世界的には、「人形の家」と聞けばイプセンの戯曲を思うのだろうが、日本では弘田三枝子の歌曲を思う人も多いのではないか。今日は弘田三枝子の「人形の家」の話だ。
半世紀以上前ヒットした時からこの曲は好きで今もカラオケで歌う。
顔もみたくないほど あなたに嫌われるなんて
とても信じられない 愛が消えたいまも
ほこりにまみれた人形みたい 愛されて捨てられて
男女の愛の歌としか誰がどうみても思えないこの歌詞が、作詞者は日本に帰国した満洲残留孤児の想いに仮託したものだという。先ほどやっていたNHK「映像の世紀」で知った。作詞者であるなかにし礼自身満洲からの引き揚げ者であり(これは知っていた)、彼らの日本での疎外感に共鳴したのだろう。それは、作詞者がタイトルをつける時意識したであろうイプセンの「人形の家」のノラのような自立をも包含するのだろうか。
国策で満洲開拓に駆り出されたが、原爆投下で日本の敗戦が誰の目にも明らかになった時、満洲は、日ソ中立条約を一方的に侵したソ連軍に攻め込まれる。彼らを守るべき関東軍は(家族も含めて)我先に逃げ出す。父親はシベリア抑留となり、彼らは「中国残留日本人孤児」となる。
一番、二番を通じ3度繰り返される最後の
私はあなたに命を預けた
この絶唱は別の意味を持って迫って来る。「あなた」とは祖国ーであったはずのー日本なのである。