実はがっつり中国化だった川上化 | 知りたがりな日本人のブログ@インドネシア

知りたがりな日本人のブログ@インドネシア

日本語では検索できないインドネシア国内の話題を、雑談に使えるレベルで解説。

北京で習近平国家主席とがっちり握手、次期大統領として迎え入れられたプラボウォ国防相。国防分野で協力し、両国の協力関係を更に強化すると言っているが、国民の側にしてみればこれは全然話が違う。”私は愛国者、国を守る”と選挙の時しきりに強調していたのと全く正反対の言動だ。侵略する意図を持つ国の軍隊と協力するというのは一体どういうことなのか訳が分からない。

 

少なくとも国民の多くは、これまでインドネシアが中国と友好な関係にあったと思っていない。労働者を大量に送り込み、国内の雇用機会を奪う迷惑な存在だ。雇用拡大経済効果を謳った国家プロジェクトなのに、現地人を差し置いて彼らが大量にやってきて、高い給料をもらって威張っている。コミュニケーションをとろうともしないし、マナーもよくない。カモにされてるのは日本だけじゃない。

 

パンデミック中、バンドン高速鉄道やニッケル精錬所で働くため外国人が大量に入国していたことは、何度も大きな騒ぎになった。その度に”あれは高度な技術者、国内にはない技術の専門家だ”と説明するルフット投資海洋調整大臣といえば、中国政府の回し者として有名。パンデミック対応予防注射の指揮をとったのも、不要不急のEV車に補助金をねじ込んだのもこの人物。(勿論、大臣自身の個人的なビジネスが関係している)”政府の悪口を言う奴は国から出ていけ”という発言が物議をかもしたこともある、強面のタカ派。

 

庶民の味方であるジョコウィ大統領が、その正反対のルフット調整大臣をそんなにも信頼し、重要な案件を一任するのかということについて表立った批判はなかった。イメージというのは恐ろしいもので、汚職撲滅委員会の権限を弱体化させる法律も、外国企業に有利な内容が盛り込まれた雇用創出法も、一部学生や労働組合が声をあげていたが、調査によれば、ジョコウィ大統領の支持率にはあまり影響がなかった。

 

(日本にもかつてこういうタイプの首相がいた、そういえば、目つきや顔つき、息子の愚かさまで、似ている。小泉劇場ならぬ、ジョコウィ劇場だ)

 

ところで、次期大統領は一体いつ確定するかについて、先に話題になっていた国会における不正選挙追及は未だ実現しておらず、憲法裁判所での訴訟の方が先に始まっている。他の大統領候補者二名はそれぞれ憲法裁判所に訴訟を起こし、アニス候補陣営は、出馬登録の時点から違反のあったジョコウィ大統領の息子ギブラン候補を失格とすること、ガンジャル候補陣営はさらに(同氏と不正と切り離すことは不可能という理由で)プラボウォ候補についても失格させることを要求、そして両陣営とも投票のやり直しを求めている。


審議期間は二週間。憲法裁判所の判決によって、州知事選挙の投票のやり直しが実現した実例があるということもあるし、憲法裁判所にその権限がある以上は、やり直しの可能性がないわけではない。今のところ、次期大統領に確定したと報じられているプラボウォ国防相だが、手続き的には憲法裁判所における判決がでるまではまだ確定ではない。


そんなことにはお構いなく、プラボウォ候補には、 ”ジョコウィ大統領の側近5名を大臣席に” ”G党としては大臣席を5席以上ほしい”などと、具体的な”恩返し”の請求が押し寄せている。実際、プラボウォ候補支持派の一人国有企業省エリック大臣の権限によって、既に国営企業プルタミナのコミサリス役の地位を与えられた参謀(本人ではなくその妻、しかも業界未経験者)もいるくらいだから交渉次第でなんでもありなら黙って待てないのも当然だろう。


選挙で勝つために協力した政党幹部や個人に、その貢献に応じて大臣のポストを分け与えるというのは、よくない慣習だ。専門性も関心もない大臣が就任すれば、ろくなことはない。ジョコウィ大統領は就任当初、そのような悪習慣を絶ちきるとして、政党からの大臣採用を大幅に減らし、スシ海洋漁業大臣を含む専門性のある人物を大臣に採用したこともあったが、(あの頃は本当に希望に満ちた時期だった)長くは続かなかった。

 

