大傑作!PMC:ザ・バンカーを見逃してはいけない | 冷やしえいがゾンビ

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PMC:ザ・バンカーという韓国映画にとても感心させられたので久々のブログを書く気になりました。



ハ・ジョンウ主演のミリタリーアクション。予告編も見ず、監督も知らず、Twitterに散見していた高評価だけを頼りに観に行ったのですが、ビックリするくらい面白かった!(韓国映画のクオリティには毎作驚かされている気がしますが)


脚本・監督はキム・ビョンウ。2013年に『テロ、ライブ』で衝撃的なデビューを果たして以来5年ぶりの新作っぽいです。前作は放送局というシチュエーションだけで描かれるスリルと緊迫感が凄まじく、オチの重たさも非常にインパクトがある作品でした。





上記の予備知識が無いままに見始めた『PMC』なのですが、まずオープニングからして素晴らしい。描かれている時代設定が2023-2024年の近未来。北朝鮮が査察を受け入れて核廃棄宣言し、それによって中国が北朝鮮の実質的な支配を進め、世界におけるアメリカの影響力がさらに低下していく、そんな中で行われるアメリカ大統領選の行方に注目が集まりこういった流れ/背景をテンポ良く語っていく。


「こんなの日本映画じゃ絶対できないだろうな」と、どことなく悲しくなるほどのハイクオリティ。適度なリアリティも、また心地よい。


アメリカCIAは民間の傭兵部隊PMCに依頼し、南北朝鮮の国境線にある地下バンカーで会談中の北朝鮮高官を拉致する作戦に打って出る。チームのリーダーはハ・ジョンウ演じるエイハブ。「彼は6年間の任務で1度も失敗した事がない」なんて説明されるとそれだけで期待のハードルが上がりますがな!


司令室からモニタリングしながら高官の到着を待つエイハブだったが、会議室に現れたのはターゲットの高官ではなく、朝鮮民主主義人民共和国のトップ!総書記!世界では"キング"と呼ばれている人物の登場に動揺を隠せないエイハブだが、意を決してキングの拉致に目標を変更。ここから物語が一気に加速していく。


北の総書記サマを拉致(誘拐)しようとする話といえば、セス・ローゲン監督主演の『ジ・インタビュー』なんて馬鹿コメディもありましたが(観てない!)、今作の拉致作戦は超シリアス。そもそも総書記のビジュアルが"実在するあの人"とは程遠い。主人公のエイハブも、その上司も、常に変化する状況にいいリアクションで驚愕しつつ、その上で重大な決断を下していくところが強烈な見所になっているのです。


限定的なシチュエーション、離れた場所にいる人物とのコミュニケーション、常に緊張感が保たれるストーリー展開など、『テロ、ライブ』との共通点も多いのですが、自分は「『テロ、ライブ』の監督の作品である」という視点を持たないまま今作を見たので先入観にとらわれることもなく、没入感が凄まじかったです。


展開の説明は省略しますが、エイハブは足を負傷して歩行不可能になり、キング(総書記)は瀕死の重傷を負う事になります。この段階で今作は「主人公が兵士の一員として活躍するミリタリーアクション」というジャンルを完全に脱ぎ捨てます。


エイハブとPMCチームの目的は「とにかく生きて帰る」という最大限シンプルなものに変更されるのですが、ただ生還するために、「なんとしてでもキングを死なせてはならない」という重責を担う事になります。世界中を駆け巡るニュースによってエイハブはキング殺害の首謀者として犯人扱いされてしまう! それがフェイクニュースであると証明するためキングを証人として保護しなければならない!


このケレン味たっぷりな設定が最高ですね! ちょっぴり強引だけど、そこがいい! 


敵国トップの人物を守らなければならないという構図はそんなに珍しくないのですが(最近だと『ハンター・キラー』も近い)、今作のユニークな点はキングが常に死の淵を彷徨っているところ。ずっと死にそうだからキングとエイハブとの間にコミュニケーションも無い。


エイハブは死にそうになっているキングの命をなんとか保とうと、会談に同行していたキングの主治医の助手と交信しながら蘇生やら延命やらに奮闘する事になります。映画のジャンルが変わったと書きましたが、どう変わったかというと、つまりは医療サスペンスです。救命医療アクション!


