![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/00/ei-gataro-movie-cradle/b3/74/j/o0400056013541029455.jpg?caw=800)
リュ・スンワン監督、ファン・ジョンミン、ユ・アイン、ユ・ヘジン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ、チョン・ウンイン、チョン・マンシク、チン・ギョン、ユ・イニョン、オ・デファン、キム・シフ、チョン・ホジン、ソン・ヨンチャン出演の『ベテラン』。2015年作品。
ソウル警視庁広域捜査隊の刑事ソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)は、知人のトラック運転手ペ(チョン・ウンイン)が投身自殺を図り重体となった原因が大財閥シンジン物産の御曹司チョ・テオ(ユ・アイン)にあることを知る。しかし、テオは部下のチェ常務(ユ・ヘジン)をはじめとする組織ぐるみの隠蔽工作によって守られていた。
ストーリーのネタバレがありますので、未見のかたはご注意ください。
韓国映画を映画館で観るのはかなり久しぶりなんですが、新年に観る最初の新作はとにかく理屈抜きに面白い映画にしたかったので、ちまたで評価の高いこの作品をチョイス。
そうしたら、大正解でした。
いやぁ、すっごく面白かった。
観る前にちょっとだけ確認したあらすじでは、韓国の財閥の問題や人々の経済格差について描いてるようなことが書かれていたんで、てっきり社会問題をテーマにした硬派な映画だと思っていたんですが、そういう題材をしっかり扱いながら何よりも刑事モノのエンターテインメント作品として楽しめました。
韓国映画、というと僕がすぐ連想するような重くてエグくて観終わったあとにドヨ~ンとしちゃうような作品ではなかった。
過剰な暴力やエロもなし。韓国映画名物の“飛び蹴り”はしっかりありますがw
もちろん、一言で「韓国映画」といってもいろんなジャンルがあって、僕がこれまで観てきたのがたまたまそういう作品が多かった、というのもあるんだろうけど。
『サニー』みたいな普通に面白いエンタメ作品だってあるもんね。
リュ・スンワン監督の映画は、僕は『クライング・フィスト』を劇場で観てますが、今回そのことは知らずに観て、あとでフィルモグラフィを確認して、あぁ、そうだったんだ、と。
若くしてすでに手練れですね。
主演のファン・ジョンミンは、イ・ビョンホン主演の『甘い人生』に出てたそうだけど、劇場公開時以来観返してないんで覚えていません。
でも、そのヤンチャそうな顔はひと癖ありそうで、彼の一挙手一投足に見入ってしまう。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/03/ei-gataro-movie-cradle/4e/dc/j/t02200138_0600037513541084559.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/03/ei-gataro-movie-cradle/21/17/j/t02200142_0640041213541084558.jpg?caw=800)
ジョンミン演じるドチョルは最初はなんだか調子に乗ったチンピラみたいだったのが、徐々に一本筋の通った頼れるアニキに見えてくる。
彼の演技、アクションシーンでの身のこなしすべてに惚れますね。実にカッコ良かった。
普段は威勢がいいんだけど、妻にはちょっと頭が上がらないとこなんかも可愛くて。
僕はけっしてこれまで韓国映画を数多く観ているわけではないので残念ながらファン・ジョンミンのことは覚えていなかったけれど、たとえばドチョルの上司のチーム長役のオ・ダルスは『オールド・ボーイ』や『グエムル』『グッド・バッド・ウィアード』『渇き』など何本もの映画で顔を見ているし、トラック運転手をボコボコに殴る所長役のチョン・マンシクはヤン・イクチュン監督・主演の『息もできない』に出てたのを覚えてます。
僕は韓国映画に詳しくないけど、こうやって顔を知ってる俳優さんが出ているとなんだか嬉しいですね。
この映画がイイ感じなのは、巨大企業のボンボンであるテオによってヒドい目に遭わされる女優役のユ・イニョンみたいな正真正銘の美人よりも、広域捜査隊のメンバーの紅一点“ミス・ボン”役のチャン・ユンジュのようなビミョーな顔立ちの人を活躍させてること。
チャン・ユンジュさんは顔がちょっと吉本新喜劇の島田珠代に似てて(壁にも衝突するしw)、最初に登場した時には失礼ながらお世辞にも美人には見えない。って、実は彼女はスタイル抜群のファッションモデルなんですが。
