元気な新興国ブラジルとインド~国際マネーの動きと今後のインド
4連続コラム、最終日の本日は昨日に引き続きインド市場及び今週のテーマである「元気な新興国」として取り上げたブラジルとインドの2カ国に関して総論として私の考えをまとめたいと思います。
昨日のコラムでも書きましたがインドはインフレ圧力と国内の保護主義色の政治勢力で当局は板挟みになりながら苦悩している今の姿が出ていると思います。そうした中で重要になってくるのは海外のマネーの動きがインド市場にどういった形で入り込み、成長要因として作用するか、または実態と大幅にかい離した形で通貨高もしくは足の速いマネーによる株式市場等のかく乱要因になるのか、現在の段階では、どのようなシナリオになっていくか分かりません。
そこでインドの今後を考える上で、マネーの流れを考えてみたいと思います。私は世界の基軸通貨・米ドルが国際金融市場の発展と共に、現在、世界各地を駆け巡り、資金余剰になっているものの、ここ数年、特にリーマン・ショック以降は、基軸通貨・米ドルの相対的な地位低下を受けながら、その行き場を失いつつあるのではないかと考えています。通常であれば、こうした余剰資金は株式や不動産、また為替の市場などに比較的早く流れて行きますが、景気先行き不透明な中、またバブル懸念の声も聞かれる中、簡単には、いわゆる、「国際金融市場」には流れ込みにくくなっているように思います。そうした中で、相対的には元気の良い、安定的なインド金融市場にも余剰資金が流れてきているのではないかと思われますが、今後、こうした動きがどうなっていくのか注目されます。
そして、一部の余剰資金はまた、行き先を求めて、「食糧と原材料、そしてエネルギー」という人々が生きていく為に必要なものを扱っている市場へと従来以上に流れ込み、相場を形成し始めていると見ています。こうした結果、例えば、原油価格は高騰トレンドを続け、市場では、既に、「1バレル当たり150米ドルは間違いなし。」といった見方も出始めています。更に、商品価格の一つの指標となる金価格も高騰トレンドにあると見られます。さて、こうした状況下、先日、ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金塊先物相場は続伸し、取引の中心となる6月物が1オンス=1,500.00米ドル近くまで行きました。史上最高値を更新しています。原油相場の急伸のほか、中国本土や米国の経済指標などを検討し、インフレ・ヘッジの買いを集めていると見られており、金相場をはじめ、国際市場は今後も上昇するかもしれないと見られています。中国本土とインドのインフレ指標が高い水準になったことを背景に、海外市場でインフレ・ヘッジとしての金塊買いが活発化、更に、米国の取引時間帯になると、米国の消費者物価指数が上昇トレンドにあること、原油相場が1バレル・約110米ドル水準まで急伸したことなどで、インフレ懸念が一段と拡大し、金塊相場が急上昇していると見られているのであります。今後は行き場を求めて世界の余剰資金は何処に行くのでありましょうか?或いは、資金は一旦、米国の金庫へと収まり、収縮していくのでありましょうか?また、もしその資金収縮が起こった場合には、一旦は世界的な不景気という違う痛みを世界に与えるのでありましょうか?そして、こうした世界的な資金の動きがインドへの資金の流出入にも、当然のことながら、影響を与えるでありましょうし、インド株の上昇やインド・ルピーの変動に悪影響を与える可能性も出てきます。
インドはホットマネーの流入による株高現象に対しては非常に神経を配る金融政策を実施できる国です。その意味では果敢な資本流入規制を実行してきた過去がありますが、現在のシン首相の政権下では対外的に非常に開放的な経済政策が実施され、ある意味でそれがインド経済の自由の担保にもなっていた側面が私は多かれ少なかれあったと思います。
ブラジルとインドは両国とも新興国と言うカテゴリーで見ても、経済発展の裏付け要素を多分に有した国であると私は考えています。両国にとって、目下最大の敵は迫りくるインフレの脅威であり、またそれに金融政策で対処する姿勢はとても理にかなっておりますが、その一方で利上げは国内経済の締め付け要因であり、その点の国内の不満を以下にガス抜き、もしくはかわす事が出来るかにかかっているように思えます。インドの場合、ブラジルと異なり原油の価格上昇が経済を直撃する構造になっていることと、これ以上の大きな問題として、依然として貧困層に位置づけられる人口層が非常に大きなウェートを占めていることと言えるでしょう。これらの層に対して所得を拡大させる政策を実施しその多くを資本主義経済の構成員の含めていく経済政策を実施できれば、現段階でも巨大な中間層を形成しつつあるインド経済の更なる爆発的な成長要素になるでしょう。そういう視点で考えてもインド経済は非常の面白い要素をたくさん有している経済といえるでしょう。
