ドイツ、悪妻愚母のよもやま話 -20ページ目

ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

主婦にして家事はおざなり、興味あることだけ、猪突猛進の悪妻愚母のドイツ生活

ラティーナのパトリシアがパーティーを主催、となればどうしたって音楽やダンスが入らないわけがなく。

食事が一段落すると、さっそくタブレットのスピーカーからミュージックスタート。ダンス教室で使われたおなじみの曲が流れる。

最初は座って見ていたのだが、ラテンミュージック、それもサルサが始まるとパトリシアが「さ、アクサイ、こっち来てこっち来て」と引っ張られ、腰を上げる。横では既にアニータがフランス人マダムをリードして男役を引き受けている。私もサルサ音楽だとついつい体が動き、また相手をしてくれるのがパトリシアなので、とても楽しく体を動かせられる。やっぱり相手によるよなあ、サルサって。

 

その次は、アニータがお相手。音楽が鳴り始めたとたん立ち上がり、踊り出していたアニータ。大きな笑顔でリズムが体から流れ出すよう。ああ、ラティーナがラティーナらしさを存分に発揮している瞬間て本当に見とれちゃうわ。

 

「ねえねえ、コロンビア人ってみんながみんなダンスできるの?」

と聞いたら、「ええ、まあそうね」と言う答えが返ってきた。

「だって子どものころから鍛えられるもの。ダンススクールに通ったことなんてないわよ。親戚の集まりとかで、おばさんに、『さあこっちおいで―』って相手させられ、教えられてみんな自然に踊れるようになるの」何とも羨ましい話だ。

 

確かにみんなダンス先生になれそうなほど上手なのだが、素人がやりがちな派手なオーバーリアクションがなく、自然に踊りが見についている感じ。

しまいには齢80歳を超えるというパトリシアのお父さんも加わり、目が合った私は中央に引っ張られる。

ご高齢だし、動きは小さいけど、静かに楽しんでいる感じが伝わってくる。

これはなんていうジャンルのダンスなのかしら。右へくるくる、さらにくるくる、ずっとくるくるで、お父さん!目が回りそうですー。でも楽しかった。

「とても楽しかった。あんさんはダンスが上手じゃよ」

優しく褒めてくれるお父さん。これがイケスカとかだったら、「やれば出来るじゃないか」の一言に決まっているわ。

 

「あー、もう本当に来世はアニータと結婚して毎晩踊りに明け暮れたいー」

と言うとみんなに笑われた。

「きみはラティーナの血が日本人の体に流れている日本人女性だね」

とパトリシアの旦那さんにもお世辞を言われ、嬉しくてイヒヒと笑いをかみ殺す私。

イケスカおっさん達と数か月練習しただけの私が、本場のラティーノ様達の足元にも及ぶはずがないが、お世辞でも何でもほめてもらえるのはうれしいではないか。いい気にさせるのが上手い人達だなあ。そうだよ、世の中、真面目なことばっかり言ってたらちっとも楽しくないじゃない。

 

帰りの道はマレーシア人マダム、ミナが途中まで送ってくれるというのでありがたく同乗させてもらう。

他にもインドネシア人のスサンティとフィンランド人のパオリーナと一緒で、車の中は多国籍4人というこれまた今日の夜を締めくくるのに相応しい顔ぶれ。

 

このフィンランド人のパオリーナは、クールビューティーで色が抜けるように白く、金髪で目が緑色に近い。最初はひんやりした感じで近づきにくかったのだが、慣れてくると、途端に笑顔で人懐っこさを見せるようになってきた。ドイツ人に似てドイツ人と違うところ。ドイツでフィンランド人に会ったのは彼女でまだ二人目。この未知の国にも果然興味がわいてきた。

4人に共通するのは、みんなダンスするのは好きだけど、旦那さん達は一向に踊りに興味がないという欲求不満。ドイツ人の旦那さんってホント、踊らないよねーとぶうぶうみんなで言いたい放題。

 

