$映★画太郎の映画の揺りかご


カン・ヒョンチョル監督、ユ・ホジョンシム・ウンギョン主演の『サニー 永遠の仲間たち』。2011年作品。

ネットのレヴューやツイッターのつぶやきなどでとても評判が良くて、「泣ける」「感動した!」という声が多いので気になっていました。

それでようやく公開終了前日に鑑賞。



ソウル。夫と娘とともに暮らすナミ(ユ・ホジョン)は、母の入院している病院で高校時代の友人チュナ(チン・ヒギョン)と再会する。彼女はガンで余命二ヵ月だった。チュナの願いで、いまは保険の勧誘員をしているチャンミとともにおなじグループだった仲間たちを集めることにするナミ。卒業以来20年以上も会っていない当時の友人たちはそれぞれの道を歩んでいたが、彼女たちを捜すうちに当時の想い出がナミの脳裏によみがえるのだった。


予告篇を観るとおそらく、元少女、現熟女のみなさんの熱き友情物語なんだろうなぁと。

なんとなく予想はしてたけど、お客さんの大半は女性。

1980年代半ばに高校生だった現在40代の女性たちの物語なので、それはまぁわかるんだけど。

舞台は2011年と、主人公たちが女子高生だった1986年。これら二つの時代がかわるがわる描かれる。

キャメラが360度ぐるっと廻るとそこはもう1986年だったり、やはりドアを開けるとまた現在のシーンにつながったりと、時代がとてもスムーズに移行するので観ていて惹きこまれる。

1980年代当時の曲がいくつも流れるんだけど、僕は音楽に疎いのでこの映画の主題歌ともいえるボニーMの「Sunny」に聴き覚えがあったぐらい(「Sunny」は70年代の曲だが)。



まず、主人公たちが通う女子校は生徒たちはみんなカラフルな私服で、1980年代にしてはずいぶんと自由な校風に思える。最初は中学校?と思ったけど、先生との会話などからやがて高校であることがわかったのだった。

男性教師は海兵隊あがりで平気で女子生徒の頭を何度も小突くし喫煙に対しても厳しいが、軍隊に行ってなくたってそんなことは80年代当時の日本の高校ではめずらしくもなかったし、むしろ教師の生徒指導はもっと厳しかった(90年代に入っても制服のスカート丈を定規で測られたり、教師によって校門で女子高生が圧死させられたりしていた)。

しかし一方で当時の韓国は軍事政権下で、道ばたに普通に機動隊がいたり、学生運動のデモ隊との衝突が日常茶飯事だったことも同時に描かれている。

バブルに突入しようとしていた日本で女子高生たちは抑圧され、国民の自由がこまかく制限されていた韓国で女子高生たちはつかのまの自由を謳歌していた…なんとも皮肉というか、不可思議な現象である。

といってもこれは青春映画なので、そういった時代背景も重くなりすぎることなく、さらりと触れる程度にとどめられている。

なによりもこの映画は出演者、特に高校時代の主人公たちを演じる女の子たちがとても魅力的に撮られていて、それだけでも観る価値はあると思う。

そのなかでもグループのリーダー、チュナを演じるカン・ソラ、そして美少女スジを演じるミン・ヒョリンが印象に残りました。ってゆーか、単純に可愛いなぁとラブラブ

ちなみに、7人の女子高生グループ“サニー”のメンバーを演じる女優さんたちは、主人公ナミ役のシム・ウンギョンを除くとみんなオーヴァー20なんだそうな。

しかもそのなかでつねにクールでミステリアスな美少女スジ役のミン・ヒョリンが一番年上で(1986年生まれの26歳)、逆に頼れる姉御キャラのチュナ役カン・ソラは1990年生まれの22歳。見かけだけではわからんもんですなぁ。

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スジ役のミン・ヒョリンとチュナ役のカン・ソラ

映画からは女子校特有の空気がムンムンしてる様子がうかがえて、なかなか面白くもちょっと腰が引けるというか。

男子の目がないから同性同士遠慮がなくて、ケンカでも容赦がない。

普通に彼氏作ってそうな子や極端に男子に免疫がなさげな子とかさまざまで、なんかそのへんのリアルな雰囲気がよく出てたよーな。

多くの日本の観客が、主人公たちが過ごした80年代に自分の青春時代をかさね合わせて、あれから月日が経って変わったものや変わらないもののかずかずを思いおこしたりしながら、この映画を味わったんだろうと思います。

それは僕もおなじだったんだけど、一方で映画を観ながら釈然としないものも感じていた。

それがなにかを書いていきます。

以下、ネタバレあり。



さて、ナミはチャンミの提案で、探偵に行方のわからない4人のメンバーたちの捜索を依頼する。

ここで僕が疑問をもったのは、あれほど仲が良くていつもツルんでたメンバーが、なぜ卒業後にそれぞれの住所も連絡先すら知らないまま20年以上もバラバラになっていたのか、ということ。

