霊能者なおこの事件ファイル 11~心の鎖~①

の続きです

 

 

 

 

 

一時間に四人から五人の患者さんを

ベッドに案内すると

 

 

まず院長先生が診て

私に指示を出します

 

 

私はその指示通りに

患者さんに施術をして行くのだけれど

 

 

例えば足三里(ツボの名前)に

米粒大の灸を左右50壮ずつ

と指示を出されると

 

 

 

数を数えながらお灸を据え

同時に患者さんと話をするようなことは

まだまだ新米の私には至難の業で

 

 

 

必死に数を数えながら

無言で施術をすることになります

 

 

 

 

 

患者さんの方も

私のような新米の施術よりも

ベテランの院長先生にして欲しいと

思うのも無理はないけれど

 

 

 

聞こえよがしに

「この前、若い先生にしてもろたけど

いっこも効かへんわー。」

なんて言う人もいて

すみませんと頭を下げることも多々あり

 

 

 

そういう時は情けない気持ちと

早く上手くなりたいと

焦る気持ちでいっぱいになるのでした

 

 

 

 

 

 

 

この日もやはり、午前診が長引いてしまい

そのまま午後診の時間になり

私はトイレに行くのも走って行くほど

時間に追われていました

 

 

 

水筒のお茶を飲みに行くのもままならず

洗面所で軽くうがいをして口を潤すと

すぐにベッドの患者さんのところへ

引き返します

 

 

 

診察室へ戻ると

もう吉井さんがベッドまで案内され

横になって待っていてくれました

 

 

こんにちは!と言いかけたところで

受付から大きな声が聞こえました

 

 

 

「若い先生にしてもろても、

院長先生にしてもろても

同じ金額なんやねぇー。」

と言いながら、支払いをする患者さんに

 

 

 

受付のスタッフが

「そうですねぇ。すみません。」

と謝っているのでした

  

 

 

その声で

思わずうつむいてしまった私に

彼女は軽く微笑むと

 

 

 

「先生、少し痩せたなぁ。

お昼食べはったんですか?」

と優しく聞いてくれた言葉に

 

 

 

「はい。大丈夫です。」

と答える時ふっと気が緩み、不覚にも

涙が出そうになったのを隠しながら

私は線香に火を付けて、灸の準備をしました

 

 

 

 

院長先生が、カルテに書いた指示通り

膝から足先まで、お灸をしていきます

 

 

 

片足が終わったところで

反対側のスカートを捲ると

ハッとするほど大きな痣が目に入り

私は手を止めました

 

 

 

「これ、どうしはったんですか?」

 

 

 

と私に聞かれるのを、

予測していたような感じで

吉井さんは、答えました

 

 

 

「私すぐに転ぶから。

こんな大きな痣、恥ずかしわぁ~。」

 

 

 

なんとなくその答え方が

大げさなような、わざとらしいような感じがして

私はとっさに返事ができなかったのですが

気を取り直すと、無言でお灸を続けました

 

 

 

施術している間も

さっきの吉井さんの態度が

なぜか気になって仕方なかった私は

 

 

 

足の施術が終わると

捲くっていたスカートを、もとに戻しながら

気づかれないくらい、そっとさりげなく

痣に触れてみました

 

 

 

 

 

 

 

瞬間  

 

 

 

頭の中で

「痛い!」

という感覚と同時に

男の人のようなシルエットと

うずくまる女性が見えたあと

その映像は消え去りました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ!今のはなに?

 

 

 

 

 

 

急激に動悸が激しくなり

耳の近くでドクンドクンと

心臓の音がするように感じます

 

 

 

 

 

 

私に、背を向けるような形で

着替えていた吉井さんが

「あー気持ちよかった。

    もう終わってしもた。」

 

 

 

 

と言うと

施術が終わったことに気づいた

受付のスタッフが

 

 

ボランティアの人を呼び入れ

吉井さんを車椅子に乗せました

 

 

 

「先生おおきに。ありがとうございました」

と、いつになく大きな声で言ったあと、

続けて

 

 

 

「若い先生は、お上手やわぁ。

こんなに足が軽うなった。」

 

 

 

と他の患者さんに聞こえるような声で

言いながら出ていかれました

 

 

 

 

彼女の優しさは

手を合わせて拝みたいほど

有り難いものだったのに

 

 

 


その時の私は

さっきの痣が見せた映像のことばかりが

気になって仕方なく

 

 

 

繰り返しあの映像を思い出しながら

次の水曜日を待つのでした

 

 

 

 

 

 

 

続く・・・

 

 

 

 

 

 

 

ある日、突然我が家の寝室にカシエルが?! 龍を呼び起こす白い麒麟、索冥を追って はじめましての方へこれまでの私について 霊能者なおこの事件ファイル 江島直子著「鳳凰メソッド」サイン入りメッセージカード付き VenusWebShop 江島直子のオリジナルグッズを販売しております