ともかくこのクラスに出会えたのは本当によかった。

また秋から始まるクラスでにみんなに会えるのが楽しみだ。

 上の娘と朝の散歩から帰って一息ついていると、ピンポーンとチャイムの音。

 戸を開けると、さっき散歩の途中ですれ違った、若い女性の二人組が立っていた。

 一人は30代ぐらいで大柄な花柄のワンピースに白い麦わら帽子、金髪に真っ赤なリップが印象的なもう一人は、20代の半ばか。この辺では見かけたことのない顔だ。

 

 金髪に赤リップの方が進み出て、にこやかに、

「こんにちは。さっき散歩の途中でお会いしましたよね。私達、神の素晴らしい言葉を伝えるため、この辺を回っているんです」

 出た!宗教の勧誘だ。

 こういうのは今までも時々あって、その度にあまりつっけんどんに対応できない私は困ってしまう。旦那など何の迷いもなく、宗教と聞いたとたんに「ああ、うちはそういうの関心ないんで」とさっさと打っちゃって平気な顔をしているのに。

 

 赤リップはドイツ人らしくテキパキと、バッグからタブレットを取り出し、聖書の中のフレーズなのか何だか、文章を私に見せた。怪訝な顔をしている私に、自ら数フレーズを音読。

 

「ね、おわかりかしら。このメッセージ。もし世界が本当にこのようだったら素晴らしいと思いませんか」とうっとりした顔つきで私を見る。

 

私は、本当に心からこういう事を信じられる人っているんだ、とそっちの方が不思議で、「はあ、・・・はあ・・」と浮かない顔で適当に相槌を打っていた。

 

赤リップの方は、自分の陶酔に対して、私の反応がはかばかしくないのを見て、我に返ったように少し眉をしかめ、

「あの、あなた、私の言っていることおわかりかしら」と聞いてきた。

 

私は相変わらずアホみたいにとまどった表情を崩さず、しかし頭の中は逆にフル回転。こいつ、私がドイツ語が解るかどうか知らないな。よし、ここは思い切って「私ドイツ語分かりません作戦」だッ。

 

「ああ・・・、ええと・・あの、まあある程度は(分かりますけど)・・・」私は思いっきり下手くそなドイツ語で話し始めた。

「私の、えー、マイ、ジャーマンは・・あの、その、あんまし上手くなくてぇ・・・」

アホさを強調するため、わざと英単語まで散りばめたりして。ドイツ語の拙さを恥じるように目を伏せてちょっと照れ笑いも追加。この女性に、ダメだ、このアジア人は脈がないと一刻も早く諦めてもらわねば。

 

果たして赤リップは取りなすように笑い、「聞くことはできても話す方が難しいのよね。そういうものなのよね」と勝手にしたり顔。私は心の中で笑いながらおとなしく「ええ、はい・・・」と相変わらず自信なさそうに答えた。

 

女性は、あなたは中国の方かしら。私達、中国語のウェブサイトもあるの。どう、あなたどの国から来たのと言いつつ、名詞ケースをガサゴソ探って、中国語の名刺を探している。

 

私はこんな人達に自分のアイデンティティを教える必要もなかろうと思い、「はい、私中国人です」と口をついで出てしまった。これで中国語の名刺をもらったら完全おさらばよ。

ところが赤リップは嬉しそうに、「まあ、よかった。実は私の妹が中国語をしゃべれるのよ。今度一緒に連れてこようかしら。そうしたら彼女が中国語で説明してあげられるわね」

ゲゲッ。とんだ誤算だった。妹が来たら私のニセ中国人がバレてしまうではないか。絶対来てほしくないっつーの。

しかし今更、あれは嘘でしたと言うわけにもいかず、内心の苦悶を隠し、作り笑いで二人を見送った。

 

ドアを閉めた途端、戸口の後ろに隠れて笑いをかみ殺していた娘と目が合い、二人でぶはっ。

娘が笑い転げながら「もうママったら、最高だったわ。アホみたいな顔で私はドイツ語が分かりませんとか言っちゃって。私一部始終を録音していたわよ」とスマホをかざす。

 