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でも、映画を観ているうちにだんだんこのミス・ボンがキュートに見えてくるんだよね。
ちょうど日本でいうと安藤サクラみたいな感じか。味があるというか。
“飛び蹴り”はいつも彼女が担当するし、そのまま壁に頭から激突して白目剥いて気を失ったりお笑いの方も兼任。
脚の美しさが評判らしいチャン・ユンジュの素足を隠しつつも、ちゃんとそれを駆使した見せ場を作ってるところがいい。
そして、この映画の敵役であるテオ役のユ・アイン。
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![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/04/ei-gataro-movie-cradle/79/fd/j/t02200142_0640041213541093488.jpg?caw=800)
いかにも韓流スターっぽいイケメン顔のマッチョ。
だけど彼が映画の中で見せる絶妙なまでの“調子コキ顔”がほんとに金持ちのボンボンのそれで、見てて殺意すら湧いてくるほどリアル。
悪役のキャラ造形として、ユ・アインの演技とリュ監督の演出は本当に見事。
ただの作り物然とした“やられ役”としての悪者ではなくて、テオの屈折した性格が形成された家庭環境、生い立ち、一族の中での彼の立ち位置などを観客が想像できるように描かれている。
「財閥の人間というだけで犯罪者扱いされる」とか「俺たちが納めた税金で国が回ってるのに」という彼の言葉のように、そういう立場の人間の言い分、苛立ちも描かれているからキャラクターに深みがある。
といっても、金持ちでもなんでもなくて明らかに社会的地位としては彼の教唆で結果的に瀕死の重傷を負うことになるトラックの運転手に近い僕のような者からすれば、テオみたいな奴は真っ先にぶち殺されてほしいタイプの人間ですが。
高層ビルの一室に陣取って毎日放蕩三昧な生活してるくせに「今はみんな苦しいんですから」とか言ってるこいつは、金銭感覚のズレまくったどっかの国の首相みたいだな。
彼にとっては“ペ運転手”から請求された未払いの420万ウォンなんてはした金。
しかし、その下請け会社で働く者たちはどんなに身を粉にして働いても会社の利益は回ってこない。
ドチョルは仕事で知り合った会社の社長にテオを紹介される。
屈強な男たちに腕相撲させて喜んでいる財閥の御曹司を見てドチョルが何気なく言った「もっと破天荒な遊び方をしてると思った」という言葉にカチンときたテオは、同席していた女性たちにテーブルの上の食べ物をぶちまけてセクハラ行為をした挙げ句、ふざけてドチョルに土下座して「こんな遊びしかできなくてサーセン!」と詫びてみせる。
マジで死ねばいいのに。
こういう男っていますよね。
とにかく自分の力をまわりに誇示し続けていないと気が済まないような奴。
そして、相手がドン引きしたりビビってるのを見て安心する。やっぱり俺は強いんだ、と。
部下やボディガードたちの前で格闘をしてみせるのも、やはり自分の「強さ」を見せつけるためだ。
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そして自分よりも強い者を許せない(だから自分よりも格闘スキルの高い若いボディガードの足を折る)。
呆気にとられながらもまったくひるまずに冷静に「罪は犯すな」と忠告するドチョルに、テオは感心しつつも内心では怒りに燃えている。
金にも暴力にもヒザを屈しないドチョルのような男は、テオにとっては脅威なのだ。まるで自分の弱さを見透かされてるような気持ちになるから。
クライマックスで彼がドチョルを執拗なまでに痛めつけるのはそういう理由からだ。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/06/ei-gataro-movie-cradle/56/6f/j/t02200137_0544033813541105032.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160115/06/ei-gataro-movie-cradle/54/b9/j/t02200142_0730047013541105031.jpg?caw=800)
…なんだよ、このカイロ・レンは。
しかしスター・ウォーズといいロッキーといい、この映画といい、最近の映画は2世3世のボンボンばっか出てくるな。
金持ちんとこのバカ息子が世界的に問題になってるのか?w
会長や常務が何かといえば「ほとぼりが冷めるまで海外に高飛びしていろ」みたいなこと言うのとか、いかにも金持ってる奴らがホザきそうな台詞でムカムカしてくる。
で、しばらくして何事もなかったかのように帰国して、また好き勝手やりたい放題やるわけだ。