長い年月のあいだには連絡がとれなくなる友人もいるし、就職、結婚、育児などで何年も旧友と会わないことはある。

でも友だちを見てると、特に女の子同士って各自でちょこちょこ連絡取り合ってたりして、直接会ってなくてもけっこう情報あったりするもんだけどな。

あとで書くメンバーのひとりにおこったある“事件”がきっかけで互いに疎遠になっていた、ということらしいけど、それも「なぜそれで?」といまいちよくわからない。

ともかく、そうやってナミたちが彼女たち“サニー”のメンバーにコンタクトをとる過程と並行して1986年の彼女たちの想い出が描かれるわけだけど、この80年代の描写にはしばしばコミカルな演出がされている。

たとえばナミが好きになった男の子の前でほっぺを真っ赤にするところとか、『ロッキー4』の看板の前で機動隊とデモ隊の乱闘に混じってライヴァルグループとケンカするとことか(女子高生が機動隊員に蹴り入れてふっとばすとかありえんだろ)、ビミョーに感じて慣れるまでちょっと時間がかかってしまった。

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カン・ソラにだったら蹴られたい気はするが

もちろんこれは現在のナミが回想しているものだから、ちょうどジブリの『おもひでぽろぽろ』の主人公の小学生時代がそうだったようにいろいろとデフォルメがほどこされていたってかまわないと思うけど、霊にとり憑かれたフリをして白目剥いてイタコ状態になるナミとか、回想シーンにかぎらず、ドジな助手に暴力を振るう探偵のくだりなどスベってるギリギリみたいなノリがちょっとシンドかった。

というか、主人公のナミ、そして“サニー”のリーダーのチュナ、二重まぶたの整形手術にこだわる現在は保険セールスをしているチャンミ(コ・スヒ)の3人以外は、正直誰が誰だか途中までよくわからず、会話に出てくる人物名でようやく高校時代と現在のメンバーたちの顔と名前が一致したのだった。

このわかりにくさは、登場人物たちへの思い入れをいちじるしく妨げていた。

でもそういった些細な部分はまだいいとして、なにより僕が内容的にひっかかったのは、現在のナミが自分の娘がイジメに遭っている現場を目撃したあとの場面。

なぜか彼女は突然三つ編みに女子高生の制服のコスプレ姿で、入院中であるはずのチュナたちとともに、娘を苛めた女子高生たちに殴りこみをかけるのだ。

娘の同級生に制服姿でドロップキックをカマす四十路の母。

まぁ僕としては個人的にはアリですけど(なにがだ)、映画のストーリー的にはアウトじゃないのか汗

そのままナミたち一行は連行される。しかしその場面はそこで終わり、あとは何事もなかったかのようにストーリーが進行。

おかげで、この映画のリアルティの置きどころがどこなのはちょっとわからなくなった。

ナミの夫や娘は、彼女のしでかした事件でなんの影響もうけなかったのだろうか。

金持ちだから金でなんとかなったのか。

そして、僕がもっとも納得いかなかったのがラスト近く。

チュナが亡くなり、葬儀の前に“サニー”のメンバーが霊前に集合する。

ここでは遺体を前にした愁嘆場は描かれず、そこは好感がもてた。

ところがそこにチュナの弁護士があらわれて、友人たちに彼女の遺言を伝える。それは、事業家だった彼女の遺産を友人たちに譲る、というものだった。

チュナは成績が上がらない保険セールスのチャンミのためにメンバー全員を彼女の保険に入れると約束し、またかつては“ミスコリア”になることを夢みていたが家庭の事情で身をもち崩していたポッキにはマンションをプレゼントしたり、元文学少女でいまは姑との確執で疲れた毎日を送りながら就職先をさがしていたクムオクには自分の会社の社長の座を譲ったりする。

この瞬間に、僕はこの映画の“リアリティ”が完全に消し飛ぶのを感じた。

これって、「不治の病いの患者が最後に奇跡が起きて全快する」ぐらいムチャな展開ではないか。

金ですべてが解決するならそれはけっこうだが、しかし、では彼女たちのこれまでの人生はなんだったのだろう。

ヴィデオカメラの「未来の自分」にむかって夢を語っていた、あの頃の彼女たちはなんだったんだ?

場末のぼったくりバーで店のママに小言いわれながらやる気なさげに働いていたポッキ(キム・ソンギョン)の姿を見かねて、「みんなであなたの就職のために協力する」といっていたナミのあの言葉は無意味だったのか?

自分の娘が苛められたら苛めた相手に飛び蹴り食らわせば問題が解決するのなら、母親は苦労しない。

友人の鶴の一声で保険女王になれたり、マンションのオーナーや会社の社長になれるんだったら誰も苦労はしないのだ。

じっさいにはそんなことはないからこそ、みんな毎日精一杯働いて頑張って生きてるんじゃないのか?

