冷やしえいがゾンビ

冷やしえいがゾンビ

ブログタイトル変えました(17/05/07)。映画についてのブログ。


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ブリグズビー・ベア(Brigsby Bear)というアメリカ映画を紹介します。



2017年製作、日本での公開は2018623日でした。今作を見た私は2018年になって初めてこう思いました。


「今年ベスト映画、来ました」と。


アメリカのどメジャーコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』出身の作家であるデイヴ・マッカリーが32歳で映画監督デビューを果たした今作。主演は同じ番組で演者側だったカイル・ムーニー32歳。仲良し!


共演はマーク・ハミル。某スカイウォーカーの人。


今作のタイトルを聞き、メインビジュアルを見ると、ほのぼのゆるふわコメディ映画を想像します。しますよね?


正直なところ私は、作品を紹介している文面を読み、あらすじを知った上で見に行きました。ほのぼのゆるふわコメディだとしたら私は見に行ってませんでした。


カメラを止めるな!について、できるだけ情報を知らない状態で見るべきとよく言われていますが、今作に関しても最小限の情報で見た方が楽しめると思います。ストーリー展開に振り回されるような感覚を味わえる作品なので。


まわりくどくなりましたが、みなさんブリグズビー・ベア、見てください。素晴らしいですよ。


実はこの作品、アメリカ版カメラを止めるな!とも言うべき映画だと思っています。監督が同世代、撮影・完成した時期もほとんど同じで、日本での正式な公開日も同じ日!さらに作品の内容までもが多くの共通点を持っているのがものすごく不思議であり、なおかつワクワクさせられる事実です。


それではブリグズビー・ベア本編について踏み込んでいきます。


今作は、VHSに録画されたっぽい荒い画質の子供向け番組『Brigsby Bear』から始まります。しかしその番組を見ていたのは、無精髭にメガネ、髪は伸びた天パの青年。違和感。


青年は両親らしい男女と3人で暮らしているらしい。青年の頭の中はブリグズビーの事でいっぱい。そんな青年の熱弁に両親は若干困惑気味だが、それでもブリグズビー世界の解釈への熱意を応援しているようだ。


青年はコンピューターでブリグズビー・ベアのSNSコミュニティにアクセスして論議を重ねている。しかし彼の使っているコンピューターは、パソコンというよりワープロと呼ぶ方が正しいような旧時代の代物である。違和感。


3人が暮らしている空間はこじんまりとした地下シェルターのような場所で、父親は外出時にガスマスクを装着している。ポストアポカリプス?観客は核戦争後のような世界観を見せられ、さらなる違和感を抱く。


父と息子が、夜の外世界を眺めながら語らっている際に木々の下に淡く光る発光体が宙を舞っているのだが、よく見るとちゃちな工作で出来た昆虫風のおもちゃだ。むむむ?なんだこの世界は?ポストアポカリプス設定どこ行った?違和感違和感違和感


映画情報サイトなどに載っているあらすじを読んでしまうと、こういった序盤のストーリーテリングの面白みが半減してしまうので、できればまっさらな気持ちで見てほしいのです。こんな場所で主張しても無意味ですが。


1015分程度で青年の置かれた環境がどういうものなのかネタバレされます。第一幕と呼ぶほどのボリュームはなく、もっとテンポよく、圧縮された形で序盤のシチュエーションが崩壊します。どういった意味なのかは実際に見ていただきたいところ。


改めてネタバレすると、青年は幼い頃に誘拐されてきた被害者であり、両親は誘拐した子供を自分の子供のように育ててきた。しかし子供=青年は地下シェルターの外を殆ど知らない。外の世界では他の人々が普通に暮らしているという事も知らされていなかった


映画『ルーム』とか、ゲーム『Fallout3』のテイストも感じさせる絶妙な設定。文字通りの『オールドボーイ』。彼の生い立ち自体は十分に悲惨なはずなんですが、常にコメディ感があって悲壮感なく見せていくのがこの映画の凄みですね。


主人公ジェームスはブリグズビー・ベアの事しか考えてこなかったアラサー男で、いわば社会不適合者。すぐに本当の両親と再会できたものの、自分が誘拐されたという意識もなく、家族にも世界にも馴染めない。可哀想


