金価格を考える~金鉱株と商品CFD
4連続コラム最終日の本日はGFMSそのものについて説明します。金に関する調査会社、GFMSが『ゴールド・サーベイ2011』を発表しました。ここで、まずGFMSに関して説明します。GFMSは昔、ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービセズという名前で、南アの産金会社、コンソリデーテッド・ゴールドフィールズの調査部門でした。それが独立したわけです。GFMSは金の需給関係を巡る調査会社としては最も権威があります。そのGFMSは先日発表されたレポートの中で「金価格は年末までに1600ドルを超える」と予想しています。
GFMSは金価格が高止まりするにつれて投資家の「値ごろ感」は昔よりも高い水準にリセットされ、「事実、金価格が仮に1500ドルを超えれば、そこからまた新しい買い物が入って来るだろう」とかなり楽観的な観測を述べています。
さらにGFMSは「金への投資は欧州、米国、日本などの政府の債務危機の深刻化によって助長される」と歯に衣着せない意見を披露しています。また去年、金の延べ棒などのフィジカル(実物)なゴールドへの投資が+66%増えたことに関して「実物への投資の伸長は2010年後半や2011年初頭に見られたような短期での利食い売りで押し目を作る機会が減ることを意味する」としています。そんなゴールドフィールズは南アフリカの産金会社の一大勢力です。南ア金鉱株はアングロゴールド・アシャンティ、ゴールドフィールズ、ハーモニーを指します。この中でゴールドフィールズは確認埋蔵量では南アフリカ最大です。
ゴールドフィールズは「ドリフォンティン」、「クルーフ」などの伝説的な金山の所有者であり、現在、力を入れているのは「サウス・ディープ」金山です。南アフリカ以外の地域ではガーナ、マリ、ペルー、フィンランド、フィリピンなどで探索を行っています。現在の年間生産高は360万オンスで、フリー・キャッシュフローは概算で2.8億ドルです。一般に南アの金山は深い縦抗であり、生産コストが割高です。このため金価格が低迷するととたんに利益が出せなくなります。
従ってゴールドフィールズの場合は「含み資産」では世界の産金会社で第3位にもかかわらず時価総額では大きく後れを取っています。実際、「1オンスの確認埋蔵量に対して投資家が幾らの値段を支払っているか?」を計算するとゴールドフィールズの場合、161ドルしか支払っていません。いまゴールドフィールズの場合、もう何十年も金生産を続けてきた老舗ですから、その確認埋蔵量の「質」に関して投資家が疑問を挟んでいるのではないと思います。むしろ生産コストが高いことが含み価値が割り引かれている理由です。
さて、現在のように金価格がどんどん上昇すると限界的な生産コストの差は余り問題にならなくなります。なぜなら金価格が上昇するほどは採掘コストは上昇しないからです。むしろ採掘コストは比較的一定なので、損益分岐点の高い同社のような財務構造の会社は利益の伸長が高くなることが期待できます。ちなみに産金会社を日本企業で探すと住友金属鉱山【5713】が当てはまると言えるでしょうが、事業ポートフォリオからみると同社の中では、3%のウェートを占めています。株式保有者に金鉱株のヘッジ手段として商品CFDの金という考え方もできるのではないかと思います。
Ken
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金価格を考える~需要面
4連続コラム、3日目の本日は需要面を考えてみたいと思います。ファブリケーション(金細工)需要は2009年から2010年にかけて+10.7%成長し、2779トンになりました。金価格が上昇したにもかかわらずファブリケーション需要が増えた点は過去のパターンとは少し違います。ファブリケーションを増やしたのはインドです。
普通、インドの金細工業者は金価格が安いときに素材の仕入れを増やし、金価格が高騰した局面では買付を絞り込む傾向があります。これは高値でゴールドを仕込んで、結果としてマージンを圧迫するリスクを回避するためです。
しかし2009年から2010年にかけては金価格がずっと高かったので、いつまでも買付を後回しにすることが出来なくなり、金価格は今後も高止まりするとの判断のもとにファブリケーション向けの買い付けを再開したものと想像されます。
産金会社の「売りつなぎ」によるヘッジ残高は僅か151トンまで下がってきました。ピーク(2000年頃)には年間3000トンもの売りつなぎがなされていました。(これは産金会社によるヘッジポジション解消のための「買い戻し」需要が減退することを意味します。)
