$映★画太郎の MOVIE CRADLE-The Last Stand


キム・ジウン監督、アーノルド・シュワルツェネッガーエドゥアルド・ノリエガロドリゴ・サントロジェイミー・アレクサンダーフォレスト・ウィテカーピーター・ストーメアジョニー・ノックスヴィルルイス・ガスマンハリー・ディーン・スタントンジェネシス・ロドリゲスザック・ギルフォード出演の『ラストスタンド』。R15+





アメリカとメキシコの国境付近の町ソマートン。かつてロスの刑事だったレイ・オーウェンズ(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、いまでは保安官として平和な毎日を送っている。しかしラスヴェガスではFBIによる移送中に麻薬王コルテス(エドゥアルド・ノリエガ)が逃亡。コルテスがソマートンにむかっていることをつきとめたジョン・バニスター捜査官(フォレスト・ウィテカー)は、急きょレイに連絡を入れる。


2003年の『ターミネーター3』以来10年ぶりとなるシュワルツェネッガー主演復帰第1弾。

といっても、これも先日ひさしぶりに主演作品を観たジャッキー・チェン同様に、僕は特に彼の大ファンというわけではなくて、ただ少年時代からおもにTVでその出演作にふれてきました。

はじめて劇場で観たシュワちゃんの主演映画は『トータル・リコール』(※もしかしたら『ツインズ』かもしれない。もはや記憶がさだかじゃない^_^;)。

それ以降、90年代は彼の主演映画にはわりとコンスタントに足を運んでいた。

奇才ポール・ヴァーホーヴェンと組んだ悪趣味全開の元祖『トータル・リコール』はお気に入りの作品だし、シリーズ中ではあまり評価がかんばしくない『ターミネーター3』も僕はそんなに嫌いじゃなくて、彼が出演していない4作目(CGで出てはいるけど)よりも好きだったりする。

ただまぁ、政治家になって映画界から離れた彼には正直興味をうしなっていたし、じつはセクハラ三昧のガハハ親父らしいことを知ったり下半身スキャンダルなどの報道を目にしてからは、すでに「過去の人」というレッテルを貼らせてもらっていた。

それがシルヴェスター・スタローンの『エクスペンダブルズ』1作目へのゲスト出演ぐらいから復活のきざしがみえてきたようで、2作目では出番も増えて満を持しての復帰とあいなった。


監督のキム・ジウンは、僕はこれまでに彼がイ・ビョンホンと組んだ『甘い人生』と『グッド・バッド・ウィアード』『悪魔を見た』を観ていて、痛快娯楽アクションだった『グッド~』を除くと、まぁとにかくその暴力場面には瞠目させられました。

特にまるで狂った三又又三みたいな顔したチェ・ミンシクが人をぶち殺しまくる『悪魔を見た』は、「しばらくはこの手の映画はけっこう」とおもわせられるのにじゅうぶんすぎるほど濃厚なグロ映画だった。

この『ラストスタンド』はそんなジウン監督のハリウッド進出第1作目でもあり、前記の作品たちの監督がシュワちゃん主演のアクション映画を撮るというのがなかなか意外で、興味をそそられたのでした。

ところがアメリカでは大コケしたという話で、その出来を危惧していた。

やっぱハリウッドではいろいろとむずかしいのかなぁ、なんて思ってて、しかも日本でもそのことが影響したのか、なんというか、あつかいがやたらと軽い。

ジャッキー主演の最新作は日本語吹替版も同時公開されてるし、『エクスペンダブルズ2』もやはりTVでおなじみの声優さんたちが声をアテた吹替版が上映されてたけど、この『ラストスタンド』ではそれもなし。

しかも僕が観に行ったシネコンでは、公開から2週間経つか経たないかでもう朝イチとレイト近くでしかやってなくて、一番いい昼間や夕方に観られなくなっている。

当然というか、平日のその時間帯にお客さんのかずは多くはない。

僕が観に行った回では若い女性のお一人様もいましたが。

シュワちゃんのファンなのかな、と思ってたけど、あとで、どうも共演のロドリゴ・サントロ(主人公の保安官事務所に投獄されていたが、途中で仲間にくわわりともに敵とたたかう男を演じている)目当てだったんではないかと。

僕はちょっとこの俳優さん知らなかったんだけど(※『300〈スリーハンドレッド〉』で敵の屈強なクセルクセス王を演じていた人だそうだが、外見が今回と違い過ぎててわかんなかった^_^;)、どうやらけっこう女性に人気らしいので。