間違いなく可哀想なんだけど可哀想に見えないところに演出とストーリーテリングのうまさをビンビン感じるわけで。


誘拐されたんだ、今まで両親だと思っていたあいつらは誘拐犯なんだそんな事実を告げられてもジェームスの反応は極薄。なぜなら彼にとっては両親が誰なのかより、ブリグズビー・ベアの方が重要なのです。


しかしブリグズビー・ベアについて家族や刑事に尋ねてみても、誰一人として知らない。この世に生きる人々にとってブリグズビー・ベアこそがコモンセンスだと思っていたジェームスは戸惑います。


そしてジェームスは恐るべき事実ーーブリグズビー・ベアは、誘拐犯の偽父親がジェームスのためだけに製作した架空のテレビ番組だった事を告げられます。


ブリグズビーの新作は見られないと知った時の悲しみ。この瞬間のジェームスの芝居を見た時点で私は泣きました。例えるなら、毎週のように待ちわびた連載漫画が作者の急逝によって2度と描かれなくなってしまった時のような、絶望感。漫画に限らず、待ち焦がれたフィクションが2度と作られないと知った時の絶望。感情移入せざるを得ない!


しかしジェームスは、ブリグズビー・ベアが偽父親によって作られていた事を知って歓喜します。どこかの知らない人ではなく、父親(を騙る誘拐犯)が作っていた! 家族はその事実をジェームスに恐る恐る説明するのですが、返ってきたリアクションが(しょぼーん)じゃなくて(やったー!)なために唖然。


家族やカウンセラーや刑事が腫れ物を触るようにジェームスと接するのに対して、能天気かつ意外と社交的なジェームスとの意識差が今作のキモ。ここでギャップを生んで笑いにつなげていたり、テンポの向上を促していたり、とにかく語り口と構図が絶妙。


ジェームスはブリグズビー・ベアの新作を自分で製作しようと決意し、慣れないGoogle検索(検索ワードが疑問文になってて最高)で映画作りのイロハを学んでいきます。


序盤からは想像も出来ませんでしたが、今作はジェームスの映画作りをメインプロットに置いた物語なのです。つまりこれは、『カメラを止めるな!』なのです!


なんて言ってますがカメラを止めるな!を見たのはブリグズビー・ベアよりも後だったので、最初に見た時に「共通点いっぱい!すぎょい!」と興奮していたわけではありません。


映画を完成させよう、完成させるまでに色んな障害があるだろうけど乗り切ろう!と、徹底的にポジティブな主人公の姿に感銘を受け、その主人公を色んな形で支える周囲の人々が見せる幸せそうな笑顔に共感する。超ポジティブなバイブスに満ちたストーリーがほんのりファンタジックでもあり、素直に感動させられてしまうのです。


妹とのギクシャクした関係性があっさり&あっけなく解消され、良好な兄妹関係になる流れもウソみたいにスムーズでリアリテイが無いように感じる人もいると思いますが、そこが逆に良い!


普通のドラマなら「よっこらしょ」と言って乗り越えていくところを今作の主人公ジェームスは能天気にひょいひょい飛び越えていく。そこが、良い!


映画撮影と編集のテクニックを持つ友人との出会い、事件を担当していた刑事が俳優として映画に出演する経緯、長年憧れ続けたヒロインと出会う手順の強引さ、両親の苦悩っぷりとその結末など、とにかく話がすごい勢いで転がっていき、問題が解決されていく。


主人公が周囲の人々に理解を求めようとするではなく、映画作りへの執着と情熱だけで人々が自然とジェームスを応援したくなる。観客も同様に、ジェームスの悲願達成を願わずにいられなくなる。


ある意味で無垢なジェームスの感性と言葉が、普通の人々の中にあるちょっとした偏見を解消していくような何気ない描写も素晴らしい。


「なぜ自分が好きなことをやらなくなってしまったの?」


このセリフには、劇中のあるキャラクター同様に心を揺さぶられる大人も少なくないはず。


紆余曲折あってのクライマックス。完成披露試写会には満員の観客。期待感で膨れ上がった座席にジェームスの姿はない。彼はその時、こんな思いを抱えていたここの描写も最高に泣けます。


