とうとうここまで来たか 2020年5月
とうとうここまで来たか。
10年前に抱いていた夢を 叶えた。
いや,夢はこの10年でふ くらんだ。
たくさんの仲間の夢をふく み大きく大きくふくらんだ。
あの頃の夢より大きなパ ワーを持って,たくさんの人とともにふくらんだ。
ながい道のりであった。
本当にながい道のりであっ た。
一旦満足しよう!
しかし,また,新たなス タートを切る!
さらなる高みをめざして!
守りに入るには早すぎる
まだまだ突っ走ろう!
10年前に抱いていた夢を 叶えた。
いや,夢はこの10年でふ くらんだ。
たくさんの仲間の夢をふく み大きく大きくふくらんだ。
あの頃の夢より大きなパ ワーを持って,たくさんの人とともにふくらんだ。
ながい道のりであった。
本当にながい道のりであっ た。
一旦満足しよう!
しかし,また,新たなス タートを切る!
さらなる高みをめざして!
守りに入るには早すぎる
まだまだ突っ走ろう!
女子専用の塾なんて差別ではないですか?と言われました。
先日、外部の方から「女子の学習塾なんて、差別ではないか?」という匿名でのメールを頂戴しました。
それについて、コンセプトを生み出した代表としてご返答します。
この時代に、当然、人種や性差による不当な差別は許されるべきではありません。
理由もなくある特定の人たちが不利益を被る状況は許されません。
EIMEIグループの女子専用の塾は、全国に300も400もある女子専用の学校と同じ「女子校」です。安心して学習に専念できる環境の提供が目的です。
ご指摘がありましたが、理由もなく特定の人が不利益を被るような差別ではないとの認識は変わりありません。
それよりも、入学テストで生徒を拒否する学校や塾の方が差別的ではないでしょうか。
そんな感じでお伝えしたら納得されたようですが。
まぁ、普通じゃないこと挑戦してるので、多少の反発や批判は覚悟の上です。
良い意味で議論を巻き起こし、もっと知られて欲しいので、そんなご意見も大歓迎ですね。
言いたいことも言えないそんな世の中じゃ、ポイズン
元日から三日間連続で東上線では人身事故だったらしい。
電車の人身事故に「迷惑だ」と言ってはいけない、という意見が正論だが、同情するのも、迷惑だと素直に言うのも、自由だと思うんだよな。「こうでなきゃ人でなし」という風潮が危ない。
自殺してしまった人に同情はするけど、別の話で、迷惑は迷惑だ、と思う人もいて当然なのに、「迷惑だ」と口に出す事が許されない世の中は危険。
言いたいことも言えないそんな世の中じゃ、ポイズン。
すごい責任感
先日のことです。
社長室に社員が真剣な表情で入ってきて
「社長、言いたいことがあります。」と、お、なんだ?と思っていたら
「○○のこと(失敗)ですけど、改めて事の重大さを感じます。そこで、勝手ながら宣言させてください!あれを挽回できるまでは、自分の給料をゼロにしてください!」
と。
驚いたよ。今どきこんな若者がいるんだなぁと。こんなに責任感強い若者がね。
すごいなぁと思ったのは、そうすることにより、自分を奮い立たせて、なんかエネルギーが充ち満ちているんだよね。
俺は改めて思ったね。俺もさらに頑張ろうってね。
彼は、失敗(その人だけの責任ではない)をしたんです。それでいいんです。一時的に数百万円の損害が出ていても取り戻せばいいだけです。
失敗をしていない人は挑戦をしていない人です
。新たに何か挑戦すれば失敗の可能性も高いんです。
俺は、数ヶ月前に、なんの経験も無いその社員にある部門の責任者を任せた。
そいつに任せて良かった。間違っていなかったと改めて思ったんですよ。
p.s.給料没収については、気持ちだけにしておけ、と踏みとどまらせた。
なぜなら、失敗をしたらその責任を取らされる、みたくなってしまうのは、わが社としては本意では無いし、そんな文化になってしまったら良くない、と。
そもそも、失敗の責任は皆にあり、一番の責任者は、社長である俺なんだからさ。
誰だよ将来の選択肢を拡げるために大学には行けとか、言ってたの
「誰だよ将来の選択肢を拡げるために大学には行けとか、言ってたの」
おれは、国立大で小中高校の教員免許とった。
「それなのに、塾に就職なんてもったいない。」と、何度も言われた。いろんな人に何度も。
その度に、よーし、この道が正しいと証明してやろう!と燃えた。しかし、もっと親孝行で良い子は、説得に負けてしまうだろう。
これって。選択肢なくしてない?