録音の会話を聞いてもう一度大笑い。最後の方は中国人に聞こえるようわざとシュの音を強調したりして、私も芸が細かいわな。見事に騙されよった。

今度から、宗教、その他の勧誘が来た場合はすべてこれで乗り切ろう。私はドイツの田舎に住むおバカなアジア人。ドイツ語は難しくて分かりません。しかし中国人と名乗るのはよした方がいいな。昨今こちらでも意外に中国語を習っている人が多いのだから。

 

 

金曜日の夜はダンスの先生、コロンビア人のパトリシアがホームパーティ―を開き、私も招待されてお家まで行ってきた。

フレンドリーでダンスの大好きな彼女は、ダンス教室のメンバーみんなを誘ってくれた。一人一品料理を持ち寄って、踊ったり食べたりして夏の夜を楽しみましょうという素敵な企画だ。

 

招待された18時半ごろお家に着くと、ダンス教室の顔なじみガビーが一足先に来ていた。紫のシャツに花柄のロングスカートなど履いて、いつもよりくだけた感じ。

私は彼女のこと、悪い人じゃないけど、典型的なドイツ人というか、笑わないし、とっつきにくいし、と、どちらかと言うと苦手意識を抱いていたのだが、他の人がまだ来ないので仕方なく隣に腰を下ろして待つことにした。

何もしゃべらないわけにもいかないので、適当に世間話を始めたのだが、意外と話が弾んで、彼女も3人のお子さんがいること、一番下の子はダウン症で成人しても彼女のサポートが必要で、他の人が見えない彼女の恐れ、悩みは母親の自分しかわからないとなど、深い話も出来、教室で知っていた彼女は本当に表面的なところしか見えてなかったんだなと実感。おまけにちょっとだけ面白い所もあって、二人で笑ってしまったし。

 

続いて明らかに外国人と思われる女性が笑顔で入ってきた。ドイツ語があんまり得意じゃないので、と英語交じりで話し始めたのだが、初対面なのに笑顔を絶やさず優しく明るく、同じヨーロッパ人でもこんなに違うんだとまじまじ顔を見てしまう。笑いながら話す人ってそれだけで衝撃的なんですわ、私にとって。さっそく聞いてみると、コロンビア出身とのこと。なるほどねぇ~。

 

そうこうするうちに、段々と他のゲストも到着したのだが、これがまたすごいインターナショナルな顔ぶれで。

総勢14人の女性+パトリシアの旦那さんとコロンビアから遊びに来ているお父さんなのだが、国籍の内訳を見てみると・・・。

ドイツ、コロンビア、イタリア、フランス、フィンランド、日本、インドネシア、マレーシア、カザフスタン、何と9か国!

お庭に用意されたテーブルには各国の料理が並び、テントには国旗が貼られている。

ガーデンパーティーというくだけた雰囲気のせいか、パトリシアの親しみやすい人柄のせいか、和やかな雰囲気で、そこここで小さな輪ができ、話が弾む。パーティーらしくみんな花柄のワンピースや大きなアクセサリーなどオシャレしているのもレギンス姿しか知らない教室とは違うところ。

 

コロンビア人のお友達アニータにも思いがけず再会できた。そもそもパトリシアと知り合ったのも彼女を通してだった。みんな彼女繋がりなので、最近こちらで知り合うスペイン語圏の人はすべてコロンビア人である。

今日のアニータは、黒いワイドパンツの上にこれ以上は派手にはなりませんというぐらいビビッドなショッキングピンクのブラウスを着て、同じ色の羽根のピアスを垂らしているのだが、このはっきりした色がアニータの褐色の肌に物凄く似合っている。私などがこれを着た日にゃ悪目立ちして完全に服に負けてしまうが、アニータだと色に引き立てられ、さらにパワーアップして見える。さすが。

 

 

私はドイツ人マダムのヴェロニカの隣の席に座っていたのだが、こちらから「そう言えば、7月の初めにマジョルカにバカンスに行っていたのよね。よかった?」と話しかけ、そこから色々話が広がって、彼女が元ルフトハンザのスチュワーデスだったこと、現役時代は何度も東京に行ったことがある、という事を聞き出し、またまた話が弾む。

