あ~、しょっぺぇ、しょっぺぇ!(読後、第一声)

 本作は、第168回直木三十五賞候補、第20回本屋大賞の第3位、第30回島清恋愛文学賞受賞と評価が高いのですが、この、あざといタイトル「直木賞にノミネートされた」ということから、読んでみようと思いました。

まずは、●あらすじ
 本書は、同じ年齢の女子、小瀧結珠(こたき・ゆず)と、校倉果遠(あぜくら・かのん)の二人を主人公にした、7歳のとき(第一章)、15歳のとき(第二章)、29歳のとき(第三章)のできごとを描いています。

 空白の時間は、時々回想するという形で書かれていますが、章が変わるたび、いきなり登場人物の年齢が飛ぶので、かなり違和感があります。「えっ?あの時のあの事件はどうなったの!?」という具合です。

 確かめたかったら、我慢して読むしかない…というかなり不親切な記述です。

〇第一章
 小瀧結珠(こたき・ゆず)は、医者の父と専業主婦の母、そして兄がいます。

 父は仕事にしか興味がなく、家庭には冷淡。母は、淡々と家事はこなしますが、まるでロボットのように愛情がありません。

 

 結珠が小学2年生のある水曜日、母親に連れられて古びた団地に連れていかれます。訪れた部屋には、酒の臭いをまき散らした下衆な感じの男がいます。母から、用事がすむまで、30分ほど1階で待っているように言いつけられます。所在無げな結珠が、ふと向かいの棟を見ると、手すりに乗り出そうとする校倉果遠(あぜくら・かのん)と目が合います。
 果遠は母と二人暮らし。美人の母親は偏屈で、果遠をまともに学校に通わせません。果遠は、自分は頭が悪く時計も読めないため、周囲の子からバカにされていると言います。結珠は果遠に時計の読み方を教え、二人は仲良くなり、毎週水曜日の出会いが楽しみになります。しかしある日、結珠の母親が団地を訪れなくなります。
 結珠が来ないことに業を煮やした果遠は、結珠の母親が通っていた部屋に、勇気を出して訪問しますが、そこでは口から泡を吹き、苦しむ男が…。

 ちなみに、このとき何があったのか不明です。結珠の母親が不倫の清算のため毒を盛った可能性もありますが、真相には最後まで語られません。(不親切。)

〇第二章
 いきなり8年後。

 名門女子校に通う高校生となった結珠は、学校で果遠と再会します。果遠は、結珠に「時計の読み方」を教えてもらったことをきっかけに、「自分もやればできるんだ。」という自信が生まれ、猛勉強して入学したと言います。さらに、母親の血なのか、周囲も一目置く美人になっていました。

 二人は、かつてのようにすぐ惹かれ合いますが、果遠の母親が、働いているスーパーの店長といざこざを起こし、果遠ともども夜逃げしてしまいます。

〇第三章
 さらに、いきなり14年経過(ハイハイ…)

 29歳になった結珠は、教師として赴任していた小学校で、学級運営がうまくいかず休職し、夫とともに和歌山県に転居します。引っ越しを世話してくれた人と、引っ越し祝いに連れていかれたスナックにいたのは、何と果遠!

 ご都合主義!と思いますが、彼女の夜逃げ先がそのスナックを経営していた祖母(母の母)のところだったのです。母は、スナックのお客と逃げ、祖母も亡くなったため、果遠が経営していたのでした。

 彼女は結婚しており、一児の母。娘はフリースクールに通っており、結珠は、教員経験者であることを見込まれ、フリースクールを手伝うことになります。
 

 中略…。

 

 何だかんだあって、果遠は夫と離婚。娘は夫が引き取ります。そのことを知った結珠が果遠の所に飛んできます。彼女が、何も言わず行ってしまうように思ったからです。果遠は笑って否定しますが、結珠に飲ませたココアに睡眠薬を仕込み、彼女が寝ているすきに出て行きます。途中で目覚め、駅に向かった結珠でしたが、果遠が乗った電車は、すんでのところでドアが閉まってしまいます。
 

 結珠が追ってきたことに驚いた果遠でしたが、電車が発車したことに安心していました。ふと、窓の外を見ると、電車に並走している車が(あぶねー!)。運転手を確認するまでもなく、結珠の車は、折からの日光を受け、輝いていました。(光のとこにイター!!!)