誰だよ「将来の選択肢を拡げるために大学には行け。資格はとれ」とか言ってるのは。
真逆になっちゃってる人も多くみてきたよ。
資格や学歴があるから、「もったいないから」とか思っちゃうし、周りからのプレッシャーもあるし、選択肢がなくなってるじゃんか。
国立大出たのに、飲食店に就職なんてもったいないとか、
理工学部出たのに、何々はもったいないとか、
女子なんかもさ「せっかく四年制大学まで出たのに」とか、就職先選ぶときに言われるし自分も思うし、結婚して家を守りたいなんて言おうものなら、「もったいない」とか
選択肢なくしてるじゃんか。
あ、、一番選択肢多いのは、中卒のエネルギッシュな夢見る奴かもなー。笑
やる気はスイッチみたくパチっとオンにできるもんじゃねー
保護者様から「やる気スイッチを押してください。」と言われることが増えてきた。
しかし、勉強の「やる気」というのは、スイッチみたくパチっとオン・オフを簡単に切り替えられるものではない。
(アドラー心理学的に言うとスイッチがオフになっているだけという「可能性の世界」に逃げ込んで責任転嫁しているわけだが、それについては長くなるので今度)
やる気というのは、そうだなー、マッチ棒に火をつけるようなイメージだろうか。
マッチの先を発火させるにはコツが必要なんだよね。
ゆっくりこすっても火がつかないし、マッチ棒の角度も大事だ。
子どものやる気を出させる(出させるという表現が適切ではないんだが)のも同じく、コツが必要だ。
実際、塾には、我々も悔しいが、なかなか勉強ができずに結果も残せていない生徒もいるのも事実。
マッチになかなか火がつかない生徒がいる。
例えるなら、湿ってしまったマッチだ。
湿ったマッチに火をつけたいなら、いきなりこすっても火はつくはずがない。まずは、乾かすなどの作業が必要だ。
それなのに、いきなり摩擦で火をつけようと焦ってしまう保護者様もいらっしゃる。それではマッチを駄目にしてしまう。
また、マッチ自体は湿っていなくても、こする方に問題があることも多い。
「ガミガミと勉強しろと言ってしまう」ことで、マッチを湿らせてしまうことが多い。
勉強のやる気においては、
具体的には、適切な目標設定、スケジュール管理、具体的な学習内容のアドバイス、モチベーションの維持のサポート
などなど、いくつかのコツが必要だ。
簡単ではない。
いかにも簡単に思わせるような「やる気スイッチ」などと言うのは、俺は嫌いだ。
本当だね「起こったことは、振り返ってみればみんな良いこと」
まゆにシワを寄せる、しかめっ面の自分を見つけた。「こりゃいかん」
夜のガラス窓には自分が映り込む。普段はそんなこと当然過ぎて気づかないもんだ。
なんだか、最近の俺は、少し変だな。と感じていた去年の今頃である。
半年以上、苦しい時期が続いた。
夜も睡眠薬を毎日飲むが深い眠りは訪れず、酒を飲めばもっと目は冴える。
夜はネガティブになりやすい。早く夜が明けろ、と毎日願っていた。
胃腸の調子もずっと良くない。
経営者になって8年目、全国の中小零細企業が苦しむように資金繰りで苦しんだ。
いや、他と少し違った。うちの会社は、売上も好調、現場は必死に頑張ってくれていて、利益も十分出ていた。
だが、経営の「負の遺産」のために苦しんだ。
「今月末までに2000万円は必要ですね。まずいですね」会計士さんに急に言われた。
「え?」俺は一瞬理解できなかった。
その債務は、我が社や俺個人がしたものではなかったので、無視することもできた。
しかし、我が社がお世話になった人のために、無視するわけにはいかなかった。
銀行に行っても、新規校舎のため融資してもらった直後であり、追加融資は難しいと何度も断られた。
俺は必死にカードローン枠を取得しまくり、1000万を調達。高い利息なんて気にしている場合ではなかった。
銀行にも毎日相談に行き、頭を下げ続けた。
メインバンクが、借り換えという名目で1000万円の追加融資をしていただき、これで乗り越えることができた。
今だから言えるが、当時はギリギリのところで格闘していた。誰に相談できるわけでもなく、もがいていた。
去年は「ダイエットで8キロやせた!」とか言っていたけど、心労のためでもある。
(気を紛らわせるために毎日10キロ走ってキツめの筋トレもしてはいたが)
しっかしこの時期には、相当鍛えられた(筋肉も本当についた。笑)し、経営者としての武器も増えた。
--------------------------
「起こったことは、振り返ってみればみんな良いこと」
--------------------------
本当だね、この言葉。
夜のガラス窓には自分が映り込む。普段はそんなこと当然過ぎて気づかないもんだ。
なんだか、最近の俺は、少し変だな。と感じていた去年の今頃である。
半年以上、苦しい時期が続いた。
夜も睡眠薬を毎日飲むが深い眠りは訪れず、酒を飲めばもっと目は冴える。
夜はネガティブになりやすい。早く夜が明けろ、と毎日願っていた。
胃腸の調子もずっと良くない。
経営者になって8年目、全国の中小零細企業が苦しむように資金繰りで苦しんだ。
いや、他と少し違った。うちの会社は、売上も好調、現場は必死に頑張ってくれていて、利益も十分出ていた。
だが、経営の「負の遺産」のために苦しんだ。
「今月末までに2000万円は必要ですね。まずいですね」会計士さんに急に言われた。
「え?」俺は一瞬理解できなかった。
その債務は、我が社や俺個人がしたものではなかったので、無視することもできた。
しかし、我が社がお世話になった人のために、無視するわけにはいかなかった。
銀行に行っても、新規校舎のため融資してもらった直後であり、追加融資は難しいと何度も断られた。
俺は必死にカードローン枠を取得しまくり、1000万を調達。高い利息なんて気にしている場合ではなかった。
銀行にも毎日相談に行き、頭を下げ続けた。
メインバンクが、借り換えという名目で1000万円の追加融資をしていただき、これで乗り越えることができた。
今だから言えるが、当時はギリギリのところで格闘していた。誰に相談できるわけでもなく、もがいていた。
去年は「ダイエットで8キロやせた!」とか言っていたけど、心労のためでもある。
