ミカエル・ハフストローム監督、シルヴェスター・スタローンアーノルド・シュワルツェネッガージム・カヴィーゼルエイミー・ライアンヴィニー・ジョーンズファラン・タヒールヴィンセント・ドノフリオカーティス・“50セント”・ジャクソンサム・ニールカイトリオーナ・バルフェ出演の『大脱出』。2013年作品。


レイ・ブレスリン(シルヴェスター・スタローン)は、各地の監獄に囚人として潜り込みそこの施設の脆弱性をみつける脱獄のプロ。彼はCIAに建設場所が極秘の特殊監獄から脱出する依頼を受けるが、身体に埋め込んだ小型発信器は取り出されて応援のないまま凶悪犯たちが収監されている巨大監獄に入れられる。


アクションスター、シルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーの夢の共演作。

「エクスペンダブルズ」シリーズですでに共演は果たしているけれど、この二人が1対1で組むのは初。

それだけでテンション上がる人も多いのではないか。

公開からけっこう経ってるけど、映画館は平日の昼間にもかかわらずかなり混んでて、しかも中高年が多くて驚きました。

僕が行ったシネコンは駅に近いのでたまたま1000円で観られる年配のご夫婦が多かったのかもしれませんが、スタローンとシュワちゃんのアクション映画に若者ではなくてこんな大勢のいい年した大人たちが集結してるのはちょっと異様な光景だった^_^;

さて、僕はスタローンやシュワルツェネッガーの映画がメシより好きなタイプの人間ではないけれど、ここ最近は『エクスペンダブルズ』『エクスペンダブルズ2』と昨年公開のシュワ主演復帰第1作『ラストスタンド』のいずれも劇場で楽しんできたし(『バレット』はお休みしてしまったが)、80~90年代にこの二人のアクション映画にお世話になってきた他の同世代の人々と同程度には彼らへの思い入れはあるつもりです。

なので、別にゴチャゴチャ屁理屈コネる気はなくてキモチ良く暴れてくれてたらそれで満足だったんですが、困ったことに映画を観ながら途中で睡魔が襲ってきまして。

その日はこのあとにも別の映画を観たけどその時は目が冴えてたので、寝不足とかいうことではないと思うんですが。

全盛期には商売敵であり文字通りのライヴァル同士だったスタローンとシュワルツェネッガーが一緒に闘ってる絵というのは、リアルタイムで彼らの主演作を観てきた人間なら胸が熱くなっていいはずなんだけど、正直な話、感動よりも眠気のほうが勝ってしまった。

なんとか居眠りはせずに済みましたが。

 


なんでそうなったんだろう、ということを考えていこうと思います。

実のところ、日本では予告篇とポスターでさえもネタバレ全開なので今さらって感じなんですが、一応ストーリーについて書いていくので未見のかたはご注意を。



スタローン演じるブレスリンは監獄のセキュリティについての著書があり、アビゲイル(エイミー・ライアン)やハッシュ(50セント)らとつねにチームを組んで脱獄を決行する。

 


会社の経営を担っているのは、『フルメタル・ジャケット』の“微笑みデブ”や『MIB』のバグ役などでお馴染みのヴィンセント・ドノフリオが演じるレスター・クラーク。




一方、シュワルツェネッガー演じるロットマイヤーはブレスリンと監獄で顔を合わせてともに脱獄を企てるが、彼もまた何やら思うところあるようで、ラストでその正体が明かされる。

まず思ったのが、二人ともインテリ役が似合わんなぁ、ということw

いや、シュワちゃんはウィスコンシン大卒だけど、でもこれまで演じてきた役柄のイメージもあるがあまり頭がよさそうには見えないσ(^_^;)

まぁ、誰もスタローンとシュワちゃんに頭のいいキャラなんて求めてないし。

何しろこの二人、映画の中で殴りあってばかりいる。

ブレスリンは脱獄のプロということであれこれ知恵を巡らせはするんだけど、結局のところやっぱりいつもの通りコブシで敵をぶちのめすキャラであることには変わりがない。

しかも彼は元検事だった、という。

…こんな検事いねぇよ(;^_^A

なんだろう、このとってつけたよーな設定。

その時に有罪にした男が刑務所を脱獄して復讐のために彼の娘を殺してしまい、それが原因で監獄のセキュリティコンサルタントをしている、みたいな説明をするけど、別にその過去の設定いらなくね?と。