若い女性(しかもけっこう綺麗な人もいる)がお一人様で映画観にきてるときって、だいたい出演しているイケメン俳優のファンの場合が多いんだな、って最近気づいた。

…で、肝腎の映画なんですが、アメリカではコケたかどうだか知んないけど、面白いですよ、これ。

個人的には、今年観た映画のなかでもわりと上位にくると思います。

この映画、僕はてっきり『エクスペンダブルズ』のスピンオフみたいなド派手な銃撃戦や爆発テンコ盛りの“やりすぎアクション映画”だとばかり思ってたんですが、じっさいはとても丁寧に演出されてしっかりと登場人物たちのキャラも立ててる、じつにまっとうでスカッと爽快な「正統派アクション映画」でした。

派手な銃撃戦や爆発もカーチェイスもちゃんとあるし、昔にくらべれば体力もおとろえた初老の保安官役ながら、シュワちゃんは敵をしっかりぶち殺しもする。

むずかしいこといいっこなしの娯楽要素のみで作られてる映画。これでじゅうぶんではないか。

いや、もちろん映画史に残る大傑作というわけではないし、そんな期待しまくって観たら「…ふつうだった」という結果に終わるかもしれませんが、このオーソドックスに手堅く作られたアクション映画、というのが、いまどれほど貴重か。

たしかにこの映画は、ちょうどイーストウッドの『グラン・トリノ』が『ダーティハリー』をはじめとするかつての彼の主演作品を観ていればより胸にせまる映画だったように、80~90年代の全盛期だった頃のシュワルツェネッガーの主演映画にふれてきた者たちに、ある種の感慨をもたらす。

『エクスペンダブルズ』のときに感じたんだけど、『ターミネーター3』の頃で僕のなかのシュワちゃんのイメージが止まっていたものだから、現在の彼の顔のしわにちょっと驚いたんだよね。

あ、確実にシュワちゃん老けてる、って。全体的に身体がしぼんできた感じで。

しかも、これまでは「ターミネーター」シリーズなどでもより“大男”という印象をあたえるためにキャメラワークもあおり気味だったのが、この映画では彼がほかの出演者たちとならんだときにさほど大きく見えないように撮られている。

だいたい、あのシュワちゃんが「もうジイさんだろ」といわれる日がくるとは!

辻仁成監督の『ACACIA』の劇中でアントニオ猪木が「ただのジジイ」といわれていて、観客がみんな心のなかで「どっからどーみても“ただのジジイ”じゃねぇだろ!!」とツッコんだそうだけど(僕は未見なんで確認してませんが)、この『ラストスタンド』のシュワちゃんだってジョニー・ノックスヴィルから「鍛えてるの?」ときかれるようにガタイはいいし、もちろんそのへんのジイさんではない。

あんなジイさんいるか!^_^;

でも、かつてのような問答無用の筋肉の力で敵をねじふせる説得力はすでにない。

一度も脱がないし。

服の上からおなかさすりながら「この腹では」なんて台詞ものたまう。

そしてこの映画のなかの彼はどこか動きも緩慢で(そもそも昔からすばやい身のこなしを身上にしてる人ではないが)、どことなくシンドそうなのだ。

だから彼が「Old.(年かな)」とつぶやく場面には、ただのシャレではない妙な哀愁がただよっている。


さて、先ほど「オーソドックス」と表現したけれど、つまりこの映画はいきなり重火器での撃ち合いからはじまったりVFXで非現実的な映像を見せるというのではなくて、事件の発端から最初は無関係とおもわれていた二つのストーリーがやがてかかわりがあることが判明してクライマックスになだれこむ、という正攻法のシナリオ作法がとられているということ。

なので、過度に視覚効果に頼っていてある程度年数が経つと飽きられてしまうタイプのアクション物と違って、時代にかかわりなく楽しめる作品になっている。

映画館ではより迫力があるけれど、TVでもちょうどいいサイズのスケール感というか。

だからこそ、玄田哲章の声でしゃべるシュワちゃんをぜひとも劇場で観たかった。

以下、ネタバレあり。



映画のストーリー自体は逃亡した麻薬王が主人公たちの町を通過してメキシコに渡ろうとするのをいかに食い止めるか、というありきたりなものだしそれ以上でも以下でもないんだけど、主人公のレイに協力する副保安官たちもピーター・ストーメア演じるコルテスの部下ブレルと傭兵たちもそれぞれに見せ場があって、なかでもブレルの暴れっぷりとその最期はじつに爽快。

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しょっぱないきなり馬鹿デカい銃で自分の鼻を折る、ちょっとジェシー・アイゼンバーグをおもわせる冴えない風貌の気のいい副保安官ジェリー(ザック・ギルフォード)も、その死は丁寧に描かれていてシュワも映画の最後まで彼のことを忘れない。

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わずかワンシーンの出演ながら(あとは死体での登場)いかにも田舎町の頑固ジジイといった風情の農夫役のハリー・ディーン・スタントンもいい味出している。

