やっと今日から新学期が始まり、子ども達が出て行った。久しぶりに戻って来た静かな時間。朝の散歩をしていたところ、後ろから、「ハロー、アクサイ」と声をかける人がいる。
振り向くと、w夫人が双子用のベビーカーを押しながらやって来た。
w夫人は前にも書いたことがあると思うのだが、近くに住む老婦人でずっと里親をしており、預かった子はすでに数十人。現在は1歳ちょっとの女の子サラと生後数週間の男の子の赤ちゃんマーティンの二人を預かっている。
二人を連れて公園に行くというので、私も話をしながら一緒に歩く。
女の子の方は外出が嬉しいのか機嫌がいいが、赤ちゃんの方はウエン、ウエンとベビーカーの中で絶え間なく泣いている。前回会った時もそうだった。
「マーティンはね、抱っこしてほしいのよ。もうちょっと待ってね。公園に着いたらすぐ抱っこしてあげるから」
w夫人は時折声をかけながら歩を早める。
二人の里子を預かるのは若くはないw夫人にとって大変なことだろう。しかも一人はほんの赤ちゃんである。w夫人のところに来た時まだ生後2週間だったという。
「私も大変だとは思ったんだけど、他の里親仲間が全員バカンスで預かれないと言うから、だったら数週間だけ頑張ろうと思って」
が、数週間しても次の引き取り先が決まらず、w夫人もさすがに疲れてきたという。
「マーティンは夜2時間ごとに起きて泣くし、昼もなかなか眠ってくれないしね」
でも、と頭を上げる。
「どんなに疲れていてもこの子が泣いたら抱き上げてやるわ。ええ、そうですとも。そのままにしておくなんてとても出来ないわ」
私はこういう人に到底頭が上がらない。私だって子どもは好きな方だが、他人の赤ちゃんと数十分遊んで可愛いかったねーと別れるぐらいがせいぜいである。
自分の子どもだったら適当に手抜きをして、放っておくことも出来るが、これが他人の赤ちゃんだと責任感がずっしりとのしかかり、ちょっと泣き出してもビクッとしてしまうのではないか。
幸いだったのは、うちの子ども達は3人とも(1歳まで限定ではあるが)世話がしやすく、夜も2回起こされるぐらいで、(下の子にいたっては3か月で夜通し眠ってくれるようになった!)比較的余裕があったこと。
二人目と三人目は年子で大変だったでしょうと言われるが、最初の1年はどのみち寝てばかりではかばかしく動きもしなかったので、思ったよりは楽だった。動き出してからはやかましくなったけど・・・。
私のような母親のもとにマーティンのような赤ちゃんが生まれていたらさぞかしキーっとなっていただろうが、w夫人は優しく抱き上げゆらゆらしてやる。するとマーティンも嘘のように泣き止み、おとなしくあやされている。
「最近の若い人達、特に高学歴、高キャリアのカップルが子どもを持たない人が多くなっているのは残念ね。
キャリアを犠牲にしたくないとか、ぐずる子どもがイヤだとかねね」
w夫人はマーティンを揺らしながら続ける。
確かに 辛抱がいるし、重労働の割に誰に褒めてもらえるわけでもない。
ましてや自分の子でもない子を預かってお世話するなんて私には到底無理だと思う。
「私はこういうのが好きなのよ。誰かの面倒を見て、その子が何を欲しがっているか察し、発達に合わせて辛抱強く相手をしてやるとかね」
とw夫人。
最後の部分に当てはまならい愚母には耳が痛いわ。
「まあ、そんなことないわよ。サラはあなたに懐いているじゃない。この子は結構用心深くて、子どもはいいけど、大人は結構寄せ付けないのよ」
笑顔で私と砂遊びをするサラをみながらw夫人は取りなすように言ってくれる。私は昔からなぜか子どもには好かれるタイプなのだ。
眠ったと思ったマークはベビーカーに寝かされた途端、またまたエンエン。
ああ、今日はもうダメね、家に帰らなきゃ。とサラもベビーカーに乗せ、家路につくw夫人。私もお供をして家までついて行った。
いつか、私が誰も預かっている子がいない時、一緒にお茶でも飲みましょうね。とw夫人。
ぜひ、と言いつつ、そんな日は訪れるのかしらと心の中でつぶやく私。親切なw夫人は途切れることなく小さな子供を預かっているのだ。