「仲間が苦しんでいたら助け合う」というのが彼女たちのモットーだったが、それは奇跡のようなお恵みにあずかることではないだろう。

なんだか「これまであなたがたが観てきた友情物語はぜーんぶ嘘っぱちでーす♪」とでもいわれたような気分になって、さっきまでの少女たちの嗚咽にもらい泣きしかけてたのがバカバカしくなってきてしまった。

これは登場人物たちに対する、作り手の裏切りでさえある。

現在のナミたちが亡きリーダーの前で見せる「Sunny」の歌声に合わせたダンスは、友人の遺産などあろうがなかろうが関係なく感動的なフィナーレとなったはずだ。

しかし引っ込んだ涙はもどってはこなかった。


もうひとつ。女子高生ながら雑誌のモデルもつとめていた学校一の美少女スジとシンナー中毒少女サンミ(チョン・ウヒ)の一件について。

サンミは転校当日のナミに真っ先にからんできて、その後もなにかと彼女に因縁をつけてくる。

それは、かつては仲が良かったチュナがシンナーをやめないサンミを見限っていまはナミとツルんでいることへの嫉妬だったのだが、ではサンミはただの憎まれ役なのかといったら、喫煙を彼女のせいにして自分を小突いて見下す教師にブチギレる場面(タバコを吸っていたのはスジである)や、ナミに「あたしも“サニー”に入れてよ」と懇願するところなど、じゅうぶんすぎるほど共感できる、あるいは同情の余地のある人物として描かれている。

しかしながら、怒りに任せてスジの頬にガラス瓶で傷をつけたあとに、サンミは映画から姿を消す。

僕はてっきりその後彼女が更生するなりなんなりして“サニー”のメンバーたちと和解すると思っていたので、唖然としてしまった。

この映画では、頬に傷をつけられたスジはその後行方がわからず、はたして彼女はチュナの前に姿をあらわすのか、顔の傷はどうなったのかという点を最後まで引っぱっている。

そのために、サンミがほかのみんなと打ち解けていてはまずかったのかもしれない。

そんなわけで、じつに後味悪いままサンミは映画から退場することになった。

ところで、この損な役回りのサンミを演じていたチョン・ウヒは、ポン・ジュノ監督の『母なる証明』でヌードを披露してくれてたあのお姉さん(ミナ)役の人なんだそうな。

なんかそう思ったらまた『母なる証明』観たくなってきたが(スケベ心から)。

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サンミ役のチョン・ウヒ

閑話休題。

で、肝心のスジはどうだったかというと、最後の最後に亡きチュナとみんなの前に頬の傷が消えた顔を見せるのだ。

ここが映画のクライマックスになっている。

いろいろあったが、傷は癒え、7人の仲間たちはまたおなじ場所にいる。

これまた感動的な場面ではあるのだが、やっぱり僕は腑に落ちなかった。

お国柄か、この映画では何度もしつこいぐらい「整形ネタ」がくりかえされるが、おそらくスジもまた手術によってもとの顔を取りもどしたのだろう。

すると、彼女はあれから無事モデルになれたのだろうか。

だとすれば、彼女の行方がわからないなどということはないはずだが。

誰からも「美人」といわれて、ナミと「美人でごめんね!」と屋台で酒酌み交わしながら(未成年ですが…)泣いて抱きしめ合ったスジにとっては、自分の美しさが誇り、あるいは彼女の最後の砦だったのかもしれない。

だからこそ、みんなのあこがれでもあったその美貌が損なわれたというショックに学校の誰もが大声を上げて泣いたんじゃなかったのか。

手術で傷が治るなら、自殺未遂する必要もみんなの前から行方をくらます必要もない。

あのラストでは、むしろスジは傷あとの残った頬をみんなの前に堂々とさらして再会を喜び合うべきだったんじゃないだろうか。

輝かしかったり暗かったりさまざまだけど、誰にでも青春時代がある。

そして誰しも得るものがあればうしなうものもある。

娘のイジメ問題だったり、経済的な悩みだったり夫の浮気など、みんながそれぞれの痛みや苦しみをかかえながら今日も生きている。

人生の途上にある以上、「すべて丸くおさまってめでたしめでたし」という“ハッピーエンド”などないのだ。

それでも彼女たちにとって、その友情がかけがえのないものであることにはかわりがないだろう。

残念ながら、僕には“サニー”の元少女たちの友情物語は、最後の最後に“絵空事”に思えてしまった。

もっとも、もしかしたらこの映画にはそれらの粗を差っ引いても僕などにはわからない、おなじ女性だからこそ共感できる場面がいくつもあるのかもしれない。

先述したとおり女優さんたちの演技は見ごたえがあるし、青春時代をともにした仲間たちの友情物語は時代を越えた普遍性がある。

だから僕はずいぶんと批判的な感想を述べてしまったけれど、単館上映でありながらクチコミでここまで評価が高まったこの映画がすこしでも気になるかたは、ためしに観てみてはいかがでしょうか。

なんだかんだいって、じつは僕ももう一度ぐらい観たいのです。



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