映像でまったく描かれてないし。


僕はこの映画を観る前は、『エクスペンダブルズ』みたいな敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げる筋肉バカ祭りだと思ってたんですよね。

シュワちゃんの『ラストスタンド』は意外にも手堅いストーリー運びで惹きこまれたんだけど、どうもこの『大脱出』はそういう感じじゃないようだったので、シナリオの出来がどうとかいうことは最初から期待してなかった。

力技で押しまくるアクション物として楽しむ気マンマンでいたのですが。

しかし、まずこの映画でスタローンもシュワルツェネッガーも上半身裸にならないし(シュワに至っては最後にちょっと腕を出す程度)、終盤まではろくに銃も撃たない。

殴りあう場面は何度もあるけど、なんというか…全体的にアクションが単調なのだ。

会話シーンでは顔や上半身の切り返しばかり。

殴りあうのは、片方がパンチして、殴られた相手は顔をのけ反らすという旧態然とした演出。

『ラストスタンド』のバックドロップに続いてシュワちゃんのブレーンバスターが炸裂するけど、もちろんこれはスタントマンによるもの。

筋肉を見せず銃も撃たないと、この二人のアクションはこれほどまでに地味になるのかと。

『エクスペンダブルズ』ではとにかく撃ちまくって破壊しまくっててそれがカタルシスを生んでたわけだけど、この映画にはアクション場面で視覚効果を使うこともほとんどないし、場所はずっと同じ監獄の中なんで似たような絵ヅラばかりでハッキリいってかなり退屈だった。

御大二人の見得の切り方で、かろうじてもってるといった塩梅。

確かに年輪を重ねた二人の皺の刻まれた顔を何度も何度も拝めたのは、ファンの人たちにとっては素晴らしい贈り物だったかもしれません。

あと、ドイツ語を喋るシュワルツェネッガーというのは僕は初めて見たので新鮮だった。

シュワちゃんにはぜひドイツ軍の将校を演じてほしいな。似合うと思いますが。


映画の冒頭で、ある刑務所からブレスリンが脱獄して仲間たちと合流するあたりはなかなかいいんですよ。

リアリティ云々はおいといて、ともかくテンポよくお話が転がっていく。

それからブレスリンはCIAの弁護士というジェシカ・ミラー(カイトリオーナ・バルフェ)の依頼を受けて指定場所であるニューオーリンズに向かうが、そこで拉致されてしまう。

さらに腕に仕込んだ小型の発信器を取り出されてしまい、仲間は彼の居場所を追跡できなくなる。

ここまでは普通に面白いし、その後、収監されたのが巨大な監獄だったというのも今後の展開を期待させてくれる。

ガラス張りの独房に入れられた囚人たちは、黒い仮面をかぶった看守たちに見張られている。

 


ブレスリンは監獄の所長ホブス(ジム・カヴィーゼル)に事情を話すが、所長は彼の話に耳を貸さない。

この刑務所で、ブレスリンはエミル・ロットマイヤーという男に出会う。

彼はなぜかブレスリンに頻繁に接触してきて、「何か頼み事はないか?」と尋ねてくる。

ブレスリンはロットマイヤーに脱獄の計画を話して、ともにここから脱出することにする。

 


僕はこの映画の内容については、観る前から日本のメディアでネタバレしまくってた「この監獄がある場所」以外は予備知識はなかったんですが、この時点でシュワちゃん演じるロットマイヤーがこの監獄に何か深い関係のある人物であることは容易に想像がついた。

あとは彼がスタローンの味方なのか、それとも敵の黒幕なのか、ということぐらいで。

早速ネタばらしすると、たびたび彼らの話題に出てくるマンハイムという国際指名手配中のテロリストがロットマイヤーの正体で、ブレスリンに仕事を依頼したジェシカはマンハイムの娘であった。




これらは映画のラストで明かされるんだけど、そんなの観てる途中で「どうせそうなんでしょ」と思ってたから、「どんでん返し」みたいに得意満面で言われても「いやいやいや…^_^;」と。

だって、ロットマイヤーがあんな水責めされたり何度も強力ライトで焼かれそうになる義理なんかないのに、会ったばかりのブレスリンのためにそこまでやるのはどう考えても変だもの。

