の続きです
吉井さんは暴力を受けている・・・
そう感じたその日から
通勤の時間や、掃除の時間に
気がつくと吉井さんの事を考えている
そんな時間が増えました
また考えてしまっていたと気がつくと
同時に浮かぶのは
院長先生から言われた
「あなたねぇ、痣があっただけで
暴力だって証拠もないのに
そんなことに気をとられていないで
もっと自分の仕事をしなさい！」
という言葉で
思い返すたびに
そうだよなぁー
私には何もしてあげられそうにない
自分のこともロクにできていないのに
とため息をつくのでした
勤務先の定休日は
日曜日でしたが
その週１日のお休みも
研修や勉強会に行きなさいと
院長先生から指示されることも多く
吉井さんが来られた次の日曜日も
私は勉強会のために
大阪の鍼灸院へ行きました
夕方に勉強会が終わり
自動販売機で飲み物を買おうとした時
ふと目にした喫茶店の入り口が
とても雰囲気が良さそうで
吸い込まれるように入りました
当時は、
言うのも恥ずかしいほどの安月給で
交通費も気にして移動する生活だったので
喫茶店に入るなんて選択肢は
普段なら全く無いのに
なぜその店に入ったのか
自分でも不思議でした
中は
落ち着いた雰囲気と
丁度いい明るさの照明
深呼吸したくなるような
コーヒーの香りで満ちていました
数人のお客さんはいましたが
空いていて
４人がけのテーブル席に案内され
コーヒーを注文すると
あー私
疲れているなぁー
と感じました
その頃の私は
とにかく早く鍼灸の技術を上げたくて
「厳しいけれど、あの先生のもとでやれば
上手くなるらしいよ」
と聞いた鍼灸院へ自ら就職を決めたのですが
仕事量はとても多く
８時間の勤務時間内には到底終わらず
毎日１４時間くらい勤務先にいました
（今思えば完全にブラックですねｗ）
先生は本当に厳しく
指示を出される以外の
会話もまったくありませんし
患者さんと楽しく私語をする余裕も
自分にはまだなかったので
一人の時には
毎週月曜日に来られる
花屋の患者さんが
花瓶に活けてくれるお花や
観葉植物に話しかけたりしていました
コーヒーが運ばれてくると
普段どれだけ自分が気を張っていたのか
気づかないうちに疲れが溜まっていた事を
しみじみと感じました
私がこんなことでは
誰かに何かをしてあげるなんて
到底無理だよなぁ
自分がもっとしっかり立たないと
そんな余裕ないよなぁ
そんな事を思うと、涙が滲んできて
おしぼりで目頭を抑えていると
お店の方が
通りがかったような感じで
新しいおしぼりを、そっとテーブルに
置いていってくれて
その優しさを感じて
また泣けるのでした
コーヒーを飲み終わり
帰る前に入ったトイレの個室で
私はあるカードを見つけました
配偶者や交際相手のことを
怖いと感じていませんか？
という見出し
２つ折になっていて開くと
中にはDVってこんなこと
という説明
裏には相談先の電話番号が
書かれています
私は
【ご自由にお持ち帰り下さい】と
書いてあるところから
カードを一枚取り
ポケットに入れると
お店を出ました
帰り道は
さっきより元気になったような
気がしていました
続く・・・