世界の政府はこれまで金による準備を取り崩してきました。しかし中国などの新興国はいまどんどん外貨準備が増えており、しかもその内容はドル資産に極端に偏っています。このため準備の内訳をユーロや金に分散投資する一環で政府による金買付の圧力が今後働くと予想されます。
最後に世界の金の実物資産(延べ棒、コイン)への投資は重量ベースでは-10%の1675トンでした。しかし金額ベースでは660億ドルと過去最高を記録しました。
Ken
金価格を考える~過去の価格と供給面
4連続コラムの2日目の本日は、過去の価格及び供給サイドの面から考えてみたいと思います。
GFMS(南アフリカの有名な調査会社)は前回、ゴールドが高値をつけた1980年代の金価格をこんにちのドルの価値に換算すると、1980年代を通じた平均金価格 $1626、高値 $2248(=ちなみに当時の名目価格は$850)という計算になると指摘しています。つまり現在の金価格は未だ「実質ベース」では最高値には程遠いといえそうです。
次に金の供給面を見たいと思います。GFMSはボトムアップ方式で100社以上の産金会社に生産計画を聞取り調査し、その結果、供給予想を立てています。2010年の金山からの生産高は前年比99トン増(+3.8%)の2689トンでした。地域別ではオーストラリアと中国からの増産が目立ち、逆に南アとペルーの減産が目立ちました。採掘コストは2009年の478ドルから2010年は557ドルに+17%上昇しました。また間接費を含めた採掘コストは+20%上昇し、857ドルになりました。(現在の金価格が1485ドルであることを考えると業界全体のグロスマージンは約42%であると試算できます。)各地域別の採掘コストを比較すると南アは810ドル、オーストラリアは660ドル、北米は520ドル、ラテンアメリカは380ドルです。現在世界に蓄積されている金地金、ジュエリーなどを含むストックの合計は16.66万トンです。
Ken
金価格を考える~最高値更新の21日の見方
4連続コラム、今週は歴史的高値を更新している金相場に注目したいと思います。
3/21のニューヨーク商品取引所(COMEX)の金塊先物相場は、ドル安と復活祭3連休を前にした買い物で続伸し、終値で初めて1オンス=1500ドルの大台に乗せました。
4月物は閑散な商いのうちに3/21に前日比4.90ドル(0.3%)高の1503.20ドルの過去最高値で引けた。日中の高値は1508.30ドル。取引が最も活発な6月物は、日中取引で1509.60ドルの新高値をつけたあと、4.90ドル(0.3%)高の1503.80ドルで終わりました。
金相場は過去3日間のほとんど1500ドルを上回る水準で推移したあと、ドルの急落を背景に同水準を超えて引けました。キングズビュー・フィナンシャルのトレーディング部門のトップ、マット・ジーマン氏は「この数字はテクニカル的には重要ではないが、心理的には重要で、来週も続伸することを示唆している」と述べました。
ロジック・アドバイザーズのビル・オニール氏は、金は先週15日以来高値を更新しており、18日にスタンダード&プアーズ(S&P)が米長期国債の格付け見通しを「ネガティブ」に引き下げたこととドルの下落が、金を通貨に代わる投資対象として見ている投資家の「火に油を注いだ」と指摘しています。投資家はドルに対する何らかの保護策を取らずに3連休入りたくなくて金を買ったとの見方です。22日はグッドフライデーでほとんどの金融市場が閉まりました。
金塊は価値の倉庫、そして代替通貨と考えられており、ドルなどの紙幣に対する懸念が相場を押し上げています。ジーマン氏は「投資家はインフレを非常に気にしている」と述べました。ただ、今週の金相場の高騰ぶりには一部のアナリストが不安を抱いており、これらのアナリストは、記録的高値を反映して現物市場はほとんど動かなくなってしまったとしている事を指摘しています。VTBキャピタルのアナリストは顧客向けノートで、短期的には金塊相場の上昇基調は変わらないだろうが、1500ドルを大きく上回る水準まで上昇するには、通貨の変動よりももっと持続的なセーフ・ヘイブンの買い物が必要だと指摘して、もっと緩やかな上げ歩調が望ましいと述べました。
銀塊も金になびいて記録的水準に上げています。4月物は前日比1.59ドル(3.4%)高の1オンス=46.062ドルと、週末終値として1980年以来31年ぶりの高値で終わりました。ちなみに80年につけた記録は50.360ドル。取引の最も活発な5月物は1.598ドル(3.6%)高の46.059ドルで、80年の高値41.50ドルを大きく上回りました。
