監督:ブラッド・バード、声の出演:ホリー・ハンター、クレイグ・T・ネルソン、サラ・ヴォーウェル、ハック・ミルナー、イーライ・フシール、サミュエル・L・ジャクソン、ボブ・オデンカーク、キャサリン・キーナー、ブラッド・バード、ソフィア・ブッシュ、ジョナサン・バンクス、イザベラ・ロッセリーニほかのピクサーのアニメーション映画『インクレディブル・ファミリー』。

 

巨大なドリルの付いたタンクで銀行から大金を奪い取ったアンダーマイナーとの戦いで街が破壊され、責任を問われた“Mr.インクレディブル”ことボブ・パーとヘレン、ヴァイオレット、ダッシュ、そしてジャック=ジャックたち5人家族はモーテル住まいを余儀なくされるが、巨大企業デヴテック社の社長ウィンストン・ディヴァーとその妹で開発部門を担当するイヴリンの計らいで彼らの別荘に住むことに。禁止されているスーパーヒーロー活動を合法化するために、ウィンストンはボブの妻“イラスティガール”ことヘレンに白羽の矢を立てる。一方、ボブは家事と赤ん坊のジャック=ジャックの子守り、子どもたちの世話を一手に引き受けることに。

 

2004年の『Mr.インクレディブル』の14年ぶりの続篇。監督は前作と同じくブラッド・バード。

 

ここ何年かは実写映画の方を撮ってたから、かなり久しぶりのアニメーション作品。

 

 

 

 

前作は劇場公開時に観て好きでスーパーヒーロー一家がみんなで力を合わせて戦う場面はアガったし、長男のダッシュが全速力で走る場面では胸が熱くなったことをよく覚えています。

 

さて、やはり夏休み期間中ということもあってか僕が住んでるところのシネコンのほとんどは日本語吹替版しかやってなくて、字幕版はわずか1館だけ、一日に3回の上映という少なさで、しかも朝早くや夜遅くという実に不便な時間帯。でもちょうど公開初日が仕事の休みだったので、せっかくなら字幕版を観たくて朝一番の回に行ってきました。

 

平日の朝8:45という早い上映開始時間にもかかわらず劇場はお客さんでいっぱいで(『アンパンマン』が目当てのご家族も多かった)、席もわりと埋まってました。

 

みんな元気だなぁ(あんたもな)w

 

やっぱりピクサーの新作は皆さん楽しみにしてるんだね。

 

字幕版だから比較的子どもは少なくて、大人のお客さんが多かったです。僕と同じく字幕派のかたは多いんでしょうか。

 

斜め後ろの席に外国人の家族がいて、あぁ、わざわざ原語版を探して観にきたんだろうなぁ、と。

 

日本の子どもたちはどうしたって吹き替えの方が都合がいいだろうし、この時期はしかたがないとは思うんだけど、海外から来た人たちはちょっと大変そうですね。

 

では、これ以降は映画の内容について触れますので、未見でこれからご覧になるかたはご注意ください。

 

 

まずは同時上映の短篇から。

 

ドミー・シー監督による『Bao』。

 

第91回アカデミー賞短編アニメーション賞受賞。

 

ある熟年夫婦の妻が作った中華まん(小籠包)に顔と手足ができて命が宿り、彼女はそれを自分の子どものように育てる。

 

もう、この中華まんの赤ちゃんが可愛くてw

 

台詞はなくて感情を表わす声がちょっと入ってるぐらいなので、まるでチャップリンのサイレント映画のようにわかりやすい。

 

 

 

で、その中華まんの赤ちゃんが次第に成長していく。人間の子どもの成長をそのまま中華まんに置き換えた感じ。

 

やがてその可愛かった“息子”はだんだん憎たらしくなり、母親に構われることを嫌がるようになる。

 

悪い友だちと遊び歩き、そして恋人まで家に連れてくる。

 

彼女と家を出ていこうとする中華まんの息子を口に入れて食べてしまう母親。

 

悲しみに暮れ、泣きながらベッドに横たわる母親のところに“本物の息子”が帰ってきて…。

 

これ、男の子を育てたことのある女性には「あぁ~」ってとこがあるかもしれないし、息子の立場の僕なんかは、自分の母親を思い浮かべて「母ちゃん、ごめん。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。」ってな気持ちに。

 

最初に父親の顔を見て笑っちゃったんですがw あまりにも昭和のおっさんテイストな顔面だったので。いくらなんでもブサ過ぎるだろ、と^_^;

 

でもあのとろけそうな顔のお母さんとか、中華まんそっくりな丸い顔に凹凸の少ない目鼻の付いた息子とか、デフォルメされてても「こういう人、居そう」なキャラクターたちがなかなか愛おしかった。

 

ディズニーやピクサーの短篇アニメの中ではかなり好きな作品です。

 

 

そして『インクレディブル・ファミリー』。

 

結論から先に言うと、僕は大好きです。面白かった!!

