日本の金利引き上げの時期と影響

日本の状況を考慮すると、7月の金利引き上げは時期尚早と見られていました。6月に国債購入縮小のシグナルを発し、7月に国債購入を縮小し、9月以降に金利を引き上げるのが合理的な予測でした。しかし、経済と政治を総合的に考慮すると、7月の金利引き上げの可能性も排除できず、実際に7月31日の日本銀行政策会議で基準金利が0.1%から0.25%へ15bp(1bp = 0.01%)引き上げられました。

 

円安の肯定的効果と内閣支持率の低下

円安が進行する中で、輸出企業が活気づき、経済が急速に成長するなどの肯定的な効果が見られます。しかし、岸田内閣の支持率は最近10年で最悪の21%に落ち込んでいます。円安の影響で輸入物価が上昇し、国民の生活費が増大していることが内閣支持率の低下に大きく影響しています。また、円安により外国人観光客が増え、日本人の日常生活が妨げられているという不満も高まっています。

 

2024年問題と物流費の上昇

さらに「2024年問題」により物流費も急速に上昇しています。「2024年問題」は2024年4月1日から始まる物流問題を指し、この日から日本でも過労時間の上限(年間960時間)がすべての業種に適用されることになります。例えば、トラック運転手は週44時間以内の運転が求められ、4時間以上運転すると30分の休憩が必要です。これにより労働環境は改善されるものの、運転時間の減少に伴い収入が減るため、多くの運転手が他の業種に転職することが予想され、離職を防ぐための賃金引き上げが避けられない状況です。

 

現在でもトラック運転手の半数以上が50代以上であり、若年層の運転手が少なく供給が不足している状況です。これにより運転手が希少化し、賃金が上昇します。全体的な労働時間の減少に伴い、人件費が上昇し、物流関連の価格も上昇しています。代表的な例として、宅配業界第2位の佐川急便は2024年4月から基本料金を7%追加引き上げると発表しました。車両輸送部門で日本最大手のゼロは2024年1月1日から運賃を平均20%引き上げました。冷凍食品メーカーも16%まで価格を引き上げるなど、物流費の上昇が商品価格に転嫁され始めています。これによりインフレーションが徐々に刺激されている状況です。したがって、物価を安定させるための穏やかな為替調整が必要であるという意見が自民党内でも増えています。

 

岸田内閣の再選戦略と金利引き上げ

今年9月に自民党の総裁選挙があります。現在の支持率が低い岸田首相にとって再選は容易ではありません。岸田内閣は6月1日に日本国民の所得税と住民税を1人当たり4万円減税しました。世帯単位ではなく1人当たりの減税であるため、家族が多い人はかなりの減税効果を受けます。岸田内閣は支持率向上のために、大小を問わず可能な限りの手段を試みています。

 

金利引き上げが岸田首相の再選に役立つかどうかは疑問ですが、物価がすぐに落ち着くとの主張ができるようになります。また、8月には日本銀行の政策会議が開催されないため、岸田首相が任命した日本銀行総裁の立場からすると、選挙前に円安を緩和するための金利引き上げを行うならば、7月しかタイミングがなかったのです。

 

日本銀行の金利引き上げと円の反応

 

日本銀行は基準金利を25bpではなく15bp引き上げました。日本銀行が金利を引き上げても慎重に行うという見方は合理的でした。日本銀行が基準金利を引き上げると円が上昇し始めました。しかし、円が本格的に上昇し始めたのは、日本銀行が基準金利引き上げを発表した1時ではなく、植田総裁が記者会見を始めた3時半からでした。

 

植田総裁の記者会見と円高

日本銀行の植田和男総裁は記者会見で二つの点を述べました。

 

第一に、現在毎月6兆円規模の国債購入を2026年第一四半期まで段階的に減少させ、毎月3兆円まで減らすと述べました。国債購入規模をこれほどまでに減らすと、日本銀行が保有する日本国債は現在の600兆円から2026年には580兆円に減少します。国債購入規模を毎月3兆円まで減らすという発言は、国債保有をこれ以上増やさず、減少させるという強いメッセージです。これは、ブレーキを踏んでいた足を徐々に離すという意味です。

 

