(上海外灘夜景)
昨晩、フジテレビが文化庁芸術祭参加作品『泣きながら生きて』を放映
したが、この2時間のドキュメンタリーに私だけでなく多くの日本の
視聴者が涙したのではなかろうか?
既に、ご覧になった方には恐縮であるが荒筋を簡単に書くとこうである。
中国の文化革命の「下放政策」で農村での過酷な労働を経験させられた
丁尚彪さんが、勉学と生活の建て直しのために35歳で、10歳の娘と
農村で知り合い結婚した妻を上海に残し、日本に渡ってきた。
日本に踏み入れた場所は、戦後炭鉱で栄えた北海道・阿寒町であり
廃坑街の再生を賭けた中国人向けの日本語学校である。他の40人の
中国人同様丁さんも親戚等から借金して42万円(当時年収の20倍前後)
の入学金を払っての「夢と希望をかけた入学」であった。
しかし、今の中国からの留学生もそうであるが、アルバイトをしながらで
ないと高い授業料と生活費は賄えない。しかし阿寒にはそのような就業の
場所もなく、已む無く日本語学校の中国人は退学し、丁さんも東京にでた。
日本語学校の入学金の返済と上海の家族の生活費の送金に、丁さんは
皿洗い、掃除、工場労働等1日3ジョブを渡日後15年間も続けることに
なる。肉体的にも精神的にも限界を超えていた。それを支えていたのは
家族愛である。
その間、娘は18歳でニューヨークの名門校ニューヨーク州立大医学部に
入学し、その渡米のトランジット(飛行機乗換え)で8年振りの親子再会。
そして、妻は12回目のビザ申請がおりNYへの娘に会いに行く途中、
13年振りに夫との再会が、涙腺を潤ませる。
このドキュメンタリー作品からは、多くの教訓を我々に与えてくれる。
1.親は子供を責任持って育てあげる。
2.子供は親に感謝と尊敬の念を持ち、その恩を次世代に還元する。
3.多くの中国人が、日本人が失いつつある勤勉さや向上心がある。
4.人生には労苦が必ず報われる時が来ると信じる。
5.中国(や韓国)の優秀な子供は欧米の大学を目指している。
などなど枚挙がない。
最近の日本は、
1.子供が親を殺したり、親が子供を殺したり虐待する事件の頻発。
2.子供も含め安易に自殺する人が3万人超。
3.塾の繁栄、高所得者子弟の有名大入学、必須科目の未履修など
日本の教育の「狂育」化。
4.人口減に突入したにも拘わらず、逆行する中国やアジアからの
留学生や就労の受け入れ厳格化や高い授業料。
※ 日本語を教えるのに厳しい国家試験合格が必須であるが、
70万円前後の高い日本語学校の授業料に繋がり、中国人ら
留学生の負担増であるのは明らかである。
日本人の大学卒であれば、一定の研修や通信教育で外国人に
日本語が十分教えることが可能である。それに引き換え
日本にいる英会話学院の外国人教師には国家試験資格はなく
宣教師や日本への留学生も多いと聞く。
と翻ると悲しいばかりである。
このドキュメンタリー作品の最後の場面、丁さんが15年振りに中国に
帰る前に、最初の日本の踏み入れ地で期待を裏切った阿寒町を「第二の
故郷」と、過疎地に受け入れ態勢も考慮せず日本語学校をつくった
街に、少しも恨みを抱かず感謝して再訪している心の広さである。
そして、中国への帰途の飛行機が成田空港をテークオフ(離陸)する時
暫く「手を合わせて拝む」50歳の初老の姿が感動的であった。
丁さんは、過酷に過ごした日本に或いは日本人に「感謝」の念を抱いて
の合掌でなかったかと推察される。
前小泉首相が、数年前貴乃花の勝利に大声で「感動した!」と叫んで優勝杯
を渡したが、この15年間のドキュメンタリー『泣きながら生きて』には
視聴者の真に「感動した!」涙がテレビの前で止め処もなく流れたであろう。
どちらの「感動」に価値があり、人心を動かすかは明らかである。
私ならずもみんなが、『泣きながら生きて』に軍配を上げるであろう。
- 渋沢 栄一, 竹内 均
- 渋沢栄一「論語」の読み方