松本人志氏の性加害報道を巡る言説について、意見の続きを述べます。

概要を先に提示します。
1 松本氏や周囲の芸人の性犯罪のエピソードや性加害を助長する発言は大変な問題であり、元々公共の電波を使用するテレビ番組に出演させてはならなかった
2 テレビ局の人権意識の希薄さ、ニュースバリューの判断の不可解さ
3 視聴率至上主義-テレビ番組は、広告収入をあげる営利事業であると同時に、公共の電波を使用する公共事業の側面があることを忘れてはならない
4 家庭における文化資本に恵まれない方のためにこそ、質の高い番組づくりを
5  新聞社とテレビ局の系列関係、電波利権の寡占、芸能事務所との癒着により、新聞社・テレビ局においては、報道の独立性が保たれず、本来の報道の役割を果たせていない
6 松本氏をはじめ、周囲の芸人等も調査し、性暴力を行ってきた人物は引退・被害者への補償を行うべき
7 芸能界全体の環境の改善を

本文を記載します。
1 松本氏や周囲の芸人による性加害の発言
前回記載しましたが、松本人志氏や周囲の芸人は、長年の間、性犯罪のエピソードを笑い話として話し、性加害を助長し、性犯罪の被害者を貶め、性被害を矮小化する発言を繰り返してきました。
本来であれば、この時点で、公共の電波を使用するテレビ番組からは降板させるべきだったと思います。
中には、週刊文春の報道後の、性加害の疑いの強い人物をテレビ番組に出演させるべきではないという意見の多さを、手のひら返しと感じられる方もいらっしゃるようですが、全く違います。
ずっと、このことを、大変な問題だと感じている人は多く存在していました。
性行為を断られ、冷凍鶏肉を投げつけた吉本興業所属の芸人のエピソードが放送された後は抗議が殺到し、松本人志氏と呂布カルマ氏出演のNHKの性番組の放送中止を求める署名は2万筆を超えています。
市井の、通常の人権意識をもつ人々は、長年の間、大変な問題であると感じており、問題意識を表明していたにも関わらず、テレビ局や芸能事務所が取り合ってこなかったのです。

2 テレビ局の人権意識の希薄さ、ニュースバリューの判断の不可解さ
テレビ局は、当事者間の問題である民事の弱小事務所所属の芸能人の同意のある不倫や、若手女優が映画のPR時にちょっとだけ態度が悪かったことなど、報道する意義の薄い内容はワイドショーなどで繰り返しとりあげます。
しかし、大手事務所所属の芸人や大手事務所社長などによる長年の性暴力、森友学園問題による財務省の文書改竄により職員が自死したこと、政権中枢の政治家が家族の殺人容疑の取り調べを中断させた疑いのあることなど、深刻な人権侵害や公権力の悪用などの真に報道する意義のある刑事事件は黙殺する傾向にあります。
性犯罪のエピソードや性暴力を助長する発言をおこなう松本氏や周囲の芸人を起用し続ける人権意識の希薄さ、また、上記のようなニュースバリューの判断の不可解さの要因は、「視聴率至上主義」「テレビ局に根強いホモソーシャル文化」「報道の独立性が保たれない構造」などがあると考えられます。

3 テレビ局の視聴率至上主義と公共性
テレビ局は、番組の視聴率をあげ、広告を出す価値を高め、広告収入を得ることにより利潤をあげるビジネスモデルの営利企業です。
よって、テレビ局は、営利企業として利潤をあげるため、視聴率至上主義に陥りやすく、結果的に人権意識が希薄になりやすいです。
視聴率至上主義に陥ると、人権意識が希薄になりやすい要因は2点あります。
1点目は、テレビを長時間視聴する層には、書籍や芸術に触れる時間の少ない、家庭における文化資本の少ない、深く思考する習慣のない方々が相当数いらっしゃること。
2点目は、芸能界全体で、人権をないがしろにする慣習が残ってしまっていること。
日本にかぎらず、世界的にも、芸能界のようなショービジネスの世界は、暴力組織が興業を取り仕切り、出演者となる方は、一般的な仕事につくことが難しい、旧来の身分制度の中で低い身分に位置付けられてしまった方や移民の方など、社会的に虐げられてきた方々が多くいらっしゃいました。
近年では、学歴の高い方や、一般的な家庭出身の方、中には華族の家柄の方なども参入するようになったようですが、芸能界全体では、まだ、人権がないがしろにされる慣習が残ってしまっています。
家庭における文化資本の少ない長時間テレビ番組を視聴する方々の人権意識と、歴史的に人権がないがしろにしてきた芸能界の慣習の双方を標準に設定した結果、市井の一般的な人々の人権意識と比較し、極端に低い人権意識になりやすいのではないでしょうか。
しかし、テレビ番組は、公共の電波を使用して放送される、公共性の高い事業である側面があります。公共性の高さと、社会的に与える影響の大きさ、責任を、忘れてはなりません。

