トム・ハーパー監督、フェリシティ・ジョーンズ、エディ・レッドメイン、フィービー・フォックス、ヒメーシュ・パテル、トム・コートネイ、アン・リード、ティム・マッキナリー、ヴァンサン・ペレーズほか出演の『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』。2019年作品。

 

 

1862年のロンドン。気象学者のジェームズ・グレーシャー(エディ・レッドメイン)と気球操縦士のアメリア・レイ(フェリシティ・ジョーンズ)は、気球で前人未到の高度への飛行を試みようとしていた。そのために観測による気象予測の将来性を訴えて資金を募るジェームズだったが、気象予報が占いの類いと同類のように見做されていた当時、有力者たちの理解を得ることは困難だった。

 

映画の内容に触れますので、まだご覧になっていないかたはご注意ください。

 

この映画はたまたまあるミニシアターのロビーのモニターで予告を観て興味を惹かれたんですが、シネコンでもやってるにもかかわらずTVでも劇場でも予告篇を目にすることはなかったし、この作品の存在すら知らない人が結構いるんじゃないだろうか。

 

これは気球で高度1万1000メートル以上を酸素ボンベを使わずに上昇したふたりの冒険者たちの実話を基にした物語で、彼らの偉業は気象予測の精度を上げることに大きな貢献を果たしたとともに、ガス気球によるその最高高度到達記録はいまだに破られていないのだそうで。

 

見せ場はなんといっても空の上での飛行シーンなんだけど、ちょっと『天空の城ラピュタ』を思わせる描写(雲の中に突入したり、気球の上に昇って作業したり)もあったりしてなかなか見応えがありました。僕は通常の上映で鑑賞しましたが、こういう作品こそアトラクションとしてIMAXや4DXなどで観られるといいのにな(撮影も一部でIMAXキャメラが使用されている)。

 

 

 

主演のフェリシティ・ジョーンズとエディ・レッドメインは、レッドメインがホーキング博士役でオスカーを獲った『博士と彼女のセオリー』以来2度目の共演。『博士と~』はあいにく僕は未鑑賞ですが。

 

フェリシティ・ジョーンズは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の主人公役が印象深かったし、先日たまたまDVDで『ビリーブ 未来への大逆転』を観たばかりなので、活躍してるなぁ、と。

 

溌剌とした行動的な女性の役が続いていますね。

 

これはアマゾン・スタジオズの製作で現在Amazon primeでも視聴できるようですが、せっかくの機会だから可能なら劇場での鑑賞をお勧めします。

 

公開開始から結構時間が経っていることもあって、僕が住んでいるところではもうすでにどの映画館でも一日の上映回数が1回限りになっていますが、雲を突き抜けて気球が昇っていくあの映像の迫力と臨場感はやはり映画館のスクリーンで味わってこそだと思うので。

 

この映画は評判がいい一方で、史実からは大きく変更されている部分があって、実際はヘンリー・コックスウェルという男性気球操縦士だったのを女性の架空の人物に替えている。そのため、実在の人物の名と業績をないがしろにするものとして批判もされている。

 

これも19世紀が舞台のミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』で実在の興行師P・T・バーナムを主人公にしながら物語のほとんどがフィクションで、しかも史実のある部分をまったく描いていなかったために(今回とは逆のパターンでモデルとなった人物に不利になることだが)やはり批判されたのを思わせる。

 

この『イントゥ・ザ・スカイ』には冒頭で「Inspired by a true story(事実から着想を得た)」と断わりが入るから、僕も主人公のひとりであるアメリア・レイがまさか架空の人物とは思わなかったし、そこは非常に微妙なところではある。

 

「世紀の飛行」を行なったのが男性二人組よりも男女のペアにした方が「物語」として面白いと判断したんでしょうが、「ポリコレ厨」がどうのこうの、と言いたがる輩がここぞとばかりにドヤ顔で批判してくるのが目に見えるようだし(地上で彼らの気球を見物している観衆の中に盛装のアジア系の女性がいたり、ジェームズの友人がインド系だったり、いかにもPCに配慮した配役がしてあるだけに)、映画のクライマックスのように操縦士が上昇を続ける気球の上部へ昇ってギリギリのところで排気弁を開けてジェームズを死の危機から救ったり、彼らがそれまで誰も成し遂げられなかった記録を打ち立てて後世の気象予報の礎を築いたのは事実なので、それを架空の女性キャラがやったことにしてしまったのはどうなのか、とは思う。

 

 

 

 

だったら“事実”云々の字幕もいらなかったんじゃないの?と。「事実にインスパイアされた」というのは嘘ではないけれど、紛らわしいでしょ。

 