(気を紛らわせるために毎日10キロ走ってキツめの筋トレもしてはいたが)
しっかしこの時期には、相当鍛えられた(筋肉も本当についた。笑)し、経営者としての武器も増えた。
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「起こったことは、振り返ってみればみんな良いこと」
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本当だね、この言葉。
学校の先生に吐き捨てた「塾の先生として話をしてねぇよ」埼玉のビリギャルの話
第4章【学校の先生に吐き捨てた「塾の先生として話をしてねぇよ」埼玉のビリギャルの話】
映画ビリギャルの、坪田先生が高校の先生と話すシーンを観て思い出した。数年前に同じようなことあった。
-------------------------
これは実話を元にしているが、本人が特定されないように名前、学年、性別などを変えて、多少の脚色をしている物語なので、フィクションということにしておく。
-------------------------
いつも通り平日の昼間、俺は塾で夜の授業の準備をしていた。
平日の午後1時だというのに、中学2年生のアサミが学校指定のジャージ姿で、塾に泣きながら飛び込んできた。
何事かと思ったが、当時、アサミは少し反抗期で、学校の先生には反抗し、気に食わない友達にも態度で示し、少し荒れた状況だった。
学校も休みがちになっていた時期もあったが、なんとか学校に行き始めていた時期だった。
「おいおい、アサミ、学校はどうした?なんで泣いてんだよ?」
「・・・・もう学校なんて行かない」
「どうした、急に。友達とうまくいかなかったのか?」
「ちがう」
「だったら、学校の先生とうまくいかなかったのか?」
「・・・うん。むかつく。私のことばかり悪者扱いで、言い分をまったく聞いてくれない」
「あー、よくあるな。学校の先生へのよくある批判。(笑)単にお前のワガママ、お前の言い分が全て正しいのか?ん?」
俺は笑顔で、茶化すようにアサミに言った。
アサミも高ぶっていた気持ちが、茶化されたことで、少し落ち着きだしたようだ。
「確かにわたしも悪いよ。でも、なんで私だけ怒られるの!?意味分かんない。学校の先生はわかってくれない。」
「あはは。お前、それ中二病じゃん!!(笑)」
「・・・・だって、中二だもん。」
「そりゃそうだ。とにかく、学校戻ろう。俺が付いて行ってやるから。」
校門につくと、数人の先生たちが慌ただしくしていた。生徒が学校を途中で抜け出してしまうというのは大問題なのだろう。
若い新任の女性の先生が駆け寄ってきた。
「アサミ!どこ行ってたの!?心配させないで!」
新任の女性の先生は俺を怪訝そうにみた。
「あの、私、エイメイという塾の代表の坂上と申します。アサミが急に塾に来てしまったので連れて来ました。」
「そうでしたか。すみませんでした。ありがとうございます。」
そんな会話をして、アサミと新任の女先生は教室の方へ歩いて行った。
後ろにいた、教務主任の体格のいい角刈り先生が
「あの~、エイメイの先生?お時間よろしければ、中でお話でもいかがです?」
「そうですか。それでは、少しだけ。失礼します」
この学校の2年生は150人以上いるが、うちの塾に通う生徒は40人ちかく。3~4人に1人はうちの塾生という状況だったので、学校との連携も必要だと思った。
また、俺はアサミの今の抱えている問題を保護者様とも深く話し合って、方針を共有していたので、学校とも話せるのは良い機会だったので、主任の先生と話した。
節電で蛍光灯が半分抜かれた薄暗い会議室に通された。
俺は塾名と肩書のはいった名刺を差し出したが、当然、学校の先生というのは名刺は持ち歩いてはいないようだ。
「担任の先生から聞いたんだけどね、アサミはね何人かで掃除をサボってお喋り会をしていたんだよ。それで、担任が叱ったら、教室を飛び出して行ってしまったらしいね。」
「そうでしょうね。想像できます。」と俺は言った。
「もう、本当に苦労しているんだよね。この学年は問題が多くてね。」
教務主任の先生は首を横に振りながら言った。
「学校の先生方も大変ですね。」
和やかな会話が続いていたが、次の教務主任の言葉は聞き捨てならなかった。
「アサミのお兄ちゃんは優秀だったのに、なんであの子はあんなふうになってしまったんだろうな。」
俺は耳を疑った。
こういうことを平気で口にする先生が未だにいるとは。
失望を隠さず俺は言った。
「・・・・先生、それは少しひどい言い方ですよ。アサミの兄もうちの塾生でしたが、ふたりとも良い子たちですよ。」
なるべく、なるべく角が立たないように、それでも抗議の意味が少しでも伝わるように言葉を選んで言ったつもりだ。
「いや~、塾の先生なら知っているでしょう。アサミのお兄ちゃんは、通知票オール5だよ。それに比べアサミは。」
笑いながら教務主任は言った。
「先生、それは冗談でおっしゃっているのですか?それとも本気で成績なんかで人間性までを評価しているのですか?」
俺はムキになってしまった。
「半分冗談で半分本気だよ。成績ばかりでなく、問題行動の面も含めて言っているんだよ私は。真面目な生徒たちにも迷惑をかけていてね。生活指導の先生たち全員でアサミには注意してきたからねぇ。」
アサミは学校の先生に問題児のレッテルを張られ、目をつけられていた。
「アサミの気持ちが分かります。これじゃ、学校の先生を信頼なんてできるわけないですね。成績で人間性を判断するなんて、くだらない。」
教務主任の先生は不機嫌になり、だまってお茶を飲んだ。
険悪なムードになってしまったついでに、俺は言いたいことを言っておこうと思った。
「先生たちから目を付けられていたのは本人も自覚しています。アサミは頭ごなしに叱られると反発してしまう。なんでもかんでも厳しく叱れば良いわけではなく、あの子の性格を考えて叱って欲しい。」
教務主任の先生は目をそらしたが、俺はどうしても伝えたかった。
実は、アサミは中1の夏から、不良グループと付き合うようになって、学校も休みがちで、塾にも来ない日もあった。俺は何度も何度もアサミと話をした。
