エネルギー問題を再認識しよう~取り残される欧州と日本?
4連続コラム3日目は昨日のコラムで列挙した条件が現実には起こりえない事はだれの目にも明白だからです。
その理由としては、誰もが認識していて当たり前の話ですが、エネルギー資源には限りがあります。仮に需要
が増加せず現状のまま推移したとしても、公式の資料では原油は49年で尽きてしまう事になっています。天
然ガスはそれほどではありませんが、輸送に関わる問題や交通手段の動力源としてどのように利用できるかな
どの大きな課題を抱えているのが現状です。石炭は可採年数176年と潤沢にありますが、大量の二酸化炭素
を排出し、環境だけでなくエネルギー効率の面でも大きな問題を抱えています。
また少し視点を変えて、エネルギー安全保障の問題を考えてみたいと思います。ここでは「エネルギー安全保
障」を国民一人当たりのエネルギー生産量と定義しますが、これは更に大きな問題が存在します。天然ガス利
用の多様化や拡大によっても原油市場にかかるプレッシャーは緩和されません。天然ガスの生産地も原油と同
様に地理的に偏在しているからです。「エネルギー安全保障」面で不安定な地域は、ヨーロッパやインドなど
です。しかしながら、インドは既にこの問題の解決に着手しているようですが、ヨーロッパでの深刻化が懸
念されます。私は、2050年の経済規模の上位ランキングの多くの入れ替えが起こると予想していますが、
特にヨーロッパ諸国がランキング落ちする代表と言えそうです。ヨーロッパは、エネルギー安全保障の観点で
交渉力と影響力を必要とする時期に、経済力の低下に直面する可能性が高いからです。もちろん、日本も他人
事ではありません。資源開発は一長一短でできるものではありませんし、国力に直結する外交力等が必然的に
求められてきます。経済の弱体化は、国力の低下と同義語であり、資源外交の求められる時期にその国力の低
下は致命的なダメージを被ることになると考えられます。
つまりエネルギー問題は現在の日本にとっては停電が大きな問題ですが、環境問題であると同時に日本の将来
の経済ひいては我々が生きていく上で非常に大きな問題ともいえます。
Ken
エネルギー問題を再認識しよう~将来のエネルギー確保
4連続コラムの2日目の本日は、昨日のコラムを受けて、それでは2050年に向けてエネル
ギーをどう確保するか?を考えてみたいと思います。
空虚な議論を避けるために、まずは現実の状況を今日を確認したいと思います。中東・北アフ
リカの政変が起こる以前から原油価格は1バレル100米ドルに近づいていました。それに
今回の巨大地震と大津波による福島原子力発電所の悲惨な事故により、原子力発電の将来は
危ぶまれており、エネルギー事情の悪化が懸念されて、具体的には日本での福島原子力発電
所の生産分が火力発電所の生産能力で代替される事を見越して原油市況が上昇しました。私は
2050年の世界経済規模は新興諸国主導により現在の約3倍となると予測していますが、こ
の予想通りに世界経済が拡大するには経済活動の拡大と密接不可分なエネルギーの新規需要分
の確保の問題に対して、先進国はもとより、新興国が、どのように対応していくことになるか?
にかかっていると思います。地球上にエネルギー資源の制約が仮にもなかったとしたら、現在
と同じようにエネルギーを使い続けることが出来ますが、その場合、経済規模が3倍になるた
めには以下条件が必要になると考えられます。
・新興諸国の可処分所得増に伴い、約10億台の自動車の増加が見込まれ、それを動かす為に
必要な燃料として1日当たり1億9千万バレルの原油が必要となることから、原油需要は現在
と比べ110%増となるものと見込まれます。
・新興諸国の成長により、総エネルギー需要がおよそ2倍になるでしょう。
・大気中の二酸化炭素が2倍になりえます。ちなみにこれは、安全とされる気温上昇の許容
範囲内での二酸化炭素レベルの3.5倍に相当します。
Ken
エネルギー問題を再確認しよう~切っても切れない原子力
今週の4連続コラムの1日目はエネルギーについて考えてみたいと思います。自動車を運
転する人、暖房を使う人、あるいは工場経営者であれば誰でも今後40年間(2050年ま
で)の世界のエネルギー資源の制約を心配して当然と言えるでしょう。私たちは、容認できな
いほどのスピードでエネルギー資源を使い果たしてしまい、その結果、地球をオーバーヒー
トさせてしまうのか、あるいは巨額の資金を投資してエネルギー効率化や再生可能エネルギー
や炭素の封じ込めに取り組まざるを得ないのか・・・現状では、日本の福島原子力発電所の
地震と津波による大惨事にも拘らず、原子力発電に背を向ける余裕はない、というのが世界
の現実と言えるでしょう。新興国の台頭がエネルギー供給面で新たな制約となるものの、世
界経済は環境に過大な弊害を与えずに成長することは可能であると信じています。その為に
は、私たちの行動パターンの変化や、各国政府が協調して大掛かりな対策が不可欠と言える
でしょう。
Ken
欧州債務問題~ユーロ圏の経済史は繰り返される?