ほんとに死・ね・ば・いいのに。
僕は韓国社会について知識がないしさほど興味もないですが、財閥が幅を利かせてる、という話はよく聞く。
食費すら削って節約しながらカツカツで生きているペ運転手のような人がいるかと思えば、テオのような金なんか吐いて捨てるほどあって犯罪すら揉み消されるようなクズい若造がのさばっている超格差社会。
そこまでではないにしろ、日本でだって似たようなことはあるだろう。
生まれと、もう一つはどれだけ他人に対して非情になれるか、ということだ。
かつての日本軍が米軍に「兵卒は勤勉実直だが上官はクズばかり」と評されたように、上に立つ者たちほどクズ、という残念な事実。
どっかの居酒屋チェーンの元社長とかな。
もちろん例外は多々あるでしょうが。
結局、ペ運転手の自殺未遂は偽装で、実はチェ常務が手を回してテオとのこぜり合いの最中に重傷を負った被害者を部下たちとともにビルの吹き抜けの階段から落としていたことが判明する。
チェ常務がペ運転手の携帯電話から彼の妻に打った偽装メールが不自然だったために、不審に思った妻から事情を聴いたドチョルの調査で露見したことだった。
この映画が観ていて実に愉快なのは、ヴェテランでありながらけっして地位は高くなく常に正義感に溢れて曲がったことを許さないドチョルの姿がある種の理想像として映るからだ。
こうありたい、こうあってほしい「男」がここにいる。
ドチョルは、警察にも太いパイプを持ちどう考えても一介の刑事が太刀打ちできそうにもない敵相手に孤軍奮闘する。
やがて上司や仲間たちも同調して、この巨悪に立ち向かっていく。
痛快だ。
現実の世の中は、この映画でも描かれる賄賂でドチョルの邪魔をする所轄の刑事のような者だっているだろう。
長いものに巻かれた方が楽だし、出世だって望める。
敵に囲まれながら闘うのには勇気がいる。
しかし弱い立場の人間が理不尽に痛めつけられて命さえも奪われそうになるのを黙って見ているのが、果たして人として正しい道なのだろうか。
ドチョルがテオの犯罪を嗅ぎまわっていることを知ったチェ常務は、ドチョルの妻ジュヨンに大金を渡して懐柔しようとする。
この時のジュヨンの啖呵が気持ちいい。
金で頬を張れば相手はいつでも言うことを聞くと思っている心底人を舐めた者たちに、一度でいいから言ってやりたい言葉だ。
そしてなぜか警察に乗り込んできた彼女は、夫に「一瞬心が動かされた自分が恥ずかしかった」と正直に告げる。そりゃお金は欲しいもの。でも我慢したんだよ。人としてのプライドと夫が守る「正義」のために。
最初は出世のためにドチョルの勝手な行動に釘を刺していたチーム長も、彼の心意気にほだされて協力する。
俺たちは“チーム”だ、と。
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現実にはなかなかこうはいかないだろう。
それはわかってるんだけど、それでも彼ら5人の広域捜査隊の戦いには胸がすく思いがした。
でも、最後のテオの不敵な顔からしても、彼はまた金の力でさっさと娑婆に出てくるかもしれない。
そういう予感もさせるところがまた、非現実的な勧善懲悪の話に終わらない感じで、その程のよさにも感心する。
映画は冒頭でいきなり成金カップルになりきったドチョルとミス・ボンが高級車を買って、それを狙う窃盗グループの検挙から始まり、窃盗車を密かにロシアに運ぼうとするギャングたちとの追っかけに続く。
そしてそれが終盤でのドチョルの危機に繋がる、という具合に、綿密に計算されたシナリオには一切無駄がない。
この映画が社会的なテーマを取り扱いながらも観客を一時も退屈させないのは、このシナリオの巧みさにある。
アクションあり、謎解きありの極上エンターテインメントでありつつ、メッセージ性もある。
僕はこういう映画がしっかりヒットする韓国には、成熟した観客の存在を感じます。
優れた作品にはちゃんと観客が引き寄せられる。羨ましい。
とにかく、映画が面白ければまずはなんだっていいんですよ。理屈はあとからついてくるんで。
同じ刑事モノでも、日本の『あぶ刑事』もこれぐらい面白かったらいいんだけどねぇ^_^;
クライマックスのカークラッシュとかスゴかったもんなぁ。ビルが立ち並ぶ町なかでよくできたと思うもの、あんな撮影。
最初に書いたように、韓国映画のいわばお家芸ともいえる暴力描写は抑え気味に、グロもエロもなく純粋に俳優の演技と物語の面白さで見せる(グロやエロの迫力だって監督の演出力と役者たちの演技力に裏打ちされているんだが)、とてもバランスのいい作品だと思います。
DVDになったらまた観たいなぁ。
しばらくご無沙汰だった韓国映画にまた足を運びそうです。
もう、年明け一発目から幸先がいいスタートでゴキゲン♪
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