どうせならシュワちゃんが敵の黒幕で、最後はスタローン vs. シュワルツェネッガーのガチ対決、みたいなのだったら燃えたのにな。

ランボー vs. コマンドー



どちらか片方を負けさせるわけにいかないんだろうし『マジンガーZ対デビルマン』みたいに二人が共闘するのもいいんだけど、それならやっぱり『エクスペンダブルズ』を超えるぐらいのことやってくれないと。

ブレスリンとロットマイヤーたちが収容されていたのはタンカーの中に作られた監獄だったんだけど、そのことが判明するまでけっこう時間がかかるんだよね。

そしてその後、ストーリーはタンカーの中だけで進む。

ここら辺で僕は眠くなってきてしまったんですが。

その最大の理由は、アクションの見せ方のヴァリエーションが乏しかったことだと思います。

とにかくこのくだりが妙に長く感じられてしまって。

全盛期の彼らの映画だったら、映画の中盤ぐらいですでにタンカーは火の海になってるんじゃないかw

じゃあ、主人公たちはタンカーの中を縦横無尽に逃げ回ったりそこで派手なバトルが繰り広げられるのかというと、映るのはいつも同じ場所で囚人たちはのんびり運動したり食事してたりするし、そこでブレスリンとロットマイヤーが何度も何度も殴りあいをしては懲罰室に入れられたり拷問受けたりする。

彼らが問題のある囚人なのはわかってるんだし、あんだけ同じこと繰り返せば何か企んでるんじゃないかと疑っても不思議ではないのに、どうして所長はあの二人をいつもつるませておくのか。

怪しいと思ったら隔離しとけばいいのに、しばらくすると二人はまた一緒に行動しててけっこう堂々と脱獄の計画について話し合っている。

なんで凶悪犯だっていうのに、あんなにみんなを自由にさせてるんだろう。

囚人たちがいつ暴れだしてもおかしくないような環境をわざわざ作っておいて放置してる。

最初から脱出不可能の監獄に全然見えない。

たとえば、ブレスリンが懲罰室で気づいたセキュリティの穴(この“ネジ”のくだりもあまりに杜撰すぎる)とか、最初は殴りあってたイスラム教徒の囚人ジャベドと急に意気投合するとか(ロットマイヤーはジャベドに「このイスラム野郎」「お前のおふくろはマラケシュで娼婦だった」などと罵って喧嘩売ってたのに)、ご都合主義や予定調和以前に「馴れ合い」とか「手抜き」という単語が浮かぶ。

そんなわけで、ストーリー展開で観客の興味を引くわけでもなくアクションでアガることもほとんどないのでは、観るべきところはほぼ皆無といっていい。

60代のおっさん二人の仲むつまじい様子に萌えられる人はいいかもしれないけど、残念ながら僕はそうではなかったようで。

どうやらこの映画をスタローンとシュワの間に割って入るジム・カヴィーゼル、という男たちの三角関係を描いたBLとして見ることも可能なようですが、僕にはそういう嗜好がないのかまったくときめきませんでした。

 
後半はず~っとイチャイチャしている二人。右の写真はそれぞれ『ラストスタンド』と『バレット』の撮影で怪我して、仲良く隣同士で診てもらってるところ。顔がむくんだシュワちゃんがなんかスギちゃんみたいだ。


ブレスリンの仲間の一人アビゲイルを演じるのは、ベン・アフレック監督・主演の『ゴーン・ベイビー・ゴーン』で無責任な母親を演じていたエイミー・ライアン。

 


あの映画での「あばずれ」っぽい演技とは打って変わって、今回はメイクもバッチリのイイ女風。

変装してのブレスリンとのコンビもなかなかよかったんだけど、ブレスリンが囚われたあとは50セント演じるハッシュとともにブレスリンの居場所を探るのに追われるのみで、最後までほとんど活躍しない。

これはすごくもったいないと思った。

あの3人が協力しあって同時進行で敵と戦う展開にできなかったんだろうか。

やはり監獄でのスタローンとシュワルツェネッガーのイチャイチャが延々続くので、お話自体が停滞してしまうのだ。

黒幕だったクラークを演じるヴィンセント・ドノフリオはやたらと手にクリーム塗りこんだりする変な芝居してたけど、彼もまた最初と最後にちょろっと出てくるだけだし、コンテナに入れられて輸送されるその最後も実にあっけない。

サム・ニール演じるドクターももっとお話に絡んでくるのかと思ったら、途中で出てこなくなるし。




この人はブレスリンが監獄のセキュリティについての本を書いていたことを本人から聞いて協力するんだけど、彼がカサブランカにいるロットマイヤーの協力者に連絡入れるシーンってあったっけ(あったらゴメンナサイ、そのシーンで寝てたのかも)?

