アンソロジーは苦手なのですが、これは別格!

 「人工知能学会」なんて、最近できた組織なのかと思いきや、1986年設立だそうで、歴史ある機関なのですね。

 2012年から機関誌に、AIに関するショートショートを、プロの作家に依頼していたそうです。基本的にSFなので、そうそうたる方々が執筆しています。

 新井素子、林譲治、森岡浩之、三島浩司、etc.…。矢崎存美(やざき ありみ:児童書「はれ・ときどきぶた」のシリーズで有名)については、「なんで!?」っていう感じですが、300p余りの中に、27編の作品があって、お得です。

 人工知能と言っても、ChatGPTみたいな、対話型人工知能ばかりじゃなく、「ゲーム」とか、「自動運転」とか、分野ごとに3~4の作品に分けられているので、同じテーマでも違うテイストで楽しめました。

 いくつか、あらすじを紹介すると

●林譲治「愛の生活」
 順調に太った結果、身長165センチながら体重105キロとなり、彼女に振られた主人公は、同棲していたアパートを追い出されます。そこで、なるべく安い家賃のため、「事故物件」を探したところ、おあつらえ向きのアパートが見つかります。

 勇んで引っ越しますが、なぜか朝には6時半にカーテンが開き、夜11時半になると、電源が落ちてしまいます。おまけに、近所のファミレスで、「カツカレーにでもするか。」と呟くと、スマホに「だめ!」というショートメールが入りますし、コンビニで、ジャンク・フードを買おうとすると、お財布ケータイが反応しないなど、強制的に生活改善させられていきます。なぜか…?

●田中啓文「みんな俺であれ」
 ロボット工学専門の安孫子教授は、常に自分が正しいと信じており、「みんな俺であれ。」というのが根本的な考えでした。

 教授は、脳の一部に損傷を受けた患者に、代替機能として働く人口の脳「サブブレイン」を発明し、亡くなります。その後、彼の発明は、医療だけでなく「第二の脳」として活用が広がり、価格がどんどん安価になって行きます。

 やがて、産まれてきた子供にも「サブブレイン」が装着されるようになり、全人類に装着されたとき、人類がとった行動は…?

 こういう、オチが冴える話ばかりでなく、哲学的な話もあります。人工知能の進化の果てに、「感情」というものが削ぎ落されていく、「シンギュラリティ」(山口優)なんか、そんな感じ。

 途中で差し挟まれる、学会の小文も、人工知能の現状や可能性を記述していて興味深いです。(「人工知能の心」(橋元淳一郎)については、オチの意味が分からず、小文中のネタバレ解説を読んで、やっと分かりました。)

 

 『SFが読みたい 2018年版』では、残念ながらランク外。ですが、昨今のわかりにくいSFに比べて、読みやすくてオススメです。

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 SFなのに、第165回芥川賞を受賞しました。(偏見:『東京都同情塔』もSFですよね。)

●あらすじ
 一人の少女が、白いワンピース姿で南の島の砂浜に倒れていました。彼女が倒れていた場所には、一面に彼岸花が咲いています。見つけたのは、花を採りに来た少女、游娜(ゆな)です。游娜は彼女の服装が、島の管理者であるノロと同じように見え、ニライカナイ(沖縄や奄美地方に伝わる理想郷)から来たのかと聞くのですが、少女は游娜の言葉がよくわからないばかりか、自分に関する記憶を失っていました。
 
 途中、「うつくしい ひのもとことばを とりもどすための おきて」という章が挿入されます。かなと英語の混じった文章で、要は国が定めた「漢語は使用しないこととする言語方針」といったものです。
 
 少女は游娜の家で暮らすうち、体力を取り戻していきますが、彼女らの話す言葉が奇妙に感じます。少女の言葉は<ひのもとことば>ですが、游娜達の話す言葉は<ニホン語>だということでした。記憶を失った少女に、游娜は「宇実(ウミ)」と呼ぶことにします。
 游娜が島を案内していると、拓慈(タツ)という少年と出会います。彼は、宇実の言葉を<女語(じょご)>であると言い、自らもその言葉が話せました。どうやら島では、島の女性のみに<女語>を教えています。そして、<女語>を習得すれば、島の指導者である「ノロ」になることができ、島の歴史が教えられるということです。

 拓慈は、島の歴史を知りたいがため、ノロになるため、女友達からこっそり女語を教えてもらっていたようです。

 島の習慣も、宇実にとって不思議なものでした。游娜に家族や親のことを訪ねても、最初は要領を得ないものでした。島には、生みの親が育てるという観念がありませんでした。子供を産むかどうかは自由であり、産まれた子は島民の中で、育てると手を挙げたものに委ねられるということでした。

 宇実と游娜が、ノロになるための試験を受ける日がやってきます。二人は合格し、島の歴史を含む世界の歴史を教えられます。
 

 島の外には、かつて<ニホン>と呼ばれた大きな島国がありましたが、ある時発生した流行り病によって多くの人が亡くなりました。それが、外から持ち込まれたと分かった人々は、外国から来た人を追い出し、出ていかない人は皆殺しにしました。さらに、国民の血液を調べ、外人の因子が濃い人を排斥しました。島の人間は、こうして追い出された人々の末裔なのです。
 しかし、島に流れ着いた人々は、すぐ食糧不足に直面し、人減らしや妊婦を殺し始めます。多くの人が死に、我に返った人々(男たち)は、自分の愚かさに気づき、実権をすべて女性たちに渡したのです。女性たちは、周辺の島と交易し、移住民を受け入れるとともに、島に自生する彼岸花(他の島では採れない)から作られる麻薬を売って、島の経済を支えていきました。そして、過去の愚行を繰り返させないため、島の指導者を女性に限定し、過去の歴史を男性に知らせないように定めたのでした。

