UFCパリ大会感想と、 UFC日本進出がなぜ失敗したかを検証する。 | 銀玉戦士のアトリエ

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9月3日に行われましたUFCパリ大会の感想です。

コロナ禍後としては今年のUFCは久々にアブダビ以外での国際大会を復活させましたが、ロンドン大会、シンガポール大会といずれも大入り満員の大盛況に終わり、今回のパリ大会も地元フランスの選手が5人出場して5戦全勝するなど、スィングした試合も多く神興行となってパリの観客を熱狂の渦に包み込みました。

 

 

🏟 UFCヘビー級ワンマッチ🏟

⚪️🇫🇷シリル・ガーヌVSタイ・ツイバサ🇦🇺⚫️(3RKO勝利)

 

 

立ち技・ムエタイからMMAに転向し10勝1敗の戦績、昨年8月にUFCヘビー級暫定王者となり、今年1月には現王者フランシス・ガヌーとの王座統一戦を戦ったシリル・ガーヌ。

一方のタイ・ツイバサはオーストラリア出身で、往年のK-1レジェンド・マーク・ハントを思わせるサモアン体形が特徴的な選手です。直近5連勝5KOと波に乗っています。

 

試合はサウスポーに構えるガーヌが右に回りながらジャブ、ミドル、インローをコツコツと当てるアウトボクシングを展開します。距離を詰めて一発を入れていきたいツイバサですが中々懐に入っていけません。

 

ローカル時代は構えを頻繁に変えてのインファイトキックボクシングに徹したり、 UFCキャリア初期の頃は足を使った戦い方を行使しつつグラウンドでビックリサブミッションを仕掛けて一本勝ちを決めた試合もあるなど、スタイルを色々模索していた感のあるガーヌですが、ここ2年くらいは基本サウスポーに構えて距離をコントロールする戦い方が確立されている感じがします。当初はポイントアウト上等の戦い方が一部で批判されていましたが、試合をこなすにつれて手数を出して自分からプレッシャーを掛けられるようになってきましたし、何よりもフットワークが巧い上にムエタイベースで腰が重いので並の選手は容易にテイクダウンを奪う事が出来ません。この辺りがガーヌがUFCで活躍出来ている要因の一つかなと思っています。

 

2Rから既にガーヌ完封ペースで試合が終わりそうな空気が漂っていましたが、ツイバサがラウンド中盤に右フックでダウンを奪った事で流れが一気に変わりました。

 

ガーヌも強めに左ミドルを連打し、前蹴りを蹴って反撃しますが、ツイバサはボディに効かされつつも前に出てプレッシャーを掛けていきます。この辺りはまさに旧K-1で無類のタフネスを誇ったマーク・ハントやレイ・セフォーの面影ですねぇ。

 

旧K-1ファンとしてはここからのツイバサの逆転KOを期待してしまいましたが、3Rもアウトファイトの中にも重いジャブやボディへの打撃でコツコツと効かせていったガーヌ。ツイバサはタフネスで耐え抜きますが、ガーヌは前蹴りを効かせ、ジャブを当ててツイバサのスイッチ打撃をバックステップとアンダーパーリングとピボットで華麗に捌いた後、構えをオーソドックスにスイッチして右アッパーを効かせてぐらつかせ、コンビネーションとパウンドでKO勝利。

 

https://twitter.com/danawhite/status/1566221444857544704

 

デイナがフィニッシュ動画をアップしてくれました。ヘビー級のMMAファイターがこんなに身軽に動けてKO出来るって凄いです。

ガーヌはMMAのオレクサンダー・ウシクですね。

シリル・ガーヌが故郷に錦を飾る勝利で大歓声を浴び、メインイベントを見事に締めくくりました。

 

