美濃の国における「土岐氏」「斎藤氏」「明智氏」の関係について、あらためて解説。

麒麟がくる、明智光秀はいずれ近江(滋賀県)を本拠地にしますが。現在のところ、どっぷりと美濃(岐阜)人です。

そこで、美濃国内の階層構造について、改めてまとめて解説します。

土岐家は、京都の幕府幕府から、美濃（岐阜県南部）の家「守護」に任ぜられています。建前は京都から派遣されている県警本部長みたいなものですが、実際は代々世襲しているので、実際は美濃の国主のようなものです。

守護は京都に住むことを義務付けられていて、任地にはたまにしか帰りません（守護在京制、といいます、参勤交代といってきっちりした制度はまだない）ので、地元の政治は「守護代」という地元採用の家来に任せきりになることが多い。そのため多くの守護は、この「守護代」に実質的に国を乗っとられて、飾りものになったり、追放されたりすることになるケースが多い。この現象を「下剋上」といいます。

斎藤家は、美濃の「守護代」の家です。とはいえ、斎藤道三はもともとは京都の油商人の息子で、二代かけて美濃の政治に食い込み、ついに実権を握った男で、美濃支配のために「斎藤」という守護代の家の姓を名乗っているだけです。つまり「斎藤」家は地元の豪族ですが、「斎藤道三」と名乗るあの人物（本木雅弘）はその子孫ではなく、京都の商人の息子です。そのため「あいつはもともとヨソ者だ」といって、素直に従わない美濃の豪族もいます。

明智家は、美濃明智郡に土着した土岐氏の分家の一族です。明智の所領と領民を守ることに代々、命を懸ける「一所懸命」の典型の「国人領主」です。美濃のなかでそれなりの勢力を持つ一族であり、形式的には守護・土岐氏の家来です。

同じ土岐の家来の斎藤氏は「上司」ではあっても「主君」ではありません（今のところ）。
道三の正室（小見の方・帰蝶の母）は、明智光安（西村雅彦）の妹です。当時の武家では、「正室」は同盟の手段ですから同格の家から貰い、「側室」は子供を産むためのスペアですから家来の家から取ります。

小見の方が正室になっているということは、明智は斎藤の家臣ではなく、同格である、ということになります。

だから、道三は明智光安を呼ぶときに「光安殿」と敬称をつけています（いまのところ）。

ただし、道三は守護の土岐頼純を毒殺し、さらに頼芸（尾美としのり）を追放して、名実ともに美濃の国主になり（戦国大名といいます）、国人たちを名実ともに家臣に組み込んでいきますので、次第に主君っぽくゾンザイになってきます。

土岐家の主君は、京都の将軍です。もはや形式的にではありますが、土岐氏は幕府から美濃の守護に任命されている立場ですから。駿河の今川氏、甲斐の武田氏なども同じですから、「将軍の命令」には、弱いところがあります。

斎藤道三は、実力で美濃の国人領主たち（国衆、といいます）を掌握し、実質的に美濃の領主になっています。でも、主君である守護の土岐氏を、簡単には追放したりはしません、飾り物として上座に据えて「私は家来です」と崇めています、そうしないと、美濃国内に不満分子ができてしまい、面倒だからです。

こういう例は日本の歴史ではどこでも普通にあります。朝廷では天皇が飾り物になり藤原氏の摂政関白が権力を握る、鎌倉幕府では将軍が飾り物になり北条氏の執権が権力を握る、このミニ版がどこの国でもある、ということです。「権威」と「権力」は分離するのが、日本のあらゆる組織のセオリーです。

ちなみに尾張の守護は斯波氏（足利一族の名門）ですが、これも応仁の乱だなんだと京都で内乱してるうちに、守護代の織田家に尾張を乗っ取られ、いまは飾り物として小さな城に住まわされている、美濃の土岐氏と同じ境遇です。織田信秀の家（織田弾正忠家）は、さらにその分家の、奉行から実力で成り上がってます。ちょうど、土岐氏と斎藤道三の関係と似たようなものです。

つまり斎藤家と織田家は（いまのところ）両方とも正式な国主ではなく、守護の家来同士です。とはいえ実質はもう完全に政治を掌握している戦国大名ですので、自分の責任で同盟でもなんでも結びます。

守護は飾り物とはいえいちおう主君ですから、無視しているわけではありません。形式的に承認を求めますかど、あくまで単なる形式です（いまの天皇陛下が、政府や国会が決めたことにハンコ押すのと同じ）。

土岐も斯波も、不満があっても表立って反対はできません。あまりに主君ズラして反抗していると、いずれ追放されたりします（土岐も斯波も、もうすぐそうなります）。