しみじみ実感したのだが、ドイツではこっちから積極的に行かなくては誰も振り向いてくれないけど、興味を持って話しかけてみるとむこうも色々話してくれて広がっていく。もっとも、この外国人に臆さず外国語で色々話しかけてみる、という境地に至るまでに、勇気の面からも語学力の面から言っても相当長くかかったわけだけど。

 

みんなセレブでもなんでもない庶民で、年のころは40の終わりから60代頃で、体型も肌の色も違うが、人柄がよく、ダンスが好きということは共通している。

 

私は人に興味がありすぎるので、すぐにあなたはどこから来たの、趣味や苦手なことは?なぜドイツに?と矢継ぎ早に知りたく、早く深いところにたどり着きたいと勇み足になってしまう。そして表面的な世間話が続くと、勝手に失望して、ああ、上っ面の関係しかできないとなってしまうのだが、普通はもう少し時間をかけてゆっくりとお互いを知っていくものだとわかった。

 

普通ならこのまま座って飲み食い、おしゃべりに興じて終わってしまうのかもしれないが、なんせコロンビア人が5人もいて音楽と踊りがないわけがなく、食事が一段落すると、さっそくダンスパートになるのだった。(続き)

みんな核心に迫ってきたという手応えでそわそわしている。

「でも、電車に乗り込んだ時は見えていたわけですよね」

「ヤー」

「男は自分がトンネルに入っているという事実を知らなかったんですか」

「そう、知らなかったの」

「男は・・・トンネルの中で視力を失ったんですか」

「おしい!そうではないんだけど、視力を失った、と思ったのよ」

「てことは・・・、トンネルにさしかかる前まで彼がしあわせだったのは…見えていたから」

「そうよー」

先生はニヤニヤしている。

 

ちょっと待って。今までの謎解きプロセスをまとめてみると・・・。

男は電車の旅が始まった時は幸せだったのに、電車がトンネルの中に入った時、何も見えなくて絶望した。そして自殺した。

 

もう一息、もう一息だ。ゼィゼィ、ハァハァ。みんな猫が鼠に飛びかかる前のような顔つきをしている。

 

「じゃあちょっとヒントを上げるわ。彼はね、目の手術を終えて故郷に帰る途中だったの。それで喜んでいたの」

 

「手術は成功したんですか!?」

「ヤー」

「先生!という事は、彼は手術をするまでは盲目だったのですか?」

「ヤー!」

 

ということは・・・。そろそろと私のいつもはあまり回転が速くない頭が動き始める。

「男は物が見えるようになって嬉しかった。ところが電車がトンネルの中を通過し始めた時、再び彼の世界は真っ暗になった。・・・そして彼は絶望した。つまり・・・つまり、彼はトンネルを知らずに自分が再び盲目になったと思い込んだ。それで絶望して死んだ!」

「当りー!!!」

 ワーとクラス中が盛り上がった。ふう、そういう事だったのね!

何十回と質問を重ね、ようやく答えにたどり着いたという安堵でみんなスポーツをした後のようにすっきりした顔をしている。今思い返してみても、これだけゲーム感覚で盛り上がったドイツ語の授業は他にはなかったかも。

 

今回ネットで調べてみたところ、この話には続きがあって、もし男が喫煙者用の車両に乗っていたなら死を図ることはなかっただろう。なぜならシガレットの小さな火が見えただろうから。というご丁寧な一文がついている。なるほど、うまいなあ。

娘も感心し、翌日学校でお友達に披露したという。

 

ネットではこの手のブラックストーリーは20種類ぐらいみつかった。必ず登場人物が死んでいるという所がポイント。息子も上の娘も学校でやったことあるというので、ドイツではポピュラーなのだろう。こういうブラックジョークが小噺のネタになるのがドイツ語っぽいところ。

日本ではあまりないタイプの謎々かもしれないけど、話のきっかけになるかもしれないし、知っていると面白いかも。

 

