監督:リー・アンクリッチ、エイドリアン・モリーナ、声の出演:アンソニー・ゴンザレス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ベンジャミン・ブラット、アラナ・ユーバック、レニー・ヴィクター、ハイメ・カミーユ、アナ・オフェリア・ムルギアほかのピクサーのアニメーション映画『リメンバー・ミー』。2017年作品。

 

第90回アカデミー賞長編アニメーション賞、歌曲賞(「Remember Me」)受賞。

 

 

メキシコのサンタ・セシリア。ミゲル・リヴェラは音楽が好きだったが、リヴェラ家では祖母エレナによって音楽を聴いたり楽器を弾いたり唄うことを固く禁じられていた。その理由は彼女の母ココの父親、つまりミゲルの曾々おじいちゃんがかつて音楽の道に進むために家族を捨てたからだった。1年に1度、亡くなった人たちの魂が戻ってくる“死者の日”に祖母に手製のギターを壊されて家業の靴屋を継ぐように言われたミゲルは、家を飛び出してメキシコ最高の歌手エルネスト・デラクルスの霊廟に飾られていたギターをこっそり手にする。

 

僕は2016年日本公開の『アーロと少年』以来2年ぶりに観る「ピクサーアニメ」。

 

といっても、最近はどれがディズニー作品でどれがピクサー作品かちょっと区別がつきにくくなってますが(ディズニーの前作が『モアナと伝説の海』だっただけに)。

 

予告篇を観たら、キャラクターデザインが『インサイド・ヘッド』に似てたから、あぁ、ピクサーなのかな、と。

 

メキシコが舞台で主人公も他の登場人物たちもみんなメキシコ人(声優も多くはメキシコやラテンアメリカにルーツを持つ人たち)、というのが新鮮だし、評判も非常にいいので楽しみにしていました。

 

僕が住んでるところでは特にこの時期に公開されるディズニーやピクサーのアニメはほとんどのシネコンでは日本語吹替版のみの上映で、春休みにかかるからしょうがないとは思うんだけど、僕はできればオリジナル音声による字幕版を観たかったから唯一上映されているシネコンに行ったんですが、ちょうど祝日だったんで激混みでちょっと早めに行ったにもかかわらず次の回の席が取れず、やむなくさらに次の回の分を購入。それでもすでにかなり埋まっていました。

 

公開が始まってまだ間もないし、予想できたことではありますが。これからご覧になるかたは前もって空席の確認をされてから劇場に行かれることをお勧めします。

 

それでは以降はストーリーについて書きますので、未見のかたはご注意を。

 

 

まずは同時上映の短篇『アナと雪の女王/家族の思い出』。22分。

 

監督:ケヴィン・ディーターズ、スティーヴィー・ワーマーズ=スケルトン、声の出演:ジョシュ・ギャッド、クリステン・ベル、イディナ・メンゼル、ジョナサン・グロフほか。

 

アレンデール王国にクリスマスがやってくる。エルサとアナ、雪だるまのオラフは人々を迎えてサプライズをしようとするが、村人たちはそれぞれの家の伝統に従ってクリスマスを過ごすという。幼い頃に離ればなれになったままだったエルサとアナにはクリスマスの伝統がなかった。オラフはそんなふたりのために人々の家をまわってクリスマスの伝統を探す。

 

アナと雪の女王』は2013年(日本公開は2014年)の長篇と2015年の短篇をどちらも劇場で観ていますが、実は僕はこれまですべて吹替版のみで、今回初めてオリジナル音声で観たんですよね。

 

アナ=神田沙也加、エルサ=松たか子、オラフ=ピエール瀧という吹き替えメンバーはすでにお馴染みだったんでそちらも気になったんですが、せっかくなのでまずはオリジナル版を。

 

イディナ・メンゼルによるエルサの声は結構大人っぽくて、松たか子さんのエルサとはずいぶんと印象が違うなぁ、とあらためて感じたり。

 

オラフの声はジョシュ・ギャッドだったんだね。

 

お笑い担当でいつも賑やかなオラフって描き方を間違えるとジャー・ジャー・ビンクス並みの「うざキャラ」になりかねないと思うんですが、このシリーズはいつもしっかりと彼を愛らしいキャラクターに描いていて、だからよかれと思ってやることがいつも裏目に出て結果的に元の木阿弥になってしまっても、腹は立たずにますます彼のことが好きになるんですよね。

 

 

 

 

逆に今回は、一応アナの恋人のはずのクリストフのポンコツぶりに拍車がかかってましたがw 相棒のトナカイのスヴェンといまだに意思の疎通がうまくできないという^_^;

 

ハンスなんてもはや登場すらさせてもらえないw

 

やっぱりこのシリーズの肝となるのはエルサとアナの姉妹愛で、彼女たちを繋いでいるのが幼い頃にエルサが作ったオラフだということ。「雪だるまつくろう」の歌の旋律が流れるとウルッときます。