第二に、植田総裁は「政策金利(基準金利)を引き上げ続けて金融緩和の程度を調整する」とも述べました。これは、今回の金利引き上げで終わらず、引き続き金利引き上げを行うという意味です。記者会見で植田総裁がこの発言をした瞬間、円が本格的に上昇し始めました。しかし、グラフを詳しく見ると、日本銀行政策会議の前日にも上昇が見られたことがわかります。

 

日本の財務官交代と円政策の変化

 

日本政府は通貨政策を総括する財務官を交代しました。2022年9~10月および今年4~5月に為替市場介入を主導した神田 真人財務官を解任したのです。神田真人財務官は弱腰との評価を受けていました。神田真人財務官の後任には三村 淳氏が7月末に就任しました。

三村氏は東京大学法学部を卒業し、大蔵省で公務員生活を始めた伝統的な財務官僚であり、強硬派として知られています。日本政府は神田真人財務官が主導した三度の為替市場介入が市場に与える影響が少なかったと判断したようです。日本政府は新たに就任した三村氏に「円の会」事件を主導した溝口財務官の再来を期待しているようです。

 

7月31日に神田真人財務官が退任し、後任に三村氏が就任しました。三村氏は就任当日にブルームバーグとのインタビューに応じました。彼はインタビューで「最近の円安はデメリットが目立つ。円安が日本経済にとって有益というよりもむしろ害をもたらしている」と述べました。

 

三村財務官は円安のデメリットとして「エネルギーと食品価格の上昇が消費者と輸入業者に影響を与える」と指摘しました。日本銀行政策会議の前日に三村氏が円高の兆しを開いたのです。

海辺に行くと砂遊びをします。砂の城を作り、その中央に旗を立てます。交互に砂の城を少しずつ手で掘り崩し、中央の旗を倒した人が負けるゲームです。このゲームでは、進むにつれて慎重に掘り進めますが、最終的に砂の城に立てた旗は倒れます。ゲームでは、最後に旗を倒した人が敗者になりますが、それ以前にも旗は簡単に倒れるほど弱くなっているのです。旗が立っている砂の城がかなり弱くなった状況では、風が強く吹くだけでも倒れる可能性があります。

 

日本の金利引き上げによって円が強くなる中で、アメリカの失業率が景気後退の可能性を示唆すると投資心理が冷え込み、円キャリー取引の解消が進む可能性があります。大規模な円キャリーの解消までは至っていないようですが、円を借りて投資した資金、特にプログラム取引の資金が動いたようです。

 

円キャリー取引と中国経済

中国の状況を見ると、円キャリーは日本円で借りて海外に投資した資金が回収されることを意味します。中国はアメリカが金利を引き上げている間も金利を引き下げていました。アメリカが金利を引き上げていた2021年11月に3.85%だった基準金利を3.35%まで引き下げました。

低金利で借りて高金利に移動する円キャリー資金の観点から、金利を引き下げている中国は魅力的な市場ではありません。中国は金融市場の開放が遅れているため、資金が簡単に出入りできない場所です。したがって、円キャリー資金の移動がない場所が中国ということになります。中国株式市場が今回の世界株式市場の下落に影響を受けていない場合、この主張が正しい確率が高くなります。

 

8月5日に日本の株価指数(日経)が12.4%、韓国のKOSPIが8.77%、KOSDAQが11.30%下落する中で、上海総合指数は1.54%、香港ハンセン指数は1.46%の下落にとどまりました。中国株式市場には影響がなかったと見ることができます。

 

ただし、円を使って海外、特にアジアに投資された資金が主に動いたようですが、大規模な円キャリーの解消とは言えない段階です。プログラム取引ファンドが自動的に売りを出したことが影響したと見られます。金融市場が開放されている韓国、日本、台湾などに影響が集中したのを見るとそれが分かります。アメリカの失業率が4.3%に達し、サインとして機能したことでこれが増幅されたようです。

 

アメリカ市場の反応と安全資産への移動

 

次にアメリカ市場です。アジア市場が大幅下落したため、これを受けて開くアメリカ市場の始まりは弱いでしょう。しかし、取引終了時には違うかもしれません。取引開始よりも終了時の方が重要な日です。その資金は株式市場に流入することはありません。安全資産に移動する傾向があります。したがって、円高とドルスマイルが同時に生じる可能性があります。