サーシャ・ガヴァシ監督、アンセル・エルゴート、クロエ・グレース・モレッツ、キャサリン・キーナー、デヴィッド・ストラザーン、ジャレッド・ケンプ、コリー・ハードリクト、テリー・キニーほか出演の『クリミナル・タウン』。2017年作品。

 

原作はサム・マンソンの小説。

 

ワシントンD.C.に住む高校生のアディソン(アンセル・エルゴート)は、親友のケヴィン(ジャレッド・ケンプ)が何者かによって殺されて警察が事件の原因をギャング同士の抗争として捜査していることを知り、幼馴染のフィービー(クロエ・グレース・モレッツ)とともに独自にケヴィン殺害の真相を追う。

 

クロエ・グレース・モレッツの出演作が劇場公開されるということで少し前からチェックしていたんですが、僕が住んでるところでは上映館は1館のみ、しかも2017年の作品で共演は同じく去年公開されてヒットした『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴートにもかかわらずまったくといっていいほど話題になっていないことからも、まぁ、だいたい作品の出来については予想がついていた。

 

でも、せっかく映画館で上映されるんだし、チケット代はお布施のつもりで観にいこう、と^_^;

 

そして予想通り、アメリカでの評判は散々でロッテントマト(Rotten Tomatoes)での評価は2018年9月現在、映画批評家の肯定的な評価は驚愕の0%。一般客の評価は肯定的なのが24%。悲惨過ぎる数字。

 

観客の数自体が圧倒的に少ないんだろうし、評論家はろくに観ていないんでしょう。

 

観る前からそういう結果を知っていたから期待もしていなかったけど、ロッテントマトでの評価が絶対というわけでもないから、とりあえず自分の目で確かめてみよう、と。

 

で、観終わって、まず湧いてきたのは「なぜこれを今日本で劇場公開したのか」という疑問でした。

 

ぶっちゃけDVDスルーで全然構わなかったのではないか、と(;^_^A 本国アメリカでの大コケぶりのあとにこちらでわざわざ公開する意味がわからない。しかも夏休みも終わろうとしてるこの時期に。

 

担当者にクロエとアンセル・エルゴートの猛烈なファンがいたんだろうか。

 

『ベイビー・ドライバー』が当たったから、これもイケるんじゃないかと踏んだのか。

 

もしかして『ベイビー・ドライバー』よりも前に作られた映画なのかな?と思ったけど、確認したらアメリカでの公開はこちらの方があとでした。

 

だから敢えて旬の若手俳優を起用してるんだよね。

 

公開が始まってすぐに観たけど、映画館の会場はガラガラとまではいかないまでも、新作映画としてはけっして客の入りがいいとはいえなかった。

 

女性のお客さんとかカップル、年配の人などがいたけど、やはりクロエちゃんや『ベイビー・ドライバー』のファンの人が多いんだろうな。果たして皆さん、この映画をどのようにお感じになったのだろう。

 

原作は読んでないから映画だけの感想を述べますが、僕はまったく予備知識なしに観たのでそもそもどんなジャンルの作品なのかもわからないままでの鑑賞。

 

「クリミナル・タウン」という邦題(原題は“November Criminals”)から、サスペンス・アクションなのかな、とは思っていたけど。

 

確かに殺人事件を追う話だからサスペンスの要素はありますが、クロエがナギナタでヤクの売人を八つ裂きにしたり、アンセル・エルゴートが音楽に合わせて車を運転しながらアクションを繰り広げたりはしない。アクションの要素はほぼないです。

 

ってゆーか、そういう映画が観たいんだけどな、ほんとは。

 

要するに青春物の一種なんですね。そこに犯罪が絡んでくる、という。

 

他の映画では派手なアクションを披露してもいる二人のティーン俳優たちが等身大のドラマを演じている、というのが売りといえば売りといえるかもしれないし、『キック・アス』や『ベイビー・ドライバー』での彼らと比較するとちょっと面白いかもしれない。

 

 

 

ちなみにクロエとアンセル・エルゴートは以前、リメイク版の『キャリー』で共演してますね。

 

