吉本興業に所属するタレントである松本人志氏が、性加害を行った疑いが強いとの報道がなされました。

この性加害報道をめぐる言説について、性加害に関する認識が誤っている方が世の中には相当数いらっしゃる、という印象を抱きましたので、以下に整理させていただきます。

長くなるため、小項目を先に提示します。


【性加害について】

1 不同意性交等罪・不同意わいせつ罪に該当する刑事事件である可能性が高い

2 同意の有無について

3 不同意性交等罪の対象となる行為について

4 自由な意思決定の重要性

5 状況や場所に関わらず事前に合意を形成する必要性がある

6 同意の有無に場所は無関係

7 騙し討ちでの強制・脅迫があった上に、圧倒的な権力差がある中でのお礼メールは同意の証明にはならない

8 性加害直後に警察へいかなかったこと、8年前の出来事であることについて

9 性加害は深刻な人権侵害である

10 学校や司法の場における性教育やジェンダーバイアスの是正の必要性


【松本人志氏及び周囲の芸人、芸能界について】

1 過去のエピソードや発言内容が性加害

2 松本人志氏は、もともと公共の電波を使用するテレビ番組に出演してはならない人物だった

3 ワイドナショーの後継が田村淳氏であるのは問題

4 松本人志氏だけでなく、性加害を行った疑いのある人々を調査し、引退させるべき

5 芸能界全体の環境の是正を


以下に、「性加害について」の本文を記載します。

【性加害について】

1 不同意性交等罪・不同意わいせつ罪に該当する刑事事件である可能性が高い


一般的な不倫と同一視したり、犯罪ではないと擁護する声があります。

しかし、報道の内容が事実であれば、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪に該当する刑事事件です。

民事の不倫とは、重みが全く異なります。

不倫は犯罪ではありませんが、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪は犯罪、それも、あらゆる犯罪の中で、最も卑劣な犯罪の一つです。


不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の概要を以下に抜粋します。(注意)抜粋です。

①~⑧のいずれかを原因として、同意しない意志を表明または全うすることが困難な状態にさせること、あるいは相手がそのような状態にあることに乗じることによって

性交等をした場合 不同意性交等罪(5年以上の有期懲役)

わいせつな行為をした場合 不同意わいせつ罪(6月以上10年以下の懲役)


①暴行または脅迫

②心身の障害

③アルコール又は薬物の影響

④睡眠その他の意識不明瞭

⑤同意しない意志を形成、表明または全うするいとまの不存在

⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕

⑦虐待に起因する心理的反応

⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響による不利益の懸念


2 同意の有無について


報道の内容が事実であった場合、同意があったとは認められません。以下の事項、特に、⑧に該当する可能性が高い上に、拒否する意志を表明しているにも関わらず、執拗に性行為等またはわいせつ行為を強要し、実施しています。

①暴行または脅迫

⑤同意しない意志を形成、表明または全うするいとまの不存在

⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕

⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響による不利益の懸念


まず、被害者である可能性の高い女性は、芸能人の卵であり、芸能界の権力者である松本氏の怒りを買うと、どんな仕事上の報復を受けるか分からず、これまで口を閉ざしてきた人が数多く存在するとあります。(⑧に該当)

仲介者の小沢氏からは、「VIPをお呼びするから絶対にドタキャンはしないように」としか伝えられておらず、VIPの名前は明かされていません。

さらに、当日になって急に、「先輩が写真とかに撮られるとまずいので六本木のグランドハイアットのスイートで部屋のみって感じになりましたが」と場所を明かされ、

「くれぐれも失礼のないように。怒らせるようなことをしたら、この辺、歩けなくなっちゃうかもしれない」と脅迫を受けています。

さらに、唐突に、小沢氏が、「ゲームを始めよう」と言い出し、女性を松本氏の待機する寝室に押し込みます。

松本氏は、女性が拒否しているにも関わらず、唐突にキスをして、着衣を脱がそうとし、大声で恫喝した上に、強引に口腔性交を行っています。(一連の流れが①⑤⑥⑧、さらに不同意を表明しているにも関わらず、相手の意志に反した性性行為等の強要に該当)

小沢氏は、松本氏が到着する前に、携帯電話を没収し、不織布の袋に入れてソファの脇に置き、証拠隠滅を図るとともに、女性が逃げたり、助けを呼ぶことができない状況を作り出しています。

また、これは一般論ですが、一般的に、50代の男性との性行為を望む20代の女性は存在しません。(極く一部の例外はあります。)

このような状況を総合的に考えると、合意があったとは考えられません。

騙し討ちのような形で、圧倒的な権力差を悪用した卑劣な犯行であると考えられます。


3 不同意性交等罪の対象となる行為について


不同意性交等罪の対象となる「性交等」には、性交、肛門性交・口腔性交のほか、膣や肛門に、陰茎以外の身体の一部又 は物を挿入する行為も含まれます。

つまり、松本氏の強要した性行為はもちろん、口腔による性行為も、5年以上の有期懲役の不同意性交等罪に該当する可能性が高いです。


4 自由な意思決定の重要性


人は性行為等を行う上で自由な意志決定に基づく権利があり、何人もこの権利を侵すことはできません。


5 状況や場所に関わらず事前に合意を形成する必要性がある


ホテルや部屋にいるから、といった場所や状況に関わらず、必ず事前に相手の意志を確認し、性的同意を得る必要があります。

ホテルに2人でいるといった状況であっても、同意のない場合、性行為を強要してはいけません。


6 同意の有無に場所は無関係


「ホテルのスイートルームの飲み会では、性交があることを予期できたのではないか」「ホテルのスイートルームの飲み会に行くような女性も悪い」「ホテルでの飲み会で性行為があるのは当然」といった発言がありますが、不適切な認識です。どのような場所にいても、同意がない場合、性行為に及んではいけません。