Ken
1. 当コラムは投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではありません。
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2. 当コラムの内容によって生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いません。
エネルギー問題を再認識しよう~国際協調の重要性
4連続コラム、最終日の本日は、昨日のコラムで将来エネルギー問題で欧州諸国が新興国の所謂エネルギーの持てる国と、欧州の持たざる国との格差が、そのまま世界経済でのプレゼンスに反映してくる現実を前にの地球温暖化問題が消えたわけではない。この問題を解決しない限り、新興諸国の成長に、より大きな影響が及ぶこととなるでしょう。また資源獲得を目的とした新たな紛争が各地に勃発する事になりかねません。このような状況は経済成長に大きな害を与えることは容易に想像できます。
この問題の解決策としては、エネルギーの効率化、エネルギー源の構成の転換、そして化石燃料使用の弊害を抑える為の「二酸化炭素封じ込め」技術の活用が必要になってくると思います。我々はエネルギー使用に関して余りにも無頓着になってしまっていたように思います。エネルギーの使用量を削減しても生産高をあげる方法がいくつもあると思います。直ちに取り組めることのひとつに移動、輸送手段でのエネルギーの使用方法の転換があげられます。スピードは幾分落ちても小型で燃費の良い車を使えばよいのです。同様に、技術革新の結果、より効率的に電力やエネルギーを使うことが可能なオフィスや住宅への改築コストが急激に低下しています。我々にとって身近な所として、現在使用している自宅の電球を関東全域のすべての住宅が一世帯当たり2つLED電球に替えるだけでトータル原発一基分の生産量を削減できるそうです。
二酸化炭素排出削減目標を達成するには、化石燃料以外のエネルギー利用が重要な役割を担う必要があります。再生可能エネルギーはコスト競争力が徐々に出てきていますが、全エネルギー供給源の中でインパクトのあるエネルギー源になるためには更なるコスト競争力の改善が必要です。新しい分野であるバイオ燃料も、特に農産物の廃棄物の利用によるバイオ燃料は、食料供給に問題を起こすことなく原油依存を緩和することも可能になりつつあります。
各国政府は原子力発電を代替エネルギー源として検討してきました。しかし日本の福島原発事故はこの動きに影を落としています。ドイツでは再び脱原発運動が盛り上がってきておりますが、現実的には排出削減目標を達成するためには、原子力発電の役割は今以上に重要となるものと思われます。しかし、福島原発事故により、1986年のチェルノブイリと同様に、20年間にわたり各国の原子力発電計画が凍結されることとなれば、再生可能エネルギーが現状よりも重要な役割を担うことになるか、エネルギー効率の改善はさらに加速する必要がでてきます。原子力発電の役割の低下は二酸化炭素の削減がこれまで以上に難しいチャレンジとなることを意味します。
以上の事から次の4点を特に強調したいとおもいます:
・現状での解決策は基本的には有るということです。しかし化石燃料の更なる価格上昇なくして低炭素燃料の導入やエネルギーの更なる効率化への取り組みは起こらない、もしくは表面的な現象としてしか起こり得ないと言えるでしょう。
・化石燃料価格は、僅かな需給関係のアンバランスにも反応しやすいということです。それは直近の原油価格の動向が如実に物語っているということが言えるでしょう。
・脱化石燃料社会に向けた取り組みや施策へのリードタイムは通常長いと言えます。推定埋蔵量から逆算しても人類に残された時間は、まだいくばくかあります。この残された時間内に人類はフルに技術革新による省エネルギー社会の構築や新エネルギーの開発が求められます。しかし、そのつなぎのための期間は、化石燃料依存はコスト高や、それに伴う経常収支の悪化などに直面する可能性が高いです。
・成長目標の達成は二酸化炭素排出削減目標の達成よりもはるかに容易です。ただ、成長目標と気候変動目標は複雑に絡み合っており、その関係を注視する必要があります。2050年に向けた持続可能な世界経済の成長を実現するためには、各国の政府が協調して行くことが重要で、国際商品市況が深刻な状況になる前に、先手を取った対応が求められます。
Ken