(終わり)

●感想
① 結珠の母親はサイコパス
  家事はするけど、結珠に対して愛情がなく冷淡な母親の理由について、作中では

 示され ません。しかも、結珠の後に生まれてきた弟に対しても、父親との子供で

 ないことを弟自身に伝えます。(誰の子かはわかりません。)

  最後まで、不気味な母親でした。
 

② 果遠、何で離婚されてしまうん?
  果遠の祖母は、誰の子供かわからない子供を産んだ果遠の母親を、憎らしく思っ

 ていましたが、果遠の母親が男とスナックを出て行ったあとは、果遠と自分の娘が

 混同され、店が終わってからは、認知症からくる「物盗られ妄想」で、毎日泥棒呼

 ばわりの悪口雑言三昧でした。
  ある日、いつもより激しい罵声の後、祖母は口から泡を吹いて卒倒してしまいま

 す。果遠は取り乱し、救急車ではなく、店によく来ていた水人(みなと:後で果遠

 と結婚)に電話します。

  消防士でもある水人は蘇生措置を施そうとしますが、日ごろから、祖母に虐待を

 受けてきた果遠は、それを阻止。祖母は亡くなりますが、水人は、消防士である自

 分が、人命を救えなかったことへの無力感から、不眠になってしまいます。
  その後、ある出来事から、「自分の人生をやり直したい」と思った水人は、果遠に

 離婚を切り出すのです。

 いや、何で?

  別に、祖母が死んだのは水人のせいじゃないし、果遠との間には子どももいる。 

 自分が子供を引き取るのも不明。その理由に、何となく「結珠」の存在を匂わせて

 いるけど、別に二人はそういう関係じゃありません。

  さらに、果遠が結珠に黙っていなくなろうとするのも、意味がわからない。「友人

 として、付き合っていけばいいんじゃね。」と思います。
③ 「光のとこにいてね」って言葉、サブイボ
  この言葉は、「まず、タイトルが思い浮かんだ。」と著者が言っているように、こ

 の言葉ありきの物語です。だったら、子どもを慈しむ母親のセリフか?とか思った

 わけですが、実際は、女性が同年齢の女性に向けた言葉でした。

  ですが、毎回使う程、気の利いた言葉とも思えません。作中で使われる意図も伝

 わってきません。「あなたは、光の差す場所を歩いてね。」という気持ちを込めてい

 るのか。だとしたら、果遠はどんだけ卑屈なの?

 後半に行くにつれ、どんどんありえない展開になってくるし、肝心の結珠の母親の思惑が、全くわからない。だけど、そんな頭のおかしい親に育てられたとしても、子供まで影響を受けるだろうか。旦那は何やってんだ。という小説でした。

 こんなのが「直木賞」とったら、賞の権威が失墜すると思いました。まぁ、一穂さんは『ツミデミック』で受賞したけど…。






 

 2019年にLINEノベルの総合ランキングで1位を獲得した作品です。
 タイトルからして、明らかにドラ〇エです。主人公は商人(トルネコ?)。

 主人公は「冒険の序盤は、初期装備からコツコツと…って、それおかしいじゃん!」と、突っ込んでいるのです。
 これは、最近はやりの「転生もの」ではありません。ということは、こうした世界システムに、世界内のある人間が気づいた、ということから始まる物語です。

●あらすじ
 主人公は、商人見習いの「マル」です。

 世界には魔王が存在し、魔族と人類は敵対しています。そのため、各国からは随時、「勇者」が選定され、パーティーを組んで魔王討伐に向かいます。過去200年以上の歴史の中で、魔王が討伐されたのは3度だけ。そして、勇者パーティーが無事生還することは、一度もありませんでした。
 「マル」は、パラグラという城下町の武器屋に勤めています。ここパラグラは、世界各地にある「出発の町」のひとつで、選定された勇者が、仲間を選び、武器や防具をそろえ、魔王討伐を始めるのです。
 しかし、マルは常々疑問を持っていました。「うちの武器屋では。なぜ銅の剣までしか売っていないのか?」

 より強い武器や防具があれば、序盤の冒険もずいぶん楽になる。お金の節約もできる。「バスタードブレード」や「ドラゴン殺し」といった武器があることは知っているので、武器屋として仕入れておけば、絶対需要はあると思っています。ですが、そのことを店主に訴えても、頑なに仕入れようとはしません。理由を問い正しても、「商人ギルド本部の方針」と言うだけです。その通達も、ギルドの支部を経由するので、本部の場所は明らかではないというのです。

 そうしたある日、マルのただ一人の身内で弟の「バツ」が、勇者に選定され、1週間後に、魔王討伐のため出発することが決まります。マルは、自らの疑問を本部にぶつけ、勇者(弟)の旅が有利になるよう、商人ギルドの支部を遡って、本部に向かうことを決意するのでした。
 

