私が社会人1年目

新米の鍼灸師として

ある鍼灸院で働いていた時の

お話(実話)です

※個人情報に当たる部分は変えています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝7時

近鉄奈良駅から

勤務先の鍼灸院まで

 

 

 

白い息を吐き、歩く道すがら

私は吉井さんの事を考えていました

 

 

 

 

 

 

今日は、水曜日

週一回の吉井さんが来る日です

 

 

 

吉井さんは57歳の女性

ご主人とふたり暮らし

 

 

 

関節リウマチによる痛みの緩和のために

3年前から鍼灸を受けています

 

 

 

 

 

 

西洋医学でもリウマチ外来に通い

治療中と聞いたけれど

 

 

 

関節リウマチ

という診断を受けてから

非情にも、症状はどんどん進んだようで

手足の指全てが、関節変形を起こしていました

 

 

 

 

 

 

 

私は2ヶ月前から

院長先生の支持で

吉井さんの担当になりました

 

 

 

担当になったと言っても

私はまだ国家資格を取って

一年目の新米鍼灸師

 

 

 

先に院長先生が診て

印を付けた場所に、指示されたとおりに

鍼や灸をしていくだけなのだけれど

 

 

 

鍼灸の技術はもちろん

まだまだ患者さんとの会話にも自信がなく

 

 

 

自分の担当になった

患者さんが来られる日は

出勤時や、朝の掃除の時間に

「今日は何をお話しようか」

とシミュレーションすることが

日課になっていました

 

 

 

 

 

 

 

20分ほどの距離を歩き

治療所について鍵を開けると

まず、窓を開け掃除機をかけます

 

 

トイレを掃除して、全てのベッドに

新しいシーツをかけ終わると

ゆっくりと手を洗い

 

 

待合室のポットに入れるための

お茶を沸かしました

 

 

ヤカンのお湯が沸騰するまでの間

私は、先週吉井さんと交わした

会話を思い出していました

 

 

 

 

 

まだ接客に余裕がなく

施術を始めると、

会話が止まってしまう私に

 

 

「先生は一生懸命、お灸してくれはるなぁ。

よう効きそうやわ。」

 

と微笑んで

 

「先生、お昼はいつ食べはるの?」

と、気遣うような言葉をかけてくれていたなぁ

 

 

 

 

 

口数は多くないけれど

優しい方だな・・・

 

 

ほんのり温かい気持ちになった時に

ふと思い出したのは

 

 

 

吉井さんの手足にあった

たくさんの痣(あざ)

 

 

 

「これは?」と聞いた私から

隠すような仕草をしたのは

気のせいだったのだろうか・・・

転んだと言っていたけれど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ピー!!

 

 

ヤカンの音に驚いて

私はお茶を入れ、仕事に戻りました

 

 

 

 

 

 

エアコンをつけて

ベッドの電気敷布のスイッチを入れます

 

 

今日の予約表を見ると

45人の予約が入っていました

 

 

 

ベッドは4台しかなく、院長先生と2人で

1時間で4、5人の患者さんを

施術する必要があるのだけれど

 

 

私は、まだまだ施術の手際も悪く

どうしても時間がおしてきてしまいます

 

 

 

午前の受付時間と

午後の受付時間の間には

2時間の休憩があるのですが

 

 

実際には、全く休憩が取れず

昼食も食べる時間はない日が

ほとんどでした

 

 

 

 

吉井さんの予約は

毎週決まっていて、午後2時

 

 

 

足の指の変形と

膝の関節の炎症が進んでからは

市のボランティアの方が車椅子をおして

吉井さんを連れて来て下さるのです

 

 

 

ボランティアの方のご都合もあるので

時間通りスムーズに

施術を進めてあげないといけません

 

 

 

何事もなく

スムーズに施術ができますように

 

 

と祈りながら待合を開けると

もう一番の患者さんが

ドアの外で待っていました

 

 

「おはようございます。

寒かったでしょう。どうぞ。」

 

 

患者さんに声をかけ、招き入れていると

院長先生が出勤してきます

 

 

院長先生は55歳の女性

「おはようございます」

と挨拶しても、眼鏡の奥で

じろりと私を見るだけ

 

 

 

厳しくて細かいことで有名な人で

この治療所に勤めた人は

1ヶ月と持たずに辞めて行くと噂されていました

 

 

 

そんな所に勤めたのは

私なりの理由があったのだけれど

現実は、なかなか辛いことも多く

私は患者さんとの会話の中に

温かいものを感じると

 

 

 

それを繰り返し思い返して

自分への励みと慰めにしていました

 

 

 

 

さぁ、今日も長い一日が始まる

 

 

 

 

まずは吉井さんが来られる

午後2時までを

時間通りに進めること

 

 

 

気合を入れるように

加湿器のボタンを押して

来院する方のカルテを出していく

 

 

 

待合の観葉植物が

こっそりと私を

応援してくれているような気がしました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く・・・

 

 

 

 

 

 

 

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