正しい行動をするよう約束をしたが、すぐには良くならない。何度裏切られても信じ続けた。
学校には行かなくても、保護者様の希望で昼間から塾で過ごしていた日もあった。一緒に花に水をやり、掃除をしていたこともあった。
中2になり、きっかけなんてないのだろうが、だんだんと彼女は良くなり始めていた。その矢先のことだったのだ。
俺はそんなことを考えながら、教務主任との話を続けた。
「確かに、今までのあの子は優等生とは言えない。でも、過去を見ずに、今のあの子をみてほしい。一生懸命かわろうとしているじゃないですか。」
すっかりヒートアップしていた。
そして、次の言葉に俺は完全にキレてしまった。
「ま、塾の先生という商売だからねぇ」
このセリフは学校の先生の伝家の宝刀だった。
生徒の話をしているのに、このまったく意味のない批判を含む言葉。
もう我慢して穏やかに話す必要ない。この相手に礼儀などいらない。と、そう思った。《若気の至り》
そして、教務主任の目の前においてあった、俺の渡した名刺を無造作に取り、目の前で破った。
「塾の先生として話をしてねぇよ」
この言葉に教務主任は唖然としていた。
学校の先生たちが嫌う《不良》の言葉遣いである。
「一人の生徒が一生懸命立ち直ろうとしているから、もう少しだけ繊細に接してあげることはできませんかね。
あの子は今が大切な時期なんだ。先生だってそれくらいわかるでしょう?」
教務主任は、しばらく黙っていたが、斜め下を向き、何度か小さくうなずきながら言った。
「あなたのおっしゃることは正論だ。私も同意見ではあるが、学校という場では私たちの方法でやりますよ。」
「はい。もちろん、方法に口出すつもりはありませんが、私はあの子のことが本当に心配なんです。先ほどは失礼な言い方をしてしまいました。お詫び致します。」
「いやいや、いいよ。塾でもこんなに熱い先生がいるんだね。驚いたよ。」
「うちの塾にはこんな先生しかおりません。生徒たちのためにも、何かあれば学校とも連携をとっていきたいです。」
「それはいいね。来年、何かやろうか。学校と地域の塾の連絡会議とか。来年も俺がこの学校にいられればだけどなぁ。」
と、教務主任は頭を掻きながら言った。
直後に握手をして別れた。
塾への帰り道、俺はいろいろ考えた。
「熱い先生」か。うちの塾は「学習塾」というカテゴリーとされるのは好きではない。
勉強だけ教えているわけではないから。勉強は、たまたま必要だから教えているだけ。生徒に伝えているのは「なぜ頑張るか、なぜ学ぶか、どう生きるか」
うちの塾では、勉強や受験を通して、生徒たちの人間としての成長を目指している。
ひとりひとりの生徒を何よりも大切にしている。
それが落ちこぼれとレッテルを貼られた生徒でも、偏差値70以上の生徒会長でも、上下の差は無い。
後日談だが、この教務主任の先生は、残念ながら教育委員会の方へ移ってしまわれたので、学校と塾の連携というのは実現しなかった。
さらに後日談だが、学校サボったり先生に反発していたアサミが、今は自分なりの夢を持ち、いきいきと頑張っていると聞く。うれしい限りだ。
映画ビリギャルの、坪田先生が高校の先生と話すシーンを観て思い出した。数年前に同じようなことあった。
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これは実話を元にしているが、本人が特定されないように名前、学年、性別などを変えて、多少の脚色をしている物語なので、フィクションということにしておく。
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いつも通り平日の昼間、俺は塾で夜の授業の準備をしていた。
平日の午後1時だというのに、中学2年生のアサミが学校指定のジャージ姿で、塾に泣きながら飛び込んできた。
何事かと思ったが、当時、アサミは少し反抗期で、学校の先生には反抗し、気に食わない友達にも態度で示し、少し荒れた状況だった。
学校も休みがちになっていた時期もあったが、なんとか学校に行き始めていた時期だった。
「おいおい、アサミ、学校はどうした?なんで泣いてんだよ?」
「・・・・もう学校なんて行かない」
「どうした、急に。友達とうまくいかなかったのか?」
「ちがう」
「だったら、学校の先生とうまくいかなかったのか?」
「・・・うん。むかつく。私のことばかり悪者扱いで、言い分をまったく聞いてくれない」
「あー、よくあるな。学校の先生へのよくある批判。(笑)単にお前のワガママ、お前の言い分が全て正しいのか?ん?」
俺は笑顔で、茶化すようにアサミに言った。
アサミも高ぶっていた気持ちが、茶化されたことで、少し落ち着きだしたようだ。
「確かにわたしも悪いよ。でも、なんで私だけ怒られるの!?意味分かんない。学校の先生はわかってくれない。」
「あはは。お前、それ中二病じゃん!!(笑)」
「・・・・だって、中二だもん。」
「そりゃそうだ。とにかく、学校戻ろう。俺が付いて行ってやるから。」
校門につくと、数人の先生たちが慌ただしくしていた。生徒が学校を途中で抜け出してしまうというのは大問題なのだろう。
若い新任の女性の先生が駆け寄ってきた。
「アサミ!どこ行ってたの!?心配させないで!」
新任の女性の先生は俺を怪訝そうにみた。
「あの、私、エイメイという塾の代表の坂上と申します。アサミが急に塾に来てしまったので連れて来ました。」
「そうでしたか。すみませんでした。ありがとうございます。」
そんな会話をして、アサミと新任の女先生は教室の方へ歩いて行った。
後ろにいた、教務主任の体格のいい角刈り先生が
「あの~、エイメイの先生?お時間よろしければ、中でお話でもいかがです?」
「そうですか。それでは、少しだけ。失礼します」
この学校の2年生は150人以上いるが、うちの塾に通う生徒は40人ちかく。3~4人に1人はうちの塾生という状況だったので、学校との連携も必要だと思った。
また、俺はアサミの今の抱えている問題を保護者様とも深く話し合って、方針を共有していたので、学校とも話せるのは良い機会だったので、主任の先生と話した。
節電で蛍光灯が半分抜かれた薄暗い会議室に通された。
俺は塾名と肩書のはいった名刺を差し出したが、当然、学校の先生というのは名刺は持ち歩いてはいないようだ。