負けはしたもののツイバサもダウンを奪い、ガーヌのミドル連打を耐え抜いた事で試合を面白くしてくれた功労者であります。

以前は心が折れるのが早くて、ハントの後継者たるには心許ない印象でしたが、今回はよく頑張りました。

あとはあの展開から逆転KOしてこその真のK-1ファイターだと思っているので、次こそは必ずK-1最高😝👑👑👑‼️の高みを目指してくれ‼️俺😝が休養を取っている間もK-1最高😝‼️の系譜は世界中で受け継がれてゆく‼️K-1最高😝👑👑👑👍‼️

 

 

 

🏟 UFCミドル級ワンマッチ🏟

⚪️🇦🇺ロバート・ウィテカーVSマーヴィン・ヴェットーリ🇮🇹⚫️(3R判定勝利)

 

 

元 UFCミドル級王者で、今年2月には現王者アデサンヤに挑戦するも僅差の判定で敗れてしまったロバート・ウィテカー。

復帰戦は同じくトップランカーで一昨年タイトル挑戦し敗れてしまったマーヴィン・ヴェットーリと対戦しましたが、ウィテカーが見事な試合運びで完封勝利を納めました。

 

この試合もメインのガーヌの試合もそうでしたが、ウィテカーの勝因は何と言っても絶妙な距離設定とポジショニングにあります。今年7月に行われたアレクサンダー・ヴォルカノフスキーVSマックス・ホロウェイUFCフェザー級タイトルマッチの試合が象徴的でしたが、単なる逃げペチペチポイントアウト打撃だけではない、しっかりと効かせた打撃を当てていった上でアウトボクシングで完封していくスタンディングMMAスタイルが、密かにトレンドになっているようです。

 

https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12752102103.html?frm=theme

 

ウィテカーはジャブ、前蹴り、関節蹴り、インローで相手を突き放し、サウスポー構えのヴェットーリがスタンドで得意とする左ストレートが届かない位置を常にキープ。

 

相手が左の攻撃を打ってきたら左回りに避け、攻撃面ではフェイントで相手を誘い、カウンターで出鼻を挫くように飛び込み左フック、左ストレート、右ストレート、ガードの上からでも効かせられる右ハイキックと多彩に打ち分けて試合をコントロール。

 

ヴェットーリはTD狙いでウィテカーをケージに押し付けますが、腰が重いウィテカー  をTDする事は出来ず、ウィテカーはケージを背にしても体位を入れ替えてスタンドに戻ります。

 

ほぼ完勝ペースとなった3R終盤には自らタックルを仕掛けてTDに成功したウィテカー。ヨエル・ロメロ戦は顕著でしたが、ストライカーでありながらピュアグラップリングが上の相手でもMMAの総合力で上回って逆にグラウンドでも優位に立てちゃうのがウィテカーの強さの秘訣です。ここ2、3年でバージョン2.0スタイルが確立した感があります。

 

https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12677088473.html

 

この試合の一つ前で行われた、ウィテカーと同じく飛び込みから一気に距離を詰めていく伝統派空手的な打撃が得意なホアキン・バックリーの試合と比較すると顕著ですが、ウィテカーの一つ一つの攻撃や動きにいかに無駄がないかがよく分かります。

ウィテカーも2012年にUFCデビューして既に10年。やはりUFCに長く在籍していてしかも日々研鑽し進化し続けている選手は強いです。

 

ウィテカーはライトヘビー級に階級を上げるなんて噂もあるようですが、今日の試合を見るとそれは勿体無い。

もう一度ミドル級のベルトを狙って欲しいものであります。

 

 

 

 

🏟UFCフェザー級ワンマッチ🏟

⚪️🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿ナザニール・ウッドVSシャルル・ジョーダン🇨🇦⚫️(3R判定勝利)

 

 

イングランド出身のナザニール・ウッドは元ケージウォリアーズ王者、一方のシャルル・ジョーダンはカナダを拠点とするMMA団体TKOの元王者。共にローカル時代からプロスペクトとして期待され、 UFCでも3年以上在籍し戦績を積み重ねてきた選手同士の対戦です。

本ブログでも両選手共にプロスペクトとして紹介記事を書いています。

 

https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12538190167.html?frm=theme

 

https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12672782898.html?frm=theme