僕はあの映画のエルゴートを思いっきり「もっさい兄ちゃん」呼ばわりしたんだけど、まさかその後前述の『ベイビー・ドライバー』で大人気になるとは思いもしなかった。だって、『キャリー』でのアンセル・エルゴートはほんとに見た目がイモ兄ちゃんだったもの^_^; おみそれいたしました。

 

でも、そんなアンセル・エルゴートとクロエ・グレース・モレッツをもってしてもこの脚本の酷さは救えなかったようで。

 

そんなわけで、「面白かった」というかたには申し訳ありませんが、褒めません。

 

誠にもったいないとしか言いようのない一品でした。ほんとに腐って(rotten)た。

 

これまでにも散々ボヤいてきたけど、『キック・アス』から8年、『モールス』から7年経って、あれからクロエの出演作を何本か観てきたけれど残念ながら作品に恵まれているとは言い難くて、中にはDVDスルー作品もあるし、だから今回はちゃんと映画館で公開されたことをありがたく思うべきなのかもしれないけど、さすがにその貴重な劇場公開作がこれでいいのか?と残念な気持ちに。

 

それでも主演作品が公開されたりDVDになってるだけでもまだマシなのかもしれないけど。

 

出演者はアディソンの父親役でデヴィッド・ストラザーン、フィービーの母親役でキャサリン・キーナー(『ゲット・アウト』や『インクレディブル・ファミリー』など、ここんとこ出演作が続いてますが)と、有名作品にも多数出演しているバイプレイヤーを迎えているし、だから問題は出演者ではない。

 

 

 

すべての元凶はシナリオの出来の悪さであることは疑いの余地がないと思う。

 

では、これ以降はストーリーについて書きますので未見のかたはご注意ください。

 

 

この映画のシナリオの何がマズいって、映画が始まって結構時間が経ってもこれが何について描いている映画なのかよくわからないところ。青春物なのか、サスペンス物なのか、なんだかよくわからないままお話がズルズルと進んでいく。一所懸命どういう展開になるのか集中して観ていたんだけど、いっこうに面白くなる気配がない。これはしんどい。

 

友人のケヴィンが殺された真相を主人公のアディソンが追うんだけど、その理由が、ある日いきなり病気で亡くなった自分の母親を救えなかったことで傷ついているから、という、なんだかよくわからないものだったのも非常に引っかかった。

 

その部分に納得がいかないから彼に共感も覚えないし(だってフィービーが言ってた通り、アディソンの母の死とケヴィンの死はまったく無関係だから)、何か全然関係のないものを無理やり結びつけて感動に持っていこうとしてるようで。

 

アフリカ系の同級生で読書家のケヴィンは、バイトしているカフェでアディソンに唐突に「ジェイムズ・ボールドウィンを読め」と言ってくる。

 

 

 

僕は今年たまたまジェイムズ・ボールドウィンについてのドキュメンタリー映画を観たので、これは何か人種問題が絡んでいるのかと思ったし、その後ケヴィンを撃ち殺した犯人が白人だったことがフィービーの情報からわかってアディソンも同じことを考えるんだけど、これがなんと関係ないんだよね。

 

アディソンは、学業も優秀でトランペット奏者の真面目な少年だったケヴィンが麻薬などやっているはずがない、と感じて警察の捜査に疑問を持つんだけど、結局はそんなケヴィンは麻薬に手を出していたことがわかる。

 

そして、彼が殺害された理由は麻薬の売人にからかわれて口答えしたから、というものだった。

 

黒幕は最初にアディソンが会った黒人の売人だった、というオチともいえないオチ。

 

 

 

なんだかこれ見よがしに人種問題めいたものを持ち出しといて無関係。

 

母親の件といい、なんかもうストーリーがメチャクチャなのだ。

 

アディソンはケヴィンを射殺した犯人の家を訪ねて彼に撃たれるんだけど、その直後に警察が駆けつけているんだから、アディソンの行動はまったくの無駄だったことになる。

 

彼とは関係のないところで黒幕の売人も捕まるし。

 

