学校の先生に吐き捨てた「塾の先生として話をしてねぇよ」埼玉のビリギャルの話 | しゃちょを のブログ

学校の先生に吐き捨てた「塾の先生として話をしてねぇよ」埼玉のビリギャルの話

第4章【学校の先生に吐き捨てた「塾の先生として話をしてねぇよ」埼玉のビリギャルの話】
映画ビリギャルの、坪田先生が高校の先生と話すシーンを観て思い出した。数年前に同じようなことあった。
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これは実話を元にしているが、本人が特定されないように名前、学年、性別などを変えて、多少の脚色をしている物語なので、フィクションということにしておく。
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いつも通り平日の昼間、俺は塾で夜の授業の準備をしていた。
平日の午後1時だというのに、中学2年生のアサミが学校指定のジャージ姿で、塾に泣きながら飛び込んできた。
何事かと思ったが、当時、アサミは少し反抗期で、学校の先生には反抗し、気に食わない友達にも態度で示し、少し荒れた状況だった。
学校も休みがちになっていた時期もあったが、なんとか学校に行き始めていた時期だった。
「おいおい、アサミ、学校はどうした?なんで泣いてんだよ?」
「・・・・もう学校なんて行かない」
「どうした、急に。友達とうまくいかなかったのか?」
「ちがう」
「だったら、学校の先生とうまくいかなかったのか?」
「・・・うん。むかつく。私のことばかり悪者扱いで、言い分をまったく聞いてくれない」
「あー、よくあるな。学校の先生へのよくある批判。(笑)単にお前のワガママ、お前の言い分が全て正しいのか?ん?」
俺は笑顔で、茶化すようにアサミに言った。
アサミも高ぶっていた気持ちが、茶化されたことで、少し落ち着きだしたようだ。
「確かにわたしも悪いよ。でも、なんで私だけ怒られるの!?意味分かんない。学校の先生はわかってくれない。」
「あはは。お前、それ中二病じゃん!!(笑)」
「・・・・だって、中二だもん。」
「そりゃそうだ。とにかく、学校戻ろう。俺が付いて行ってやるから。」
校門につくと、数人の先生たちが慌ただしくしていた。生徒が学校を途中で抜け出してしまうというのは大問題なのだろう。
若い新任の女性の先生が駆け寄ってきた。
「アサミ!どこ行ってたの!?心配させないで!」
新任の女性の先生は俺を怪訝そうにみた。
「あの、私、エイメイという塾の代表の坂上と申します。アサミが急に塾に来てしまったので連れて来ました。」
「そうでしたか。すみませんでした。ありがとうございます。」
そんな会話をして、アサミと新任の女先生は教室の方へ歩いて行った。
後ろにいた、教務主任の体格のいい角刈り先生が
「あの~、エイメイの先生?お時間よろしければ、中でお話でもいかがです?」
「そうですか。それでは、少しだけ。失礼します」
この学校の2年生は150人以上いるが、うちの塾に通う生徒は40人ちかく。3~4人に1人はうちの塾生という状況だったので、学校との連携も必要だと思った。
また、俺はアサミの今の抱えている問題を保護者様とも深く話し合って、方針を共有していたので、学校とも話せるのは良い機会だったので、主任の先生と話した。
節電で蛍光灯が半分抜かれた薄暗い会議室に通された。
俺は塾名と肩書のはいった名刺を差し出したが、当然、学校の先生というのは名刺は持ち歩いてはいないようだ。
「担任の先生から聞いたんだけどね、アサミはね何人かで掃除をサボってお喋り会をしていたんだよ。それで、担任が叱ったら、教室を飛び出して行ってしまったらしいね。」
「そうでしょうね。想像できます。」と俺は言った。
「もう、本当に苦労しているんだよね。この学年は問題が多くてね。」
教務主任の先生は首を横に振りながら言った。
「学校の先生方も大変ですね。」
和やかな会話が続いていたが、次の教務主任の言葉は聞き捨てならなかった。
「アサミのお兄ちゃんは優秀だったのに、なんであの子はあんなふうになってしまったんだろうな。」
俺は耳を疑った。
こういうことを平気で口にする先生が未だにいるとは。
失望を隠さず俺は言った。
「・・・・先生、それは少しひどい言い方ですよ。アサミの兄もうちの塾生でしたが、ふたりとも良い子たちですよ。」
なるべく、なるべく角が立たないように、それでも抗議の意味が少しでも伝わるように言葉を選んで言ったつもりだ。
