四本の短編集です。

 どれも切ない!

 『SFが読みたい 2024年版』国内編 第2位

●「わたしたちの怪獣」
 女子高校生のつかさが家に帰ると、小学六年生の妹あゆむが、父を殺していました。あゆむは父から、日常的に暴力を受けていたのです。

 折しもTVニュースでは、東京湾に怪獣が出現したと報じています。つかさは、怪獣に殺された人々に父の死体を紛れ込ませ、殺人を隠ぺいしてしまおうと、車のトランクに父の死体を詰め、怪獣の元に向かいます。

●「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」
 過去へのタイム・トラベルが可能になった世界。政府は<声かけ>と呼ばれる人間を派遣し、過去の死亡事故や事件を未然に防ぐ「改変法」を制定します。

 一方、死亡事故がなくなった世界では、ネット上に、謎のアカウントによるリアルな死亡事故や事件の動画がアップされます。<声かけ>の仕事(住み込みの非正規)に従事する主人公は、その動画に固執するようになります。そんな彼と一緒に働いている、(笑い声が「ぴぴぴ」と聞こえる)小栗という男が近づいてきます。小栗は彼に、「動画投稿者は自分だ。」と告げます。

●「夜の安らぎ」
 高校二年の楓は、両親が亡くなった後、叔父夫婦と暮らしていました。彼女は病弱で陰気なため、クラスではいじめに遭い、バイト先では店長から叱責を受ける毎日でした。

 そんな彼女は、中学二年の時の集団検診の最中、偶然手に入れた従妹の血液に魅せられて以来、血液に異常な関心を抱いています。

 病院に行った折、血液が保管されているであろう地下に忍び込んだところ、そこに美形の青年がいました。彼を吸血鬼と確信した楓は、自分を吸血鬼にして欲しいと頼みます。

●「『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』を観ながら」
 B級どころかZ級映画と評されている映画、『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』が上映されているミニ・シアター<シネマ一文(いちもん)>に、偶然入った犬居。

 観客は、異様な盛り上がり。どうやら、この映画館の最終上映のようでした。

 映画が開始から30分ほど経過した頃、映画館を揺るがす大震動!どうやら、街にゾンビがあふれ、軍が出動したようでした。八十人ほどいた客たちとともに、犬居は会場から脱出しようとします。

 どの作品も、虐げられ阻害された人々が主人公であり、彼らがすがる細い糸も、「果たして、本当に救いなのか?」と感じながらも、思わずエールを送りたくなる作品です。

 

 久永さんは、単行本2冊目。今後が楽しみですね。