何か問題提起しているわけでもなく、若者のリアルな生態が描かれるのでもない。アクションもなければサスペンスの面白さもない。親子愛についての感動作にもなっていない。何が描きたいのかまったくわからない。すべてが中途半端。

 

なんでデヴィッド・ボウイなのかもよくわかんなかった。あなたは一体、ボウイのなんなんだ。遺族か?ひどく独りよがりなものを見せられた気分。

金がないからアディソンがいまだにポケベルや旧式のヴィデオカメラを使っているというのも、フィービーに事件にかかわらせたり生前の母親の思い出と強引に絡めるためなのが丸わかりであまりにわざとらしい。小道具の使い方がヘタクソ過ぎる。

 

人の命が簡単に奪われることへの言いようのない怒り、を描いたつもりなのかもしれないけど、繰り返すがケヴィンの殺害の件とアディソンの母親の病死の話にはなんの関係もない。無理やりにもほどがある。

 

たとえば2014年にクロエが主演した『イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所』は僕は結構好きな作品なんですが(そのわりには驚くほど知名度が低いのが残念だが)、あの映画にも青春恋愛物とスーパーナチュラルな要素が混在していた。

 

で、そこでもクロエは恋人とイチャイチャするんだけど、それは物語と密接に絡んでいてちゃんと意味があったんですよね。

 

でも、この『クリミナル・タウン』のベッドシーンや二人の恋愛と、一方のアディソンの友人の殺害事件という犯罪の要素はまったくといっていいほど噛み合ってなくて互いに浮きまくっている。

 

しかも、その恋愛要素というのが『イフ・アイ・ステイ』の時と変わんない「初めてなの」とかいう類いのものだからあまりに工夫がなさ過ぎて呆れる。今どきあんな嘘くさい処女、童貞喪失場面を見せられるとは思わなかった。アンセル・エルゴートは童貞には見えないし^_^;二十歳を越えたクロエにいつまでカマトト演技をさせるつもりなのだろう。

 

高校生のリアルな性描写をやるんならともかくクロエは汗もかかずメイクもバッチリなままだし。しかもそれが妙に長ったらしいんだよね。なぜか2回もあるし。…あの場面いる?

 

クロエがああいう性的な描写を好まないのなら、あるいはそういうのに向いてないのならそんな場面をわざわざ入れなくてもいいでしょ。特に意味がないんだし。

 

どうやらクロエ演じるフィービーが事件の真相にかかわっているのでは、という見立てをしていた人もいるようだけど、そんな推理物風のどんでん返し的な展開は微塵もなくて(その方がよっぽど面白かったと思うが)、彼女は単に恋人未満の幼馴染に振り回されていただけだった。

 

…う~ん、このキャストでここまでつまんない映画を作れるのって逆にスゴいと思うんだが。

 

高校生の男女がヤバい場所に足を踏み入れる怖さだとか、売人に命じられてブツを持っていった先が同級生の女の子の家だったり、そそられる場面もあったけど…なんていうんだろうなぁ。こういう話はむしろ無名の若手俳優が演じればよかったんではないか。

 

それだと製作費が出ないとか、いろいろあるのだろうけれど。

 

僕はこの監督さんの他の作品を観ていないんでよくわかりませんが、このシナリオを書いた人と、これにオッケーを出した人は物語を紡ぐ才能がないと思う。

 

最後もなんだか無理やり爽やかな青春物っぽく終わってたけど、うわぁ、どーでもいいなぁ、と思ってしまった。人気若手俳優たちの新たな魅力も引き出せていないし。

 

TVの2時間ドラマならいいかもしれませんが、わざわざ映画館で観る必要性を感じなかった。

 

それなりに覚悟して観て、しかもわずか86分の上映時間にもかかわらず、久方ぶりに映画館で無駄な時間を過ごしたというモヤモヤ感が残ったのでした。

 

クロエの最新作はダリオ・アルジェント監督の1977年のホラー映画サスペリア』のリメイクだということだけど…『キャリー』の悪夢が…(;^_^A そろそろヒットがきてほしいなぁ。

 

 

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