また、女性が成人であることも、同意なく性行為を行ってよい理由にはなりません。


個人的な例ですが、時系列で、私の体験を共有させていただきます。

①高校生の頃の交際相手の中には、頻繁にデートし、相手の家にもいきましたが、性行為は一切行わなかった人がいます。

②大学生の頃、東京大学・一橋大学・慶應義塾大学・早稲田大学などの女性の学生と、医師や経営者・外資系金融や外資系コンサルティングファームに勤務する方とのミッドタウンレジデンシャルなどでのホームパーティーに複数回参加しましたが、当然、性行為の強要などは一切なく、楽しく飲食をして歓談をするだけの和やかな会合でした。後日、連絡先を交換したゴールドマン・サックスの方と石川町でデートし、医師の方と葉山の別荘でデートしましたが、性格が合わないと判断しお付き合いなどは断りました。デートでも性行為は一切行わず、断ったことについては若干引き留めるような言葉がありましたが、暴言などはありませんでした。

③25歳頃、告白されてお付き合いした方とは、クリスマスにホテルに泊まってデートしましたが、性行為は行いませんでした。性行為を一切行わないままお別れしました。

④20代のころ、交際して別れた後も友人として交流していた男性との、友人時代のエピソードです。友人は地方に転勤しており、東京出張で外資系ラグジュアリーホテルに宿泊しているので、食事を一緒にしてほしいといわれ、ホテルの部屋でルームサービスをとり食事をしました。友人なので、性行為は一切行わず、和やかにお話をして、わたしは宿泊せずに帰りました。

⑤30代になってお付き合いした2人の方とは、交際を開始してから、半年間以上、性行為は行いませんでした。その間、週に1回はデートを重ね、私の家で、2人でお茶を飲みながら語り合うこともありました。


②だけは、女性は18歳~22歳、男性は25歳程度~30代と年齢差がありましたが、その他は同世代(同い年または2歳以内の年齢差)です。


また、友人・知人からも、同様の、ホテルや家に異性と2人きりだが、性行為は行わなかったというエピソードを聞いたことが複数回あります。


ホテルや家にいれば、性行為があって当然、女性が悪いなどという方々は、一体、どれほど下賤な世界に住んでいるのでしょうか。信じられません。

わたしは、そのような下劣な方と、少なくとも友人や恋人としてお付き合いする方のなかでは接触することなく生きてこられたことを、神に感謝します。


7 騙し討ちでの強制・脅迫があった上に、圧倒的な権力差がある中でのお礼メールは同意の証明にはならない


女性からお礼のメールがあったことを反証として考えられているようですが、圧倒的な権力差がある中で、事前に脅迫ともとれるような言葉を受けていること、さらに、松本氏が、「三人中二人は生理(最後まで性行為ができない人の隠語)だった」といって怒りを表していたことを考慮する必要があります。

同意のない性行為の強要に傷付いていても、権力者を怒らせてしまったことや、今後の芸能活動への影響を懸念し、挽回するようなお礼メールを送ることはあり得ます。

お礼メールは、同意があったことの証明にはなり得ません。


8 性加害直後に警察へいかなかったこと、8年前の出来事であることについて


性加害の被害者は、性加害を受けたことを認識し、他の人に話せるようになるまで、数年間を要します。

警察に行っても、詳細な供述や再現を求められる上に、証明することが難しい場合が多いです。

性加害に対する理解が、昔よりは進んだ今だからこそ、告白する勇気を得ることができた可能性が高いです。


9 性加害は深刻な人権侵害である


同意のない性行為の強要といった性加害は、魂の殺人といわれ、人間の尊厳を奪う、深刻な人権侵害です。

性加害の被害者がどれほど深く傷付くか、認識する必要があります。


私自身の体験ですが、職場で、おじいさんとしか思えない上司に、執拗にデートに誘われる、職務に関連性のないメールを連日送られるといった被害にあったことがあり、職務をすすめる上でコミュニケーションをとる必要があり、かつ、自分より権力のある人の対応に困りはて、強烈な嫌悪感を覚えた経験があります。

多くの場合、年配の男性から、年下の女性に対してこのようなことが行われています。

年配の男性は、自分より10歳以上年下の女性は、自分のことを恋愛対象としてみていないし、恋愛感情や性欲を向けられることは、嫌悪の対象でしかないと自覚する必要があります。


10 学校や司法の場における性教育やジェンダーバイアスの是正の必要性

日本では、自民党と統一教会との結び付きなどがあった結果、十分な性教育が行われてきませんでした。

性行為の際には、場所や状況に関わらず性的同意がある必要性があることなど、基本的なことについて、学校教育に取り入れていく必要があります。

また、法律の制定や裁判など、政治や司法における意思決定を男性のみが行い、女性の参画がなかったことで、性被害にあいやすい立場の当事者の意見が反映されず、加害者に有利な法律及び運用になってきた歴史があります。

昨年度に改正されましたが、意思決定への女性の参画を促進することで、より良い法律や運用になっていくことが考えられます。


「松本人志氏及び周囲の芸人、芸能界について」は、別途記載します。