「いや~、塾の先生なら知っているでしょう。アサミのお兄ちゃんは、通知票オール5だよ。それに比べアサミは。」
笑いながら教務主任は言った。
「先生、それは冗談でおっしゃっているのですか?それとも本気で成績なんかで人間性までを評価しているのですか?」
俺はムキになってしまった。
「半分冗談で半分本気だよ。成績ばかりでなく、問題行動の面も含めて言っているんだよ私は。真面目な生徒たちにも迷惑をかけていてね。生活指導の先生たち全員でアサミには注意してきたからねぇ。」
アサミは学校の先生に問題児のレッテルを張られ、目をつけられていた。
「アサミの気持ちが分かります。これじゃ、学校の先生を信頼なんてできるわけないですね。成績で人間性を判断するなんて、くだらない。」
教務主任の先生は不機嫌になり、だまってお茶を飲んだ。
険悪なムードになってしまったついでに、俺は言いたいことを言っておこうと思った。
「先生たちから目を付けられていたのは本人も自覚しています。アサミは頭ごなしに叱られると反発してしまう。なんでもかんでも厳しく叱れば良いわけではなく、あの子の性格を考えて叱って欲しい。」
教務主任の先生は目をそらしたが、俺はどうしても伝えたかった。
実は、アサミは中1の夏から、不良グループと付き合うようになって、学校も休みがちで、塾にも来ない日もあった。俺は何度も何度もアサミと話をした。
正しい行動をするよう約束をしたが、すぐには良くならない。何度裏切られても信じ続けた。
学校には行かなくても、保護者様の希望で昼間から塾で過ごしていた日もあった。一緒に花に水をやり、掃除をしていたこともあった。
中2になり、きっかけなんてないのだろうが、だんだんと彼女は良くなり始めていた。その矢先のことだったのだ。
俺はそんなことを考えながら、教務主任との話を続けた。
「確かに、今までのあの子は優等生とは言えない。でも、過去を見ずに、今のあの子をみてほしい。一生懸命かわろうとしているじゃないですか。」
すっかりヒートアップしていた。
そして、次の言葉に俺は完全にキレてしまった。
「ま、塾の先生という商売だからねぇ」
このセリフは学校の先生の伝家の宝刀だった。
生徒の話をしているのに、このまったく意味のない批判を含む言葉。
もう我慢して穏やかに話す必要ない。この相手に礼儀などいらない。と、そう思った。《若気の至り》
そして、教務主任の目の前においてあった、俺の渡した名刺を無造作に取り、目の前で破った。
「塾の先生として話をしてねぇよ」
この言葉に教務主任は唖然としていた。
学校の先生たちが嫌う《不良》の言葉遣いである。
「一人の生徒が一生懸命立ち直ろうとしているから、もう少しだけ繊細に接してあげることはできませんかね。
あの子は今が大切な時期なんだ。先生だってそれくらいわかるでしょう?」
教務主任は、しばらく黙っていたが、斜め下を向き、何度か小さくうなずきながら言った。
「あなたのおっしゃることは正論だ。私も同意見ではあるが、学校という場では私たちの方法でやりますよ。」
「はい。もちろん、方法に口出すつもりはありませんが、私はあの子のことが本当に心配なんです。先ほどは失礼な言い方をしてしまいました。お詫び致します。」
「いやいや、いいよ。塾でもこんなに熱い先生がいるんだね。驚いたよ。」
「うちの塾にはこんな先生しかおりません。生徒たちのためにも、何かあれば学校とも連携をとっていきたいです。」
「それはいいね。来年、何かやろうか。学校と地域の塾の連絡会議とか。来年も俺がこの学校にいられればだけどなぁ。」
と、教務主任は頭を掻きながら言った。
直後に握手をして別れた。
塾への帰り道、俺はいろいろ考えた。
「熱い先生」か。うちの塾は「学習塾」というカテゴリーとされるのは好きではない。
勉強だけ教えているわけではないから。勉強は、たまたま必要だから教えているだけ。生徒に伝えているのは「なぜ頑張るか、なぜ学ぶか、どう生きるか」
うちの塾では、勉強や受験を通して、生徒たちの人間としての成長を目指している。
ひとりひとりの生徒を何よりも大切にしている。
それが落ちこぼれとレッテルを貼られた生徒でも、偏差値70以上の生徒会長でも、上下の差は無い。
後日談だが、この教務主任の先生は、残念ながら教育委員会の方へ移ってしまわれたので、学校と塾の連携というのは実現しなかった。
さらに後日談だが、学校サボったり先生に反発していたアサミが、今は自分なりの夢を持ち、いきいきと頑張っていると聞く。うれしい限りだ。