 

ちなみにウッドは当初はバンタム級の選手でしたが、減量が苦しいとの事で前回の試合からフェザー級に階級を上げています。

 

サウスポー構えながらアグレッシブに打ち合うスタイルのジョーダンはいきなり懐へ踏み込んでいって左ストレートを当て、早い段階から近い距離での打撃戦が繰り広げられますが、ウッドは足払いでTDを奪い、トップポジションを取っていきます。

その後ジョーダンに立たれますが、接近戦からクリンチの展開になるとウッドは再度足払いでTD。ウッドの混合MMAによって後手になってしまったジョーダンは、ラウンドが進む度に打ち合いにおいても被弾の数が多くなっていきます。

 

割とMMAの試合では珍しかったりするんですけど、ボクシングのようにショートレンジで頭をくっ付けての打ち合いのシーンも多く見られました。ただそういう攻防の中でもウッドは首相撲クリンチでのダーティーボクシング的な打撃やその離れ際での加撃、そしてこの試合で計5回決めた足払いでのTDといった技を巧く織り交ぜながら駆使して、アグレッシブなストライカーのジョーダンの勢いを封じ込めていました。

 

勝ったナザニール・ウッドはフェザー級転向後2連勝。ケージウォリアーズ時代から試合経験が豊富でトータルスキルが高い技巧派の選手でしたが、階級を上げてもフィジカル負けする事なく上手くフィット出来ている印象です。

 

 

 

🏟 UFCミドル級ワンマッチ🏟

⚪️🇩🇪アブスピヤン・マゴメドフVSダスティン・ストルフツ🇺🇸⚫️(1RKO勝利)

 

 

開始早々マゴメドフが前蹴りをヒット。相手が下がったところへ更に追い打ちを掛けて僅か19秒でKO。

 

https://youtu.be/wz6kCFY7xYI

 

勝ったマゴメドフはこれがUFCデビュー戦でしたが、素晴らしいKO勝利を納めました。

マゴメドフは生まれはロシアで現在はドイツ在住の選手。メインカードで勝利したフランス在住のナショディーン・イマボフや、フライ級のイギリス在住のムハンマド・モカエフ、来週ネイト・ディアスと試合するスウェーデン在住のカムザット・チマエフもそうですが、近年はロシア国籍の選手だけに留まらず、ロシアから移民・帰化した欧州在住のUFCファイターの活躍が目立っています。

ロシアのACAを観ているとメジャーMMA興行で即戦力として活躍しそうな選手がゴロゴロ居るような印象ですが、これからのロシアのMMAファイターはサッカーやオリンピックの強豪国の選手のように、別の国に帰化して活躍の場を求めるというパターンが増えていきそうです。カンボジア国籍を取得してマラソンのカンボジア代表選手になった猫ひろしのように。ちょっとニュアンスが違うか。

何にしろメジャーMMA興行はロシア系の選手に侵食され過ぎないよう、既存の選手達も負けずに実力を付けていく事が求められます。

 

 

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

 

会場が大盛況に終わった今回のUFCパリ大会、そしてロンドン大会に共通する事なんですけど、「母国の選手がUFCの舞台で結果をちゃんと残して良い試合をして会場を盛り上げてくれた」これに尽きると思います。

 

先月はイギリス在住のレオン・エドワーズがカマル・ウスマンをハイキックでの逆転KOで下しUFCウェルター級新王者となりましたが、エドワーズの初防衛戦の舞台としてイギリスにある90000人収容の大規模スタジアムであるウェンブリースタジアムでの開催が計画されているようです。前回のUFCロンドン大会も5分でチケットが完売したらしいので実現は可能でしょう。

 

で、「2010年代のUFC JAPANは何故失敗してしまったのか」という検証となるわけですが、これはイギリスやフランスのケースとは真逆で、日本人選手がUFCで結果をあまり残せず、勝った試合もノーランカーの選手を相手につまらない判定試合が多くてインパクトを残せなかったからだと思っています。あとは、UFC JAPANに呼んでくる外国人選手のクオリティが、最初の頃は良かったんですけど年々下がっていったのは何よりもテンションが下がりました。