映画作りを軸にした物語を、初監督とは思えないほどの絶妙なバランスで仕上げた今作。カメラを止めるな!と共に必見の感動作です。見逃している方は是非ともご覧あれ!



http://www.brigsbybear.jp


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日本映画界の話題を独占している超低予算映画『カメラを止めるな!』について、思うところを書いていこうと思います。ネタバレ要素は途中まで伏せています。



2018年映画シーンにおいては『バーフバリ』二部作が大きなムーブメントを起こしてSNSを長く賑わせた。バーフバリに触れた観客の多くは「この映画をもっと多くの人に見てほしい!」という願いをいつのまにか植え付けられ、共有した。


大きな影響力を持たないような末端の映画ファンも必死にインフルエンスしようと書き込み・拡散を続けた。その要因として、バーフバリという映画の持つ特異性があった事は間違いない。


インド映画であること。日本におけるインド映画の知名度はまだまだ低く、数年に一度、小ヒットが生まれる程度である。当然俳優の知名度も低く、イメージするのが難しい。


CGを惜しげもなく使った派手なアクション映画であること。市場規模の大きいアメリカが量・質ともにトップを走るジャンルだけに、インド映画でそこに挑戦していると言われると一体どのような出来なのかが想像しづらい。


バーフバリは産地もジャンルも特異な作品だったため、SNSユーザーはあの手この手でその魅力を伝え、観賞に至る道のりを丁寧に整備しようとした。


カメラを止めるな!にも、絶対的な特異性がありました。


俳優主体のワークショップの一環として制作

製作費300万円

俳優は全員無名

監督は長編デビュー作


これらの事実が、劇場用長編映画としては特異であると言えるでしょう。こういった条件で作られた映画でも、劇場にかけてもらえず終わる例は少なくない。そしてこういった条件の映画が面白い可能性は決して高くない。


それゆえ今作を見てその面白さに感染してしまった観客は「映画がどのような条件で作られたのか」というファクト以外の部分で作品の魅力を表現しようと悪戦苦闘してきたのですが、さらに問題となるのが


ういった内容なのかを知らないまま見た方が、多くの感動を味わえる


という、今作の構造的な特徴です。ざっくりな表現でいう「ネタバレ禁止」と言われるタイプ。そういう方向性の作品・宣伝自体は今時珍しくもないですが、今作における構造的トリックは、もっと大胆であり、もっと俯瞰的であり、観客が見ていた本編映像それ自体の本質を変えてしまうような仕掛けであるため、観客は内容について具体的に語る事を極端に避けようとする。


それゆえ、抽象的な賛辞や、完全に個人的な感想・印象・感動を並べる声がSNSに並ぶ。そしてそういった同志たちの苦慮を目にすると、そこに強い共感を覚えてもっと拡散したくなる。一種、理想的な連鎖反応なわけです。


これより映画本編の構造を読み解いていきます。


初っ端、ゾンビ映画のクライマックスがいきなり始まります。寂れた工場、うめきながら歩く男ゾンビ、その正面に悲痛な表情の美女。恋人同士だった2人が、生者と、生ける屍という対照的な関係に変わってしまっている。女は男のゾンビ化を受け入れられず正気に戻るよう哀願するが


はいカットー!


と声がかかり、カメラの前に別のカメラを持った別の人物が登場する。後から登場したヒゲ男は怯えていた女に対して威圧的な説教を始める。パワハラだし、暴言・侮辱だ。返す刀でヒゲ男はゾンビ男にも説教を始める。


この時点で観客は、自分たちが今見ているのは「ゾンビ映画を撮っている人たちの映画」なんだ、という認識にスイッチする。「そういう映画」を見るモードになった観客は、どこまで続くのかも分からないワンカット撮影のドラマの行く末を見守る。


しかしこの「映画撮影映画」には様々なタイプの違和感が用意されている。一番初めに映るゾンビのメイクが安っぽいのを筆頭に、演技のトーン、会話のディテール、カメラワーク、キャラの挙動などなどで観客に違和感を植え付けていく。