所長の部下のヴィニー・ジョーンズもけっこうあっちゃりスタローンに殺されちゃうし。

 


ほんと、アクション薄めで役者も無駄遣いしてる。

死ぬ前に「アッラーは偉大なり」と呟くジャベドに、元ジーザス・クライストメル・ギブソン監督の『パッション』)のホブス所長が「そういうことにしておこう」と言ってとどめを刺すとこは「わざとだろ^_^;」と思ったけど。

そのかわりジム・カヴィーゼルはスタローンに火葬にされてましたが。燃やしちゃったらジーザス復活できねーよ。

ジャベドを演じるファラン・タヒールは悪役でしばしば目にする俳優だけど、『エリジウム』ではスペースコロニーの代表者を演じていた。

 


終盤でジャベドとスタローン、シュワの3人で逃げることになるんだが、これはどう考えてもジャベドは殺されるパターンなので、もし彼が最後まで生き残ったら作り手をちょっとは見直したんだけど、やっぱり彼1人だけが殺されていた。

スタローンとシュワの身体は弾丸がよけていくので。

ジャベドは弾食らって瀕死なのに「生き残れよ」とか言い残して最後は二挺拳銃で敵の弾を浴びながら2人を守る、って…これは「待ってました!」と声をかけるとこなのか。

お約束を通り越して、もうパロディの域まで達してます。

まぁこの映画も、友だち同士でツッコミ入れながら観たら楽しいかもしれませんが。

スタローンの合図でジャベドとシュワちゃんが監視カメラに向かって笑顔でポーズするところは、ほとんど唯一の笑いどころだったかな。

確かにあの場面は男たちの仲良さげなところが微笑ましかったw


この監獄は海の上を航行するタンカーで、そのためにブレスリンたちはそこから遠く逃げることもすぐに助けを呼ぶこともできない。

それはいいんだけど、『スピード2』の豪華客船が意外とスピード感がなかったように(最後に岸辺に激突するとこは迫力あったけど)、海を進む大型船の外観を映しただけではあまり緊迫感がないのだ。

たとえば、タンカー型監獄が炎に包まれたり浸水して沈没しかかるとか、そういうタイムリミットがあってもよかったと思う。

90年代のスタローン主演作『クリフハンガー』などを観ると、スリルとサスペンス溢れるアクションのつるべ打ち、ヴァラエティに富んだ敵役たちの倒され方などで楽しませてくれるんで、スタローンが厚い氷が張った極寒の水中にタンクトップ一枚で潜るとかいうムチャも気にならなくなる。

この『大脱出』でもただ工夫のない殴りあいを見せるだけじゃなくて適度にVFXも駆使してればよかったんだけど、アクションシーンにそういうショットはほとんどなくて、最後にヘリからの攻撃がちょっとあるぐらい。

あとはわずかに船の外観と巨大監獄の内部の引き画。

どちらの映像も安っぽくて、全体的にあまり金かけてないっぽい。

『ラストスタンド』のようにしっかりした脚本で手堅く撮るか、そうでないなら思いっきり派手に暴れるか、どちらかに絞ってほしかった。

そのどちらもできてなかったんで。

生意気なこと言って申し訳ありませんが、『ラストスタンド』はコケたのにこの映画がそこそこヒットしてるんだとしたら、それは観客の方に作品を見る目がなかったんだと思います。

上映時間が116分あるけど、この内容なら90分ぐらいで十分のはず。

だからスタローンとシュワちゃんがイチャコラしてるのをじっくり愉しみたい人はご覧になればよろしいのではないかと。

今年に入って観る初めてのアクション映画でしたが、“往年”の2大スターの共演作だったにもかかわらず、ちょっと残念な出来でした。

それでも、ささきいさお玄田哲章による吹替版だったら面白さも何割か増しになると思うんで、水曜プレミアあたりで早く放映してください。(※「土曜プレミアム」で放映されました)






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