テイト・テイラー監督、チャドウィック・ボーズマンネルサン・エリスヴィオラ・デイヴィスジャマリオン・スコットジョーダン・スコットレニー・ジェームズオクタヴィア・スペンサージル・スコットダン・エイクロイド出演の『ジェームス・ブラウン 最高の魂<ソウル>を持つ男』。2014年作品。PG12





ジェームス・ブラウン・ジュニアは、少年時代に親戚に引き取られ、そこでゴスペルと出会う。成長した彼は窃盗で捕まるが、その歌の才能に惚れたボビー・バードの家で彼の家族と住むことに。やがてジェームスはバンドとともに歌の世界で新しいスタイルを確立して、人々から熱狂的に支持されるようになる。


伝説のソウルシンガー、“JB”ことジェームス・ブラウンの伝記映画。

監督は『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』のテイト・テイラー。

主演のチャドウィック・ボーズマンは『42 ~世界を変えた男~』では、不屈のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを演じていた。レジェンド専門俳優か?(^o^) プロデューサーを務めたミック・ジャガーに説得されて引き受けたということですが。



 


JBになりきるためにわずか2ヵ月であのダンスを覚えたんだそうで。あと、JBに似せたあの受け口は口の下側に入れ歯を入れている。

『ヘルプ』から引き続きヴィオラ・デイヴィスが今回はJBの母親役を、また幼いJBを引き取るおばさん役でやはり『ヘルプ』でアカデミー賞助演女優賞を獲ったオクタヴィア・スペンサーが出演。

 


服役中だったジェームスを家族を説得して自宅に迎えて(で、妹をヤ○れちゃう)、やがてバンドの一人として彼を支えていくボビー・バード役のネルサン・エリスやボビーの妻になるヴィッキ役のアーンジャニュー・エリスも『ヘルプ』からの続投。

JBを父親のように支えるマネージャーのベン・バート役のダン・エイクロイドは、ジョン・ランディス監督の『ブルース・ブラザース』で本物のジェームス・ブラウンと共演している。

 


それを知っているとなんだかちょっと胸が熱くなる。

といっても僕は音楽の方面はからきし疎いので(ローリング・ストーンズのメンバーの名前すらろくに知らない)、これ以降書くことは全部パンフに書いてあったりネットで調べたことの受け売りですのでご了承のほどを。

ジェームス・ブラウンの曲も「ゲロッパ」こと「Get Up」ぐらいしか知りませんでした。


JBの横でイイ声でずっと「ゲロオナ!」って言ってる人がボビー・バード


劇中で彼が強調していた「ファンク」という言葉の意味もいくら文章でその説明を読んでも普段音楽を聴かない僕には理解できず、彼がやってたような音楽のことなんだと思うしかないな、と。

きっとJBの音楽に親しんできた人々には劇中で流れる音楽や登場人物たちなどがいちいちグッとくるんでしょうね。

ジェームス・ブラウンは90年代にカップヌードルのCMで「Get Up」のメロディそのままに「ミソンパ!」と唄ってたのを思いだすけど、映画の冒頭でショットガンをぶっぱなしてパトカーとカーチェイスして捕まり服役したあとにあのCMに出てたのね。何やってんだおっさん^_^;

彼が常軌を逸した行動をとった理由も終盤で描かれているけれど、なんで「俺のトイレでウ○チしたのは誰だ」って怒ってたのかはまったくわからない。ファンキーな人だ(使い方間違ってる?)。

そういえば『ロッキー4』にも出てたっけ。

井筒和幸監督の『ゲロッパ!』でフィーチャーされてたのは記憶に新しいところ(つってももう10年以上前なんだなぁ)。JBのソックリさんが出演していた。あの映画自体は僕は好きじゃないですが(余計な一言)。