「担任の先生から聞いたんだけどね、アサミはね何人かで掃除をサボってお喋り会をしていたんだよ。それで、担任が叱ったら、教室を飛び出して行ってしまったらしいね。」
「そうでしょうね。想像できます。」と俺は言った。
「もう、本当に苦労しているんだよね。この学年は問題が多くてね。」
教務主任の先生は首を横に振りながら言った。
「学校の先生方も大変ですね。」
和やかな会話が続いていたが、次の教務主任の言葉は聞き捨てならなかった。
「アサミのお兄ちゃんは優秀だったのに、なんであの子はあんなふうになってしまったんだろうな。」
俺は耳を疑った。
こういうことを平気で口にする先生が未だにいるとは。
失望を隠さず俺は言った。
「・・・・先生、それは少しひどい言い方ですよ。アサミの兄もうちの塾生でしたが、ふたりとも良い子たちですよ。」
なるべく、なるべく角が立たないように、それでも抗議の意味が少しでも伝わるように言葉を選んで言ったつもりだ。
「いや~、塾の先生なら知っているでしょう。アサミのお兄ちゃんは、通知票オール5だよ。それに比べアサミは。」
笑いながら教務主任は言った。
「先生、それは冗談でおっしゃっているのですか?それとも本気で成績なんかで人間性までを評価しているのですか?」
俺はムキになってしまった。
「半分冗談で半分本気だよ。成績ばかりでなく、問題行動の面も含めて言っているんだよ私は。真面目な生徒たちにも迷惑をかけていてね。生活指導の先生たち全員でアサミには注意してきたからねぇ。」
アサミは学校の先生に問題児のレッテルを張られ、目をつけられていた。
「アサミの気持ちが分かります。これじゃ、学校の先生を信頼なんてできるわけないですね。成績で人間性を判断するなんて、くだらない。」
教務主任の先生は不機嫌になり、だまってお茶を飲んだ。
険悪なムードになってしまったついでに、俺は言いたいことを言っておこうと思った。
「先生たちから目を付けられていたのは本人も自覚しています。アサミは頭ごなしに叱られると反発してしまう。なんでもかんでも厳しく叱れば良いわけではなく、あの子の性格を考えて叱って欲しい。」
教務主任の先生は目をそらしたが、俺はどうしても伝えたかった。
実は、アサミは中1の夏から、不良グループと付き合うようになって、学校も休みがちで、塾にも来ない日もあった。俺は何度も何度もアサミと話をした。
正しい行動をするよう約束をしたが、すぐには良くならない。何度裏切られても信じ続けた。
学校には行かなくても、保護者様の希望で昼間から塾で過ごしていた日もあった。一緒に花に水をやり、掃除をしていたこともあった。
中2になり、きっかけなんてないのだろうが、だんだんと彼女は良くなり始めていた。その矢先のことだったのだ。
俺はそんなことを考えながら、教務主任との話を続けた。
「確かに、今までのあの子は優等生とは言えない。でも、過去を見ずに、今のあの子をみてほしい。一生懸命かわろうとしているじゃないですか。」
すっかりヒートアップしていた。
そして、次の言葉に俺は完全にキレてしまった。
「ま、塾の先生という商売だからねぇ」
このセリフは学校の先生の伝家の宝刀だった。
生徒の話をしているのに、このまったく意味のない批判を含む言葉。
もう我慢して穏やかに話す必要ない。この相手に礼儀などいらない。と、そう思った。《若気の至り》
そして、教務主任の目の前においてあった、俺の渡した名刺を無造作に取り、目の前で破った。
「塾の先生として話をしてねぇよ」
この言葉に教務主任は唖然としていた。
学校の先生たちが嫌う《不良》の言葉遣いである。
「一人の生徒が一生懸命立ち直ろうとしているから、もう少しだけ繊細に接してあげることはできませんかね。
あの子は今が大切な時期なんだ。先生だってそれくらいわかるでしょう?」
教務主任は、しばらく黙っていたが、斜め下を向き、何度か小さくうなずきながら言った。
「あなたのおっしゃることは正論だ。私も同意見ではあるが、学校という場では私たちの方法でやりますよ。」
「はい。もちろん、方法に口出すつもりはありませんが、私はあの子のことが本当に心配なんです。先ほどは失礼な言い方をしてしまいました。お詫び致します。」
「いやいや、いいよ。塾でもこんなに熱い先生がいるんだね。驚いたよ。」
「うちの塾にはこんな先生しかおりません。生徒たちのためにも、何かあれば学校とも連携をとっていきたいです。」
「それはいいね。来年、何かやろうか。学校と地域の塾の連絡会議とか。来年も俺がこの学校にいられればだけどなぁ。」
と、教務主任は頭を掻きながら言った。
直後に握手をして別れた。
塾への帰り道、俺はいろいろ考えた。
「熱い先生」か。うちの塾は「学習塾」というカテゴリーとされるのは好きではない。
勉強だけ教えているわけではないから。勉強は、たまたま必要だから教えているだけ。生徒に伝えているのは「なぜ頑張るか、なぜ学ぶか、どう生きるか」
うちの塾では、勉強や受験を通して、生徒たちの人間としての成長を目指している。
ひとりひとりの生徒を何よりも大切にしている。
それが落ちこぼれとレッテルを貼られた生徒でも、偏差値70以上の生徒会長でも、上下の差は無い。
後日談だが、この教務主任の先生は、残念ながら教育委員会の方へ移ってしまわれたので、学校と塾の連携というのは実現しなかった。
さらに後日談だが、学校サボったり先生に反発していたアサミが、今は自分なりの夢を持ち、いきいきと頑張っていると聞く。うれしい限りだ。
第3章(1)「『俺は今日限り教師を辞める』~塾の存亡の危機~」
第3章(1)「『俺は今日限り教師を辞める』~塾の存亡の危機~」
夕方、授業の合間の時間、塾の入口自動ドアが開いた。
そこに立っていたのはスーツの男性だった。保護者様にしては少し若い。異様な雰囲気であった。
少しシワのついたスーツに、足元は革靴ではなく、スニーカーだった。その組み合わせが異様な雰囲気を出していた。
『私服刑事は、いざというときのために革靴は履かない。スーツにスニーカーという組み合わせだ』と、昔マンガか何かで読んだことがあったが、まさかねぇ。。
「こんにちは」