違和感の連続とはいえ、なんとか物語を完結させる、なんとかワンカットで収める、なんとかオチをつけるそうやって製作陣が苦労している姿を見ているだけでも楽しいし、一定以上の魅力がある。


冒頭37分間におよぶワンカット撮りゾンビ映画の中で植え付けられた違和感は後に芽を出し、花を咲かせるーーなんて言うのは簡単だが、それを可能にしているのが今作の革新的な構造だ。


ゾンビ映画を撮ろうとしたら本物のゾンビに襲われ、予定が全て狂ってしまうものの、カメラを止めずに最後まで撮ろうと奮闘する映画(劇中でのタイトルは『One Cut of the Dead』)が終わり、


そんな映画を撮るために集められた人々の苦労を描く、カメラを止めるな!という名の映画が始まる。


改めてまとめると、


開始1秒でゾンビ映画


開始1分でゾンビ映画撮影映画


開始10分でゾンビ映画撮影映画の現場にゾンビが乱入してくる映画


開始37分でゾンビ映画撮影映画の現場にゾンビが乱入してくる映画を作ろうとした人々を描く映画


というように、時間経過とともに観客の視点と意識をひっくり返すような仕掛けが待っている。


とはいえ、それによって大きく戸惑うほど複雑な見せ方をしている映画ではない。楽しく、テンポよく、サラッと見せる映画でありながら実は斬新で意欲的なアイデアであるところがこの映画の底知れない凄みであります。


準備期間1ヶ月と撮影当日の苦労・トラブルを描く事で、37分ワンカットの本編で感じた違和感の正体を観客が知ることになり、なおかつ本編として出来上がったものを知っているがゆえに、撮影までの経緯と撮影風景そのものが可笑しく楽しく笑えるものになるのです。


これを「伏線の回収」という言い方で簡潔に表現してしまうのが言葉足らずに思えるほど、強い相乗効果が生まれている。この構造により「ネタを理解した上でもう一度見てみよう」とリピーター化する観客が増えているのも今作の特徴・強みだと言えます。


今作が高く評価されている理由は構造的な新しさだけに留まらず、登場するキャラクターが普遍的な魅力を持っている部分も大きい。この要素がしっかりしているからこそ、映画マニアが狂喜するだけの奇抜な作品に収まらず、全国民的な盛り上がりにつながる可能性を秘めているのでしょう。


発注された無茶な企画をなんとか形にしようとする映像ディレクターの日暮隆之。ポスターでカメラを構えているヒゲのおじさん。彼が今作の実質的な主人公ですが、このキャラクターがテレビ局・撮影スタッフ・俳優など関係者の中間に立ち、次々と突き付けられる難題に向き合いながら作品を納品しようとするまでの経緯が『カメラを止めるな!』という映画の中心的なプロットとなっています。


彼が味わう、いかにもサラリーマン的な苦悩やフリーランスとしての弱みは観客の共感や感情移入を呼び込む入り口になっていますが、この日暮の弱さ・スキの大きさなどは冒頭から登場している様子から窺い知れず、むしろ暴言とパワハラを振りかざすばかりの粗雑な男として描かれています。


だからこそ、ワンカット撮影の本編が終わって映画的に正統派のカメラワーク・カット割りにスイッチして以降の日暮隆之というキャラクターのボンクラ感・ポンコツ感が際立っています。


そういうキャラを机上の空論として脚本に書く事は簡単かもしれませんが、実際に演じている俳優が説得力を持って演じてこそ成立するもの。


主人公・日暮隆之を演じているのは濱津隆之さん。映画出演経験も少なく、長編作品で役名をもらったのは今作が初めてだそうですが、この濱津さんの演技力と、顔だちの持つ説得力が本当に見事!


