そうこうしてるうちに黒服が呼びに来た。

指名が入ったようだ。

そういえば俺も指名しようとしたら、彼女の方から

「すぐに戻って来るし!待っててなぁ」

と言い残して、行ってしまった。


ヘルプの娘と当たり障りない話をしていたら、再び黒服がやって来て

「先ほどの姫華さんがお客様から指名を頂いたと言い張ってるのですが、よろしいでしょうか?」

「え?そうなんですか
いいですよ」

一応とぼけたふりをしておいた(笑)


「ごめんなぁ~
私、なんか勘違いして指名もらったと思い込んでてん〓」

「いいよ
どうせ指名しようと思ってたし…
そやけど俺みたいなオヤジが君みたいな若くて可愛い娘に逆指名受けるなんて、思いもよらんかったワ(笑)ホンマオモロイ娘やなあ」
「私、若いお客さん嫌いやねん(笑)
私を潰そうとしてくるねんけど、大体返り討ちにしてやるけどね~」


それが姫華との出会いであった。
逆指名する嬢も盗み酒する嬢も、後にも先にも彼女しかいなかった…


そしてあれから4年、当時の嬢で店が変わっても、いまだに続いてるのも彼女だけだった。
その頃、たまたま行ったK町のキャバクラRで姫と出会った。

おそがけでフリーで入店したのが最初だった。

その日は由佳の店をワンセットで出て、何気にかつてテリトリーとしていたK町の方にブラブラたどり着いた。
Rの前に来た時、最近評判がいいと誰かに聞いたのを思い出して、ちょっと覗いて見る事にしたのだ。

真っ白の内装で、客層も若く、キャストも平均二十歳ぐらいで…

ちょっと俺にはツラいかなぁ…と思っていた時、3人目にきたのが姫華だった。
「はじめまして姫華で~す」

「ここ、はじめてですかぁ?ちょっと酔っててごめんなさい(笑)」

ちょっとどころか、かなりハイテンションで登場した彼女は笑った顔がめちゃめちゃ可愛いかった。

一目で気に入った俺は、酒が回ってきたのも手伝ってオヤジギャグ満開でよくしゃべり出した。
まぁこういうのがK町のノリというやつだが…

姫華にドリンクをすすめようとした時だった…

黒服があっち向いた瞬間、あろうことか!この娘、



俺のバーボンのロックをさっと取って飲み干した!!

盗み酒!(笑)


さっきのテーブルでは客のお兄ちゃんにシャンパンおろさせて、ほとんど自分が飲んで来た(笑)と言っていた姫華…


ホンマに酒呑みやコイツ…

「見つかったら怒られるけどね(笑)
でもレディースドリンクにはバーボンないもん
キャはは」


どんだけ呑みたいねん!
アフターで行ったバーはどれも気に入ったみたいで、由佳は仕事中と変わらぬ笑顔でよくしゃべり、よく笑った…

ドレスから私服に着替えた彼女もまた綺麗だった。

このまま仲良くなれば、もしかするともしかするぞ…
なんて事、下心満開で考えていると決まって3時に帰ると言い出す…

最初は素直に帰していたが、盛り上がっている時でも3時になると帰ると言う…
「もう少しいいやん?」

「うちの店、送りで帰えらんと、いろいろうるさいんですよ。こんなご時世やから、何があるかわからないし…」

「タクシーで送ってあげるやん?
5時まで飲んで電車で帰ってもいいし…」

「ごめんね、けどきまりやから…」





ありえへん!






ホンマか?
これで彼女の俺に対するスタンスがよくわかった(笑)


単なるカモネギやん!?
チョロいもんやね…
それから俺は週一ぐらいの割合で由佳の居る店に通い始めた。

彼女は週末になると分かりやすい営業メールを送ってきた。(この頃から、自分もメールに絵文字を入れるようになったと思う)(笑)

自分を受け入れてくれる、居場所が欲しかったのかも知れない…


結局、由佳の店を出てもすぐ家に帰る気になれず、新たに二軒ほど新規開拓してしまう俺でした…


一つは近くにある少し小さめな箱のラウンジB、もう1つは川向こうの若者の街K町にあるキャバクラR…その他にも酔うと、客引きの黒服に言われるがまま、吸い込まれるようにはしごしてしまう俺なのでした…(泣)


それが…





放浪、漂流の始まりだった…



はじめはあまり呼ばれる事もなかった由佳だが、段々と売れっ子になってきて、ワンセットで何回も席を外すようになった。


さすがに悪いと思ったのか、由佳の方からアフターに誘う事もしばしばあり、もともと得意分野であるショットバーに何回か出かけた。


その店ではお互いのプライベートな話等、かなり詳しく話し合った。彼女の本名や昼間の仕事の事、家族の話、そしてはじめから期間限定でこの仕事をはじめた事等について…

由佳はあと半年で普通のOLに戻るのだ。

ある目的があり、その為の金がたまれば水商売から手を引くという…

その時は詳しくは教えてもらえなかったが、まさかそんな事の為にキャバクラのキャストを始めたとは…その時点の俺には知るよしもなかった。


かなりいい感じで、アッという間に数時間が過ぎ、あわよくばの展開に持って行く事はできなかったが、俺にとって久しぶりに楽しいひとときを過ごした。

その日は近くにある実家の方に帰るということで、待ち合わせした駅で別れた。
思えば、俺はすでに由佳の事を信用しはじめていたのかも知れない…

(なんか思ったよりいい娘やん?)


出会ってまだ三回しか会ったことない女を、人として信用しはじめたのだ。