 

どうも他のかたたちの感想を読むと、「ピクサーとしては可もなく不可もなく」とか「標準以上ではない」など、貶してるわけじゃないけどわりと辛めの評価が目につく。

 

ずいぶんとハードルが高いんだな^_^; それだけピクサー作品には皆さん期待してるということだろうか。僕はすっごく面白かったし、最高のファミリー向け映画だと思うけどなぁ。

 

もしもファンのかたがたが定めているピクサー作品の基準というのが「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」のシリーズ、あるいは『インサイド・ヘッド』みたいな作品なんだったら、少なくとも僕はこの「インクレディブル」シリーズにリアルな家族の成長物語とか「泣ける」要素はそんなに期待していないので、求めるものが違うのかな、と。

 

つまり、このシリーズは「ミッション:インポッシブル」とか「ジュラシック・ワールド」みたいな、迫力があって燃える展開、お馴染みのあの家族がコスチュームを着て縦横無尽に活躍する姿こそが見どころだと思うんですよね。

 

その要素はもう充分過ぎるほど満たしているじゃないですか。これで満足できなかったらどんな映画だったら満足できるというのか。

 

なので、僕はこの映画は猛プッシュしたいですね。

 

 

 

もちろん、誰も「つまらなかった」と言ってるわけじゃなくて、そこにピクサーアニメがこれまで描いてきた生身の人間のドラマがあるかどうか、ということが問われているんでしょうけど。

 

ただ、誰もトム・クルーズのスパイ映画にリアルな人間ドラマを期待しないように、あるいは「ジュラシック・ワールド」に同様の要素を求めないように、この映画は単純にアクション・エンターテインメントとして楽しむのが相応しいのではないかと。

 

僕はそういう映画が「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」よりも劣るとは思わない。

 

確かに前作ではボブ(クレイグ・T・ネルソン)は勤め先の保険会社でストレスを溜めていたし、髪で顔を隠した長女のヴァイオレット(サラ・ヴォーウェル)が自分の能力のことで悩んでる様子が少し描かれていて、今回だって家族の成長がまったく描かれていないわけじゃないけど、その比重はそんなに大きくはない気がする。

 

それでもヴァイオレット関連の話は僕はかなり好きだったですが。

 

 

 

 

ファミレスでウェイターをしている(前作で一緒に映画に行くことになったが、リックに記憶を消去されたのでヴァイオレットのことを忘れてしまった)トニーに出くわして鼻から水を滝のように噴出するヴァイオレットには大笑いしたし(しかも洟垂れてむせる彼女の顔を手前でずっと見せるという^_^;)、家でのダッシュの勉強のシーンなんかも、子どもがいる家あるある、だったんじゃないだろうか。

 

ヴァイオレットってこんなに目の下のたるみが凄かったっけ^_^;と思ったけど、落ち込んだり怒ったり表情豊かな彼女がほんとに可愛く見えてくるんですよね。設定では前作から三ヵ月しか経ってないようだけど(敵のアンダーマイナー繋がりで完全に一つの続き物になっている)、しっかりと顔を出して以前よりもだいぶ垢抜けたのは確かで。もともと元気で明るい子なんだよね。前作でも賑やかに姉弟喧嘩してたし。

 

今回、カラダ張ってギャグをカマしまくるヴァイオレット

 

可愛いといえば、妻で母親のヘレン(ホリー・ハンター)は前作の時に夫のボブに軽くお尻を触られてたけど、彼女のお尻はほんとに最高ですな♪すいません、お尻星人なんで。

 

明らかに彼女のお尻は強調されて描かれてるし、今回は特にイラスティガールが大活躍でバイクに乗りながら自慢のお尻を何度も披露してくれる。イラスティガール最高!大人なのにガール!