Ken
中国、野菜値崩れ
最近、上昇が目立っていた中国の野菜価格が、一転して、値崩れしている。
昨年、インフレ抑制策として農家に増産を奨励したところ、一部の野菜が供給過剰となったことが背景にあるものの、日本の原発事故で放射性物質の付着への不安が出て、消費者の野菜離れが進んでいることも一因だ。
中国政府は大手スーパーに対し野菜を積極的に販売するよう指示しており、野菜価格の乱高下に翻弄されてい
る。
商務省のデータによると、4月第4週の主要18種の野菜価格は前週より5.9%下落した。価格の下落は4週連続
で、3月よりも20%以上下がったことになる。商務省は4月末、米ウォルマート・ストアーズや仏カルフールなど外
資系を含む大手スーパー12社に対し、値崩れが最も激しい野菜を特売コーナーを設け積極的に販売するよう指
導した。また流通コストを削減し、その分を農家からの野菜の価格維持に充てることも求めた。
野菜価格の上昇は中国物価高の要因となってきた。最近の下落基調が続くようなら、消費者物価全体の上昇
圧力を緩和する可能性もありそうだ。
Robin
元気な新興国ブラジルとインド~インドの利上げは前途多難!?
4連続コラム、3日目の本日と明日は2日にわたってインド市場を見ていきたいと思います。月曜日と火曜日にブラジルを取り上げましたが、本日と明日取り上げるインドも新興国の中では非常に面白い要素を持つ国と言えるでしょう。
現在の状況下でのインド経済の短期的見通しとして言えることは、中東・北アフリカ情勢が緊迫していることなどから原油価格の上昇が続いていますが、インド経済は構造的に原油高の影響を受けやすいため、原油高が続けば財政赤字や経常赤字の拡大、インフレなどに繋がり、経済成長に悪影響を与えることも考えられます。一方、企業業績やモンスーン期の降雨量もインド経済にとって大きな材料となります。特にモンスーン期の降雨量が良好であれば、豊作により農家所得の増加や食料価格の安定に繋がり、国内消費の拡大やセンチメントの改善に繋がることから、その動向に注目が集まります。中長期的にインドが高い経済成長を続けるとの見方に変更はありません。引き続き国内消費の拡大や、インフラ投資の増加、アウトソーシングなどがインド経済における力強い成長要因になると考えられます。インドの中央銀行であるインド準備銀行は、1月に続いて3月にも政策金利のレポ金利とリバース・レポ金利の0.25%引き上げを決定しました。経済成長が加速している中、根強いインフレが続いていることが利上げトレンド継続の原因と見られており、更にまた、インド政府は日本の大地震や中東・アフリカ地域の騒乱の影響に対する警戒感をものともせず、金融引き締め政策を積極果敢に推進していると見られています。インド準備銀行は、リーマン・ショック後の金融緩和政策を2010年3月に転換して利上げを開始、今回は8回目となります。そして、この結果、インド準備銀行による商業銀行向け貸出金利であるレポ金利は6.75%、インド準備銀行が商業銀行から資金を吸収する際に適用するリバース・レポ金利は5.75%となり、2008年以来の高水準となりました。エコノミストの多くは、2月のインフレ率が食料や原油価格の高騰により8.31%に達したことから、「当局の引き締め姿勢は変わらず、年内にあと2回、早ければ5月にも次の利上げがある。」と見ています。また、他のアジア諸国もインドのこうした動きに基本的には追随する姿勢を示していくものとも見られています。これまでのところ、日本の地震災害はインドを含むアジア諸国の経済成長に大きな影響を及ぼしていないし、今後も大きな影響を与えないと見られており、こうしたことから、インドやアジアでは利上げトレンドは続くと見られているのであります。但し、インド財界は工業生産が伸び悩んでいることに懸念を示し、インド準備銀行が利上げを手控えるようロビー活動を展開しているとの見方も出始めています。