4 家庭における文化資本に恵まれない方のためにこそ、質の高い番組づくりを
長時間テレビ番組を視聴される方や、女性蔑視のひどい年配の芸人の方などの現在の人権意識を標準に設定するのではなく、そのような方々のためにこそ、質の高い番組制作を行うべきです。
市井の標準的な人々は、テレビ番組以外にも、書籍や、大学がインターネット上で公開している学術論文、ニュースサイト、美術館など、様々な娯楽や情報に触れ、さらに、自分自身で思考することもできますが、テレビ番組のみ視聴している方は、テレビ番組の人権意識をそのまま吸収してしまいます。
テレビ番組の影響力の大きい方へ、新たな価値観を提示し、質の高い情報や考え方を、楽しみながら吸収できる番組を提供することは、社会的意義の高い試みです。

5  報道の独立性が保たれない構造
報道機関の根本的な役割の一つは公権力の監視であり、本来、政権における権力の濫用をとめる立場にあります。
また、社会的影響力の大きい芸能人についても、性暴力などの深刻な人権侵害を行っている場合は、報道しなくてはなりません。
しかし、実際には、ただ単に独身の同世代の男女が交際していただけ、という何一つ問題のない報道によって女性アナウンサーをテレビ番組から降板させるなど不当な処分を行う一方で、森友学園問題を追及したアナウンサーを番組から降板させる、財務省の文書改竄を取材し赤木雅子さんへ継続的に取材した記者を妨害する、ジャニー喜多川・島田紳助・松本人志による性暴力や政権幹部の政治家が家族の殺人容疑の取り調べを妨害したといった重大事件は扱わず、週刊文春のみがスクープする、財務省事務次官によりセクハラを受けた記者が自社で報道しようとするも阻止され仕方なく週刊誌に持ち込む、内閣記者クラブで、社会部出身の記者が質問を重ねると、質問するのは当然のことなのに、政治部の記者たちはまるで質問を重ねた記者が悪いかのような反応をする、と散々な有り様です。
公権力の監視、人権問題の是正、という非常に重要な報道の役割を果たせていません。
新聞社・テレビ局が、政権における権力の悪用や、大手芸能事務所所属のタレントの性加害などを黙殺する傾向にあるのは、新聞社とテレビ局が系列関係にあること、電波利権の寡占という既得権益があり政権からのメディアコントロールの一因となっていること、政治部記者と政治家の癒着、制作側と芸能事務所との癒着により、報道の独立性が保たれない構造であることが背景にあると考えられます。
週刊文春の力が強すぎるという懸念や、週刊文春は、儲かればいいだけ、というコメントをするタレントの方がいらっしゃいます。
しかし、大手新聞・テレビ局が、公権力の監視、人権問題の是正という報道の役割を果たしていない中で、週刊文春だけが、森友学園問題による財務省の文書改竄を原因とした職員の自死、政権幹部が家族の殺人容疑の取り調べを権力を悪用し中断させたこと、ジャニー喜多川、島田紳助、松本人志による性加害など、ニュースバリューの高いスクープを連発しているのです。週刊文春のみが、本来のジャーナリズムの役割を担っており、新聞やテレビ局の報道が機能不全に陥っていることの方が、大問題です。

6 性暴力の調査、引退、被害者への補償が必要
松本人志氏だけでなく、性加害の疑いの強い出演者は調査を行い、引退させる必要があります。
性加害の疑いの根強い、今田耕司氏、木村祐一氏、田村淳氏、遠藤章造氏、庄司智春氏、脇田 寧人氏、長渕剛氏などその他大勢を調査し、性加害を行っていた山本圭壱氏、板尾創路氏、日村勇紀氏、名倉潤氏その他の方たちも処分が必要です。

7 芸能界全体の環境の改善を
「枕営業」という言葉で矮小化するべきではありません。「性暴力」です。
オーディションと騙して呼び出し性行為を強要する、キャスティング権のある人物や司会者が性行為を強要し、断ると干す、といったことは、絶対にあってはならない、深刻な人権侵害です。
芸能界においてこのような性暴力の慣習がある場合、環境を是正する必要があります。