4連続コラム、最終日の本日は、様々な要因を込めて作成したため想定した分量を大幅に上回ってしまいましたが、最後までお付き合いいただければ幸いです。最終日の本日は欧州債務問題に対するユーロ圏の解決策について考えてみたいと思います。
アイルランドの救済が発表された日を境にしてベルギー、イタリアなどのソブリン債も売られ始めたことについてですけど、このようにファンダメンタル的にはベルギーやイタリアはそれほど急激に悪くはなっていないのです。つまり投機筋が先走りすぎた可能性もあるわけです。 ところが最近不吉なことが起き始めています。それはドイツ国債(ブンズ)の入札で売れ残りが出始めたことです。歴史的にはリビア情勢や以前どうなるかわからないイエメン情勢などの国際情勢はブンズを後押しする傾向にありました。
言うまでもなく、ドイツはEUでいちばん大きい国で、経済のファンダメンタルはしっかりしていますので、これまでは周辺国でなにか問題があると投資家はドイツ国債に避難しました。つまりドイツだけは安全だと考えてきたわけです。ところが最近ではそういう逆相関の関係が崩れてきつつあります。それは投資家が「ひょっとすると、この問題はドイツの手にも負えないかもしれない」と感じ始めている可能性が出てきているからです。それではなぜ投資家はアイルランドをはじめ、混乱している、これらの国の救済に納得しなかったのでしょうか?これには2つの理由が考えられます。ひとつは政治で、もうひとつは純粋に資本市場の問題です。
まず政治から見ます。スペインやアイルランドの政治情勢は日本流に言うと「ねじれ国会」の様相を呈しています。つまり世辞がリーダーシップを発揮して大きな決断を行いたくても、どっちつかずの議会が、提案をことごとく葬り去るためです。
一方、この問題をお金を貸す側であるドイツなどから見れば政治的な意思統一が出来ていなくて、ちゃんと赤字削減が出来ないに違いない外国の政府になぜお金を貸すのかということになるわけです。そこで問題になるのは一体、お金を貸す国はどこまで相手の国の政治に干渉できるのか?という問題です。欧州連合ではそれぞれの国家の予算策定権はしっかりとそれぞれの国に帰属しています。別の言い方をすれば欧州連合には財務省に相当する機関は無いのです。そうなると国家予算の策定や承認はそれぞれの国の国内ルールに従って決められる必要があるのです。また欧州連合には所謂、欧州憲法は存在しません。欧州憲法は2001年に元フランスの大統領だったジスカール・デスタンが欧州憲法制定協議会の会長となって策定しようとしたのですが、フランスとオランダのレファレンダムで国民から却下されてしまったのです。そのため憲法に代わるものとしてリスボン条約という条約を結んで、これを欧州憲法の代用品としたのです。
このリスボン条約は慎重に国民投票の必要性を引き起こさないようにEU加盟諸国の法律を迂回するようにデザインされたものですが、どうしてもアイルランドの憲法にだけは抵触してしまい、アイルランドではリスボン条約を国民投票にかけました。すると案の定、アイルランドの国民はこのリスボン条約を否決しました。欧州連合(EU)のアイロニーはそれぞれのメンバー国はちゃんとした民主主義なのにブリュッセルにあるEU本部は通貨統合の国民投票の際も欧州憲法の国民投票の際も悉く国民はNOと言ったにもかかわらずなし崩し的に支配を継続している点にあります。つまり行政のプロを自認するテクノクラートすなわち官僚による支配という構図になっているのです。これは民主主義がおびやかされている構図になっているわけです。
二つ目の理由は資本市場のメカニズムに関する問題です。今年5月にギリシャを救済するために欧州連合や国際通貨基金が1兆ドルにのぼる救済プログラムを発表したとき、その根幹をなしたのがEFSFと呼ばれるファンドでした。
これはA国がB国へ単独で融資するというのではお互いの国の国民が納得しない場合があるしリスボン条約に抵触する可能性があるので各国で資金を持ち寄り、それを特別目的会社としてプールすることで援助が必要な国に共同して支援しようというアレンジなのです。発想は良かったのですが、このファンドには2つの大きな問題があります。ひとつは期間限定のファンドなので2013年を過ぎたらこのファンドでは支援できないということ、もうひとつはメンバーの中のひとつの国がおかしくなって支援を必要とすると、その救済を受ける国は当然、ファンドのメンバーから抜けなければいけないということです。つまり救済すべき国が増えればふえるほど、みるみるファンドの残高がへってしまう構造になっているわけです。