また、財界指導者は、最優遇貸出金利の上昇などによる資本コストの急騰に不満を感じていると伝えられており、これがどのような影響を及ぼすかは要注意です。実際に、インド商工会議所のクマール会長は、「投資環境の見通しが日増しに難しくなっている。」と語っていると伝えられており、更なる利上げを阻止する動きを強める姿勢も示しているようで注目されます。一方、経済成長見通しは、国内総生産(GDP)が2010年度の8.6%から来年度(2011年4月~2012年3月まで)は9.25%へ加速する予想となっています。シン首相は、上述したような利上げ政策の示唆がなされている一方でまた、「インフレ抑制に動かなければならないとしても、そうしたインフレ対策は政府が目標とする二桁台の成長を危険にさらすことになる。」との警告とも思われる言葉を発しており、財界の意向に合わせた経済成長を優先する姿勢を示唆しています。しかしまた、政府部内には、「インフレは貧困層を直撃する意味で、成長よりも優先すべき政策である。」とする主張も根強く、その予測と今後の経済政策に関しては様々な見方や意見が出ている点を考えると、先の読みにくい展開となっています。いずれにしも、今回の利上げで、インドは20カ国・地域(G20)の中で金融引き締め政策を最も積極的に推進する国となったと見られている中、「インド国内では、成長か引き締めかの論議が活発に行われており、政策当局がインフレ抑制で一致しているわけではない。」と見ておくべきであり、引き続き、インド政府の金融政策の舵取りに注目していきたいと思います。
以前のコラムでもお伝えいたしましたが、日本の震災で世界経済は回復ペースを鈍化させる可能性に触れましたが、だからと言って世界経済の成長ペースが止まり、逆に縮小するリスクについては私は考えておりません。それと言うのも日本経済の一時的足踏みは生じても世界経済という視点でみれば、米国経済の回復ペースが徐々にですが足腰をしっかりさせつつある点、また欧州は停滞モードから脱却できなくとも、中国を筆頭に依然として利上げスタンスを示し国内経済の過熱モードの適度な冷却化を図る必要性に迫られるほど元気な国もある点です。これらの国々が世界経済の成長を押し上げ、マクロ面でのインフレ圧力になる事を考えると、インドの利上げ姿勢は中国やブラジルと比べると、むしろ後手後手に回っている感さえ否めないと思います。
Ken
元気な新興国ブラジルとインド~景気過熱と通貨高のダブル防止策!?
4連続コラムの2日目の本日も昨日に日い続きブラジルの経済について書きたいと思います。具体的には
ブラジル中銀の手練手管とそれが及ぼす同国への影響とブラジル経済の今後を考えてみたいと思います。
中銀は、インフレ率の加速を強く警戒しており、政策金利をさらに引き上げると私は予想しています。
また、利上げに加えて、追加的な「マクロプルデンシャル措置(金融システムの健全化・安定化措置)」が導
入されることも考えられます。昨年12 月3 日、中銀は、インフレ抑制を目的に、預金準備率の引き上げ、金
融機関の自己資本規制の強化を含む「マクロプルデンシャル措置」を発表しました。また、その後、政府は、3
月29 日に、銀行及び企業による海外からの借入れに対する金融取引税(IOF)を6%に引き上げ、さらに4
月6 日には課税対象となる借入れの期間を1 年までから2 年までへと拡大しました。また、4 月7 日には、消
費者ローンに対するIOF 税率を2 倍に引き上げ1.5%から3.0%としています。これらは、「マクロプルデンシ
ャル措置」の一環と見られ、政府・中銀は、引き続き銀行貸出の抑制など量的引き締めによるインフレ抑制策
を打ち出すことが考えられます。これら措置の効果から、インフレ率は2012 年には徐々に低下することが見
込まれます。
ブラジル経済は、向こう数年間、インフレ率の高進を抑えつつ、潜在成長率近辺の4~5%程度の成長を続
けることが可能と私は見ています。また、ここにきて、ジルマ政権の堅実なマクロ経済運営に対する内外
の評価が高まっています。4 月4 日には、大手格付機関フィッチ・レーティングスがブラジルの外貨建及び自
国通貨建長期債格付を「BBB-」から「BBB」に引き上げました。同社は、引き上げの理由として、潜在成長率
が4~5%に上昇していることに加えて、新政権の財政健全化に向けた取り組みを挙げています。
ブラジルは工業化に向けてまい進しつつ、同国の豊かな国土が農業国としての大きなプレゼンスを示し、
また近年は沖合に海底油田が発見されるなど、資源国としての一面も強めつつあります。
今後、投資家のリスク選好度が持ち直し、先進国から新興国への投資資金の流れが再び活発化することが
見込まれる中で、ブラジル市場に対する投資家の注目度が一段と高まることが期待されます。
Ken
元気な新興国ブラジルとインド~ブラジルの政策金利は12%へ
4連続コラム、今週は目覚ましい発展を遂げるブラジルとインドについて取り上げたいと思います。今日と明日