 島の言葉が奇妙なのは、他の島の文化を受け入れた結果でした。
 

 拓慈は、二人がノロの試験に受かったことを喜び、島の歴史を教えるよう迫ります。二人は、男性が引き起こした歴史の悲劇を想い出し、教えることをためらいます。その様子を拓慈は、「裏切られた」と思い、帰ってしまいます。

 游娜は、いつか拓慈にも島の歴史を話し、宇実と三人で仲良く暮らすことができると、宇実と語らうのでした。

 

●感想

 SFだとは思っていなかったので、収穫でした。游娜の使う言葉は、様々な言語が混じっていて、一見読みにくいようですが、

 

 萌えーー!!(失礼。)

 

例えば、

 ●「来(ライ)しろラー、リーのために取る(あなたのために、取ってあげる)。」  

 →二人で島を歩いているとき、宇実の服に草の実がたくさん付着するのを見て、笑 いながら言う場面。

 ●「ワァ、飯団(おにぎり)!ワーは餓(アー)したラー!(私、お腹すいたよ)。」

 →拓慈が持ってきたおにぎりに、目を輝かせる場面。

 

 他にもたくさん。全部、可愛いです。

 作者自身、台湾出身であり、自身の作品を中国語に翻訳するなど、語学に堪能です。本作の作成にあたり、単語帳を作成するなど、キチンとした裏付けもある作品です。

 ストーリーは、割とありがちなディストピアものですが、登場人物のキャラ付けや、使われている言語が面白いです。

 

 アニメを見るような面白さがありますよ。(芥川賞なのに…。)

 

 

 ネタバレてても、面白い!

●ネタバレあらすじ
 交通広告代理店の営業マン奥田浩介(25歳)は、クライアントであるメーカーとの打ち合わせの場で、中学時代の同級生、渡来真緒と再会します。
 プレゼンの最中、資料の矛盾が見つかり、浩介があわてていると、真緒が計算違いの部分を指摘。浩介は難を逃れると同時に、真緒の変貌ぶりに驚きます。
 というのも、中学1年生2学期に転校してきた真緒は、バカなうえに団体行動ができず、クラスでいじめにあう程でした。
 クラスでたった一人、真緒をかばった浩介はクラスでも浮いてしまいますが、真緒に勉強を教えるようになります。それから心が通じ合う二人でしたが、浩介は親の都合で引っ越しすることになります。もちろん、真緒は大泣きしでした。

 再開後の真緒は、美人で仕事もできるようになっていました。そして付き合うようになった二人。浩介の両親に真緒を紹介したところ、大歓迎でしたが、渡来家では反対されてしまいます。
 実は真緒は「全生活史健忘」であり、生まれてから12歳までの記憶をなくし、渡会家の養子になっていたのでした。渡会家では、他人に苦労を押し付けるようなことはしたくないと言い、結婚に反対します。浩介と真緒は、渡会家の両親は無視して入籍(駆け落ち)することにします。

 新居に移り、幸せな結婚生活を送る二人。しかし、徐々に真緒の体調が崩れ出し、無理に病院に行かせても原因がわかりません。
 そうこうしていたある日、真緒は朝食の用意をし、朝刊を取りに行くと外へ出ていったきり戻ってきませんでした。
 浩介は真緒を探します。近所の人たちや真緒の会社の人、真緒の両親に聞きますが、彼らは誰も真緒のことを覚えていませんでした

 ある日、浩介は真緒の両親に偶然出会い、猫を飼い始めたことを知ります。そして、帰りの電車でウトウトし、中学生時代に瀕死の猫を助けたことを夢に見ます。

 

 なんと真緒は昔、浩介に助けられた猫だったのです。

 

 ある日「猫は九生を持つ」ということわざから、ふと「真緒のは、いくつめ(の命)だったのかな?」と呟くと「二つ目だよ」と、背後から真緒の声がしました。振り返ると浩介の足元に一匹の仔猫がすり寄ってきました。その仔猫の首には浩介が真緒に贈った指輪が下げられていました。
 
 浩介は、真緒が言っていた言葉、<私は浩介が死ぬまでつきまとうつもりだよ。ほら、私って執念深いから>を思い出します。浩介が猫を抱き上げると、三つ目の命(3回目の再開は猫として、ということですね。)は「にい」と鳴くのでした。

●感想
 「女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1」との書店のパネルが話題をんだ通り、浩介と真緒のエピソードがほほえましいです。
 二人の急接近のきっかけとなったクラスメートのいじめが、十二年後にいじめていた女子(と子供)に再びやり返すくだりや、真緒が合コン荒らし(浩介以外には冷淡)だったこと。そして、真緒がインターネットを駆使して浩介を探していたこと、

 浩介からもらった指輪に感激し、いつまでも「ぐほほほほ。」という奇妙な笑い声をあげ、足をばたつかせているところなど、真緒の一途さが、切ないほどに可愛らしいです。

 本作は2013年、松本潤と上野樹里で映画化されました。二人とも、役にぴったりです。

 映画の方では、ラストが原作とは違い、消えた真緒が、実は昔関わった猫だと悟った浩介が真緒と再会し、ひと時を過ごした後、真緒に関する記憶をなくしてしまいます。

 浩介はある日、公園で寄ってくる猫の頭をなでていると、そこで人間の真緒と再会します。

 映画も良いですが、原作が特に良いです。ネタ知ってても、読むべき一冊!!