そこでドイツのメルケル首相が中心となってEFSFの欠点を補完するESMという新しい救済メカニズムが発表されました。EFSFが2013年までという時限措置なのに対し、ESMは恒久的な存在です。またお金の出してが借金を返してもらう優先順位としてはIMFの次、つまり第2番目に優先されるということが決められました。さらにデフォルト時の権利関係の整理を簡単にするために米国型の集団交渉を盛り込みました。そして2013年以降に新しく出された国債がデフォルトした場合は債券を買った投資家もデフォルト時に痛み分けするという、所謂、ヘアカットを自動的に盛り込むことが決められました。実はこの最後のヘアカット条項で投資家は「2013年以降はEUは債券投資家を守ってくれないのだな」ということを悟り、将来のリスク増大を先取りするカタチでソブリン債全般を敬遠しはじめました。このためスペイン、ベルギー、イタリアなどの国債の価格は急落しはじめました。そこでフィナンシャル・タイムズはこのESMの導入を「メルケル・クラッシュ」と呼んでいます。今回の危機は或る意味で1992年のERM危機に似ています。これは統一通貨ユーロを導入する前哨戦として欧州各国がだんだん為替レートをお互いにペグし合い、次第にレートを固めて行こうとしたものです。1991年に世界が不景気になり米国が利下げを繰り返しドルが売られました。
ドル安でユーロ圏の弱い国々は輸出不振に陥りました。そこでフィンランドが先ずマルカを12%切り下げました。6月にオランダで国民投票があり、EC統合に関する欧州連合条約、つまりマーストリヒト条約は賛成49.3%、反対50.7%の僅差で否決されてしまいます。そのためイタリア・リラが急落しました。フランスでは9月20日に国民投票が予定されていましたが、若しフランスの国民がこれを否決すればEU統合は失敗するとの不安が高まり、投票を待たずにイギリスのポンドはERMの下限をやぶります。そこでEUは緊急会議を開き、ドイツに利下げしてくれるよう依頼しますがドイツがこれを拒否、フィンランドのマルカは15%暴落、英国はベース・レンディング・レートを10%から12%に引き上げます。しかしそれでもポンドに対する攻撃が止まなかったので英国はERM脱退を申し出ます。
なぜこんにちポンドだけがユーロではないのかその理由はここにあるのです。当時は個々の国の通貨が別々に取引されていましたからヘッジファンドは個別通貨への売り崩しを試みました。今回はEFSFという仕組みがちょうど当時のERMと相通じるものがあると市場関係者は語っています。今回の場合、ユーロという共通通貨が使われているのでヘッジファンドは個別国の債券への売りを仕掛けています。だからそれらの周辺国の債券利回りとドイツの債券利回りの格差、つまりソブリン・スプレッドが問題にされるわけです。
アイルランド危機がベルギーやイタリア、フランスに飛び火しそうになって時点で市場ではSMPの拡大が発表されるのではないか?と噂されはじめました。SMPとはセキュリティーズ・マーケット・プログラムの略で中央銀行、この場合欧州中央銀行(ECB)が周辺国のソブリン債を直接購入することを指します。見方によっては欧州版QEということも出来ます。
但しSMPは殺菌(ステリライズ=不胎化)されており、インフレをわざと起こすという目的でなされるものではありません。5月のギリシャ危機の際はSMPは670億ユーロの周辺国ソブリン債を購入しました。このうちギリシャ国債は約400億ユーロだと言われています。結局、先週のECB政策金利会合ではSMPの大規模拡大は発表されず、当初来年早々に終了されるはずだったSMPを当分の間継続するということでお茶が濁されました。
さて今後のシナリオについてはいろいろなものが考えられます。まず今後もユーロの問題が長引き、ドル高になった局面ではリスク・トレードの巻き戻しが再び起こる可能性があります。リスク・トレードというのはドル安を見越して、ドルが安くなったときに逆相関で上昇しやすい原油、金、銅、新興国株式などを買うやり方です。
もうひとつのシナリオですが仮にドル安にならなくても、つまりユーロが売られた場合でも原油が高くなるというシナリオも少しその兆候が見え始めています。つまりドルと原油の逆相関の構図が崩れる可能性もあるということです。この原因にはいくつかの理由が考えられますが、ひとつには米国の実体経済が最近強くなっているのでそれに合わて
原油の需要も増え、それが原油高を演出しているという考え方です。もうひとつはユーロを調達原資として欧州のファンドが原油にお金を避難させるというシナリオです。言い換えればユーロ版リスク・トレードということです。これはあまりマーケットからは支持を得ていないシナリオですけど、若しこれが起こると気をつける必要があります。なぜなら景気が悪いのにインフレになるという、所謂、スタグフレーションのシナリオになるからです。 この状況に限りなく近く、現在苦闘しているのがBOE(英中銀)であり、極めて難しい局面に立たされている英国経済と言えるでしょう。
Ken
欧州債務問題~3グループは何でやられているか?