この間0.5秒くらい、俺は一瞬おかしなことを考えたが、スーツにスニーカーの男性に、来客者として、すぐにいつも通り挨拶をした。
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これは実話ですが、本人が特定されないように設定をいろいろ変更しております。また多少の脚色もしています。ということで、フィクションということにしておきます。
これに関わった卒業生も見ているかもね(^^)v 裏ではこんなことがあったんだよ。思い出しながら読んでね。笑
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俺は大学卒業後、塾に正社員として就職をした。
一言では言い表せないほどのことがあり、早くも1年後には、俺は正式に塾をすべて任されるようになった。
23歳とは若い塾長である。対外的には若いというだけで安心感がなくなると思った俺は、塾長であるとは発表をしてはいなかった。名乗るときは「主任」とか「任されています」とか、意図的に曖昧にするようにしていた。
昼から夜まで多い日には6クラスも授業をする春期講習。
毎日、クタクタになり、授業後にはは翌日の授業準備をする。睡眠を極限まで削り生徒たちのために命を削る。そんな春期講習は授業以外他のことに構っている余裕はない。
しかし、その最終日に大事件が起きた。
忘れもしない4月6日。2年生の授業を終え、次の3年生の授業までは1時間の空き時間があった。準備をしながら、遅めの昼食のサンドイッチをかじっていると、自動ドアが開き、、、、、冒頭部分の話である。
スーツにスニーカーの男性が丁寧に言った。
「塾の責任者の方はいらっしゃいますか?」
「はい、私です。」
23歳の若い俺を塾長だとは思わなかったのだろう。一瞬たじろぎ、男性は声に出して名乗ることはせずに名刺を差し出した。
そこには『東○○警察署 少年課 巡査部長 (スーツにスニーカーの男性の名前)』と書いてあった。
スーツにスニーカーの男性が声に出して名乗らなかったのは、周りに生徒や先生たちがいたから、気を遣ってくれたのだ。
俺は警察官の名刺を見るのは初めてであったが、警察の旭日章(キョクジツショウと読む、星みたいなあの紋章)からして本物だろう。
あ~、当然、何かなければ刑事さんが塾に来るわけはないよな。そう思い、周りには生徒たちや先生たちがいたので、とっさに、奥の個室に通した。
個室でソファーへ腰掛けていただくように促すと同時くらいに刑事さんが言った。
「単刀直入に申し上げます。おたくの塾にこの子たちが在籍していますよね」
刑事さんのヨレヨレのバッグからテーブル上に出されたA4のコピー用紙に名前が8個、カタカナで、なんとも冷たく事務的に列挙されていた。
間違いない、うちの生徒の名前だった。
あいつら、何かやらかしやがったな。
「はい。全員うちの生徒たちです。あの~、こいつら、何かしたんですか?」
「実は、近くのホームセンターで集団万引き事件がありまして、防犯カメラや聞き込みで、この子たちが関わっている可能性が高いと判明したんです」
俺は顔色一つ変えなかった(と思う)。
「証拠写真か何かあるんですか?見せてください。」
俺は、生徒たちのことを信じたい。刑事さんを敵視したわけではないが、大切な生徒たちが捜査対象になっているのだ。冷静を装うので精一杯だった。
「捜査資料のためお見せはできませんが、内偵捜査はほぼ終わっています。あとは、彼らに直接話を聴くため、警察署に来ていただくことになります。そのため、彼らの住所と電話番号を教えてもらいに来ました。」
たんたんと言う刑事さんのセリフは、まるでテレビドラマのワンシーンのようだった。
「そこまで捜査が進んでいるなら、学校とかで住所はわかるでしょう。」
俺は、非常識だとは自覚しながらも、堂々と生徒たちをかばっていた。すべて何かの間違いであってほしかったが、おそらく間違いないのだろう。あいつらが法を犯したのだろう。
だが、俺は捜査に協力する気にはなれなかった。
刑事さんはたんたんと言った。
「それが、今は春休み中なので、学校では対応してもらえず、塾に来ました。」
俺は、迷った。常識的に正しいのは、刑事さんに住所と連絡先を教えることだろう。しかし、俺は俺のやり方でやりたかった。
「刑事さん、すみませんが、彼らの住所と連絡先は教えられません。」
刑事さんは驚いたようだ。
少し間を置いて、刑事さんが強い口調で言った。
「いいですか?この子たちは、犯罪を犯しました。あなたは先生なのに、その肩を持つのですか?その前に、いち市民として、警察の捜査に協力していただきます。捜査妨害をするつもりですか?」
「妨害するつもりはありませんが、そう受け取られても構いません。彼らの住所と連絡先は絶対に教えられません。」
刑事さんは困ったように、手帳をペラペラめくっていた。そして言った。
「そうですか。それならば、明後日まで待って学校に問い合わせればいいだけです。」
なんとも冷たい言い方だった。
「刑事さんは、彼らを逮捕してどうしたいのですか?」
(※中学生の場合「逮捕」とは言わないのだろうか?詳しくはわからないが、そんなことはいちいち考えている余裕はなかった。)
「私は警官ではありますが、少年課です。子どもが間違いを犯したならば更生させることが目的です。」
「刑事さん、僕も同じ気持です。彼らが犯罪を犯したならば、被害者に対して謝罪させ、償わせ、反省させたい。でも、僕なりのやり方でやりたい。」
「そのお気持ちはわかります。しかし、被害届けも出ていて、捜査も進んでいますので、、、」
「すみません。今日はお引き取りください。」
しぶしぶ帰り支度をしながら刑事さんが
「何かありましたら、その名刺の番号にお電話ください。先生、お若いのに、肝が据わっていますね。」
と言って帰っていった。
その瞬間、その名簿の一番上にあったキヨシに携帯メールを送った。
「すぐに電話をくれ。」と、俺の携帯電話の番号を送った。
1分もせずにキヨシから電話がかかってきた。
「先生、なに?どうしたの?」
「キヨシ、今どこにいる?」
「○○の家」
「そうか、すぐに塾に来い。」
「え?」
「緊急だ。すぐに来い。」
キヨシは無言だったが、タダ事ではないと察し、電話を切った。
