いわきFCの応援幕『鍾馗』は、
江戸以来の図像を
現代スタジアムに掲げることで、
勝利と厄除けの文化を象徴化した作品です。
この記事ではその背景と制作意図を紹介します。
※本記事は2026年に内容を整理・加筆しました。
いわきFC応援幕『鍾馗』について
—— いわきFCのスタジアムに
掲げられている応援幕に描かれた人物は、
「鍾馗(しょうき)」といいます。
鍾馗は、
厄を退け「勝機」を願う存在として、
古くから掲げられてきた図像です。
この応援幕は、
いわきFCサポーターの皆さんから
「鍾馗を描いてほしい」という依頼を受けて
制作されました。
戦いに挑む選手たちの背中を押し、
勝利を願う思いを共有する存在として、
現代のサッカースタジアムにおける
戦勝祈願の象徴として掲げられています。
1|勝敗を懸けた場に立つ、鍾馗という存在
—— 鍾馗は古くから、
災厄を退け、勝機を願う神様として
描かれてきました。
端午の節句の、絵のぼりに描かれてきた
鍾馗は「魔除け」であり、
さまざまな節目に対峙するとき、
人の気持ちを前へ向けるための図像
でもあります。
・江戸時代、五月の節句に飾られた「鍾馗」
勝敗を懸け、全力でぶつかり合う試合の場
だからこそ、その意味は強く立ち上がる。
いわきFCサポーターの皆さんから
「鍾馗を描いてほしい」という
依頼を受けたとき、
これ以外には考えられない題材だと
自然に感じました。
2|鍾馗(しょうき)とは
——鍾馗は、
中国・唐代に実在した人物を起源とし、
日本では平安時代以降、
疫病除け・魔除けの神様として
信仰されてきました。
とくに端午の節句では、
男児の健やかな成長と厄除けを願い、
「いわき絵のぼり」の主題として
広く描かれてきた象徴です。
(福島県指定伝統的工芸品)
鋭い眼差しと長い髭、
風になびく衣をまとい、
鬼を退治するその姿は、
見る者に力強さと安心感を与え、
親しまれてきました。
3|図像は絵として掲げられてきた
—— 鍾馗の図像で重要なのは、
単に鑑賞される絵ではなく、
願いを託して掲揚されてきた絵である
という点です。
絵のぼり(節句幟)や五月人形、屋根瓦など、
鍾馗は常に、人々の暮らしのなかで
「厄を退け、良い結果を願う存在」
として用いられてきました。
人々が気持ちをひとつにして前を向くための、
視覚的な拠りどころでもあったのです。
4|いわき市と鍾馗の関係
—— 福島県いわき市の泉町は、
江戸時代には「泉藩」と呼ばれた地域でした。
この地を治めたのは、
徳川四天王の一人として知られる
本多忠勝の子孫・本多家です。
本多忠勝は、
「鍾馗=勝機」という縁起を重ね、
合戦の旗指物に鍾馗を掲げた武将
としても知られています。
その影響もあってか、
江戸時代には東日本を中心に、
鍾馗を描いた絵のぼり(節句幟)が
盛んに制作されるようになりました。
いわき市周辺でも、鍾馗を描いた
「いわき絵のぼり」は広く親しまれ、
その名残は
現在も市内の家々に見ることができます。
5|サッカー応援幕としての鍾馗
—— 今回制作した、いわきFCの巨大応援幕
「鍾馗(しょうき)のぼり」。
原画は、
木綿布に墨で描く手描きの技法を用い、
一筆ずつ筆を運んで制作しました。
サイズは約170×70cmです。

伝統的な手法にこだわることで、
応援幕としての迫力と、
願いを託す絵としての重みを
両立させています。
6|表現に込めた意図
—— 鍾馗の足元には、
サッカーボールを模した宝珠を配しました。
宝珠は、古くから
「願いを叶える象徴」とされてきた存在です。
いわきFCの勝利を願う気持ちと、
選手たちの健闘を後押しする想いを
重ね合わせています。
鍾馗は宝珠をしっかりと押さえ、
前を見据える構えで描かれています。
その姿が、
ピッチに立つ選手と、
声を送るサポーター双方の
気持ちを奮い立たせる存在となることを
願いました。
7|現代のスタジアムに掲げられる戦勝祈願の旗
——この応援幕は、
いわきFCのホームゲームで実際に掲げられています。
勝敗を懸けた試合の場で、
江戸時代から親しまれてきた
鍾馗の姿が現れる――
それは、
古来より受け継がれた「勝利を願う文化」が、
現代のスポーツの場に重なった光景
でもあります。
かつて人々が、
祭礼や節句の場で絵のぼりを掲げ、
良い未来を願ってきたように、
スタジアムでもまた、
同じ気持ちが共有されています。
地元の誇りである、いわきFC。
そして、その応援風景のなかに込められた、
サポーターの思いと、いわきの文化の記憶。
この鍾馗の応援幕は、
勝利を願う人々の気持ちを託すための
ひとつの「旗印」として、
これからも掲げられていく存在だと感じています。
今後も、
伝統の筆で「いま」を描き出していきたいと
思います。
スタジアムに掲げられる鍾馗の応援幕にも、
ぜひ注目してみてください。
鍾馗のより詳しい由来はこちら
▼ 次の記事では、「鍾馗」の歴史を解説しています。
いわき民報記事
—— いわき民報様の朝刊で、取り上げていただきました。
サポーターTシャツ
—— いわきFCサポーター「ARMOURS」の皆さんが、「鍾馗図」をTシャツにしてくださいました。
▽ いわきFCの巨大応援幕「鍾馗(しょうき)」の動画です。(約1分10秒)
▽ さまざまに描かれる鍾馗図。その歴史解説動画です。(約2分)
▼「絵をどうやって形にするのか?」
祭礼の型や所作を、制作の現場視点から、
絵として表現した事例についての記事です。
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