 

家族の繋がり、というのは『リメンバー・ミー』とも共通してますね。

 

2019年冬には長篇の続篇が公開されるということなので(日本公開は翌年の春だろうけど※追記:19年の11月公開)、今から楽しみです♪

 

 

そして、『リメンバー・ミー』。

 

画面を埋め尽くすディテールがなかなか凄まじくて、とても一回観ただけではそれらすべてを把握できないので、観るたびにいろんな発見がありそう。

 

 

 

 

ガイコツをモティーフにしたデザインが溢れる“死者の日”の模様は『007 スペクター』でも描かれていたように一見おどろおどろしくも感じるのだけれど、どこかユーモラスでもあり、死者と生者の感覚的な近さなど、例に挙げる人が多い『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』で描かれた日本のお盆と通じるものもある。亡くなった人たちと生きている人々の繋がりについては僕たち日本人は共感を覚えやすいんじゃないでしょうか。

 

というか、多分『KUBO/クボ』の“お盆”の方がメキシコなどの死者の日に似たものとして演出されていたんでしょう。大勢が墓地にお参りにやってくる場面なんか、よく似てましたよね。まぁ、賑やかに死者を迎えるか静かに迎えるかという国民性の違いはあるけれど。

 

それと、『リメンバー・ミー』のリヴェラ家の人々が家族同士や先祖との結びつきと伝統を大切にするところは、この映画の前に観た実写映画『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』で自らの宗教的、民族的伝統に強くこだわるパキスタン移民の一家のことを思い出しました。

 

『ビッグ・シック』で息子に熱心にお見合いを勧めていたのは母親だったし、『リメンバー・ミー』でミゲルが自作したギターを叩き壊して音楽を禁ずるのも祖母だし、どちらも母系家族なのか(確かミゲルの父親は婿養子だったような)特に女性が伝統に強くこだわっているんですよね。

 

『リメンバー・ミー』の方は、曾々おばあちゃん(ココ曾おばあちゃんの母親)のイメルダが音楽を嫌うようになったのは、夫が家族を捨てて音楽の道を選んだからなんだけど。

 

でも、『ビッグ・シック』も『リメンバー・ミー』も、主人公が抱く疑問と葛藤、彼らの主張はとてもよく似ている。

 

『ビッグ・シック』の主人公クメイルは親が望む弁護士ではなくてコメディアンを目指しているし、お見合いで親にあてがわれた相手じゃなくて自分が本当に愛している人と結婚したいと思っている。

 

『リメンバー・ミー』のミゲルは家業を継いで靴屋さんになるのではなくて、大好きな音楽の道に進みたいと思っている。死者の国でイメルダに、音楽をとるか家族をとるか、どちらかを選ぶようにと言われて彼は反発する。

 

どうしてどちらか一方を犠牲にしなければならないの?と。

 

『ビッグ・シック』では主人公が大きな決断をして今いるところから一歩踏み出すことで自分の夢に近づいていたんだけど、『リメンバー・ミー』ではミゲルが死者の国に行って亡くなった先祖と出会い、死者と生者を繋ぐことによって新しい可能性を見出す。

 

シックス・センス』でハーレイ・ジョエル・オスメント君が演じるコール少年が、自分の母親と亡くなった祖母との間を取り持つことで愛する母に慰めをもたらしていたのに通じるものがある。

 

ただし、この映画の原題は“Coco”だからココ曾おばあちゃんが重要なキャラクターであることはわかるし、憧れの歌手でもしかしたらイメルダ曾々おばあちゃんの夫、自分の曾々おじいちゃんかもしれない、と思っていたエルネスト・デラクルスが実はそうではなくて…という「どんでん返し」のような終盤のオチもだいたい予想がついたので、物語的には目新しさはありませんでした。

 

正直なところ、あのあたりの展開は僕はちょっとノれなかったんですよね。

 

同じ監督さんの『トイ・ストーリー3』でも似たような展開があったけど(あちらの方がはるかに巧かったと思いますが)、ああやって“悪者”を作り出すことで家族の結束の強さを描く、というのは違うんじゃないかと思えて。あんなに好きだった人が実は悪人だった、みたいな結末って、どうなんだろ。

 

 

 

 

だったらもっと前にミゲルに曾々おじいちゃんの名前や正体をハッキリ告げておけば、あんなめんどくさいドタバタは避けられたはずでしょ。なぜかそれを隠し続けるもんだから、そのせいでミゲルがいろいろと余計なことをする羽目になったんだから。

 

ってゆーか、イメルダもヘクターも互いに死んでるんだから、そこは両者で話し合っておけよ、と。

 

きっと、ミゲルが仲介者になって亡くなった人たち同士を結びつけた、ということなんでしょうけどね。死者というのは生きている者の記憶の中にいる存在で、死者を巡る話というのは、つまるところ生きている者たちの“想い”についての物語なんでしょうから。