その後、同じように『万引き犯名簿』に書いてあった名前に電話やメールをした。
真っ先にキヨシが塾に到着した。平然としていた。
「なに?俺、何かした?叱られんの?」とあっけらかんと言った。
個室に招き、刑事さんが来たことを話した。
「・・・まじ?」
キヨシは顔面蒼白になった。
「なんの件か心当たりがあるのか?」
「・・・・・」
キヨシは下を向いていた。
「そうか。心当たりがあるのか。お前、本当に万引きやったのか?」
「・・・・・」
キヨシは下を向いたままだったが、否定をしなかった。
彼の反応から、やったことは確かだった。
「馬鹿野郎が」
俺は失望を隠さずに力ない声で言った。
「・・ごめん。先生、どうしよう。親には言わないで」
涙目で彼は助けを求めてきた。
「アホか。そんなレベルじゃねーだろ。でも、何かできることはあるかもしれない。関わったやつ全員呼べ。今すぐ。」
それから、15分以内には全員が塾の教室に集まっていた。
空いている教室に全員座らせた。全員が下を向き無言で俺が話し始めるのを待った。
「お前ら、念のために確認しておく、万引きの件で刑事さんが塾に来た。その万引きに関わっていない奴はすぐに帰ってよい。」
全員が下を向いたまま、座り続けていた。それは、万引きを認めたということである。
真面目だがお調子者のコウタが、涙と鼻水を垂れ流しながら言った。
「先生、高校もダメかな?俺の人生もうダメかな?」
コウタは嗚咽していた。
「お前らは馬鹿野郎だ!」
俺は怒鳴った。
怒鳴ったものの、すでにやってしまったことだ。いかに謝罪して償って反省するか、が大事だと冷静に考えていた。
「全員、ここに親を呼べ。事情も聞かれるだろうから、自分の口でしっかりと伝えろ。」
中でもコウタは一番動揺していて、声にならず親に説明できなかったので、俺が電話を代わり説明して塾まで来てもらうように言った。
生徒8人と、急に来られた保護者様5人が教室に入った。
急に呼びだされた保護者様は、買い物袋を持っている方や、家着のまま駆けつけた方もいた。
そのうちの一人の母親が、息子を平手打ちした。
他の三人の母親は最初は取り乱していたが、やっとのことで状況を把握してきたようだ。
もう一人、コウタの母親は一人だけ、実に冷静で、ずっとコウタのことを見つめていた。
お母さんのうちの一人が、甲高い声で俺に言い寄ってきた。
「塾の責任ですよ!どうしてくれるんですか!?」
「塾外で起きたこととは言え、塾の仲良しメンバーが集まってやったことです。責任を強く感じております。すみませんでした。」
深く深く頭を下げた。
そして、生徒たちの前に立ち、深呼吸をしてから言った。
「俺は今日限り教師を辞める。世間に許してもらえないのなら、塾も今日限り閉鎖する。」
---------------------------第3章(2)へ続く
夕方、授業の合間の時間、塾の入口自動ドアが開いた。
そこに立っていたのはスーツの男性だった。保護者様にしては少し若い。異様な雰囲気であった。
少しシワのついたスーツに、足元は革靴ではなく、スニーカーだった。その組み合わせが異様な雰囲気を出していた。
『私服刑事は、いざというときのために革靴は履かない。スーツにスニーカーという組み合わせだ』と、昔マンガか何かで読んだことがあったが、まさかねぇ。。
「こんにちは」
この間0.5秒くらい、俺は一瞬おかしなことを考えたが、スーツにスニーカーの男性に、来客者として、すぐにいつも通り挨拶をした。
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これは実話ですが、本人が特定されないように設定をいろいろ変更しております。また多少の脚色もしています。ということで、フィクションということにしておきます。
これに関わった卒業生も見ているかもね(^^)v 裏ではこんなことがあったんだよ。思い出しながら読んでね。笑
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俺は大学卒業後、塾に正社員として就職をした。
一言では言い表せないほどのことがあり、早くも1年後には、俺は正式に塾をすべて任されるようになった。
23歳とは若い塾長である。対外的には若いというだけで安心感がなくなると思った俺は、塾長であるとは発表をしてはいなかった。名乗るときは「主任」とか「任されています」とか、意図的に曖昧にするようにしていた。
昼から夜まで多い日には6クラスも授業をする春期講習。
毎日、クタクタになり、授業後にはは翌日の授業準備をする。睡眠を極限まで削り生徒たちのために命を削る。そんな春期講習は授業以外他のことに構っている余裕はない。
しかし、その最終日に大事件が起きた。
忘れもしない4月6日。2年生の授業を終え、次の3年生の授業までは1時間の空き時間があった。準備をしながら、遅めの昼食のサンドイッチをかじっていると、自動ドアが開き、、、、、冒頭部分の話である。
スーツにスニーカーの男性が丁寧に言った。
「塾の責任者の方はいらっしゃいますか?」
「はい、私です。」
23歳の若い俺を塾長だとは思わなかったのだろう。一瞬たじろぎ、男性は声に出して名乗ることはせずに名刺を差し出した。
そこには『東○○警察署 少年課 巡査部長 (スーツにスニーカーの男性の名前)』と書いてあった。
スーツにスニーカーの男性が声に出して名乗らなかったのは、周りに生徒や先生たちがいたから、気を遣ってくれたのだ。
俺は警察官の名刺を見るのは初めてであったが、警察の旭日章(キョクジツショウと読む、星みたいなあの紋章)からして本物だろう。
あ~、当然、何かなければ刑事さんが塾に来るわけはないよな。そう思い、周りには生徒たちや先生たちがいたので、とっさに、奥の個室に通した。
個室でソファーへ腰掛けていただくように促すと同時くらいに刑事さんが言った。
「単刀直入に申し上げます。おたくの塾にこの子たちが在籍していますよね」
刑事さんのヨレヨレのバッグからテーブル上に出されたA4のコピー用紙に名前が8個、カタカナで、なんとも冷たく事務的に列挙されていた。
間違いない、うちの生徒の名前だった。
あいつら、何かやらかしやがったな。