元商業大臣・投資調整大臣でジョコウィ大統領の演説原稿執筆担当だったレンボン氏も二期目で外された一人。環境がテーマの副大統領討論会の中で、名前が出たことで注目され、その後メディアに度々登場していた。 ”政府の乱開発のせいで、供給過剰になり国際価格相場が下落、より安いLFTが主流化してニッケルの需要は減退している。テスラでさえもうニッケルを使わなくなっている。それでも政府がニッケル開発を促進するのは何故なのか”と批判。

 

ルフット調整大臣早速、怒りを表明。これは現政権の性質そのものだ。まともな意見を言う人は排除される、又は言えないようにさせられる。レンボン氏は、穏やかで優しい口調と笑顔、話の内容も理路整然としていて、どこからみても素敵な紳士だ。一方で、苦々しい顔つきと、乱暴で攻撃的で支離滅裂な話、登場しただけでミュートにしたくなるような現職のバフリル投資調整大臣とは月とすっぽんほどの違いがある。

#Tom Lembong vs Bahlil

 

そして、ジョコウィ大統領のヒリリサシ政策について以前から警鐘を鳴らしていたファイサルバスリ氏は、2015年に6カ月だけの特別任務、石油ガスガバナンス改革チームの隊長を務め、国有石油ガス会社の子会社の汚職を暴いたことで有名な政治経済学者。ジョコウィ政権の看板政策、ニッケル鉱山開発による利益の90%が、中国企業の利益として持って行かれたに過ぎない実情について、次のように話している。
#Faisal Basri


≪”ニッケル輸出17兆から500兆産業に成長した”というのは、ヒリリサシ政策の経済効果について、ジョコウィ大統領がよく使うお決まりのトークだが、その500兆とは利益ではなく輸出価格のことである。そこから利益を得ているのは資本家ということになるが、ニッケル精錬所はほぼ100%が中国資本であることより、ほぼ90%が中国企業の利益になっている。

 

その他の利益、例えば銀行利子に関しては、100%が中国の銀行のもの。技術料も100%が中国へ。インドネシア側が得られるものといえば税金。ところが土地税はたったの10ルピア/M、しかも、5年~20年の税金免除が適用されており、さらに、精錬所の使用する電源、自家発電のための石炭を、政府はたったの70ドル/トン(国際価格は340ドル /トン程度)で提供している。 

 

それでは、雇用についてはどうか。五千四百万人の労働者のうち、3割が外国人。大臣によれば、特別な技術者だけ、国内には未だない技術だから仕方ないとしきりに説明しているが、実際は、国内の鉱山開発企業で行っている作業と何も違うところはない。工場周辺の商店もジャワ島などからの資本がほとんど、生活費が高騰、農業・漁業は壊滅。深刻な環境破壊と引き換えにするだけの価値があるかどうか。
 

インドネシアには、資源開発による利益の25%は、国民の福祉向上に役立てるという法律がある。同じニッケル鉱山開発でもオーストラリアは100年維持できるよう管理しているが、インドネシアのニッケルは、このままでいくと、あと10年で枯渇する。資源大臣は、資源を守るために新しいニッケル鉱山開発許可を出さないよう推奨するぐらいしか出来ない。権限を握っているのはルフット調整大臣やバフリル大臣をはじめとする経済関係の大臣。

 

そしてもう一つ、深刻な損失がある。それは、ニッケル鉱石の輸出を禁止したことで、違法な輸出が激増したこと。”禁酒法”で酒を禁止したら密造が横行してマフィアの資金源になったのと同じ論理。鉱石そのものの輸出は禁止されたのでデータ上はゼロと記録されているが、中国がインドネシアから鉱石を輸入していることはデータがある。ニッケルだけでない。石炭、銅、錫(Timah)、そして埋め立てに使う砂まで、選挙に協力するお礼として、あらゆる資源開発が政治的に利用されている。』

 

ジョコウィ政権の腐敗は思ったよりも深刻だ。二月の大統領選挙における不正も、このような話を聞いてみれば、中国化のロードマップの一部だったのかもしれない。ちなみにジョコウィ大統領が何が何でも任期中に強硬しようとしているヌサンタラの新首都移転のデザインも中国にお任せだそうだが、位置的にも台湾、フィリピンから南下する線上にある。まさか一対一路の一部に組み込まれるのじゃないかと心配になってきた。

 

選挙の時は協力関係にあっても、利益(権力)の分配で仲たがいするのではないかと言われていたプラボウォ国防相とジョコウィ大統領だが、果たして現在そのような状況にあるようだ。これまでずっと隠されてきた鉱山開発の超大型汚職犯罪のいくつかが、最近脚光を浴びているのも、この二人の権力闘争の影響かもしれない。鉱山開発に関わる衝撃的な大型汚職の話が最近話題になっているが、また別に書く。