劇中、物語の進行・展開を日暮の演技力で半ば強引に納得させられる瞬間があります(私にはそう見えました)。濱津さんがいかに魅力的な役者なのかを強く実感させてくれる瞬間が何度か(否、何度も)見られるのは監督の演出力と確かなプランの賜物。


日暮だけでなく、今作のキャラクターは誰もが魅力的に見えます。俳優として大きなポテンシャルを感じさせてくれる作品です。


なぜそういった感覚を呼び起こす事に成功しているかといえば、今作が俳優主体のワークショップの一環として制作されているからでしょう。


ワークショップとして長編映画の制作をオファーされた上田慎一郎監督は、元から温めていた企画にワークショップの参加者の中から選んだ俳優たちの個性を取り入れ、俳優に合わせたキャラクター像を織り込んで脚本を書き上げたそうです。劇中キャラクターをキャストに近付ける「当て書き」と呼ばれる手法です。


これによって今作の登場人物たちは、一定以上のリアリティを持った状態で画面に登場しています。俳優としても、演じやすい・心情を自然に表現できるといったメリットがあったと思われます。


この「当て書き」は、俳優の見た目にあったキャラクター像にするといった浅いレベルの話ではなく、ワークショップとして監督と俳優が理解を深め合う期間を経た上で成立した手法です。


ワークショップの一環として、参加俳優12人が実際に短編映画を撮影するというプロセスもあったというから驚きです。短くない準備期間、その準備の必然性・必要性があったからこそ、今作の出演者がとても輝いているわけです。


斬新な構成の脚本と、魅力的なキャラクター。そこにもうひとつ、今作の「勝因」として付け加えるとすれば、


明快なカタルシスとそれによって浮かび上がるテーマ性


を挙げたい。


劇中劇『One Cut of the Dead』の完成の瞬間が『カメラを止めるな!』という映画のラストシーンになっており、作中の俳優陣とスタッフ(を演じている俳優陣)が達成感に浸っている姿を見て観客は大きな感動を得る。カタルシスだ。キャラクターと観客が自然と感情を重ね合わせる、そんな高いハードルを今作は越えているのだ。


そのカタルシスに至るまでの過程で描かれてきたシーンによって、主人公である日暮は、仕事人としての大きな達成と、仕事とは離れた個人としての達成を同時に得る(できるだけネタバレしないように書きました)。


他のキャラクターにも、様々な形の達成が描かれており、単に「撮影が終了した」という描写が重層的な感動を帯びた名シーンに見える。「テーマやメッセージ性を二の次にして脚本である」なんて上田監督は語っておられたが、この上なくポジティブなメッセージ性に満ちた大団円として見事に成立している。


撮影終了のために撮影チームが最後に乗り越えなければいけない障害、その設定がこれまた上手い!にくい!


個人的な事を言うと、私自身も自主製作で映画を撮った経験があるため、クランクアップの瞬間に味わえる喜びやドッと押し寄せる疲労感と安堵感などなどを思い出してとても感動しました。


しかし今作のクライマックスが描いているのは映画業界に限定された達成ではなく、1つのプロジェクトをみんなでやり遂げたという構図だったからこそ広く共感を呼び込んでいる。監督もスタッフもキャストも、決して突出した才能は持っていないけれど、それでも必死になってたどり着いたゴール。素晴らしい。


One Cut of the Deadクルーに与えられた救いの眼差しが、カメラを止めるな!クルーへの救いに転じ、なおかつそんな映画を見ている観客の心も救う。まさしく理想的な共存関係です。


そんなクライマックスの後に、上田監督がGoProで撮影したというおまけ映像と共にエンドロールが流れ、今作の完成までの道のりの険しさを追体験させてくれます。そしてスクリーンが真っ暗になれば、作り手に対して自然と拍手を送りたくなるような大傑作。


大いなる感動に浸りつつ、721日に名古屋シネマスコーレで今作を初めて観賞した私は、心の半分で「こんな映画を無名キャストと超低予算で作る日本人が現れるなんて信じられない」と、唖然呆然としている自覚がありました。


37分ワンカットの映像の中には、脚本の段階で用意していたトラブルもありつつ、実際に撮ってみてから発生したハプニングもいくつかあったそうです。つまりワンカットでなんとか撮りきった映像の中で起こったトラブルを、映画本編のネタバラシ篇でオチとして回収させなければいけない。予期せぬハプニングを伏線に転化して笑いに変えなければいけない。


