45皿目:新玉ねぎ丸ごとオニオンスープ | 頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

頑張れオンボロ食堂奮闘記 ― ロクとクゥーのまかない哲学 ―

町はずれの少し古びたレトロカフェ食堂。木の温もりと柔らかい光に包まれ、落ち着いた大人向けの空間です。読書やひとり時間も楽しめ、厨房ではゆるい日常が流れています。


     — 甘さは、あとから来る —


深めの皿に、ひとつだけ沈んでいる。


形はそのままなのに、

輪郭だけが、少しやわらかい。




横に、小さく切ったパンが添えられている。


ロクは何も言わずに置く。


湯気だけが、ゆっくり上がっている。


「これ、崩していいやつですか」


クゥーがスプーンを当てる。


すっと入る。


「あ、これ……」


言いかけて、止まる。


しばらくして、横のパンに手を伸ばす。


カリ、と小さな音がした。


スープに少しだけ浸して、口に運ぶ。


「……あれ」


さっきより、少しだけはっきりする。


でも、何が変わったのかは言わない。


ロクは火を見たまま、何も言わない。


カウンターの端、いつもの席。


最初の一口では、何も起きない。


二口目で、少しだけ違う気がする。


パンを挟んで、もう一度。


さっきの一口が、少しだけ遠く感じる。


客は手を止めて、

皿の中を見ている。


何の味だったのか。


それはまだ、ここにあるはずなのに、

うまく掴めない。


「……まあ、うちはこんなもんです。お腹も心も、また明日で。」


今日の注意書き


・甘さは、あとから来ることがあります

・はっきりしたと思っても、すぐ戻ります

・最後の一口が、一番わからないかもしれません