 

 

 

 

 

 

こんなデフォルメしまくられたデザインのキャラクターにさえセクシーさを感じさせる作画と演出が素晴らしい。

 

キャラクターや美術のデザインと音楽が1960年代007風というか、レトロな未来観で統一されているので、ちょうど実写のスーパーヒーロー映画『ウォッチメン』の40年代の頃の描写のような、あるいは90年代にTVでやってた「バットマン」のアニメがそうだったように、ノスタルジックな魅力があって僕はこの世界設定が大好きなんです。

 

短篇の『Bao』のキャラクターや背景の小道具がほんとにそこにあるようなリアルな質感だったのに比べて、この『インクレディブル・ファミリー』ではもうちょっと「絵」そのものな従来のアニメっぽさを敢えて残しているところがあって、そのバランスもいいなぁ、と思いました。

 

Mr.インクレディブルやフロゾンたちのコスチュームなんかも、みんなどこか懐かしいデザインで。

 

 

 

それはブラッド・バードの初長篇アニメーション映画『アイアン・ジャイアント』や実写映画の前作『トゥモローランド』で描かれていたものとも共通していて、監督自身が過ごした少年時代(ブラッド・バードは1957年生まれ)に見た、今にしてみれば懐かしい「未来」の世界なんでしょう。

 

でも、ブラッド・バードが監督した、ちょうど今シリーズ最新作が公開されてる「ミッション:インポッシブル」の4作目『ゴースト・プロトコル』は面白かったんだけど、正直その次の『トゥモローランド』は好きな世界にもかかわらず僕はお話にちょっとノれなくて、「う~ん、大丈夫なのかな、ブラッド・バード」と心配になっちゃったほど。事実、作品はほとんど話題になりませんでした。

 

だから今回そのブラッド・バードがアニメーションに戻ってきて、こうやって最高に面白い作品を作ってくれたことが本当に嬉しい。アクションや家族の絆を示す展開などが申し分ない配分で描かれていて、118分という、この手のアニメ作品としては比較的長めの上映時間にもかかわらず一瞬たりともダレない。

 

これは普通にスゴいことで、アニメでも実写でもそういう映画にはそんなにお目にかかれない。

 

やっぱり主人公のパー一家のそれぞれのキャラクターの魅力で観客を惹きつけて物語を推進していくところがいいな、と。

 

前作同様わかりやすい悪役が登場するので、勧善懲悪のスーパーヒーロー物としてもちゃんとカタルシスがあるし。

 

だから、もうそれだけで僕は文句はないんですが、ストーリーについて細かくつつけばツッコミを入れられなくはない。

 

まず最大の疑問は、敵にマインドコントロールされていたからとはいえ、カメラの前で一般市民に向かってあんな暴言を吐いたりあれほど大暴れしていたのに、黒幕を捕まえたらスーパーヒーローの活動があっさり合法化されるというのは、普通だったらありえないんじゃないかと。

 

だって、スーパーヒーローたちが自制心を失ったら非常に危険な存在であることをあらためて世界に証明しちゃったわけだから。

 

あそこは、スーパーヒーローの活動はお預けになっちゃったけど、でも彼らはまた復帰を目指して見えないところで頑張っている、みたいなラストにするとかね。

 

それに、敵の“スクリーンスレイヴァー”がスーパーヒーローたちの活躍を「消費」するだけで自ら行動しようとしない街の人々に挑戦してくるのは「スーパーヒーロー物」それ自体への自己言及だったり観客や視聴者へのメタ的なツッコミとして面白かったんだけど(『トゥモローランド』でも悪役が似たような指摘をしていた)、そのスクリーンスレイヴァーを操っていた人物の犯行の動機がどうもあまり共感できるものではなかった(かつて父親がスーパーヒーローに頼って逃げ遅れたせいで殺されたからスーパーヒーローを憎んでいる)。

 

それは「ヒーローに頼らずに、みんなもっと自衛しろ」という、いかにもアメリカ人的な主張なのかもしれないけど、ちょっとわかりづらい。

 

 

 

僕はてっきりウィンストン(ボブ・オデンカーク)が単独で、あるいは妹のイヴリン(キャサリン・キーナー)と組んでスクリーンスレイヴァーに暴れさせて、それと戦うインクレディブル・ファミリーの姿を独占的に中継することで利益を得ようとしてるのかと思ったんですよね。その方が自然じゃないかと。

 

だからイヴリンが兄を裏切って一人で暴走した、という展開には納得がいかなかった。

 

まぁ、敵の自作自演というのは前作でもやってるから、別のアイディアを使いたかったのかもしれませんが。

 

今回は“イラスティガール”ことヘレンが大々的に活躍するので、対になるような形で同じ女性のイヴリンをヴィラン(悪役)にした、ということなのかも。二人が意気投合する場面もあるし。

 

イラスティガールに憧れている若手の女性ヒーロー“ヴォイド”が出てきたり、娘のヴァイオレットとトニーの一件もあるし、女性キャラが光ってましたね。

 