 

生きている人々が亡くなった人たちの“悔い”を想像して、その魂の安寧を願う。そういうことなんだと思う。

 

それは『KUBO/クボ』を観た時にも思ったことだから、とても惹かれる部分はあるんです。僕にだって亡くなった祖父母の想い出があるので、こういう題材自体には親近感が湧きます。

 

ただ、この映画では劇中での設定(ミゲルがもとの世界に戻れる条件とか、二度目の死についてなど)が結構あれこれとたくさんあって、それを延々と台詞で説明し合うんですよね。ミゲルの死者の国での冒険よりも設定を巡っての言葉でのやりとりが意外と多い。

 

「家族が一番大切」みたいな作品のテーマらしきことを言葉で全部言っちゃうし。

 

喋ってるシーンが多過ぎて、ちょっと僕は途中で眠くなっちゃったんですよ。

 

映像的にはとても魅力的なのに、用意された舞台装置が思ったほど活用されていないように思えた。

 

だから、『KUBO/クボ』と同様にジ~ンとくる場面もあったけれど、1本の映画としては僕はそこまで夢中になれなかったし、大絶賛されてるかたがたのように号泣、みたいなこともなかった。

 

同じピクサーの『インサイド・ヘッド』はDVD観ながら(映画館で観なかったので)大泣きしたんですが。

 

あの映画には“悪者”が一切登場しなくて、でも擬人化された「感情」たちがヒロインのライリーのために必死に頑張って彼女の「想い出」を守ろうとしていたでしょう。それでも必ず訪れる別れに、人生の中で自分が経験してきたことや親のありがたみなんかが重なってワ~ッと胸に迫ってきて、とても好きな作品になったんですよね。すごく大人な映画だと思った。

 

だから『リメンバー・ミー』でヘクターが実はデラクルスに毒殺されていた、みたいな真相にはほとんど心が動かされなかったし、その後の大団円にもあまり納得がいかなくて。イメルダとヘクターが仲違いしたり和解する理由が弱過ぎませんかね?

 

まぁ、デラクルスの件は劇中で彼が出演していた昔のモノクロ映画のように、敢えて勧善懲悪の活劇を模したのかもしれないですが。メキシコを舞台にした西部劇そのものだから。

 

生きている人たちが亡くなった人のことを忘れたり、あるいはその人のことを憶えている人がこの世から一人もいなくなると死者も消えていくのだ、という考え方は僕はとても腑に落ちるんですが、必ずしもそれが悲しいことばかりだとは限らないと思うんですよね。

 

『インサイド・ヘッド』でライリーの記憶から消えていくビンボンは、じゃあ哀れで悲しいだけの存在なのかといったらそうではないように。忘れられていくことが自然の摂理ということもあるんじゃないか。

 

だからこそ、大切な人の想い出は儚くも愛おしいのでしょう。そして僕たちは消えていくものにこうやって涙を流すのだ。

 

ラストで親や親戚、先祖たちと同じように祭壇の上に置かれたココ曾おばあちゃんの写真にはグッときました。

 

 

 

 

ココ曾おばあちゃんの最後の“芝居”には持ってかれましたね。

 

ああいう表情するもんね、お年寄りって。

 

しなびた置物みたいになってたココ曾おばあちゃんが、彼女の父親ヘクターが作った曲「リメンバー・ミー」をミゲルが唄うのを聴いて、スッと表情が緩み一緒に口ずさむあの場面はよかった。

 

それを見た娘のエレナおばあちゃんが涙ぐむ姿も。ミゲルはココ曾おばあちゃんに最後にプレゼントをすることで、エレナおばあちゃんも救ったんだよね。

 

ガイコツのメイクをしたミゲルが可愛かったなー(素顔はお笑い芸人の有吉弘行にそっくりだけどw)。なんかすごく似合ってた(^o^) 彼の歌ももっと聴いていたかったぐらい。あれ、声をアテてた子役の子がほんとに唄ってたんですね。めちゃくちゃ上手でしたけど。「ウン・ポコ・ロォ~コ~♪」ってw

 

 

 

 

 

 

死者の国ではみんなガイコツだからミゲル以外の顔の区別がつきづらいし、各キャラクターに個性を見出しにくかったのがちょっともったいなかったな、と。あの翼の生えたカラフルなグリフォンみたいな聖獣アレブリヘの“ペピータ”はカッコ可愛かったけど。

 

 

 

 

ちょっと期待し過ぎちゃったからか、残念ながら心揺さぶられるほどの感動を味わうことはできなかったですが、でも見応えのある作品でしたよ。

 

何度も繰り返して観るうちにだんだん好きになっていく作品もあるから、この映画ももしかしたらそうなのかもしれない。

 

日本語吹替版もそのうち観にいこうかな(※追記:すみません、結局吹替版は観ていないので、金曜ロードSHOW!での放映を楽しみにしています)。

 

 

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