ただ、フェリシティ・ジョーンズが演じるアメリアが魅力的なヒロインであることも確かなので、そこはなかなか悩めるところ。

 

アメリアのモデルになったのはこれも実在の人物で史上初めて女性でプロの気球乗りになったフランス人ソフィー・ブランシャール(1778-1819)で、映画の冒頭でアメリアがまるでサーカスの軽業師のような出で立ちで大勢の観衆の前に現われてクルクルと前転してみせたりしていたのは、ソフィー・ブランシャールの時代には“気球”というのは見世物の一種で、だから彼女は芸人のような存在として見られていたので、それをアメリアのキャラクターに取り込んでいるんですね。

 

 

 

アメリアの亡き夫ピエール(ヴァンサン・ペレーズ)がフランス人という設定なのも、ソフィーの夫で同じく気球乗りだったジャン=ピエールをモデルにしているから。

 

ソフィー・ブランシャールは彼女の人生自体が波乱に満ちていてとても興味深いので、それこそフェリシティ・ジョーンズ主演で映画化してほしいぐらい。

 

なので、アメリアは架空の人物ではあるけれど、まったくモデルの存在しない作り物というわけでもなくて、気球にまつわる歴史の先駆者ということでは接点はあるんですね(アメリア、という名前は女性初の飛行機での大西洋単独横断を達成したアメリア・イアハートを思わせもする)。

 

この作品はアメリアとジェームズが気球で最高高度に到達してから地上に戻るまでと映画の上映時間がほぼ同じような作りになっていて、そこに主人公ふたりの回想が挟まれる構成。

 

当時はまだ気球での飛行が貴族や金持ちのお遊びのように捉えられていたこともあって、後ろ盾のないジェームズがどれだけ資金調達に苦労したかが描かれる。

 

パーティに潜り込んで資金を提供してくれそうな者を捜していたジェームズは、アメリアに目をつける。

 

 

 

 

アメリアはアメリアで、かつて自分の不注意から気球が墜落の危険に晒されて、その彼女を救うために夫がゴンドラから空に身を投げて帰らぬ人となったことが心の傷となって気球から遠ざかっていたが、ジェームズの情熱にほだされて再び大空に挑戦することにする。

 

アメリアの妹アントニア(フィービー・フォックス)は姉が気球に乗ることを快く思っておらず、そこは社会における女性の地位や権利についての問題と絡めてもいる。それは偏見との戦いでもあった。

 

 

 

史実通りではないが、“星をつかむ者”を一組の男女にしたことにはちゃんと意味が込められている。

 

気球の空の旅を描く作品なんだからそこをクローズアップしているのは当然ではあるんだけど、正直なところアメリアの地上での人間ドラマももっと見たかったほど。

 

規模としてはそんなに派手なスペクタクルではないですが、観ているこちらも一緒になって彼らと空を冒険しているような気分になる。

 

僕は実は高所恐怖症なんですが、ここではあまりに高過ぎるので(もはや地上はよく見えない)現実味が薄れてかえって怖くはなかった。

 

ただ、これを座席が動く4DXで3D映像で観たら、ほんとに肝を冷やしただろうな^_^;

 

 

 

 

フェリシティ・ジョーンズとエディ・レッドメインは地上から2500メートルの上空で気球に乗っての撮影も行なったのだそうで、映像のリアリティはその成果なんですね。

 

今月も観たい映画がいっぱいあるので難しそうだけど、本当はこの映画をもう一度ぐらい劇場で観たいんですよねぇ。なんだか清々しくなる映画だったから。

 

劇中で引用されるエドマンド・スペンサーの詩「蝶の運命」を読んだことはないですが、はるかかなたの空の上での蝶の大群との遭遇というファンタスティックな現象に、生命のたくましさを感じました。

 

 

 

自然の驚異の前では人間は弱くてちっぽけな存在だけど、それでも羽のない人間が空を飛ぶことができるようになったのも、今日では天気予報が当たり前になっているのも先人たちが限界を超えようと挑戦し続けてきたおかげ。星をつかもうとする飽くなき探究心の賜物でしょう。

 

空の上で昼と夜の境目が見えるような凍てつく場所までたどり着いた者たちの驚くべき冒険を堪能しました。

 

 

 

関連記事

『ワイルド・ローズ』

『シカゴ7裁判』

『リリーのすべて』

『ザ・ウォーク』

 

 

戦争と平和 DVDBOX 戦争と平和 DVDBOX
13,514円
Amazon

 

スペンサー詩集 スペンサー詩集
9,900円
Amazon

 

Travels in the Air Travels in the Air
6,285円
Amazon

 

↑もう一つのブログでも映画の感想等を書いていますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします♪

 

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