その分、夫のボブは家での受けの芝居が多くて、しかも後半にはあっさり敵の手に落ちてしまうのでちょっと損をしてるところもあるんだけど、前作が“Mr.インクレディブル”がメインの物語だったからちょうどいい具合に2作で夫婦均等に活躍の場が設けられていることになる。

 

 

 

後半は両親がともに敵に操られて、子どもたちの見せ場もあるし。

 

何よりも前作のクライマックスでその能力を発揮したジャック=ジャックが今回は大暴れ。

 

 

 

ほとんど「最終兵器赤ちゃん」といった感じでwほっとくと「ウォッチメン」の青入道Dr.マンハッタン並みに危険な存在。そんなリーサル・ウェポンな赤さんと対等にぶちのめし合うアライグマが凄いw

 

 

 

本来は一番か弱い存在である赤ちゃんが最強だったり、腕力ではハンデがある子どもや女性が悪漢たちをぶっ飛ばすことができる楽しさ。

 

実際には前作から14年の歳月が経ってても、わずか三ヵ月後の話を違和感なく作れちゃうのもアニメの強み。

 

僕は綾瀬はるかがヴァイオレットの声を担当している吹替版はまだ観ていないですが、前作の公開時には綾瀬さんはまだギリ10代だったんだよね。ヴァイオレットに近い年齢だった。三ヵ月後の話なのに「中の人」たちは14歳年を取ってる。そう考えるとピクサーのシリーズ物の続篇の熟成期間の長さはスゴいな、ってつくづく思う。それでちゃんと作品として成功させちゃうのも。今度トイ・ストーリー」も続篇が公開されますが。

 

そういえば、ジャック=ジャックの声を担当してるのは前作からイーライ・フシールという人だけど(ダッシュの子役の声優は代わっている)、彼はブラッド・バード作品にかかわってきたピクサーのアニメーターの息子さんということなので、ジャック=ジャックの声には前作で赤ちゃんだったイーライ君の声を録音した音源が使用されてるってことだろうか。

 

まさか14年間あの声のままじゃないでしょ^_^;

 

 

このシリーズはアメコミヒーロー物のパロディでもあるので、そこに家族のドタバタを加えてみた、という試みはかなりうまくいっていると思うし、そこで他の人々と異なる特徴を持つ者たちを“スーパーヒーロー”として描いていて、彼らを現実のマイノリティに重ねられるようにしている。

 

それは『X-MEN』と同じテーマで、だから主人公Mr.インクレディブルの友人が黒人ヒーローの“フロゾン”ことルシアス(サミュエル・L・ジャクソン)だったり、スーパーヒーローのコスチュームを担当しているデザイナーのエドナ(ブラッド・バード)は性別不詳(しかも彼女は日本人の血を引いているという設定らしい)だったり、さりげなくもわかりやすくマイノリティのキャラを入れてある。

 

 

スケート選手みたいなフロゾンの滑り方が好き。エドナみたいな顔のおばさんを知ってますw

 

ただし、その辺のシリアスなテーマはわりと表面的にさらっと流してもいて、ヴァイオレットやダッシュが学校で自分たちの能力を存分に発揮することが許されなくて窮屈な思いをしている、あるいは異端視されている、といった描写はごくわずかに抑えられている。

 

あまり深刻に描き過ぎないようにしてるんですね。

 

あくまでも特殊なスーパーパワーを持つ一家が悪と戦う、という単純明快なアクション映画に仕上げてある。僕はそここそを評価したいんです。

 

多分、最近の日本のアニメーション映画だったら、そういう題材を扱うとやたらと重い展開を入れてきて(登場人物がすぐに絶叫したりキレたりして)娯楽作品としてしんどいものにしてしまいそうな気がする。どの監督さんとは言いませんが。

 

家族みんなが楽しめる、そういう映画こそ僕はほんとの意味で大人な作品だと思います。

 

アニメ観るのにリテラシーなどいらない。そんなものが必要な作品など別に僕は観なくていい。

 

悪役の理屈がたいして心に響くものではなかったり、家族の間のドラマがそんなに身につまされるものじゃないとか、不満はいろいろあるかもしれませんが、面白いからいーんだよ。

 

大きなスクリーンの中をバイクで疾走するイラスティガールの雄姿、子どもたちの可愛さ、Mr.インクレディブルの力強くもユーモラスなキャラなど、映画館で大勢の人たちと観てこそより楽しめる要素が詰まっている。

 

この夏、お薦めの1本です(・ω<) 

 

 

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