4連続コラム、3日目の本日は欧州債務問題、ナゼユーロが大問題なのか?個々の国々をもう少し深く掘って考えてみたいと思います。
先ず欧州連合の経済規模は16200(10億ドル)で米国14000(10億ドル)より大きく、経済圏としては世界最大です。(IMF資料参照) 次にEU圏の中をのぞいてみると欧州連合の経済を100としてその中でそれぞれのメンバー国がどのくらいの比率を占めるかを考えてみると、ドイツが最も大きく、20%を占めています。その次はフランスで16%です。イタリアは3番目で13%です。スペインは4番目で9%です。ギリシャは2%、アイルランドは1.4%に過ぎません。つまり経済の規模から言えばギリシャやアイルランドなど問題にならない規模だということです。ところがアイルランドに対する850億ユーロの救済が発表された同じ日に異変が起きました。それはその日を境としてスペイン、イタリア、ベルギー、フランスなどのソブリン・スプレッドが上昇しはじめたということです。ソブリン・スプレッドというのは国と国の債券、つまり国債同士を比較し、その金利差、つまりスプレッドが拡大しているかどうかを測ることを指します。ソブリンというのは国と言う意味です。
次に財政を考えてみます。どの国も負債が増える傾向にあるけど、ギリシャが一番悪いです。イタリアは歴史的に負債が高いですけど増え方はそれほど多くありません。つまり安定しているわけです。このように変化率に特に注意したいとおもいます。変化率といえば一番急激に純負債が増えているのはアイルランドです。アイルランドは優等生から一転して急激に悪くなっていることがわかると思います。またスペインも優等生だったけど悪化しています。ドイツは一番安定しています。フランスは最近トレンドが悪化しています。さらにスペイン、ポルトガルも悪いです。
次にGDP成長率に注目します。一番ドラマチックに落ち込んでいるのはアイルランドです。ギリシャ、スペインも駄目です。その反面、ドイツは2010年にかけて急角度でGDPがリバウンドしています。これはユーロ安の恩恵をこうむっているからです。2007年までの好景気時代にいちばんGDP成長率が高かった国はアイルランド、ギリシャ、スペインが常に高成長していたことがわかります。それはこれらの国でバブルが起きていたことの証です。実際、不動産ブームがこれらの国では起こりました。逆の言い方をすれば、ブームが大きかった国はその反動としてのファンダメンタルズの悪化も急激だということなのです。イタリアやポルトガルはリーマン・ショックの前は成長率が最低の部類でした。つまり恒常的に低成長という問題を孕んでいるわけです。
経常収支で見ると景気が良かった2007年くらいまではギリシャ、アイルランド、スペインなどの経常収支の悪化が激しかったことがわかります。つまり消費ブームなどがおこっていたわけです。これは共通通貨ユーロを導入し、なおかつ金利がこれらの国の成長やインフレ率に対して低めに設定され過ぎていたことが原因です。一方、ドイツは恒常的に経常黒字を確保している点は重要です。
ギリシャの場合、確かに政府の財政赤字が危機の原因でした。しかしアイルランドやスペインの場合、政府の負債の総額や財政赤字の大きさはずっと健全だと思われてきました。それらの国がいま困難に直面しているのは不動産バブルがはじけて銀行が潰れそうになっているからであり、それを政府が支援したために政府の財政が圧迫を受けたのです。実際、1999年から2008年までの9年間にEUの家計の負債はGDPの50%からGDPの70%へと急増しました。おなじ期間、EUの民間銀行の負債はGDPの250%へと膨らみました。一方で、おなじ期間、EU各国政府の負債のGDP比率は逆に72%から68%へと減少しているのです。つまりEU全体で見れば問題の根源は政府の無責任な財政拡大にあるのではないということです。とりわけアイルランドとスペインではこの期間、政府の負債比率はEU各国の中で最も減少しました。でも不動産バブルが弾けたら不動産取引がらみの税収が蒸発してしまい、それが問題のひとつとなったのです。
整理しなおすとギリシャの問題は政府の財政赤字でした。スペインやアイルランドの場合は不動産バブルでした。しかしイタリアやポルトガルの場合はそもそも経済成長そのものが低いことが最も深刻な問題なのです。このように同じユーロの問題といっても抱えている事情は各国でかなり違うことを認識できると思います。
Ken