そんなわけで、ろくに彼の歌を聴いたこともないのにあの濃過ぎるキャラだけは有名だからさすがに顔と名前はずっと前から知ってました。

音楽映画ってほとんど観ないのでこの映画にも特に興味はなかったのだけれど、ちょっと元気が出る作品が観たくて映画館に足を運びました。

内容はただ賑やかなだけの映画じゃなくて、伝記映画らしくジェームス・ブラウンの人間的な問題にも触れていたり、けっして完璧ではない姿も映し出している。

天賦の才に恵まれて、ワンマンでエゴイスティックでもある男。そして結構テキトー。

バンドの給料の支払いが滞っても謝罪するどころか自分に非があるとは認めず、最後まで「俺様節」をやめない。

彼は自分は何もかも独りきりでやってきた、と言うし本人も本気でそう信じていたのかもしれないが、映画を観ていればそうではないことがわかる。

独りきりで頑張れる者などいない。

しかしなぜかJBは親友であるボビーにさえ労いの言葉もかけず、彼が仕事仲間であるヴィッキに好意があるのを知ると問い詰めたり、彼が自分もソロで唄いたいという希望を打ち明けると「人の名前を利用する気か?」と毒づき、ついにこの長年の親友からも愛想を尽かされる。

 


本当は孤独なのにそれを認められず、人に泣き言も言えず、「強い男」を演じ続ける。

2番目の妻に暴力を振るうところなど、「最高のソウルを持つ男」どころかまったくもってサイテーのクズでもある。これ以外にも暴力沙汰は何度も起こして幾度となく逮捕されているようだ。

ジェームスの言う「魂(ソウル)」と妻への暴力は彼の中では矛盾していなかったのだろうか。

どんなに暴力的だったり下半身がだらしなくても何かに秀でた才能さえあれば許される、というのは個人的にはまったく納得いかないが、世の中ではそれが通用してしまうことはざらにある。

ジェームスには「男」は何よりも偉いんだ、という信念があったのかもしれない。そういう歌も唄ってるし。あれが何かの皮肉や逆説的な表現ではなく彼のストレートな考えなら、なかなかマッチョで男尊女卑の権化みたいな人だったんだな。

自尊心や自我を守るための暴力。

冒頭のショットガン大暴走といい「セックス・マシーン」の正体がこれなのか、とガッカリもさせられるのだが(いや、そのまんまか^_^;)、だからこそ彼が常に「俺は強い男だ」と言い続けなければならなかった哀しさも感じる。

モハメド・アリにも通じる、自らを鼓舞し続ける男。

ジェームスはもともとは対等な立場だったはずのバンドメンバーにも自分のことを「ブラウンさん」と呼ばせる。親友であるボビーにさえも。

そもそもボビーはジェームスを救ってくれた恩人でもあるのに、映画の中でジェームスが彼に感謝の言葉を述べることはない。当然のことのように彼を自分よりも下の立場のように扱う。

なぜなら、俺は偉大な男だから。

もっともジェームスは相手のことも「ミスター・バード」と“さん”付けで呼んでいるのだが。

とても奇妙だが、超然とした姿勢を貫き通し生涯“ジェームス・ブラウン”を演じ続けた男として、その生き方はとても興味深い。

人との間のその微妙な距離感。

彼は少年時代に教会で見たゴスペルを唄い踊る人々の姿に天啓を受けたのだろうか。

インタヴュアーの女性に「あんたが持っているすべてのレコードに俺の片鱗がある」という彼の言葉は単なる吹かしではなく、事実彼がその後の音楽に与えた影響は計り知れないので有無を言わせない説得力がある。

若かりし日のローリング・ストーンズの面々もワンシーンだけ登場する。

JBは、アメリカではそれまでまだ公演したことがなかったこの若造たちの前座を務めることへの屈辱感を隠しながらステージでその独創的なパフォーマンスを披露して、ミックたちに羨望の眼差しで見送られる。