こんな手法で作られた映画、私は見たことがありません。


まずどのシーンから撮ったのか? 撮るにしてもどういった意図を持って演出していたのか、脚本として書き上げていたのはどういう形のものなのか? 多層的な作品である、と断ずる事は簡単ですが、それを実現するために必要な準備の大変さを思うと気が遠くなるし、そんな企画にゴーサインを出したプロデューサーや監督、ワンカット撮影に応じたスタッフの心意気、演技プランを見事に切り替えながら演じきったキャストの苦労


考えれば考えるほど、この映画の底が見えなくなりそうになるのです。


上映後に行われた上田監督の舞台挨拶を聞いて一番ビックリしたのは、「全てがうまく行くパターンの台本も書いてキャストに配っていた」と聞いた瞬間です。途方もなく膨大で、なおかつ綿密な準備があってこそ完成した映画である事がわかります。


それを予算も知名度も無い人たちが、熱意だけで作り上げてくれた。たかが1本の映画のために、ここまで情熱を注いでくれた、カメラを止めるな!関係者の皆さんにはいくら感謝してもしたりないです。


映画の可能性を信じてくれて、信じさせてくれてありがとうございました。


カメラを止めるな!必見です!!!!


http://kametome.net/



名古屋初日、サイン会にて無料写メ! 濱津さん、上田監督、真魚さん、チル(キャップ)。最高の思い出!


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10月に見たのは?(なぜか下書き状態で未公開のままでした。失礼しました。)


亜人

あさひなぐ

僕のワンダフルライフ

猿の惑星 聖戦記

アウトレイジ・最終章

アトミック・ブロンド

バリー・シール/アメリカをはめた男

ゲット・アウト


の8作品。



亜人


本広克行監督が人気コミックを実写映画化。私はこの映画がかなり嫌いで、酷いものを見たな…とハッキリ自覚しているので汚く罵る可能性が高いです。Twitterには


大人の観賞には耐えられないツッコミどころの無間地獄。原作の面白さがまったく想像できないクソ脚本。役者の魅力がビタ一文感じられないキャラ演出のグダグダっぷり。「私はセンスのない監督です」とアピールするダサさが満載。これぞ本広克行の真骨頂!アクションも全然ダメ!駄作!


と書きました。他にも


「ゲーマーを悪い奴として描くのが好きな監督だけどおまえの描いてるのは下手なゲームみたいなリセット観だろ」「雑魚キャラの特殊部隊が馬鹿ばかりでアクションつまらなすぎ」「日本語としておかしい表現が多すぎ」「主人公がいきなり強くなるのおかしいだろ」「テロップがダサい」「綾野剛アホすぎ」「死んでも復活するという設定たけならまだしもJOJOのスタンドみたいな概念も上乗せするからボヤけてる」などなどをツイートに書き殴りました。本広克行という人物がまだまだ持ち上げられるようなら日本映画も捨てたもんだなと思います。★★★★★



あさひなぐ


乃木坂46メンバーが多数出演した薙刀映画。『トリガール!』の英勉監督作なので、安心して見に行きました。


漫画原作だけあってストーリーラインはしっかりしてます。ドラマの作り方として真っ当だし、キャラの描き分けも的確で、クライマックスは見ているだけで燃える試合シーン。直球の感動。


それをギャグ多めのハイテンポで描いていくのが英勉監督らしいウマさ。映画が始まってから直ぐに露出狂が登場したのを見て、ギャグへのこだわりの強さを再認識。面白いかどうかは別として。スタンドプレー気味にギャグを連発していた中村倫也さん、この人は明らかに才能ありますね。印象に残りました。


乃木坂46のトップランカーな美女を大画面で楽しむという意味でも英勉監督は良い仕事をしてくれています。ハッとするくらい、女性の美しさを堪能できる瞬間が多々ありました。自宅のテレビじゃなく、映画館で見るべき映画。☆☆☆★★



僕のワンダフルライフ


犬が輪廻転生する話。高くない期待ハードルをちゃんと飛び越えてくれた作品。レイトショーとかメンズデーの価格で見るのに丁度いい映画。


主人公はあくまでも犬。最愛のご主人様と悲しい別れ方をしてしまった犬が、何度かの生まれ変わりを経て、あのご主人様との再会を目指す。


「こういうクライマックスが見れるんだろうな」と予想させておいて、そのまんまのクライマックスを見せてくれた感じ。ただ、途中の展開に「おぉ? おぉ…」という驚きもあって退屈しなかったです。