 

2012年開催のUFC日本大会(UFC144)のメインイベントは、フランキー・エドガーとベンソン・ヘンダーソンによるUFCライト級タイトルマッチ。エドガーは前年にグレイ・メイナードと凄まじい防衛戦を2度に渡って繰り広げ、日本のUFCファンからも注目を集めていた存在だっただけに、あの大会は本場の最先端MMAが直輸入されたような感覚を堪能しました。

格闘技暗黒期の時期にしては珍しく、さいたまスーパーアリーナには2万人以上の観客が詰めかけました。

 

ただその後はナンバリング大会ではなくファイトナイト大会としての開催だったので、 UFCのメインディッシュであるタイトルマッチは日本では行われませんでした。

それでも、ヴァンダレイ・シウバやマーク・ハントといった日本でもゆかりのある外国人選手が良い試合をして会場を盛り上げてくれましたが、2015年UFC JAPANのメインイベントであるジョシュ・バーネットVSロイ・ネルソンはそこまでの領域の試合には至らなかったので、「ん?」という雰囲気は漂っていました。

 

ROAD TO  UFC JAPANなんてテコ入れ企画もありましたが、トーナメントを勝ち抜いて優勝しても、重要なのはUFC本戦で活躍出来るか否かであって、こういった育成コンテンツが身を結ぶとしても3~5年くらい先の話です。実際この企画でUFCと正式契約を結んだ石原、廣田の2選手共に現在はUFCをリリースされています。育成は確かに大事ですけど全てが上手く行くとは限らないですし、日本市場の開拓に切羽詰まり始めた2015年頃にあたっては、長い目で見ていくようなプロモーションは不向きでした。

 

あと、2016年3月を最後にWOWOWのUFC中継が一旦打ち切られてしまったのはかなり痛かったですね。2018年に再び復活しますが、あの頃はマクレガーフィーバーで盛り上がっていた時期だけに、梯子を外された感はありました。

 

そんな事もあり、2017年開催のUFC JAPAN(メインイベントは岡見VSオヴィンス・サンプルー)は完全に投げ売りのような興行になっていました。日本人選手が勝った試合は全部判定、負けた試合は全部フィニッシュ。 UFCファンであるワタクシでさえ、「これはダメだろ・・・」と思ってしまうような大会でした。なのでチケットもばら撒きが多かったと聞きます。これを最後にUFC日本大会は行われていません。

 

堀口恭司が日本で人気が出たのもRIZINに移籍して、フィニッシュで勝つようになってきてから。 UFCでは8試合戦ってフィニッシュした試合は初期の2試合だけでした。こう言っては何ですが「RIZINという舞台で」バンタム級に階級を上げてキャリアの絶頂期を迎えたからこそフィニッシュした試合が増えたという部分はあります。

 

Twitter時代によく見かけたのが「UFCは日本では受け入れられない」という意見なのですが、理由は上記に書いた通りで、UFCのイギリス大会やフランス大会のように、母国の選手がUFCの舞台で結果をちゃんと残して良い試合をして会場を盛り上げてくれれば普通に受け入れられると思うんですよね。あとは2012年日本大会に出場したフランキー・エドガーのような本場のトップ選手を招聘する事と、UFCロシアやUFCブラジルの動画チャンネルのように本番のプロモーションを翻訳してくれる動画をもっと活性化して貰いたいです。

 

以前も書きましたが、よく「UFCは日本人選手を冷遇している」なんて声が聞こえてくるのですが、UFCという高い頂の中で実力を証明し、且つ「国籍関係なく観客を熱狂の渦に巻き込んでくれる」選手が出てくれば、国籍がどうとかは関係なくリスペクトしてくれるはずなのです。

 

ただここから結果を残していくためには育成期間を含め時間が掛かりますし、日本のMMA業界の再編も含めてやる事が多くあります。気長に待ちましょう。