吉本興業所属のタレントである松本人志氏の性加害報道を巡る言説について、意見の続きを述べます。

まず、一連の流れを通して最も伝えたいことです。性犯罪の被害に遭われた方は、当然のことですが、全く悪くありません。
あなたは、悪くありません。 
一部の理解のない方が被害者を中傷することがありますが、多くの人は、被害者が全く悪くないことを分かっています。
そして、PTSDなどを発症される方もいらっしゃると思います。
近年では、PTSDを乗り越えた後に心的外傷後成長、PTGを獲得することが着目されています。
PTGは「非常に困難な状況での苦悩の結果として体験される肯定的な心理学的変容」であり、PTSDを乗り越えた後に、レジリエンスなど、人間的強さや新たな可能性を獲得することを表しています。
被害に遭われた方は、大変な困難を抱えますが、必ず、乗り越えられます。
乗り越えるための、強さがあります。
そして、今はまだ、性被害を矮小化し、性被害者を中傷する風潮が一部の知性のない方たちの間に残っています。
しかし、社会はどんどん良くなってきており、刑法が改正されるなど、司法が良い方向に変わってきています。今に、理解されるときがきっときます。

次に、いくつかの論点を記載します。
項目を先に提示します。
1 文藝春秋総局長のインタビューの捕捉
(1)週刊文春の事例は、刑法改正前の強制性交等罪、準強制性交等罪が適用される事例であり、実質的には性加害に該当する場合でも、刑事事件化することが困難
(2)週刊文春は、立場が異なる複数人の証言、LINE、医師の診断書及び医師の証言、領収書、指示書など、可能な限りの証拠を集めている。証言は証拠と認められる。
(3)従来の強制性交等罪、準強制性交等罪に該当しなくても、現在の不同意等性交罪に該当する事例であり、実質的な性加害である事例を報道することには公益性がある。
2 擁護者の証言は、客観的にみて反証になっていない。民放キー局や日本放送協会の法務部の社員・職員や、報道・制作のディレクター・プロデューサー・編成などは、基本的に、これらの証言を信頼性が担保できるととらえるほど知能が極度に低い人たちではない。
3 性加害の報道を焦点にするのであれば、Iのケースも訴えなければおかしい。

以下に、内容を記載します。
1 文藝春秋総局長のインタビューの捕捉
株式会社文藝春秋の取締役・文藝春秋総局長である新谷 学さんのインタビューについて、「客観的な証拠がない」という言葉だけが独り歩きをしています。これは、正確ではない内容です。従来の強制性交等罪、準強制性交等罪を成立させるに足るだけの動画などの証拠はないという意味であり、週刊文春は、慎重に第三者の証言も得られる事例を選定して掲載しており、民事上の証拠があります。インタビューの内容について、捕捉をいたします。

(1)週刊文春の事例が適用されるのは刑法改正前の強制性交等罪、準強制性交等罪であり、実質的に性加害に該当しても、強制性交等罪、準強制性交等罪を成立させることは非常に困難

週刊文春で報道された「A」「I」の事例は不同意性交等罪に、「B」の事例は不同意わいせつ罪に該当する可能性の高い事例です。
しかし、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪が適用されるのは、刑法改正の施行日である令和5年7月12日からです。
これより前に起きた事象については、刑法改正前の強制性交等罪、準強制性交等罪が適用されます。
従来の強制性交等罪は、暴行・脅迫を要件とし、準強制性交等罪は、被害者の心身喪失・抗拒不能 (抵抗が著しく困難な状態)を要件としていました。
暴行・脅迫要件は、被害者の抗拒不能を総合考慮する際の一要素として位置づけられていたため、 暴行・脅迫があっても、外形的に抵抗困難だったことを認定できる要素がないと、加害者の故意の 認定が難しくなり、強制性交罪が成立しないと解釈されるケースがありました。
抗拒不能という基準は 曖昧で、加害者からみて明らかにわかるような形 で抵抗を示せていないなどという理由で処罰されないケースが相次ぎ、拒絶意思を示せなかった、 抵抗できなかった被害者の心理状態に対する理解不足がありました。
具体的な事例を挙げます。平成31年3月26日、名古屋地方裁判所岡崎支部にて、娘に対する実父の性的虐待に関する「準強制性交等罪」が問われていた事件について、無罪の判決が下されました。この事件は、実父が中学2年生の娘に対し、無理やり性交を行い、被害者が抵抗した際には、こめかみを殴られたり、背中を踏みつけられたり、激しい暴力を受けたことが明らかになっています。裁判所は、実父は被害者を精神的に支配していた、被害者は同意はしていなかったと結論付けたにもかかわらず、被害者が抵抗できないほどの暴力を受けていないなどとして、「抗拒不能」を否定し、無罪判決を下したのです。
このように、明らかに暴行を受け、同意のない性交を無理矢理受けていたことが認められても、無罪の判決を下すほど、従来の日本の司法は性犯罪に甘く、実質的に性加害に該当する事例であっても、強制性交等罪、準強制性交等罪を成立させることは、困難を極めました。