彼がいつも早朝に町のダイナーに届けにきている牛乳がなかったのを不審に思った従業員のクリスティ(クリスティアナ・レウカス)からの連絡によって、またそのダイナーで前日見かけたあやしい男たちのことも念頭にあったレイは町の異変に気づく。

一方では、コルテスは部下たちに周到に準備させた逃走計画を実行していた。

フォレスト・ウィテカー演じるバニスター捜査官とは因縁浅からぬ仲らしいコルテスは、移送に同行していたリチャーズ捜査官(ジェネシス・ロドリゲス)を人質にとって追っ手のヘリからまんまと行方をくらます。

このあたりの描写も、ソマートンでのレイやディンカム(ジョニー・ノックスヴィル)、フィギー(ルイス・ガスマン)たちののどかなやりとりとの対比があざやかで、前半ではほとんどシュワちゃんの派手な活躍の場面がないにもかかわらずとにかく引きこまれる。

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フィギーが剣を手にして『コナン・ザ・グレート』みたいにかまえるとシュワちゃんが「十字軍のつもりか?」という場面があって、それはジェームズ・キャメロンとの幻の企画に終わった『クルセイド(十字軍)』へのオマージュっぽくてニヤリとさせられたり(“十字軍”などという題材はあきらかにキャメロンの手には余るんで、頓挫して正解だったと思うが)。

副保安官のサラ(ジェイミー・アレクサンダー)と投獄されていたフランク(ロドリゴ・サントロ)のラヴストーリーとか、ハッキリいってわりとどーだっていいんだけど^_^;邪魔にならない程度に入っていて、しかもそれは死んだジェリーのエピソードともかかわっているから無駄な描写ではない。

こうして主人公以外のキャラクターたちの人となりがなんとなくうかがえるからこそ、アクション場面で彼らが危機におちいるといっそうハラハラさせられるし、それまで平和ボケ状態だった彼らが傭兵たちを相手に奮戦する姿に声援を送りたくもなる。

仲間とともに傭兵たちを殲滅してわが町“ラストスタンド=最後の砦”を守り抜き(ってそのわりには、じっちゃんやばっちゃんたち以外に住民がほとんど登場しないが)、コルテスが愛車のシボレー・コルベットZR1をあやつって町にやってくると、ついにシュワちゃん単身のたたかいがはじまる。

コルテス役のエドゥアルド・ノリエガは、どっかで見たことある俳優さんだなぁ、と思ってたら、アレハンドロ・アメナーバル監督の『オープン・ユア・アイズ』や『テシス 次に私が殺される』に出演してた人だった。

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ちょっと若い頃のベニチオ・デル・トロをさらに美形にしたような顔立ちで、ありがちなこの手の映画の悪役を気持ちよさそうに演じている。

あと、女優さんたちが綺麗だったのもポイント高くて。

じつはコルテスと○○だったリチャーズ捜査官役のジェネシス・ロドリゲスとか、ヒスパニック系の女優さんって綺麗な人多いなぁ。


ともかく、全篇とおして「そつがない」という形容がピッタリの映画でした。

といっても、敵がロケットランチャーを発射して車が爆発炎上したり、シュワちゃんがマシンガン撃ちまくったりノックスヴィルが撃った信号拳銃の弾が敵に当たってその身体が爆発四散したり、ストーメアの眉間にシュワが弾丸をぶちこんで殺す場面など、ちょいグロもふくめてアクション映画的な要素はしっかりつめこんである。

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最後の敵が昔のようなマッチョではなくてふつうの体格の男、しかもシュワちゃんはとどめをささずに逮捕して終わり、というところもまた最近のイーストウッドっぽかったりして。

107分というタイトな上映時間ながら、満足度はなかなかのものでした。


こいつ、こんだけアゲといていつオトすんだろ、と思ってるかもしれないけど、今回は悪口いいませんよ(否定的な意見を述べることはあっても、いつだって“悪口”を書いているつもりはないんですが)。

面白かったんだもの。

つまり、ありきたりだろうとベタだろうと、ふつうによくできた映画は面白いんだ、ってこと。

それをあらためて気づかせてもらいました。

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正直『悪魔を見た』のような暴力描写は僕にはこってりすぎて胃もたれするんでそんなにひんぱんに観たいと思わないんだけど、この『ラストスタンド』はそういうエグさはハリウッド映画的に良い意味で薄められていて(飛び散る血しぶきがちょっとCGっぽかったけど)、いい塩梅でした。

そんなわけで、めずらしくぶつくさ文句をいうこともなく感想を終えようとしていますが、まぁたまにはいいんじゃないですかね、こういうのも。

お薦めですので、まだ近くの映画館でやってるかたはぜひごらんになってみてください♪



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『トータル・リコール』(1990年版)
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