犬視点のモノローグたっぷりだし、ツッコミたくなる甘い設定もあるんですが、犬視点だから気付かされる人間社会の側面だったりも見応えあり。エモさも十分で、何度か泣かされてしまいました。愛犬家の皆さんなら泣き死にしちゃうのでは…?☆☆☆★★



猿の惑星 聖戦記


2011年、2014年に製作された新生Planet of the Apesシリーズの第三弾にして完結編。アルツハイマー治療薬の副作用で人間並の知能を身に付けた類人猿たち。彼らのリーダーとなったシーザーを中心に描かれた最新型の英雄譚。


2014年の『猿の惑星 新世紀』が大好きなんですよ。現代の物語だった2011年版から作中で10年の時間を経た事により人間の文明社会が崩壊し、エイプが文明の種火を灯す、その度合い(世界観)を表現していく作劇と、エイプの無言コミュニケーション、クライマックスへ向けた流れの作り方が素晴らしかった。


それに比べると今作はあまり面白くなかったです。作劇という意味では西部劇のフォーマットに従っているのですが、結果として展開そのものが魅力を失ってしまったように感じました。


不満点を大きく2つにまとめるなら「メタファーが露骨すぎ」「エイプが逃げるだけのクライマックスにノレない」です。


奴隷労働力によるアメリカ開拓と南北戦争、トランプ大統領への皮肉・揶揄などを思わせる描写が訴えたいテーマ性やメッセージに結び付いていないために「ふーん」という印象しか持ちませんでした。


あとはクライマックス、人間達に収監されていたエイプスをシーザー達が救おうとする展開なんですが…カタルシスが無い! 南軍と北軍が争ってる間に隙を見て逃げ出すエイプス。ボスキャラとして圧倒的な存在感を放っていたウディ・ハレルソンはシーザーとラストバトルする…前に自滅。前作みたいな派手アクションが見たい訳じゃないけど、シーザーが勝った!感が無さすぎて「ふーん」でした。


マット・リーヴス監督の底の浅さを目の当たりにしてしまったような感触。アンディ・サーキスは偉大だけど映画としては残念。☆☆★★★



アウトレイジ・最終章


言わずとしれた北野武のヒットシリーズ。第三弾にして完結編。Planet of the Yakuzasかぁこの野郎! ビートたけし演じる大友の運命や如何に。


前提として私は電気グルーヴ及びピエール瀧が大好きなので、彼がかなり目立つキャラとして出演している今作はとても楽しかったです。瀧という存在を使った遊び、普通の映画人には出来ない事を北野武がやってみせている。


映画自体も存分に面白かったです。コメディとしての演出は抑えているのに、状況や行動、セリフはちゃんと滑稽。殺し合い、だけど笑える。中年、初老、老人による権力争い、だけど笑える。これこそ北野映画ならではのマジック。


北野武作品なら『ソナチネ』が一番好きですけど、あの作品で才能を開花させた大杉漣が、今作でビートたけしと共に描き出した、あの光景。たまらないですね。こういう作品を見てると日本人として日本映画を見る意味というものを実感しますな。☆☆☆☆★



アトミック・ブロンド


シャーリーズ・セロン主演のスパイアクション。ドイツ・ベルリンで暗躍する各国のスパイがあれやこれやと権謀術数をこねくり回しながらアクションする。


俺たちの考えたアクションをとにかく見てくれ!という情熱が詰まったB級アクションかと思ったら、意外にもその枠を飛び越えようとするサスペンス要素が盛り込まれていて、軽く面食らった感はあります。


観客は冒頭の「誰の事も信用するな」というセリフによって主人公的存在のシャーリーズ・セロンの事も信用できなくなります。それによって「誰がどういう意図で行動してるんだっけ?」と若干の混乱、ストーリーラインが一瞬分からなくなった事をこの場で告白しておきます。


アクションシーンは、女性キャラクターが訓練を重ねた屈強な男性キャラにどうやって勝つか、倒すか、殺すか、その問題を突き詰めて出来上がったデザインの洗練度と、それを体現するシャーリーズセロンの凄みが見事に融合しており、圧巻。スカッと勝てる相手は登場せず、戦うたびに疲弊していく姿に女性は何を感じるのか?