そしてその50年後、実際にミック・ジャガーがこの映画の実現に尽力した、というのもなかなか感動的。

だから人間的には疑問符だらけだったり尊敬できないところもあるんだけど、困ったことにこの映画の中でも再現されているJBの歌とパフォーマンスには、やはり思わず見入ってしまうのだ。

関係ないけど、JBのニックネームの一つに「ソウル界のゴッドファーザー」というのがあるけど、ほんとにジェームス・ブラウンの物腰は映画『ゴッドファーザー』(1972)でマーロン・ブランドが演じたドン・コルレオーネみたいだ。受け口だしw

いや、マーロン・ブランドが自分の演技にJBのキャラを取り入れたのかもしれないが。


時代的にもこの映画は『ヘルプ』やイーストウッドの『ジャージー・ボーイズ』、そしてこれから公開されるキング牧師を描いた映画『グローリー/明日への行進』とも重なる。

大統領に会ったりヴェトナム戦争の慰問に行ったり、公民権運動と時を同じくしてJBは名を馳せていく。

その中で彼は社会活動家としての面も見せるようになる。

大統領に会えば「白人に媚を売っている」と言われるし、黒人活動家に接触すれば音楽活動が続けられなくなる。

その板ばさみ。

過激な黒人至上主義は否定しつつも時にブラック・パワーについて声高に唄ってみたり、何か考えているようで何も考えていないようでもあり、彼は劇中では自分の心情を言葉でいちいち説明しないので、よくわからないところもある。

ただ、とにかく突っ走ってたということだけはよくわかった。

確かにJBは特殊な人かもしれないけど、でもこういう叩き上げの人ってよくいるよなぁ、って。

アポロ・シアターでのライヴの収録とLPの発売も当時としては画期的な試みで、所属レコード会社の社長の反対を押し切って自腹で敢行。常に前進あるのみ。

さっき「何もかも独りでやってきた」という彼の想いに疑問を投げかけたけど、それでも彼がそのように考えるのには以上のような根拠があった。


I Feel Good 劇中で再現されてました。



この映画ではかなりのスピードでJBたちは世に認められたように見えるけど、実際は昼間には別の仕事をしながらバンド活動を続けたりして、アポロ・シアターまでの道のりは本当に険しいものだったようだ。

そして今では当たり前になった多くのこと(ミュージシャンのセルフプロモート、新たなジャンルの創造など)を自分が開拓したという自負。

ちょうどキリストが自らを聖なる存在と公言したように、ジェームスもまた自分を特別な存在と考えていたんだろう。

それゆえ、彼の前に姿を現わした実の母にも「これからの俺にあんたは必要ない」と100ドル札を渡して別れを告げる。

でもボビーにはしっかり母の金銭的な面倒を見るように頼む。

なんで自分でしないんだとも思うんだけど、そこには当然、幼い頃に母に去られて父にも実質的に捨てられた経験による屈折した思いがあったのだろうし、不器用で暴力的な昔気質の男を愛する日本人には理解しやすいかも。僕は苦手ですが、その辺の「男の美学」みたいなのが妙に浪花節っぽかったりもする。

彼のどこか人と距離を置く性格は、このような家庭環境が影響しているのかもしれない。

一方でJBは人心掌握術に長けていて、いつのまにかバンドを率いるような立場になっているし、どんなにぞんざいに扱われてもボビーはずっと彼についていくし(やがてついに堪忍袋の緒が切れて袂を分かつことになるのだが)、人を惹きつける魅力があった人なのは確かなんだろう。

キング牧師が暗殺された翌日のボストンでの公演で興奮してステージに次々と上がってくる観客をたしなめて「もっとちゃんとしろ」と軽く説教するJBは、頼れる兄貴に見える(彼の行動は暴動を抑える役割も担った)。

