ピーター・ソレット監督、ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、スティーヴ・カレル出演の『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』。2015年作品。

 

音楽はハンス・ジマーとジョニー・マー。

 

主題歌「ハンズ・オブ・ラヴ」の作曲はリンダ・ペリー、ヴォーカルはマイリー・サイラス。

 

 

1999年、ニュージャージー州オーシャン郡。刑事のローレル(ジュリアン・ムーア)はバレーボール教室で出会ったステイシー(エレン・ペイジ)と恋に落ち、やがてともに暮らし始める。しかし予期せぬ困難が二人を待っていた。

 

実話を基にした物語。

 

原作は『フリーヘルド(Freeheld)』という短篇ドキュメンタリーで、この『ハンズ・オブ・ラヴ』の原題も同じ。

 

ジュリアン・ムーアとエレン・ペイジが同性愛の恋人同士を演じるこの映画、僕は観る直前まで作品の存在をまったく知りませんでしたが、評判がいいようなので観にいってきました。

 

女性の同性愛、というと今年は『キャロル』がありましたが、こういう作品が普通にシネコンなどで公開されるというのは、それだけLGBT映画が一般的になってきたということでしょうか。

 

『キャロル』の時にも書いたけど僕は同性愛というテーマそのものにはそんなに強い関心はなくて、でもこの映画がジュリアン・ムーアとエレン・ペイジ主演だということと、セクシュアル・マイノリティが自分たちの権利を手にするために闘う物語であるというところに興味を持ちました。

 

 

 

同性愛については、日本でもアウティング(人の性的指向を他者が勝手にバラすこと)による自殺者が出たり、けっして無関係な話ではないと思うので。

 

…とかなんとかそれっぽいこと言っといて、実はジュリアン・ムーアとエレン・ペイジのラヴシーンに期待していた、というゲス野郎な私ですが。

 

だってなかなか渋いカップルじゃないですか?w

 

まぁ、ベッドシーンはほんのちょっとで『キャロル』みたいにお二人のヌードも拝めませんが。

 

ジュリアン・ムーアは今年56歳だけど、目尻や首、そしてあちらの中年女性によくあるように口のまわりに細かい無数の皺が刻まれていて(ちょっとジョディ・フォスターの顔を思いだした)、だいぶお年を召されたなぁ、と。

 

でもやっぱり美しいんですね。この映画では皺も隠さずスッピンを堂々と晒していながら、なおかつ凛とした強さを保っている。

 

そして彼女は今でも映画で主役を演じ続けている。

 

メリル・ストリープが、40歳を越えた時に女優としての転換期を迎えた、と言っていたけれど、オスカー女優の彼女ですらもある年齢を越えると女優の仕事に不安を抱かずにはいられなかったということ。

 

ジュリアン・ムーアもまたアカデミー賞を受賞したヴェテランですが、やはりストリープのようにハリウッドで現在の地位を守るために多くの苦労があったんでしょうか。

 

刑事役というと、『羊たちの沈黙』の続篇『ハンニバル』では、ジョディ・フォスターに代わってヒロインのクラリスを演じてましたね。あれからもう15年なんだな。

 

この『ハンズ・オブ・ラヴ』で麻薬の密売人たちに銃を突きつけたり、走る車の窓につかまったまま引きずられて転倒し怪我をする彼女の姿には、何かほんとに身体を張って働く女性、という実感が『ハンニバル』の時以上にあった。

 

この映画でジュリアン・ムーアが演じるローレルは癌の治療の副作用で髪の毛が抜けてスキンヘッドになるんだけど、さすがにあの頭は特殊メイクっぽいものの、それでもやつれていく彼女の顔はリアルで、僕の少年期に子宮筋腫で入院した時の母をちょっと思いだした。

 

さて、僕はエレン・ペイジというと「X-MEN」シリーズのキティ・プライド役のイメージが強いんだけど、それ以外でも彼女の出演作はたまに観ますね。『インセプション』とか「ボルティ~!!」とかw

 

ジュリアン・ムーア同様にコンスタントに出演作があって、『JUNO/ジュノ』や『ローラーガールズ・ダイアリー』など主演映画の評価も高い。

 

今年29歳だから、ジュリアン・ムーアとは27歳差カップル(^o^)

 

ってゆーか、エレン・ペイジって小柄で童顔だからなんとなく小娘っぽいイメージがずっとあったんだけど、もうアラサーなんだな。

 

親子ほど歳の離れた彼女たちがキャッキャと仲睦まじくじゃれあったり、ちょっと喧嘩してすぐに仲直りしたりしてるのを見ていると、二人ともほんとに可愛くて。

 

世の中にはいろんな恋愛の形があるけれど、互いに惹かれあって必要としあっている人たちって純粋にいいな、と思うのです。

 

これまでジュリアン・ムーアやエレン・ペイジ目当てに映画を観にいったことはないんですが、今回はこの二人だからこそ観たいと思ったし、魅力的で気になる女優さんたちです。

 

物語が平板、という評価もあるみたいで、確かに展開自体は観ていて予想できるものだから意外性はないけど、でも出演者の演技に見入っちゃうから僕は結構入り込めましたよ。

 

それではこれ以降は映画の内容について書いていきますので、未見のかたはご注意ください。

 

 

この映画の魅力はやっぱり出演者たち。

 