この『キングを死なせるな!』パートがやたらとリアル! どういう理由で瀕死なのか、それを解消するために何をすべきか、新たな問題の発生とそれへの対処という感じで次から次へと山場が描かれていくので、途中から「またそんな面白い事やりやがって!」と、興奮と笑いが止まりませんでした。


ちなみにキングの主治医の助手を演じているのが、『パラサイト』でも印象を残したイ・ソンギュン。劇中セリフのほとんどを英語で話しているエイハブが、韓国語で会話する唯一の相手がこのキャラクター。今作でも最高のイケボを轟かせておられます。


そんな医療サスペンスとは別角度のドラマも並行して描かれるのが今作の真の凄さ。PMCとキングを抹殺するべく迫ってくる北朝鮮側の兵士(中国軍だったっけ?)との激しい銃撃戦もしっかり描いていきます。


主人公エイハブは負傷したためにバンカー内司令室で足止めを食らっており、その場所からチームメンバー(あるいは主治医の助手)に対して指示を出していくのですが、そんなシチュエーションそのものが斬新であるのと同時に、近未来を舞台にしたがゆえの画期的なガジェットを活用しているからこそ今作を最先端の作品にしているのです。


そのガジェットとは、野球用ボールくらいの大きさの自走式球体カメラ。壁や天井さえもコロコロ進んでいける上に自由な角度で動画撮影可能というスーパーカメラなのです。エイハブはこの球体カメラを自在に操りながら状況を把握しつつ指示を飛ばしていきます。


映画内の画として、地を這うようなカメラワークが見られるのはとても面白いし、そんなカメラだからエイハブは色んな指示/決断が可能になるというドラマ面でも有効であるという、二重に優れたアイテムかつアイディア。こんな事を思い付くだけならまだしも、実際に取り入れて超面白い映画にしてるんだから恐れ入りますよ!


医療的観点では主治医の助手に指示を仰いでいる立場のエイハブですが、敵部隊と激しく戦っている(時には隠れてやり過ごそうとしている)仲間たちに対しては指示を飛ばす側になる。指示されながら指示する、この構図がめちゃくちゃ面白い!!


そのシチュエーションをセッティングするために、主人公の足を負傷させたり、近未来という時代設定にしている事に気付けば、今作が緻密なデザインによって成り立っている事が身に染みて理解できるはず。リアリティとケレン味のバランスが素晴らしいのです。


球体カメラで情報収集しながら戦闘と防衛を離れた場所から指示するという、一種のシミュレーションゲームのような構図。これも単なるミリタリーアクションとは別のジャンルといえるのではないでしょうか。FPSシューティングゲームそのものみたいな視点のカメラワークもあるので、今作はゲーマーにもオススメしたいところです。


医療サスペンスも、限定シチュエーション防衛シミュレーションも、共に「これでもか!」とばかりに山場の数々が提示されるので飽きる隙間がまったくありません。盛り上げ方のアイディアの総量がとんでもない。製作期間5年はやっぱ半端ないって!


シチュエーションスリラーにありがちなタイムリミット設定は無いし、「いよいよこれで終わりだ」からの急なUターンがあったりで、後半は見ていて完全にハイにさせられまた。山場というか、主人公たちに新たな危機が迫る度に笑えて仕方がない。同じく韓国映画の『EXIT』も、山場の連続連続連続っぷりが圧倒的な映画でしたけど、今作も負けてません。


言及するのを忘れたくないのが、主人公エイハブのキャラクター。時には無慈悲な決断を下してチームメイトから反発を食らう場面もあるのですが、苦境に立たされるたびに大いなる葛藤を経ている事がよーく分かるのです。ハ・ジョンウが最もハ・ジョンウらしくなるのはこういう芝居を見せている瞬間なのかもしれない


クライマックスに至ってのエイハブの行動ひとつひとつが感動的なんですよ! ハ・ジョンウが演じてきたキャラクターの中でも一番カッコいいんじゃないか?とさえ思いました。こんな器のでっかい男と仕事してえよ


終盤は「そこまでやる!?」と言いたくなる超絶展開が繰り広げられ、数々の伏線を回収しつつ、たまらなくエモすぎるラストシーンに到達。とんでもない映画を見たなという感触と戯れながら、エンドロールを眺めました。


まだ30代の若手監督が、デビュー2作目でハリウッドを超越する程のサスペンス/スリラー/アクション映画を撮ってしまった。面白さへのアプローチはハリウッドを遥かに凌駕していますし、スケール感や撮影全般の技術力も圧倒的。ジャンルも好きだしジャンルを飛び越えていくところも好きだし。韓国映画の凄みをまたも実感させられる一作。またも、というか…歴史を塗り替えたくらいの大傑作であるとさえ思います。


ゲームクリエイターの小島秀夫監督はキム・ビョンウ監督のデビュー作を見た時点で「この人はいずれハリウッドへ行くでしょうね」と語っておられましたが、自分は今作を見て初めて実感しました。キム・ビョンウは近い将来ハリウッド進出してくれます!進出しなくても今作のような傑作を生み出してくれたら文句なし!


今年公開の韓国映画、『パラサイト』を見るだけで終わっちゃ勿体ないですよ。"2本目"に『PMC:ザ・バンカー』を選んでくれる方がいたら私はとても嬉しいです。超オススメ!!