 行く先々で、バツは様々な商人に出会います。同時に、先物取引や麻薬販売、戦争をしかけようとする者や魔族を使った奴隷制度などに遭遇し、それらのいくつかを瓦解させる手伝いをしながら、商人ギルド本部を目指します。
 

 そして、ついにギルド本部にたどり着いたマルは、なぜ町によって武器販売が限定されているのかを知るとともに、世界の秘密を知ることになります。そして、マルはある決断をするのでした。

●感想

① 「ラノベ?」いやいや、経済の仕組みが学べます。

 ゲーム序盤の町では、初級の装備しか手に入らず、物語が進むにつれて、売られている装備も強くなっていきます。ゲームでは、当たり前の設定です。
 ゲームをやっているときは考えたこともありませんでしたが、これが世界の仕組みだとするならば、なぜそうなっているのか。その結果、どんなメリットがあるのか。そうしたシステムが必要な世界とは、どのような仕組みでそうなっているのか。中の人が疑問に思うと、どんあ行動するか…。

 

 販売場所や品物が、大きな組織によって指定されているのですから、ある意味、「閉じた経済」であり、「共産的社会」とも言えます。
 

 しかし、主人公の発想は「自由経済」。

 

 読者は、マルの考え方に賛成するのか反対するのか、はたまた両立できるのか。答えを示すというよりは、問題提示してくれる作品です。

② 失敗は自己責任か?

 商人のマルは、多くの損失を出して失敗し商人や、麻薬中毒になった者、貧富の差や奴隷制度など、社会の様々な矛盾に出会います。
 そうした矛盾や問題を解決するためには、逆にもっと大きな問題が生じかねない事態は数多くあります。だったら解決しない方が…?

 

 いや、マルだったら恐らく諦めないでしょう。

 どんな状況でも諦めず、疑問を止めず、改善策を考え続けることで、解決できる問題もあるのでは…、と思わせてくれる作品でした。

 第172回芥川賞受賞作です。

 久々に、「読書する楽しみ」を感じさせてくれました。

●あらすじ
 博把統一(ひろば・とういち)は、まもなく大学の定年を迎える教授。専門はドイツ文学。特にゲーテ。

 一応本作は、現在から6年前の、とある文学的騒動を、統一の娘、徳歌(のりか)の夫が統一から聞かされ、小説っぽく書き起こした体になってます(が、あんまり本編とは関係ないです)。

 統一と妻の義子(あきこ)は、娘の徳歌から、銀婚式(結婚25周年)のお祝いに、郊外のイタリア料理店に案内されます。
 料理を堪能した後、食後に出された紅茶のティー・バッグに、ふと目をやると、タグに格言が書いてあります。その中に、『Love does not confuse everything, but mixes』とあり、発言者を示す欄には「Goethe(ゲーテ)」と書かれていました。
 徳歌は「『愛はすべてを混乱させることなく、混ぜ合わせる』。そんな感じかしら?」と訳しますが、ゲーテ研究の専門家である統一には、出典が思い当たりません。

 物語は、統一がこの格言の出典を探求していきながら、娘の徳歌との知的対話や、学会のシンポジウムでの学生や他の教授との知的交流、友人の著作における盗作事件などが絡まっていき、最終的には、ドイツのフランクフルトの教会で、出典となるであろう資料にたどり着く物語です。

●感想

 ① 知識に向かう果てしなき探求心に脱帽
   各所に登場するゲーテについての知識はもちろん、プラトンの思想とゲーテの

  思想との関連や、ゲーテ以降の思想家たちへのつながりが、知的ロマンを感じさ

  せ、それらが現代の人々(統一や徳歌、その友人達)へと受け継がれ、発展して

  いくさまが心躍らせます。
  

 ② ちょっと読みづらいけど、そこが良い
   登場人物の名前からして読みづらい。主人公は統一(とういち)、その娘が徳歌

  (のりか)、妻が義子(あきこ)。周囲の人も、紙屋綴喜(かみや・つづき:統一の

  大学の学生)、然紀典(しかり・のりふみ:紙屋の担当教授で統一の学者仲間)、

  芸亭學(うんてい・まなぶ:統一の妻の父で、統一のかつての先生)。

   文章も、どことなく固い感じがしますが、恐らく作者の尊敬する丸谷才一(本

  文中にも引用されています)の影響じゃないかと思います。その、なんとなくの

  読みにくさが、読んでいるうちに、だんだん癖になってきます。
   ところどころ見つかる当て字も面白いです。「済補=スマホ」とか「文字文字=

  もじもじ」なんか。

   『ファウスト』読んでみよっかな。