在があるのでした。(←ここが、第五話への伏線です。)

〇「第三話 脅威!非公開中襲来」
 翼竜型怪獣(MM1~2相当)が、新潟県の上空で目撃されます。

 気特対の灰田涼(はいだ・りょう)は、非番でデート中にニュースでそのことを知ります。相手は映子という、かなりの美人ですが、国立科学博物館の研究員で、妖怪好きという変わり者。

 灰田は、事件は勤務中の他の職員に一任しようと思いますが、続報が入るにつれ青ざめます。怪獣は小型ではあるものの、どうやら放射能を帯びているようです。また怪獣は、デート中の映子が勤務している国立科学博物館を目指して飛行しているようなのです。
 灰田は映子に事情を話し、共に博物館に向かうのでした。

〇「第四話 密着!気特対24時」
 とかく世間の評判が芳しくない気特対ですが、世間の評判を払拭し、怪獣対策への理解を深めるため、TVの特別番組の制作に協力します。気特対の活躍を紹介するとともに、怪獣がなぜ出現するのかといったことについても説明されます。

 宇宙や物理法則がなぜこうなのかというのは、人間の自意識が発生し、宇宙に影響を与えたから、ということです。人間が存在し、意識を持ったことによって、過去の地球や物理法則が、「人間中心」にできあがっていったのです。

 一方で、過去に存在していた神話宇宙に生きていた巨人や神々、怪獣などは、「神話」としてフィクション化され、「実際には存在しないこと」になり、妖精や魔法、妖怪などは存在できなくなり、いなくなってしまったのです。

 しかし、異なる物理法則に則った存在である「怪獣」の出現を、人類が再び「認識」することで、存在が可能になったのです。

 怪獣が出現する状況というのは、異なる物理法則が併存している状態なわけです。

〇「第五部 出現!黙示録大怪獣」
 これまで「怪獣」の出現理由や、ユニークな怪獣シリーズなどが語られてきましたが、それだけで延々話が続くのだとしたら、往年の特撮ドラマ「ウルトラQ」と変わらないです。まさにそう思っていたところにこの展開。
 「怪獣」を蘇らせていたものの正体が明らかになります。「巨大怪獣」の出現に対し気特対の総力戦が始まります。そこに、第二話に登場した「ヒメ」が、実は古代の日本神話に関係した存在であることが明らかになります。

 

 本作は、ちゃんとSFしている作品で安心しました。

 続編の『MM9―invasion―』では、ヒメのさらなる活躍が描かれています。

 

 山本先生のご冥福をお祈りいたします。