真偽は己の中に在る

『ARCHE』からまたしてもシフトチェンジしたDIR EN GREYの10thアルバム『The Insulated World』をレビュー!


DIR EN GREY - The Insulated World

ディル・アン・グレイ - ジ・インサレイテッド・ワールド

2018年9月26日リリース

オリコン6位


アルバムタイトル『The Insulated World』とは、隔離された世界という意味。

前作『ARCHE』から約4年ぶりとなるアルバムで、『ARCHE』がミドルテンポの曲を中心に構成されていたことから、本作は速いテンポの攻撃的な楽曲を多く収めることを意識して制作された。要するに必然的に、そういうコンセプトがあるアルバムということである。


トラックリスト

  1. 軽蔑と始まり
  2. Devote My Life
  3. 人間を被る
  4. Celebrate Empty Howls
  5. 詩踏み
  6. Rubbish Heap
  7. Values of Madness
  8. Downfall
  9. Followers
  10. 谿壑の欲
  11. 絶縁体
  12. Ranunculus
赤字表記はシングル曲(アルバムVer.)

暑さにやられてしまったからアルバムレビューに逃げてる訳じゃないんだからね!ということで…

曲ごとの解説/レビュー

1.軽蔑と始まり

薫原曲。どストレートなスラッシュメタルのような楽曲で多少の捻りがあるとは言え、本当にどストレート。そして聴いてまず驚くのが、何やこれ?ってなりそうなギターの潰れたサウンドで、ファズでも踏んどんのか?ってくらい独特な歪み方をしていて中音域に寄っている。

この時点で『ARCHE』とは全く別物の作りであり、強いて言うならアルバム『THE MARROW OF A BONE』の攻撃性に回帰したような内容。


2.Devote My Life

Toshiya原曲。私の人生を捧げる。

不協和音に塗れたやはりスラッシュメタルみたいなノリの楽曲。歌詞はね。


“死にたいのはアンタの所為じゃない

生まれてきた事に後悔してんだ

生まれた事が既に間違いだろう

to die in

父よ 母よ 許して欲しい

父よ 母よ

loved you


価値が欲しい 生きる価値が欲しい

残酷な

残酷な

残酷な

残酷な

俺の言葉や行動はこの二人にとって

どれだけ残酷な言葉なのか

きっと自分より

to die in”


っていう、まぁ、考えたことがある人はあるだろっていう、そういうストレートな内容。痛いか?痛いのが人生だ。綺麗事無しで。だから同情するなら価値をくれ。生きる価値を。


3.人間を被る

29thシングル。人間を被るててぇ!って感じですけれども。


シングル曲らしく、サビがキャッチーな楽曲。そしてDIRらしく、Shinyaのドラムの手数に対するリフのシンプルさ。シンプルであるが故にグルーヴが生まれ、京のボーカルが引き立つ。

歌詞に関してはタイトルのまんまなんだけれど、人間というものを世間一般やマジョリティの常識や正義と定義した時に、そりゃ人間という皮を被ってんだろ?っていうね。だから個人的には良く解る。なんせエキセントリック自称してますから。


“誰が正しいとかどうでもいい

誰のルールで生きてる?

誰の為に生きる?

誰の為に生きるのだろう?


4.Celebrate Empty Howls

Die原曲。ふむう。これは中々に難しい楽曲である。アルバムの中では屈指のプログレッシブチューンであろう。しかしながら、ギターの二人を始め役割分担はしっかりしている。

難しいし無駄に意味なく吠えるのはやめておこう。


5.詩踏み

28thシングル。


ブレイクダウンしたりするハードコアな疾走チューン。しかしやはりサビはシングル曲らしくキャッチー。

キャッチーとは言えその詩の内容はとても辛辣。なんならファンすらも遠ざけるような内容である。しかし逆に言えば過去に囚われず、前を向いて進むといった内容でもある。こういう逆説的な歌詞は京の得意とするところ。


6.Rubbish Heap

Die原曲。こちらも1.2曲目のようなスラッシュメタル的なリズムの楽曲。なんか京都弁飛んでくる。


7.赫

Die原曲。「あか」と読む。個人的にこのアルバムは、レコードならB面とも言えるここからが本気だと思っている。


冒頭からバラードと見紛う(聞き紛う)ような美しいメロディが飛んでくる。素晴らしく美しい楽曲である。美しいけどそれはとても悲しい。


愛を知らない

愛を知らない

愛が私を守ってくれるの?


8.Values of Madness

Toshiya原曲。京の歌唱が色々とヤバい。なんちゅう歌い方をしとんねんと。と思ったらである、まるで爽やかなアニソンみたいなサビメロが飛んでくる。どうしたDIR EN GREY?と。これは逆にMadness(狂気)である。


9.Downfall

薫原曲。本作でも屈指のどストレートな疾走スラッシュメタルチューン。没落に向けてまっしぐら。そんな楽曲である。


10.Followers

薫原曲。プログラミングサウンドも使ったミドルテンポの楽曲で、京のクリーンボイスでの超絶歌唱が炸裂する。アルバムの中では異色と言えば異色であろう。異色だけどまぁまし地味。


11. 谿壑の欲

薫原曲。「けいがくのよく」と読む。シンプルに深い谷、つまり渓谷のことです。

どヘビーなブラックサバスみたいな楽曲。と思ったらメチャメチャ疾走し始める。と思ったらブラックサバスみたいになる。っていう、メリハリがはっきりしている楽曲。谷があれば山がある。はい。尚、メロディも何スケールだかわかんないけどめちゃめちゃ不安定な模様。


12.絶縁体

薫原曲。7分に渡る長尺ナンバー。とは言え、DIRは他にも長い曲があるので、この曲が特別長いというわけでもない。まずギターのクリーントーン、そしてベースの唸りが印象的。プログレッシブな雰囲気をShinyaのドラミングが荷う。

大人しく進行していたかと思ったら突如疾走パートが襲ってきて、更に美麗なツインリードが宙を舞う。

歌詞に関しては、アルバムタイトルが意味するところだと思われる。


この世界見えなければ自分のままでいれる


13.Rununculus

薫原曲。アルバムラストにして本作の核を荷う楽曲。


Rununculus(ラナンキュラス)とは花の名前である。色によっても違うけれど、基本的には前向きな花言葉が並ぶ。

京もシャウトやデスボイスは封印してクリーンボイスで美しく歌い上げているけれど、なんやかんやで自分らしく自分自身を生きろ。ありのままで美しいのだから。そのような前向きな楽曲なんじゃないかと思われる。

故に前曲に『絶縁体』という楽曲が置かれているのではなかろうかと思われる。


基本的には『THE MARROW OF A BONE』への回帰&その延長にあるようなシニカル&シリアスで攻撃的なアルバムだと思う。が、最後のRanunculus一曲に込められているメッセージ性がとても強烈に感じ、暗い痛い辛いだけではなく、前向きなアルバムでもあると感じる。Ranunculusが在る無しの違いは相当にでかい。


アルバム中のオススメ楽曲

3.人間を被る、5.詩踏み、7.、13.Ranunculus