主演の二人の女優はもちろんのこと、ローレルの同僚刑事のデインを演じるマイケル・シャノン、新人刑事のトッド役のルーク・グライムス、そして同性愛者支援団体の活動家スティーヴンを演じるスティーヴ・カレルなど、実力のある俳優たちがしっかりと脇を固めていて、確かに物語的には派手さはないんだけど、とても手堅く作られたドラマ。

 

マン・オブ・スティール』の“ゾッド将軍”ことマイケル・シャノンの頼りになる男ぶりが印象に残るし、そしてスティーヴ・カレル演じるスティーヴン・ゴールドスタインが登場すると映画の雰囲気がガラリと変わる。

 

 

 

 

スティーヴ・カレルの役作りは、ちょっと『マネー・ショート』の時の役柄を思わせるものがある。

 

やり方はかなり強引、でもそんな彼が頼もしく感じられてくる。

 

スティーヴンにむかってデインが言う「俺をハニーと呼ぶな」という台詞に笑った。

 

 

ローレルは刑事なんだけど、お話はいわゆる刑事ドラマの方には行かない。

 

付き合い始めて1年経ち、ローレルとステイシーは中古の庭付きの家を買って一緒に暮らすことにする。

 

しかし、病院でローレルは末期の肺癌と診断される。

 

彼女はこの映画の前半でやたらと煙草を吸っていたので、あぁ、だからか、と。

 

ステイシーは頑なにローレルの完治を信じるが、現実的なローレルは自分の死後、遺族年金をステイシーに遺そうとする。そうすれば収入の限られたステイシーが経済的に苦しい思いをせずに済むし、二人のために買った家も維持できる。

 

ただし現行の法律では同性のパートナーに財産分与はできないため、ローレルは郡政委員会に申請するも却下されてしまう。

 

同僚のデインのアドヴァイスで郡の委員会でスピーチすることにしたローレルに、スティーヴンが協力する。

 

 

 

パートナーに遺族年金を、というローレルの個人的な願いが、いつしか同性婚を求める運動に発展していく。

 

とにかく、この映画は「人々の善意」というものを信じたい、という気持ちにさせられます。

 

声を上げることで物事は良い方に変えられる、ということ。

 

同性愛者であることが公けになって、最初はステイシーが見知らぬ男たちから嫌がらせを受けたり、ローレルの同僚たちも彼女の願いに理解を示さなかったが、勇気ある者たちの声によって状況は次第に変わっていく。

 

警察ではずっとローレルの相棒で異性として好意も持っていたデインは初めて彼女が同性愛者だったことを知ってショックを受けるが、やがてローレルの病気を知り、いまだに同性愛者に対する差別的な考えがまかり通っている職場で仕事仲間であるローレルへの支援を皆に求める。

 

病気のせいで有給があとわずかのローレルのために、自分たちの有給を分けよう。

 

そして委員会にも応援にいく。

 

スティーヴンは他所の州から来た部外者だが、同じ同性愛者であることからローレルたちを応援する。

 

そこにはもちろん、このローレルとステイシーの一件を利用して運動を全米で盛り上げようという計算もあったのだろうが、彼が仲間と一緒に委員会で「あなた方次第!」と声を上げる場面にはちょっと胸にこみ上げるものがあった。

 

新人刑事のトッドはかつてのローレルと同様に自分がゲイであることを隠していたが、ローレルのためにカミングアウトして彼女を支援する。

 

 

 

 

マイノリティ(少数派)は一人ひとりの声は小さいが、その小さき声が集まれば力になる。

 

また、それは当事者でなくても可能だ。デインがそうだったように。

 

こうして、多くの人々の支援によってローレルの願いはかなえられ、やがてこの映画がアメリカで公開された2015年の6月に全米で同性婚が合法化された。

 

映画の最後に映し出されるローレルとステイシー本人たちの姿にも目頭が熱くなる。

 

2006年、ローレル・ヘスター死去。ステイシーは今もあの家に住んでいる。

 

映画では華奢な体格のエレン・ペイジが演じたステイシー・アンドレさんご本人は、なるほど自動車整備会社で男性よりも素早くタイヤ交換をやってのけるだけのガッチリした感じの美人さんだったのには納得w

 

この映画への参加をきっかけとして(プロデューサーも兼任)、エレン・ペイジは2014年に彼女自身同性愛者であることをカミングアウトしている。

 

この映画は、僕たちにいろんなことを教えてくれる。

 

マイノリティの生きにくさについて。

 

同性パートナーは家族として法律で認められていなければ相手が病院で危険な状態の時にも会えないし、税金などで異性同士の夫婦のようなさまざまな免除を受けることもできない。

 

同性愛の問題に限らず、税金を納めて国民としての義務を果たしているのに当然の権利を得られずにいる人々が世の中には大勢いて、理解と協力を求めていること。

 

これはあらゆる差別問題に繋がる話でもある。

 

法律に従うのが当たり前、なのではなく、自分たちの人生に必要な法律を作るのだ。

 

ある一人の女性が命を張って愛する人のために行なった行為が、多くの小さき声の持ち主たちの夢をかなえるきっかけとなった。

 

この不寛容な今の世の中で人生に不自由さを感じたことのある人ならば、誰でも共感できるテーマではないだろうか。

 

 

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