頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ― -4ページ目

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。


甘い、とは言わなかった日


火は、今日もよく鳴いてました。

ジュワ、と小さく。


給料日だったのか、店は少しだけ忙しかった。

クゥーは朝から落ち着かない。


「ロクさん、今日いけますよ。なんかこう…波きてます!」


「油と対話しろ」


それだけ言うと、クゥーは少し真顔になった。

次の音は、さっきより静かだった。


カウンターの端、いつもの席で、

同じ手つきで箸が動いている。


四時を過ぎて、ようやく手が止まった。


空いたところに腰を落として、

誰かが持ってきたチーズケーキを一口。


悪くない。


けど、少しだけ遠い。


クゥーは隣でがつがつ食べている。


「甘いっすねこれ!勝ち確の味!」


「そうか」


皿に戻して、手を止める。


……と、

こと、と音がした。


横を見ると、みかんがひとつ置かれている。


しわの入った手が、ゆっくり引っ込む。

そのまま何も言わずに、湯気の向こうへ戻っていった。


「……どうも」


声は届いていない。


皮をむく。


指に、残る。


一房。


——少しだけ、止まる。


ああ。


それだけで、十分だった。


もう一房。

今度は、最初からそこにあった。


ふと、カウンターの端を見る。


さっきと同じ席に、同じように座っている。

何も変わらない顔で、湯気の向こうにいる。


今日は、少しだけ、甘い日だと思った。


「ロクさん、それどうっすか?」


「ゆっくりで、ちょうどいい。」


クゥーはよく分かっていない顔で、またケーキに戻った。


最後にそれでいい、を口にする夕暮れでした。



・営業日は気分です(開いてたら縁があります)

・火は見てます(サボるとバレます)

・差し入れは静かに効きます




夜になると、少しだけ静かになる。


店の灯りは、まだ落ちていない。

明日も、たぶん変わらず開いている。


少しだけ、やさしい色が残っている。

カウンターの端に、ころりと丸い影。

誰かが置いていったのか、

それとも、最初からそこにあったのか。


指先にのせると、

ほんのりとした重みと、淡い香り。

思い出すほどでもないのに、

どこか懐かしい。


「……まあ、うちはこんなもんです。

お腹も心も、また明日で。」


明日は、少しだけ

その丸い色の話になるかもしれない。


今日も頑張って生きましょ。」

新しい一週間、  
最近は昼間は暑いぐらいですね。
体に気をつけて


ぼちぼちと、自分の歩幅で。

混ざりきらないままでも、いい。

今日も、ゆっくりでちょうどいい。

カウンターの端は、空いてます。


     — 甘さは、あとから来る —


深めの皿に、ひとつだけ沈んでいる。


形はそのままなのに、

輪郭だけが、少しやわらかい。




横に、小さく切ったパンが添えられている。


ロクは何も言わずに置く。


湯気だけが、ゆっくり上がっている。


「これ、崩していいやつですか」


クゥーがスプーンを当てる。


すっと入る。


「あ、これ……」


言いかけて、止まる。


しばらくして、横のパンに手を伸ばす。


カリ、と小さな音がした。


スープに少しだけ浸して、口に運ぶ。


「……あれ」


さっきより、少しだけはっきりする。


でも、何が変わったのかは言わない。


ロクは火を見たまま、何も言わない。


カウンターの端、いつもの席。


最初の一口では、何も起きない。


二口目で、少しだけ違う気がする。


パンを挟んで、もう一度。


さっきの一口が、少しだけ遠く感じる。


客は手を止めて、

皿の中を見ている。


何の味だったのか。


それはまだ、ここにあるはずなのに、

うまく掴めない。


「……まあ、うちはこんなもんです。お腹も心も、また明日で。」


今日の注意書き


・甘さは、あとから来ることがあります

・はっきりしたと思っても、すぐ戻ります

・最後の一口が、一番わからないかもしれません