日本推理作家協会賞受賞。
小川さんは過去作も、すごいです。
デビュー作は、『ユートロニカのこちら側』(第3回ハヤカワSFコンテストの大賞受賞)
第2作目、『ゲームの王国』で第38回日本SF大賞受賞、第31回山本周五郎賞受賞
『地図と拳』で、第13回山田風太郎賞、第168回直木賞受賞
●あらすじ
クイズ番組の常連者、三島玲央(みしま・れお)は、クイズ王を決定するTV番組『Q-1グランプリ』の最終決戦で、同じく、クイズ番組で活躍する本庄絆(ほんじょう・きずな)と最終ステージに入っています。
緊迫した状況の中、お互いにじりじりと正解・不正解を繰りかえしています。
そして、16問目の出題時に、それが起きます。クイズの読み手が息を吸い込み、まさに出題文を読み上げようとした時、「パァン!」と本庄絆の早押しボタンのランプが灯ります。誰もが彼の押し間違いと感じた瞬間、彼は
「ママ、クリーニング小野寺よ。」
と口にします。ざわつく会場。動揺する番組スタッフたち。さらに、同じ回答を繰り返す本庄絆。そして、10秒ほどの間があり、正解音の「ピンポン!」という音とともに、紙吹雪が舞い、本庄絆が『Q-1グランプリ』の第一回チャンピオンに決定します。
しかし、問題文が一語も読まれない中での正解に、決勝までの他の出演者はもちろん、世間も「ヤラセ」を疑います。しかし一方で、本庄絆の神業的な力量を信じる人たちも多く存在しています。そんな中、番組が公式コメントを発表します。そこには、「演出面での不適切な面はあったが、それは不正を認めることではない。」ということと、本庄絆の「優勝者の辞退」でした。
決勝で争った三島は、この発表に納得せず、過去の本庄絆の映像や彼の経歴を調べ、独自に「ゼロ文字回答」の謎を探っていきます。
本庄絆の経歴が明らかになるとともに、自身のクイズ歴を回想するうちに、三島なりの答えにたどり着きます。
しかし、真相は本庄自身に問う必要があるため、三島は本庄にメールを出します。そして、本庄から「直接お話ししたい」という返事が届きます。
●感想
「面白い!!」の一言です。
「0文字回答の謎」⇒「トリックが明らかになる」なんて、単純な構造ではありません。
しかも、全編200ページに満たないページ数で、この内容!
クイズ回答者は、ただ膨大な知識を積み上げれば良いというものではありません。
例えば「Q.『今週気づいたこと』というフリートークで始まるのがお決まりになっている、『ラジオの帝王』こと伊集院光の冠番組は何でしょう? A.『深夜の馬鹿力』」というクイズがあります。
三島が、司会者が『今週気づいたこと-』まで読み上げた段階で、『深夜の馬鹿力』と回答できましたが、その背景には、八歳上の兄が深夜に聞いていたラジオの思い出があります。
また、「『幸福な家庭は全て互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである』という書き出しの一説も有名な、ロシア人作家トルストイの小説は何でしょう? A.『アンナ・カレーニナ』」というクイズについても、三島は、「幸福なか-」と読み上げられた瞬間に答えが浮かんでいます。
そこには、三島が子供の頃、父の蔵書である『アンナ・カレーニナ』の題名から、様々な物語を想像していたことや、些細なきっかけで読むこととなった中学時代の記憶とつながってます。
そして、クイズ番組を制作する側にも、番組を盛り上げなければならないという事情があり、それらを読み切った結果、奇跡の「0文字回答」が起きたのです。
クイズ番組を観る目が変わりますよ。