それにしても、あの頃国際色豊かなクラスメートと謎解きに興じていたのは昨日のことのようなのに、気がついたら自分の娘と同じトピックで盛り上がっているなんて。そりゃ21年も前の話なのだ。自分も齢を取るはずだわこりゃ。

夏至が過ぎたとは言え、ドイツの夏は日が暮れるのが遅い。

午後9時過ぎでもまだ明るく、最近は時々下の娘と散歩に出かける。

散歩の途中で娘が、「ねえねえ、ママ、今週はドイツ語と生物の授業の時、先生がブラックストーリーをしてくれて楽しかったんだよぉ」

と言う。

「ブラックストーリーたぁ、何だね」

とたずねたところ、以下のように説明してくれた。

 

「 一人の男が死体となって地面に倒れていました。側にはひもで縛られたままの箱が置いてありました」

さて、何が起こったのでしょう。という謎々。

 

答えは、男はスカイダイビング中、パラシュートが開かずに地面に落ちて死亡、側には開かなかったパラシュートの装置が入った箱が落ちていましたとさ、というもの。

 

 後ろから答えだけを聞くと、あっそう、であっさり終わりという感じなのだが、このブラックストーリーの面白いところは謎解きのプロセス。こちらは色々な質問をするのだが、出題者はイエスかノーしか答えられない。そしていつも登場人物が死んでいるというのがミソで、こちらはそのミステリーに引き込まれ、一つしかないヒントから謎を解き明かそうと、ついつい躍起になって矢継ぎ早に質問をくり返すのだ。

 

 あ、これ、何かやったことがある・・・。娘の話を聞いているうちに何やら記憶のかなたから呼び覚まされるものがあった。

「ね、タミちゃん、ママもそれやったことがあるよ!20年も前、語学学校でドイツ語を習っていた時、当時の先生が教えてくれた」

思い出して膝を打つ私。もう二昔も前になるが、トルコ人、スペイン人、ウクライナ人、インド人そして日本人と国際色豊かなクラスだった。

 文法の合間に先生が出してきた頭休めの遊びが、今思い出してみるとこのブラックストーリーだった。

 

みんな段々膝を乗り出し、前のめりになって、先を争って質問したのをおぼえている。ブラックストーリーはいくつもあったのだが、ただ一つを除いて皆忘れてしまった。私が覚えているのはこの一つだけ。理由は唯一私が正解を当てたからというのと、思わずニヤリとしてしまうぐらいひねりの利いたブラックジョークだったから。

 

タイトル:トンネルでの死亡

「男は幸せな気持ちで故郷へと帰る電車に座っていました。しかし電車がトンネルを過ぎた後、男は突然死んでいました。さて何が起こったでしょう」

 

さっそくみんな先を争って質問を始める。

「男は事故にあったのですか」

「ナイン(ノー)」

「電車には他の人はいたのですか」

「ナインー」

「男は自分で自分を殺したのですか」

「ヤー(イエス)」

!!!

「てことは、男は最初幸せだったのに、突然絶望して死んだってことですか」

「ヤー」

「トンネルの前は幸せだったのに、トンネルの中で何かひどい出来事があったってこと?」

「まあそうね、ヤー」

 

「最初男はなぜ幸せだったのですか」

「それは言えないわ。ヤーかナインしか言えないのよ」

うーーーー もどかしい

「トンネルの中で暴力があったのですか」

「ナイン」

「男はどうやって自分を殺したのですか」

「それは謎解きとは関係ないの」

ますますわからなくなってくるー

「トンネルの中で何か事故があったのですか」

「ナイン。でもいい質問ねー。そこをもうちょっと掘り下げてみて」

 

先生はたっぷり楽しそう。そりゃあそうだろう。自分一人が答えを知っていて、生徒たちは焦れじれしながら、ああでもない、こうでもないと身をよじっている。

 

「トンネルの中で男は何か見たんですか」

「いいえ、何も見えなかったのよ。いい、な・に・も見えなかったの。それで男は絶望したの」

 

 この一文がみんなの中にカチッと音を立てた気がする。

 さてミステリーの続きやいかに。

 続きは次回。