はブラジル、水曜日と木曜日はインドの今を取り上げたいと思います。本日はブラジルの政策金利を中心に書き
ます。
ブラジル中銀は、4 月19 日(火)・20 日(水)に開催された金融政策委員会(COPOM)で、政策金利(Selic)
を0.25%引き上げ12.00%とすることを決定しました。利上げの実施は市場予想通りでしたが、利上げ幅の市
場での予想は0.25%と0.50%とに分かれていました。中銀は今年1 月に半年振りに利上げを再開、その後3
月にも追加利上げを実施し、政策金利を各々0.5%引き上げており、今回は利上げ幅を0.25%に縮小させました。
これで今年3 回目の利上げとなります。
中銀は、金融政策委員会の声明で、「金融政策の調整プロセスに従い、政策金利(Selic)を12.00%へ引き
上げることを決定しました。5 名は0.25%、2 名は0.50%の利上げを支持。現時点では、インフレ・リスクの均衡、
依然不透明な国内景気の減速度合い、そして国際環境の複雑さを考慮すると、十分に長い期間をかけて、金
融政策の調整を行うことが、2012 年にインフレ率を目標値(中央値は+4.50%)に収斂させるための最も適切
な戦略と考える。」と述べています。
この声明内容は、政策金利がさらに引き上げられることを示唆するものと見られます。インフレ率が加速、
景気は減速しつつも現状維持を目的としています。今回の利上げの背景としては、インフレ率がなお実績値、
期待値ともに上昇していること、また景気が減速しつつも依然堅調を維持していること、が挙げられます。
20 日(水)に発表された4 月のIPCA-15(月半ばまでの1 ヶ月間の拡大消費者物価指数)は、前月比で
3 月の+0.60%から+0.77%へと加速しました。内訳を見ると、食料・飲料が+0.79%、衣料が+1.46%、交通
費が+1.45%と上昇し、指数全体を押し上げています。また、IPCA-15 の前年同月比は、3 月の+6.13%から
4 月は+6.44%と上昇し、中銀目標レンジ(4.5%±2.0%)上限に接近しました。
さらに、市場の予想インフレ率(IPCA)も上昇傾向が続いています。4 月15 日時点の中銀調査によると、
市場関係者の2011 年のIPCA 上昇率の予想は、4 週間前の+5.88%、1 週間前の+6.26%から+6.29%、
2012 年の予想も4 週間前の+4.80%から1 週間前及び15 日時点は+5.00%へと上昇しています。
私は、①国際商品市況が上昇基調にあること、②景気が依然として潜在成長率(私は+4.50%と
推測)を上回るペースで拡大していること、③労働需給が逼迫しておりサービス価格の上昇圧力が続く見込み
であること、などからインフレ率は引き続き高水準で推移するものと予想しています。私は、4 月末時点の
IPCA 上昇率は、前年同月比で中銀目標レンジ上限の+6.50%を超え、再びこの水準を下回るのは本年後半
になると予想しています。
一方、景気は内需主導で引き続き堅調を維持しています。直近の景気指標を見ると、2 月の鉱工業生産指
数は前月比で1 月の+0.2%から+1.9%、前年同月比では+2.4%から+6.9%となりました。また、2 月の小
売売上高は前月比で1 月の+1.1%から-0.4%となりましたが、前年同月比では+8.3%から+8.2%と高い
伸びが続いています。2 月の経済活動指数(GDP(国内総生産)成長率の目安として注目される中銀が発表す
る景気指標)は、前月比で1 月の+0.7%から+0.3%、前年同月比では+5.1%から+7.0%となり、第1 四半
期も景気は堅調に推移していることを示しています。さらに、労働市場は依然逼迫しており、3 月の失業率は
前月の6.4%、前年同月の7.6%に対し6.5%となり、市場予想の6.7%を下回りました。3 月としては、現行統
計が開始された2002 年3 月以来最低となります。また、3 月の平均実質賃金は前月比+0.5%、前年同月比
+3.8%と堅調な伸びとなりました。
私は、ブラジル経済はソフトランディングに向かいつつあると見ており、実質GDP(国内総生産)成長率
は、2010 年の+7.5%から2011 年は+4.7%になると予想しています。良好な雇用情勢を背景に、個人消費
は引き続き景気をけん引するものと見込まれます。また、ジルマ政権は、大型インフラ投資計画「PAC(成長
促進プログラム)」の第二弾「PAC2」を強力に推進しており、インフラ投資も成長のけん引役となることが見込
まれます。
Ken