ストーリーの面では、韓国製スパイアクション『ベルリン・ファイル』程度のツイストが好きだし、全体的な展開と構成もベルリンファイルの方が好き。とはいえ最後までしっかり面白かったです。☆☆☆☆★



バリー・シール/アメリカをはめた男


トム・クルーズ主演。麻薬王やFBIやCIAやDEAに翻弄された実在のパイロットを主人公に描く。


Twitterのログを見直して観賞済み作品をラインナップした際、この一作を見落としていました。要はそれくらいの印象だったという事です。


バリー・シールはアメリカをはめるどころか、はめられて追い詰められて殺されるのですが、そんなクライマックスとオチに向けて伝達されるべき情報が整理されているとは思えず、テンポが良いように見えてゴチャゴチャした描写を押し付けられてるだけに感じました。


この映画の飲み込みづらさは不可解すぎたので、もしかしたら戸田奈津子先生の日本語字幕が必要な情報を伝えきっていないのでは?と、疑惑を抱いてしまうほど、食べづらかったです。


トムクルーズ個人の見せ場は沢山あるんですけどね。無表情ギャグ。☆☆★★★



ゲット・アウト


脚本監督ジョーダン・ピール、主演ダニエル・カルーヤ…どちらも知らない名前。黒人が主人公のホラー映画らしい。ホラーの域を超えてアカデミー賞に引っかかるかも?というレベルで高く評価されている。アメリカでの公開から8ヶ月遅れで日本公開。


めちゃめちゃ面白かった!と素直に言い切れるタイプの映画でした。見終わった後ですぐに「これが監督デビュー作のジョーダン・ピールって何者!?」と、スマホを高速操作して情報収集。それくらい完成度が高く、なおかつ斬新、奇想天外な物語でした。


黒人男性の主人公が白人彼女の実家へ挨拶しに行く話。まずこのスタートからして映画ではまず見かけない珍しいシチュエーション。彼女は黒人である主人公に対して完璧とも言える配慮と理解を示します。自分同様に家族も黒人に対して敬意を持っている事を強調。主人公は安心して彼女の実家へ。


実家に到着すると、家族は彼女の言葉通りに主人公を歓待。人種差別意識を露呈するどころか、黒人がいかに優秀であるかを熱弁し始める。悪い気がしない主人公だが、メイドや庭師として一家に雇われているのが全員黒人である事に違和感を覚える。しかしそれも「黒人を優先して雇用しているから」という理由でなんとなく納得させられていく。


様々な違和感の積み重ねによってクライマックスとオチを予感させるのが通常のホラーですが、この映画は、真相の正体がまったく予感出来ないから怖い。違和感の積み重ねだけで恐怖のムードを高めていく。最後まで見れば「こんな発想は今までに無かった!」というほど新しいオチでは無いのですが、恐怖の対象が脇役を飲み込んでいきながら主人公に迫っていくスリラーとは明らかに違う話法で描かれたホラーである点が素晴らしい。


アメリカという多人種国家で、人種差別意識は唾棄されるべきものとして広まっているポリティカリー・コレクト精神に対し、ジョーダン・ピール監督が黒人としてどうしても感じてしまう違和感から(インタビュー等で言及。ただしピール監督は白人とのハーフ)一本の完璧なホラー映画を生み出すに至る、この熱意にも感動しました。


それはそれとして、クライマックスで真相が明らかになった時の「うわぁ……」という気持ち悪さ、序盤から描かれてきた数々の小さい描写にこめられた意味を理解した時の気持ち良さは映画体験として極上だし、特に「Get Out」の意味を理解した瞬間はたまらなかったです。


主人公を演じたダニエル・カルーヤは目元の演技力が素晴らしく、今後も色んな作品で見かける事でしょう。プロデューサーのジェイソン・ブラムは近年傑作を連発しているのでこちらも見逃せない名前です。☆☆☆☆☆☆

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以上、10月の巻でした。



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