「はい。全員うちの生徒たちです。あの~、こいつら、何かしたんですか?」
「実は、近くのホームセンターで集団万引き事件がありまして、防犯カメラや聞き込みで、この子たちが関わっている可能性が高いと判明したんです」
俺は顔色一つ変えなかった(と思う)。
「証拠写真か何かあるんですか?見せてください。」
俺は、生徒たちのことを信じたい。刑事さんを敵視したわけではないが、大切な生徒たちが捜査対象になっているのだ。冷静を装うので精一杯だった。
「捜査資料のためお見せはできませんが、内偵捜査はほぼ終わっています。あとは、彼らに直接話を聴くため、警察署に来ていただくことになります。そのため、彼らの住所と電話番号を教えてもらいに来ました。」
たんたんと言う刑事さんのセリフは、まるでテレビドラマのワンシーンのようだった。
「そこまで捜査が進んでいるなら、学校とかで住所はわかるでしょう。」
俺は、非常識だとは自覚しながらも、堂々と生徒たちをかばっていた。すべて何かの間違いであってほしかったが、おそらく間違いないのだろう。あいつらが法を犯したのだろう。
だが、俺は捜査に協力する気にはなれなかった。
刑事さんはたんたんと言った。
「それが、今は春休み中なので、学校では対応してもらえず、塾に来ました。」
俺は、迷った。常識的に正しいのは、刑事さんに住所と連絡先を教えることだろう。しかし、俺は俺のやり方でやりたかった。
「刑事さん、すみませんが、彼らの住所と連絡先は教えられません。」
刑事さんは驚いたようだ。
少し間を置いて、刑事さんが強い口調で言った。
「いいですか?この子たちは、犯罪を犯しました。あなたは先生なのに、その肩を持つのですか?その前に、いち市民として、警察の捜査に協力していただきます。捜査妨害をするつもりですか?」
「妨害するつもりはありませんが、そう受け取られても構いません。彼らの住所と連絡先は絶対に教えられません。」
刑事さんは困ったように、手帳をペラペラめくっていた。そして言った。
「そうですか。それならば、明後日まで待って学校に問い合わせればいいだけです。」
なんとも冷たい言い方だった。
「刑事さんは、彼らを逮捕してどうしたいのですか?」
(※中学生の場合「逮捕」とは言わないのだろうか?詳しくはわからないが、そんなことはいちいち考えている余裕はなかった。)
「私は警官ではありますが、少年課です。子どもが間違いを犯したならば更生させることが目的です。」
「刑事さん、僕も同じ気持です。彼らが犯罪を犯したならば、被害者に対して謝罪させ、償わせ、反省させたい。でも、僕なりのやり方でやりたい。」
「そのお気持ちはわかります。しかし、被害届けも出ていて、捜査も進んでいますので、、、」
「すみません。今日はお引き取りください。」
しぶしぶ帰り支度をしながら刑事さんが
「何かありましたら、その名刺の番号にお電話ください。先生、お若いのに、肝が据わっていますね。」
と言って帰っていった。
その瞬間、その名簿の一番上にあったキヨシに携帯メールを送った。
「すぐに電話をくれ。」と、俺の携帯電話の番号を送った。
1分もせずにキヨシから電話がかかってきた。
「先生、なに?どうしたの?」
「キヨシ、今どこにいる?」
「○○の家」
「そうか、すぐに塾に来い。」
「え?」
「緊急だ。すぐに来い。」
キヨシは無言だったが、タダ事ではないと察し、電話を切った。
その後、同じように『万引き犯名簿』に書いてあった名前に電話やメールをした。
真っ先にキヨシが塾に到着した。平然としていた。
「なに?俺、何かした?叱られんの?」とあっけらかんと言った。
個室に招き、刑事さんが来たことを話した。
「・・・まじ?」
キヨシは顔面蒼白になった。
「なんの件か心当たりがあるのか?」
「・・・・・」
キヨシは下を向いていた。
「そうか。心当たりがあるのか。お前、本当に万引きやったのか?」
「・・・・・」
キヨシは下を向いたままだったが、否定をしなかった。
彼の反応から、やったことは確かだった。
「馬鹿野郎が」
俺は失望を隠さずに力ない声で言った。
「・・ごめん。先生、どうしよう。親には言わないで」
涙目で彼は助けを求めてきた。
「アホか。そんなレベルじゃねーだろ。でも、何かできることはあるかもしれない。関わったやつ全員呼べ。今すぐ。」
それから、15分以内には全員が塾の教室に集まっていた。
空いている教室に全員座らせた。全員が下を向き無言で俺が話し始めるのを待った。
「お前ら、念のために確認しておく、万引きの件で刑事さんが塾に来た。その万引きに関わっていない奴はすぐに帰ってよい。」
全員が下を向いたまま、座り続けていた。それは、万引きを認めたということである。
真面目だがお調子者のコウタが、涙と鼻水を垂れ流しながら言った。
「先生、高校もダメかな?俺の人生もうダメかな?」
コウタは嗚咽していた。
「お前らは馬鹿野郎だ!」
俺は怒鳴った。
怒鳴ったものの、すでにやってしまったことだ。いかに謝罪して償って反省するか、が大事だと冷静に考えていた。
「全員、ここに親を呼べ。事情も聞かれるだろうから、自分の口でしっかりと伝えろ。」
中でもコウタは一番動揺していて、声にならず親に説明できなかったので、俺が電話を代わり説明して塾まで来てもらうように言った。
生徒8人と、急に来られた保護者様5人が教室に入った。
急に呼びだされた保護者様は、買い物袋を持っている方や、家着のまま駆けつけた方もいた。
そのうちの一人の母親が、息子を平手打ちした。
他の三人の母親は最初は取り乱していたが、やっとのことで状況を把握してきたようだ。
もう一人、コウタの母親は一人だけ、実に冷静で、ずっとコウタのことを見つめていた。
お母さんのうちの一人が、甲高い声で俺に言い寄ってきた。
「塾の責任ですよ!どうしてくれるんですか!?」
「塾外で起きたこととは言え、塾の仲良しメンバーが集まってやったことです。責任を強く感じております。すみませんでした。」
深く深く頭を下げた。
そして、生徒たちの前に立ち、深呼吸をしてから言った。
「俺は今日限り教師を辞める。世間に許してもらえないのなら、塾も今日限り閉鎖する。」
---------------------------第3章(2)へ続く