エリウド・キプチョゲ選手と大迫傑選手の大腰筋 | 股関節が硬い 徹底究明!中村考宏の超スムーズ股関節回転講座

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骨盤後傾から骨盤をおこし股関節を超なめらかに。体幹と四肢を連動させ動きの質を追及する。運動とは人の重心が移動することである。運動を成立させるべく構造動作理論(Anatomical Activity)に基づくトレーニング方法と身体観察について綴ります。

東京オリンピック男子マラソンは、世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ( Eliud Kipchoge)選手が強かった。五輪マラソン2連覇を達成した彼は、非公認だがフルマラソンで2時間を切るというチャレンジに成功している。人類がどれだけ早く走れるようになっていくのか、とても興味深い。

 

日本の選手では、大迫傑選手が頑張った。以前にfujitaさんから大迫選手の走り方がアフリカ人選手の走り方に近いということを聞き、注目をしていた。大迫選手のユーチューブで、トレーニングパートナーと話をしている場面で、「大迫:川崎は2軸で走ってる気がする、なんかもうちょっとさ、1軸って言ったらいいけど、川崎:言いたいことはわかります、(肩辺りを指して)こことここは別物と考えるみたいなことですよね、大迫:何となくですけど、素人目で見ても、良くなってる」というやりとりがあった。言葉では表現できない感覚的な要素を共有しているようだ。アフリカ人選手の走り方に近い大迫選手の走り方は、2軸とか1軸で説明がつくものではなかった。

 

あるテレビ番組で、大迫選手が走り始める瞬間に、腰がグイッと前に出る(入る)場面が印象的だった。キプチョゲ選手は、日本人選手に比べ、走っているときの腰が前方にある。それは、単に骨盤が前傾している理由だけでなく、胸腰椎の機能によるものだと想像ができた。おそらく、大腰筋が最も力を発揮し、跳躍力を得ることができる骨格位置がそこにあるのだろう。

 

▲日本人体解剖学 金子丑之助著

 

大腰筋はT12~L5の椎体の前外側部、それらの骨の間の椎間板、すべての腰椎の肋骨突起からおこる。骨盤の縁にそって下降し、鼠径靭帯の深部と関節包の前を通って、腱を介して大腿骨の小転子に停止する。腸骨筋は、腸骨稜の内唇、腸骨窩の上2/3、仙骨の上外側部からおこる。そして大腰筋とともに大腿骨の小転子に停止する。

 

大腰筋は腸骨筋とともに、おもに股関節で大腿を屈曲する作用がある。下腿を固定すると体幹を屈曲する作用がある。 また、この筋肉は大腿を外側に回旋させるように作用する。座位においては、大腰筋が体幹の平衡に関与しているという報告がある。 これらの筋は、背臥位から座位に身体をおこすときに重要。

 

小腰筋は、T12~L1椎体外側部と、それらの間の椎間板に起始する。そこから下降して、長い腱によって恥骨隆起に付着する。弱い体幹屈曲として作用する。

 

▲日本人体解剖学 金子丑之助著
 
接地している軸足に対して、骨盤~胸腰椎がより前方へ移動することにより、大腰筋の伸張率が増す。伸張された大腰筋は、伸ばされたゴムが縮むように自動的に収縮することで、足を降り出すことになる。
 
キプチョゲ選手は、ゆったりとしたフォームで上体のブレがない。腰を前方で維持するための脊柱起立筋群が力を発揮しているのだと考えられる。 脊柱起立筋群は、脊柱にそって縦に走る一連の筋で、棘突起の外側を満たしている。胸部と腰部では後方を胸腰筋膜に覆われる。脊柱起立筋群は3つの筋群に分けられる。棘突起から外側へ、棘筋、最長筋、腸肋筋の3つである。 
 
ゆったりとしたフォームで上体を維持することにより、大腰筋が力を発揮し、効率のよい足運びができる。とても、シンプルにみえる動作が美しく、それが人類の頂点だとすると、究極の走りは、大自然の一部になることかもしれない。
 
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
 
 

オリンピック選手の身体の使い方と股割り