あの場面のJBの正々堂々とした態度には痺れた。

だからこそそんな彼は今もなお愛され続けているのだろうし、もちろんそれはその類いまれな音楽の才能のおかげだ。

天才は人間的にクズな部分があっても(スターと呼ばれる人々は往々にしてそうだが)唯一無二のものをもっているからこそ人々から憧れられる。

オリジナルなものを生みだす人間は時代を越えて尊敬される。JBとはそういう存在だったということは映画を観ていてよくわかった。

この映画では『ヘルプ』の時のように黒人と白人の間の人種問題についてはあまり触れられないので、ライヴ会場でのJBの「黒人としての自覚を持て」という言葉がわりと唐突に聞こえがちだけど、彼が幾度も人種差別に遭い常にそのような問題意識を持っていたことも映画を観たあとに知りました。

僕はJBがステージで見せるステップやあの独特の甲高い声、そして人種の壁を越えたこと、その影響力など、ちょっとブルース・リーを思いだしたんですよね。

「“フィーリング”は理屈じゃなくて、感じるものだ」というところなんかも。

僕がよくわかってないだけで、彼らの共通性はもしかしたら世間では自明のことなのかもしれませんが。

あと、彼はエルヴィス・プレスリーとも親しかったんだそうで。

マネージャーのベン・バートの葬儀で見せた彼の悲しみに暮れる姿は、もしかしたらエルヴィスの死で見せたという涙が重ねられているのかもしれませんね。

ちなみに70年代にディスコ・ブームに乗れずに落ち目だったJBを救ったのが前述のダン・エイクロイドとジョン・ベルーシが主演した『ブルース・ブラザース』で、そのエイクロイドがこの『最高の魂を持つ男』ではJBから慕われたベン・バートを演じているというのは、なんかイイ話だなぁ、と思います(^o^)

Please, Please, Please マント・ショー 「あまちゃん」の「ジェームス・ブラウンかよ」の元ネタ



年取ったJBを演じるボーズマンの特殊メイクをした顔が、ちょっと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の老ビフみたいで少々ブキミ。緑色のジャージも着てるしw

 
ほぼ同一人物w


ちなみに、ジェームスの2番目の妻ディーディーを演じたジル・スコットは有名な歌手なんだそうだけど、彼女がこの映画で演じているのは歌手役じゃないので歌を披露することもないし、劇中では夫に殴られたり彼に口答えしたかと思うといきなりサカりだすという具合で、なんだかもったいない使われ方をされていました。なんでこの作品に出ようと思ったんだろう。JBの妻役だからか?

 


結局この映画は、音楽やビジネスの才能があり富も名声も手に入れたが、人と良好な関係を保ち続けるのが不得手な男が垣間見せる「孤独」、そこから浮かび上がってくる何か人間の業のようなものを描いていたんじゃないかと思いました。

クライマックスでJBが唄う曲が、まるでボビーに向けて唄われているようで胸に迫る。

この映画の原題の“Get On Up”は、ボビーが唄ってた「ゲロオナ!」のことだし。

ボビーと再会して、今では妻となったヴィッキを大切にしているその姿を見たジェームスは何を感じたのだろう(彼は亡くなるちょっと前まで結婚と離婚を繰り返して相変わらず妻への暴力を働いていたようだから、ボビーのことは「かみさんの尻に敷かれてる」ぐらいにしか思っていなかったのかもしれないが)。

 


愚かしさと偉大さを併せ持っていた男。それがジェームス・ブラウンという人なんだろう。

僕のようなJBビギナーには彼の人生を駆け足で見せてくれる入門篇のような映画でもあるし、チャドウィック・ボーズマンのなりきりぶりはJBファンにも好評のようで。

かみさんを殴ったり罪のない人を怯えさせたりするのはまったく褒められないけど、いくつもの時代を駆け抜けたジェームス・ブラウンという稀代のミュージシャンの生き様にはいろいろ感じ入るものがありました。





鈴木創さんというかたのサイトを参考にさせていただきました。



※チャドウィック・ボーズマンさんのご冥福をお祈りいたします。20.8.28


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