(2)週刊文春は、可能な限りの証拠を集めている。証言も証拠として認められる。
新谷さんの客観的な証拠がないという発言は、このように非常に困難を極める従来の強制性交等罪、準強制性交等罪を成立させるほどの証拠はないという意味であり、週刊文春は、可能な限りの証拠を集めています。
立場が異なる複数人の証言、LINE、医師の診断書及び医師の証言、領収書、指示書などの証拠があり、民事では、証言も証拠として認められます。
(3)刑事罰を成立させられないからといって、被害者の声を無視し、葬りさって良いのか?
報道のA,B,Iの事例は、従来の強制性交等罪、準強制性交等罪に該当しなくても、現在の不同意等性交罪、不同意わいせつ罪に該当する事例です。実質的な性加害である事例を報道することには公益性があります。法の不備により救済されない人権侵害を報道することは、ジャーナリズムの意義のひとつです。

2 擁護者の証言は、客観的にみて反証になっていない。
霜月るなさん、たみらけんじ氏、渡邊センス氏の反証は、いずれも、細部のみの反論にとどまっており、仲介した女性と松本氏が性行為を行ったことを否定していません。
渡邊センス氏は、LINEを見せながら説明していますが、事前のLINEで、「誰との飲み会なのか」と質問を受け、「通話」となり、「綺麗めな服装の方がいい?」と女性が質問しているLINEが残っています。
なぜ、通話の後、「綺麗めな服装の方がいい?」などと質問する必要があるのでしょうか。「VIPが来る」などと説明を受けた場合、このような反応になると推測できます。
また、飲み会を解散した後、わざわざ通話をして友人の女性を呼び出しています。
一次会が終了した後、二次会を開くのであれば、そのまま通話などせずに皆で次の店に向かうはずであり、渡邊センス氏の直接の友人ではない女性は、ホテルに残り、友人は別行動をしていた可能性があるのではないでしょうか。
また、たむらけんじ氏、渡邊センス氏が仲介した事例は、性加害には該当しません。
性加害には加担していないという意識から反論された可能性がありますが、心配されなくても、元々、性加害の報道には該当していません。
性加害に該当するのは、小沢一敬氏が仲介したA、Bの事例と、一般的なマッサージ店で口腔による性行為を強要したIの事例です。
これらの反証を取り上げるべきであるという意見が松本氏のファンの方などにあり、松本氏が霜月さんの証言を取り上げないことが偏向報道だとBPOに訴える予定だなどといったニュースまであがっています。
偏向報道ではありません。簡単なことです。民放キー局や日本放送協会の法務部等の社員・職員や、報道・制作のディレクター・プロデューサー・編成などは、基本的に、これらの明らかに反証になっていない証言を信頼性が担保できるととらえるほど知能が極度に低い人たちではありません。
彼・彼女らは、仕事として、ターゲットを知能があまり高くない方たちに設定しており、そのような方にも伝わるような分かりやすい伝え方を常に心がけ、そのような方が親近感を抱くような出演者を番組にキャスティングし、出演者に快く仕事をしてもらえるよう丁重に接しますが、彼・彼女ら自身の知能が低いわけでは決してありません。制作会社ですと、また事情が異なりますが。
松本氏のような出演者の方は、頭を低く下げて自身を迎え、見送ってくれるそれらの人は、自分より社会的地位が高く、知能も高いことが多く、職務を円滑に遂行するために自分にレベルを合わせてくれている場面も多いのだということをよく認識された方がよいと思います。

3 性加害の報道を焦点にするのであれば、Iのケースも訴えなければおかしい。
吉本興業は、当初、事実無根と表面しましたが、その後、方針を改め、性加害に関する報道を焦点にする姿勢を打ち出しました。
週刊文春の一連の報道のうち、性加害に該当する報道は、小沢一敬氏が仲介した「A」「B」及び一般的なマッサージ店で口腔による性行為を強要した「I」の事例です。
性加害の報道を焦点にするのであれば、Iの事例も訴えなくてはおかしいと思います。
Iの事例は、マッサージ店の同僚の証言、職務として記載した当時のメモ、医師の診断書と証言、被害を受け友人に相談した翌日のLINEなど、証拠が多く残っています。
また、マッサージ店での性行為の強要は、刑法改正前から刑事罰が成立することも多い事例でした。
これらのことから、訴えることを敢えて避けている可能性があると考えられます。

今後、以下の論点などについて記載していきます。
・園部温氏の和解は、被害者が自殺したことで証言が得られなくなり、真実相当性の証明ができなくなったためであり、全く潔白にはならず、名誉も回復されない。
・吉本興業所属の芸人などによる、週刊誌記者への悪質なイメージ付けがひどい。彼・彼女たちは、文芸編集者やファッション雑誌の編集者と同じ総合出版社の社員であり、配属先が週刊誌であるというだけ。性加害のエピソードを繰り返し語ってきたり、刑事罰を受けている吉本興業の松本氏の周辺の松本軍団の芸人たちより、100億倍信頼できる。